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軍団のイケてる仲間達を紹介するぜ!



 目録番号2 「ミンフィスのソル」



 大陸中部の高原に住む狼の一族、ミンフィスが氏族にて育つ。

 父は当時ミンフィスの長であったカーカシュ。七十歳の高齢にありながら、ベリセスから略奪した奴隷に産ませた子がソルであった。



 ウルフ・マナスでは稀有な双剣の使い手。幼い頃より大人に混じって狩猟や戦いに出て、氏族の若者達からの信奉を集めた。

 美声であり、毎春執り行われる神々への奉納際では、歌を捧げるシャーマンとしてよく選出された。


 出自は大きな問題だったが、カーカシュの後を継ぎミンフィスの長となったシロンはソルを愛し、養子として迎えた。ソルは幼き頃から誰よりも上手く狼を御し、十歳になると同時に戦いを経験し、ベリセス兵の首級を上げた。シロンはその才覚、戦士としての資質を惜しんだのである。


 十五の時、ソルは奴隷として扱われていた産みの母を攫い、独断でベリセスに返還した。

 彼の母はカーカシュから一族の戦士に下げ渡されており、この行為は氏族内で大きな問題となったが、結局シロンはこれを許した。

 ソルは物静かながら勇敢で、機敏で、知恵があった。ソルは既に氏族内の若者達に支持されており、確固たる地位を築いていたのだ。


 十八の時、小競り合いで騎獣を失う。彼は大いに嘆き悲しんだが、声望を失う事は無かった。

 彼の双剣は狼に乗った大よその戦士達を上回った。彼は狼から降りたとしても勇者だったからだ。



 ベリセス・ウィッサ城壁上にて死亡。ガウーナに鉄網を掛けようとした兵士の妨害を試み、突き殺される。

 直前に死亡したミンフィス氏族長シロンとその妻、そしてソル。彼等の喪失に落胆したミンフィスは、マルフェーの長スーセに従って西への移動を開始した。



 「ウルフ・マナスの剣士」


 高い攻撃能力を持つ軽装突撃歩兵。


 ウルフ・マナスの主戦力は狼騎兵だが、徒歩で戦う者も常に一定数居る。それが必要とされている。

 ソルのような剣士達は盾を持たず、大剣、短剣、手弓で武装し、対歩兵戦を想定して入念な訓練を積む。

 槍衾を掻い潜り、大盾をこじ開け、素早く敵戦列を突破する。乱戦となれば彼等に勝てる者は存在しない。


 しかし身軽さを重視するため守勢には滅法弱い。また、騎兵に対抗する手段を持たない。




 特記事項欄



 『“タスラの双剣”

  ――二本のシャムシールで二倍の手数。二倍の攻撃力。二倍の手柄。

  実戦の場では双剣は鼻で笑われる事もあるが、それは本物の使い手を知らないからだ。この勇者は弛まぬ鍛錬によってその技を磨き上げた。

  大陸中北部の流れを汲む、極めて高い殺傷能力を持つ戦技。徒歩の相手に特に有効』


 『“鼓舞”

  この勇者は弁舌に長けている訳では無いが、振舞いや行動で規範を示す事が出来る。

  麾下兵力の戦闘力を引き出す』


 『“恩寵に相応しき忠誠”


  ――死んでも構わない――


  逆境に強く、命令無く撤退しない。また、恐慌状態に陥らない』


 『“シドのお気に入り”

