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文ちゃん優しい……///



 太陽は図書館の個人勉強スペースで白紙に向かっていた。

 ここいらで一番設備の整ったこの図書館は学生向けの勉強スペースが充実している。中々人気の設備で受験シーズンなんかは整理券が配られた事もあるらしい。


 が、今太陽が向かっているのは問題集ではなく、遺言状の下書きである。


 『子もおらぬのに遺言状など……』

 「(守の姐さんに、俺でも残せるモンがあるかも知れねぇ)」


 ガウーナは強いしソルは献身的だ。今の所どんな相手が出てきても死ぬ感じがしない。

 だがぶっ殺しているのだ。ぶっ殺される事もあるだろう。備えあれば嬉しいなーである。


 「(兄貴から貰った給料とかボーナスとか、割とスゲー額になってるからな)」

 『あの相談役とか言っとったひょろっこいのが上手く取り計らうんじゃぁ無いのか?』


 先日、気合の入った名刺を持った銀行マンが現れた。何事かと思えば太陽が口座を持つ銀行の、それなりの役職にある人物らしい。


 大山と名乗ったその銀行マンは、額に冷や汗を光らせながら「ウーベ人材開発プロジェクト代表取締役の依頼で参りました」と言った。

 つまり戦神アガの計らいと言う事なのだろう。


 戦神は太陽が戦いに出て戦果を上げる度にボーナスをくれる。

 特に無勢で多勢を蹴散らすようなシチュエーションが好みらしく、ガウーナが大暴れする度に上機嫌だ。

 太陽の預金残高は八桁を超えてしまっているのだが、そこは金の使い方を知らない高校生。

 バイクを買ってアクセサリーを買って、それでもう身に過ぎた贅沢だった。


 「(税金関係とかやってくれるんだってよ)」


 戦神は言っていた。「お前は更に多くの富と名声を手にするだろう」

 今でも貰い過ぎだが、戦神の基準で言うと全然大した事は無いらしい。

 今後もっと稼いだ時に大山の力が有用になる。


 以前は自分で払えよ、とか言ってた気がするけど、戦神は金貨を日本円に両替する過程でそこいらの必要性を感じたのだろう。


 以前は固定資産税とか色々勉強したような気もするのだが、使わない知識は薄れていくもので……

 太陽はそういった法令がちんぷんかんぷんだ。見た事も無いような現実味の無い大金だから、大山のようなプロが助けてくれるのは有難い。


 ……まぁそれは別として、大山は太陽に対して非常に……ビクついている。

 太陽は何もした覚えはないが怯えている様子だった。


 兄貴に何か言われたのかなー。と太陽は想像した。


 「うーむ……畏まった文章って難しいなぁ」


 ペンの尻で蟀谷をガリガリ。文面を考えるだけで一苦労である。

 スマホの画面と睨めっこしながらちまちま進めていく。太陽が死んだ後、財産が高野 守に渡るように。


 そこで太陽はうん? となった。

 異世界で死んだらこっちでは行方不明扱いだよな。死亡確認がされなきゃ遺言状も意味がない。


 なんだっけ……行方不明になって何年か経ったら死亡届出せるんだっけか。


 ガウーナが複雑そうに言う。


 『ボン……まだ若かろうに、そんな風に平然と己が死んだ後の事を……』

 「(人間死ぬときゃ死ぬかんな。ベリセスの奴等を殺してるのに俺だけ殺されないって事は無いだろ)」

 『ワシらがそのような事させぬ。ソルが聞いたら泣いて悔しがるぞ』

 『……聞いておりました、ウーラハン』


 やるせなさを隠しもせずソルは呻く。


 『しかし戦場に赴かばその心構えは当然の事。もしそうなったとしても、最後の時まで御供致します』

 『あぁ! こやつ!』

 「(ありがとよ、嬉しいぜ)」

 『良い子ぶりっ子しおって! ずるいぞ!』


 ま、えぇわいとガウーナは笑った。彼女には確信がある。

 ボンが武運拙く死んだとしても、あの異邦の戦神が黙って見ておる筈がない。

 冥府の神がボンの魂を銀盆で攫う前に、必ずや己の眷属としてしまうだろう。


 ひひひ! ボンは死んでも我らの主のままじゃ!


