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猫の白い道

作者: 榛李梓

 夜、静かな住宅街。

 暗い道を仄かに照らす、温かな窓の明かり。

 どこかの家からテレビの音が小さく漏れ聞こえてくる。

 いつもと変わらぬ帰り道だ。



 不意に、数歩先の道路の上を黒い猫が歩くのに気が付いた。黒といっても全身真っ黒の黒猫ではなく、手足の先だけ白いようだった。

 その猫は、トコトコと路側帯の白い線の上を歩いていた。夜の散歩でもしているのだろうか。

 猫と私の進む方向は同じなので、自然と猫について歩く格好になる。

 迷いなく真っ直ぐに進む猫の後ろ姿は、まるで私を導いているかのようだ。

 導かれるままに歩いたら、どこか不思議な場所へ辿り着きはしないだろうか。そんな空想を携えて、夜の道を猫と歩く。



 猫との道行は、前方からの凶悪なヘッドライトによって遮られた。自動車が二台ギリギリすれ違えるかどうかの狭い道である。猫はするりと向きを変え、脇にある家の庭へと身を隠した。

 横を過ぎる時に猫の入った庭へ目をやると、じっとこちらを窺う彼(彼女?)の姿があった。後ろ姿からは分からなかったが、白いのは手足の先だけではなかった。鼻や口の周り、それに喉の辺りも白い。仮面を着け、タキシードに身を包んだ紳士のようにも見える。

 なんとなしに後ろ髪を引かれたが、自分も家路を急ぐ身だ。止めかけた足を動かし歩みを進める。



 ゴウッと車が通り過ぎ遠ざかると、辺りには再び夜の暗さと静けさが戻った。

 歩きながらやはりどうもあの猫が気になり、来た道を振り向いた。

 するとどうだろう、そこにはまたあの猫の紳士がいるではないか。私の十歩ほど後ろで、やはり先刻と同じに白い線の上を歩いていた。

 今度は私が前を行き、彼が後をついて歩く道連れだ。

 少し進んでまた振り返る。猫はまだ澄ました顔で、白い線の上から外れずについてくる。

 私は愉快な気持ちになり、内心合点した。

 なるほど、この白い線は、猫の道であったのだ。




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