  ウルフ・マナス出身で狼公に真正面から文句を付けられるのはこの勇者くらいです。

  ガウーナも最近はこの勇者を認め始めています。時折シドの餌やりまで任されるようになりました。

  信頼の証と取るか雑用の押しつけと取るかは微妙な所でしょう。

  暇を与えてやれば、シドと一緒に日向ぼっこしながら寝ている姿が見られるかも知れません。

  これは気に入らない相手はベリセス人だろうがウルフ・マナスだろうが食い殺すシドには大変珍しい事です』




 注意事項



 この勇者は貴方に敬意を抱いている。

 この勇者は貴方に畏怖を抱いている。


 貴方はこの勇者の忠誠を得た。



――



 目録から視線を上げて、太陽はソルを真っ直ぐ見詰めた。


 「ソル」

 「なんなりと」

 「死んだら困る」

 「は、はぁ……」


 ソルはぽかんとした。突然過ぎて何と言ったら良いのか全く分からない。


 そもそも自分は既に死んでいるのだが。


 「死んだ奴がまた死んだらどうなるんだろ」

 「……どうなるのでしょうか」

 「分かるまで死ぬの禁止な」


 ソルはなんだか良く分からなかったが、主君が己の身を案じてくれているのは分かった。


 「ご命令とあらば」


 それ以外に答えようも無い。



 「ところで、シドの腹撫でてると何だか変な気分になってこない? 気持ち良すぎるよな」

 「……なります」



――



 目録番号3 「カロル・ラーイーダ・ケイ」



 ベリセス東部小貴族、ケイの出身。良質な軍馬の産地で育ち、多分に漏れず騎兵を志す。

 一時はベリセス主軍、王家直属ロイヤルランサーに在籍するも、内部政争に嫌気がさし辞職。

 各地の騎兵将校として勤め、ベリセス・ウィッサ守備に着いた時、折悪くガウーナに襲撃を受け捕殺される。



 実直な人柄で知られた。時に杓子定規と言われる事もあったが、恣意的に法や規則を解釈して物事に対応すれば、後に必ず禍根を残すと彼は知っていた。

 彼の気質は信頼されたが、同時に煙たがられる事もあった。しかし官僚達には重宝された。

法と建前に重きを置く彼は、時に実際的な政の執行を阻害する“面子”とやらを度外視して任務を果たす。

如何な大貴族も彼の前では“法の前の臣民”に過ぎないのだ。


 優れた騎手であり、優れた将校であったが、貴族としては違った。

 ケイの家は彼の代で絶える事となる。本人はその事を全く気にしておらず、そこがまた貴族としては不適格だった。

 血の力を理解しようとしなかった彼は、ついぞ血の力が深く蔓延る王国政治に真の意味で携わる事は無かった。



 すなわち、清廉の人である。




 特記事項欄



 『“人は石垣”

  ――どのような城壁も、沢山の石を積んで造られる――

  人もそうであれと言う祖父からの教え。同僚や部下を大事にする理由。

  この人物の麾下兵力は混乱、恐慌への抵抗を得る。また壊乱し辛く、統制を失わない。

  守戦に於いてより強力』


 『“王家直属槍騎兵の馬術”

  ロイヤルランサーズは普段戦線に投入される事は無く、長大な直垂を風に靡かせたまま馬上に居る。

  その為「派手な風除け」や「兵士未満」等と陰口を叩かれる事もあるが、その馬術は確かである。

  王都近郊には彼等の為の走路があり、それは険しく、過酷で、長い。彼等はそこを長大な直垂を汚さぬまま駆け抜ける。

  この人物に率いられた者はどんな険路も苦にしない』


 『“曲がった定規”