 『……狼公、何を笑ってる。また変な事を考えているな?』

 『さてのぅ』


 部下二人を置いて、太陽はうんと背伸び。そしてまたカリカリと書き始める。

 スマホがぶるっと震える。三島 文太からのメッセージだ。


 『どこいる?』


 図書館。と簡潔に返信。


 『知ってた』


 何が“知ってた”だよアイツ。

 適当な事言いやがって、と小さく笑うと同時に図書館の自動ドアが開いて文太がズカズカ入って来る。


 「やっぱりな」

 「文太お前……どこまで俺の事を知り尽くしてるんだ。ちょっと引くぜ」

 「それだと俺がストーカーみてぇじゃねぇか」


 ケラケラ笑いながら太陽の肩をパシンと叩く文太。


 「またお勉強かよ」

 「違う。……まぁ備えあれば」

 「嬉しいなーって? 何書いてんだ?」


 遠慮もクソも無く太陽から遺言状の下書きをひったくる文太は、内容を流し読みしてサッと顔色を変えた。


 「お前……冗談だろ」

 「いや、念のために」

 「ふざけんな馬鹿。マジで言ってんのか?」

 「そういう可能性のあるバイトしてっからさ」

 「どこに遺言状書く高2がいるっつーんだ! 一体どんなバイトしてんだテメェ!」


 隣のスタディスペースに居た女学生がギョッとしたような顔でこちらを見る。

 太陽は顔の前で指を振った。チッチッチッチ。


 「ビークワイエット。図書館では静かにしろ」

 「~~ボケがっ」


 文太は頭をガリガリ掻いて太陽を罵ったが、一先ずは声を抑えた。


 「……この前はあんま聞かなかったがよ……ホントの所どうなんだ。危ねぇの?」

 「いや、実の所そこまで危ない目には会ってないぜ」


 そうそう、どうってこと無いぞい。とガウーナが頷く。主従揃って感覚が狂っている。


 「でも工事現場とか、高い所の作業とか、やっぱ危ないから「もし死んだら」って考えるだろ。そんな感じだよ」


 文太は釈然としないようだったが追及を止めた。

 太陽は普段は物分かりが良いが、一度決めたら頑固だ。その気が無いのに口を割らせるのは難しい。


 結局、文太は皮肉だけを投げた。


 「……それが嘘じゃ無きゃ良いけどな」

 「何キレてんだよ。飯でも行くか? バイト代入ったから奢るぜ」

 「良いよ、この前も奢ってもらったから」

 「うーむ」


 正直多額のバイト代を持て余していたが、太陽はそれ以上誘わなかった。

 あんまり言うと文太は怒る。前にそれで「乞食扱いすんじゃねぇ」と言って喧嘩になった事がある。


 代わりに太陽は文太をからかった。


 「お前さ……学校だとクールぶってる癖に、外だと熱くなり過ぎだな」


 文太は露骨に眉を顰めた。舌打ちのおまけつきだった。


 「ビックリするだろそりゃ。ダチが遺言状書いてたらよ」

 「うん、確かに」


 でもお前、いつもなら「また馬鹿やってやがる」くらいで流しそうなモンだけどな。

 まぁこの話も藪蛇っぽいからこんくらいにしとくか。太陽は適当に会話を切り替えた。


 「で、なんか妖怪。なーんちゃって」


 文太は一瞬ぽかんとした。真剣にどういった意味のジョークなのか分からないようだった。

 漸くその内容を咀嚼し終えた後、文太は何とも言えない表情で言った。


 おっさんかよお前。



――



 どうやら小泉 真紀が太陽を呼んでいるらしい。

 携帯が壊れて連絡出来ないので繁華街でうろちょろしていた文太に使い走りを頼んだようだ。


 夕陽も沈み夜になる。街の明かりが強く激しくなっていく。


 「別に迎えに来なくても良かったのに」

 「近くに別の用事があったんだよ」


 文太のバイクに二人乗り。風を感じながら土手沿いを走る。


 『あのマキとか言う娘、なんかぞわぞわするから好きじゃないわい』


 ガウーナが愚痴っているが黙殺する。ぞわぞわと言われてもよく分からない。


 「真紀さん何の用事だって?」

 「あー?!」


 バイクと風の音のせいでよく聞こえなかったようだ。


 「何の用事だって?!」

 「知らねぇ! 多分あれだろ、あの胡散臭いオカルト関連!」


 そんなの門外漢だぞ俺。


 小泉 真紀が時折そういった関連の仕事で金を得ているのは知っていた。

 文化堂、街頭占い、そして胡散臭い霊能事件。これが真紀の飯の種だ。太陽の知らない所で何をしているかまでは知らないが。


 でも太陽にそんなシックスセンス的な物は無い。これまでオカルト関係で真紀に呼び出された事など……。


 「いや、成程」


 真紀は戦神のタリスマンと目録に興味を示していた。

 それにガウーナやソルも幽霊みたいなモンだし、今や太陽も立派なオカルト人間である。



 文化堂の前に着いた時、路上に止まった車が目についた。

 「筋モンでも今時こんなの乗るかよ」と言いたくなるような黒塗り+スモークガラスの車で、文太は嫌そうな顔をする。