  この人物は大軍を維持、統率出来ない』




 注意事項



 この人物は貴方に畏怖を抱いている。

 この人物は貴方と契約で結ばれている。その契約は、民衆の守護である。


 貴方はこの人物の忠誠を得ていない。契約が履行されなければ、この人物は力を失う。



――



 「なぁジギル、人には色々あるんだなぁ。向こうに戻ったら、カロルともっと話してみるよ」

 「好きにされればよい。カロルも納得の上で太陽殿の為に働いているのならば、俺から言う事は無い」

 「ふーん? ……ま、良いか。そんじゃ次はジギルのを見てみよう」

 「……妙な心持ちだ」



――



 目録番号4 「ジギルギウス・アーダナード・イズン・マウセ」



 ハラウル・ベリセス大貴族スチェカータ家の陪臣。十二代前からスチェカータに仕えるマウセ家は、今や宿将とでも呼ぶべき家系である。

 スチェカータ家次期当主であるヘクサと共に育ち、名実ともにその腹心であった。

 ベリセス軍最精鋭の名を恣にするマウセ家赤光騎兵団を率い、マージナ侵攻戦に参陣。

 ウーラハン親衛古狼軍の奇襲により後方との連携を絶たれ、団は壊滅。ジギルギウスは残存するベリセス軍の助命を条件に降伏。自決した。



 ベリセス軍の体系付けられた将校教育制度が生んだ偉才。主君であるヘクサをよく補佐し、領内治安維持から異民族との戦争まで常に際立った成果を上げる。

 騎士然とした高潔な表情の裏側で、謀略や政争によって状況を動かす事もする。スチェカータ家当主は彼の才覚を愛していたが、同時にその独立を恐れていた。


 形式上の妻は居たが、軍務で殆ど家には戻らず、顔すら覚えていない。

 過去、ハラウル・イニセスタに留学中、カルケイの魔女との戦いによって子を成せない呪いを受ける。この事がジギルギウスをより戦いに傾倒させていた。



 振る舞いは古式ゆかしい将校である。陣中でも詩文と酒を嗜み、宝飾品で身を飾る。教養人である彼は特に音楽に煩く、軍楽隊の編成にも決して手を抜かない。


 親衛古狼軍首魁、シン・アルハ・ウーラハンは彼を降伏させる際、交換条件としてベリセス軍残存兵の助命に加え、二週間の進軍停止を約束した。他に類を見ない条件である。


 この二週間はベリセス軍を最後の一線で踏み止まらせた。




 麾下兵力 「マウセ赤光騎兵団」



 スチェカータの一陪臣でしかなかったマウセ家は代を重ねる毎に騎兵を強く育て上げ、とうとうその実力を王家に認めさせる程にまでなった。それは時の王をして「ベリセスの中核に足る練度」と言わしめる物だった。


 赤光騎兵団の用いる強力な魔法のジャベリンは、大盾を貫通する馬上槍とほぼ同等の威力を持つ。

 これにより盾と長槍を備えた重装歩兵の分厚い戦列であろうと掻き乱す事が出来る。赤光騎兵団は歩兵部隊と連携せず、単独で騎兵突撃を仕掛けられるのだ。

 乱れた戦列を騎兵が突けばそれは勝負の決着と同義だ。その実力は東部大陸アルハニ帝国との対外戦争で既に証明されていた。


 磨き上げられた鋼の鎧。銀糸で飾り立てたレギンス。

 燃えるような赤いマント。兜には、こちらも赤い羽根飾り。

 優美に着飾った赤い騎兵は、ベリセスの荒馬乗り全ての憧れだった。



 +高い機動力、攻撃力を持つ。戦列の突破に有効。

 -突撃を敢行する重騎兵としては防御に難がある。




特記事項欄



 『“鼓舞”

  この勇者は部下をよく見て、名前と顔を覚えている。部下はこの勇者の為に力を尽くす。

  麾下兵力の戦闘力を引き出す』


 『“魔女の呪い”

  魔女の呪い。或いは憎悪。さもなくば偏執的な愛。

  魔力への抵抗を得る』



 ――この勇者は未だ手の内を明かしていない




 注意事項



 この勇者は貴方に敬意を抱いている。

 この勇者は貴方に複雑な感情を抱いている。

 この勇者は貴方と契約で結ばれている。その契約は、対ハラウル戦への不参加である。


 貴方はこの勇者の忠誠を得ていない。契約が履行されなければ、この勇者は力を失う。



――



 「……やっぱイケてるぜ、ジギル」

 「その古ぼけた本に何が書いてあるかは知らんが……

  己が目で確かめられるがよかろうよ」

 「ははっ、そうかもな。

  …………所で、歌が好きなのか?」

 「太陽殿もそうだろう?」

 「俺は楽しい事は何でも好きだぜ」

 「ならばそれはつまり歌が好きなのだ」


 ジギルは知ったような事を言いながらふふんと笑って見せた。


 「カルケイの魔女と戦ったのか」

 「…………あぁ」


 途端に雰囲気が変わる。


 「……まぁ、もし話しても良いなって気分になったら、その時また教えてくれよ」

 「太陽殿に話すような事ではない」

 「ジギルの事を知りたいんだ」



――



 目録番号5 「“隻眼”のオロク」



 ベリセスの豪農ベイロンの出身。

 過去、ハラウル中に名を知られた偉大な戦士。巨躯であり、大力を誇る。戦斧を取って彼に勝る者は生前ではついぞ現れなかった。

 ハラウル加盟国アマウーディスは東部シヴラ海に面しており、海を越えて現れるアルハニ帝国の軍勢と激しい戦いを繰り返している。オロクはアマウーディスにベリセスの援軍として赴き、多大な戦果を上げた。



 幼少の頃より早熟で魁偉だった。裕福なベイロン家で武具も書物も望むまま与えられ、屈強に育つ。

 十二の時、横暴な態度で賄賂を要求したベリセス徴税官に腹を立て、これを襲撃。馬で平原を引きずり回した後、王城に突き出す。

 オロクが罪に問われる事は無かったが、軍で身を立てる道は絶たれた。


 その後は農地の経営を学び順当に父の後を継ぐ物と思われたが、ハラウル・アマウーディスとアルハニ帝国との緊張が高まり、軍の増強が始まると即座にこれに参加。

 多方面にベイロン家としての伝手を持ちながらも過去の経緯から一兵卒として戦う事を要求されたが、オロクは構わなかった。25の局地戦、2度の会戦に臨み、勝ちも負けも味わったが、常に最前線で戦果を上げた。

 アルハニ帝国との戦いでオロクは片目を失ったが、代わりに名声と財宝を得た。


 戦後も故郷に留まらず各地を転戦する。戦う度に名声を手にし、その戦斧は敵を恐れさせた。


 南部アルマキア人の大蜂起の折、故郷を失う。事実上ベイロンは滅んだ。激怒したオロクは故郷を焼き払ったアルマキア人達と苛烈に戦い、彼等の畏敬を勝ち取る。

 ベリセスの敵対者で最もオロクを恐れているのはアルマキア人達で、山岳を駆け巡り、各部族の村々を焼き払ったオロクの事を「オロク・ソニトイ」(炎の悪魔オロク)として伝承している。


 この戦いの後、オロクはベリセスに失望し、痛めた膝の事もあって隠居。

 しかし西の対マージナ戦争に赴いた息子クラースが不可解な死を遂げ、調査に乗り出す。

 最終的にクラースが“不死公”によって殺され、その死を弄ばれた事を突き止めた。


 不死公への報復を決意したオロクは、生まれた時からの信仰対象である豊穣神カローナへの敬意を捨て、不死公と敵対関係にある異邦の戦神に与する事を決めた。


 戦神は彼に全盛期の屈強な肉体を与えた。名誉と報復の為に戦斧を取る、往年の英雄が蘇ったのである。



 「戦士」


 この英雄を特定の兵科に当てはめる事は難しい。

 得手も不得手も関係ない。何処へでも赴き、何とでも戦う。


 強いて言うなら寒いのが嫌いだし、速く走るのは苦手だ。




 特記事項欄



 『“隻眼”

  ――目は一つしか無い筈。なのに二つあった時よりもよく見える――

  隻眼ゆえに磨かれた戦士としての超感覚。敵が死角に居ようとこれから逃れる事は出来ない。

  側面、背後からの不意打ちを無効化』


 『“大戦斧”

  訓練を受けた兵士が両手でやっと扱う武器を片手で軽々と使いこなす。

  この馬鹿げた大力と質量の攻撃を受け止められる者は稀である。

  高い殺傷能力を持つ戦技。兵科を問わず、重装の相手に特に有効』


 『“天与の肉体”

  説明不要』


 『“鈍足”

  ――膝に矢を受けてしまってな

  生前から持つ痛めた膝への苦手意識。無意識に膝を庇う。

  移動力が低下する』


 『“鼓舞”

  この英雄は弁舌に長けている訳では無いが、振舞いや行動で規範を示す事が出来る。

  麾下兵力の戦闘力を引き出す』



 ――この英雄は未だ手の内を明かしていない




 注意事項



 この英雄は貴方に複雑な感情を抱いている。

 この英雄は貴方に奇妙な親愛の情を抱いている。


 この英雄は貴方が不死公と敵対する限り、貴方に忠誠を誓う。



――



 「オロク」

 「なんだ」


 太陽は目録を覗き込みながら頭を掻いた。


 複雑な親愛の情、か。余り表に現れないこのイケてる男の胸中、どういった物なのか。


 「ひょっとして俺とクラースって似てたりする?」

 「全く似ていない」

 「だよなぁ」


 自分でもそう思う。

 オロクは太陽の想像通りの答えを返したが、暫し沈黙したかと思うと小さく付け加えた。


 「……いや、そうだな」

 「うん?」

 「少しだけ、目が似ている」

 「そっか」


設定をこねくり回すの楽しい。


使いこなせるとは言っていない。

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