 「兄貴関係じゃねーだろうな。嫌だぞ俺」


 彼の兄はそういった関係の仕事をしていた。


 太陽はそのまま店に入らず、ドア横の小窓から中を覗いた。

 中には黒塗りの車の持ち主らしき三人の男が居る。見るからに柄が悪い。


 その三人がカウンターで頬杖を突く真紀を取り囲んでいる。恫喝しているようにも見える。


 「は? なんだ?」


 と思ったら、その内の一人が真紀の胸倉を掴んだ。太陽の形相がくわ、となる。


 「……アイツ、真紀さんに乱暴しやがった」


 太陽は軒先に並べてあった色付きのビンを手に取った。中に何処かの浜の砂を詰めた、店の扉を飾る為の物だ。


 「お前それどうすんだ」

 「いや仕方ないだろ。助けねぇと」


 真紀さんにはこれまで色々世話を焼いて貰っている。面倒事でも見て見ぬ振りは出来ない。


 砂が入ったビンなんて重量もあって手頃な鈍器だ。


 『あんな連中ボンが手を下さんでもワシが縊り殺してやるわ』

 「(殺すともーっと面倒事が増えるんだよな)」

 『ほぉ? では半殺しで勘弁してやるか』


 まぁそれはともかく、と太陽は扉を開き、文太は溜息を吐きながらヘルメット片手に後に続く。

 ヘルメットも有用な鈍器である。ここ、テストに出ます。


 足音高く入店すれば、当然男達は太陽に気付く。

 銀のフレームの眼鏡を掛けた男が口を開く。


 「お客さん、取り込み中です。悪いがお引き取りを」

 「アンタの店じゃないでしょう」


 そういった返事は想定していなかったのか眼鏡の男は片方の眉を吊り上げた。


 「あたしが呼んだの。勝手な事言って貰っちゃ困るねぇ」

 「……小泉さん、人目はあんまり宜しくない」

 「あの子がピンチヒッターだよ。いらっしゃい、二人とも」


 真紀は胸倉を掴まれたままいつもの間延びした口調で太陽と文太を迎えた。

 至って平然としている。ピンチでも平気な顔をしているから困る。


 男の内一人、アロハシャツを着た男がカウンターに手を叩き付ける。真紀の胸倉を掴んでいる男だ。

 バン、と音がする。


 「……からかうの止めてくんねーか小泉さん。こっちも親父に言われて来てんだ。

  ガキの使いじゃねーんだよ」


 太陽は近くに陳列してあった、西欧風の円卓に手を叩き付ける。

 バン、と音がする。


 「嘘付け。女の胸倉掴み上げて、物に当たって脅すなんてよ、ガキじゃねぇか」

 「あぁ?」


 ぐるりと首を回す男。

 文太が困ったなぁと舌打ちする。こういう手合いと揉めるのは出来れば遠慮したかったのに。


 「その人を離せよ、馬鹿面」


 お前みたいなのが触っていい人じゃねーぞ。ぼそりと言う太陽。


 アロハシャツの男は肩を怒らせながら太陽の目の前まで来た。鼻息が当たる距離で睨み合う。

 手に持ったビンをくるりと回して見せるが、そんな物で怖気付く相手じゃない。


 先制攻撃しちゃおうか、と太陽が考えた時だ。


 『で、ボン、やっちまってよいのか?』


 当然ガウーナが黙って見ている訳が無かった……のだが、その前に真紀が口を挟んだ。


 「君ら、止めといた方が良いと思うけど。その子の機嫌損ねたら多分死ぬよ」


 眼鏡を掛けた男が静かに尋ねる。


 「小泉さん、どういう意味です」

 「だからさ、ようちゃんを怒らせるとさ……、後ろに居る凄くヤバいのが」

 「うるせんだよ! 胡散臭ぇポン引きが!

  親父はどうだか知らねぇが、そんなんで俺がビビると思ってんのか!」


 アロハシャツの男が太陽の目を睨み付けたまま怒鳴る。メンチの切り方は知っているらしい。


 太陽はうんざりした。男が怒鳴った時に唾が掛かった。それも沢山。


 「おい、目に入ったぞ。……歯を磨けよ、臭うぜ」


 素直な感想だったが男は侮辱と取った。

 太陽の胸倉を掴もうとして、そしてその手は途中で止まる。


 めき、と気持ちの良い音がした。


 伸ばした男の左腕が圧し折られていた。

 関節を増やされた男は何が起こったのか理解できなかったようで目を白黒させる。


 一拍置いて膝から崩れ落ち、絶叫した。


 「あぁぁ! うわぁぁ?! あがぁぁ!」

 「あーやっちゃった」


 ガウ婆、これ過剰防衛って奴で捕まっちまうんだぜ、と窘めるが、ガウーナはひひひと笑う。


 『ワシじゃないぞ』

 『……申し訳ありません、咄嗟に手が出ました』


 ソルかよ。いつも大人しく指示を待っているのに、急にどうしたんだ。


 真紀が仕方ないなぁと肩を竦める。


 「あたしは警告したからね。……この際だからどんなモンなのか、自分たちの目で確かめたら?」


 男達は真紀の言葉も耳に入っていないようだった。


 「…………お前、何をした?」


 太陽は身じろぎ一つしていなかった筈だ。アロハシャツの男がそこに手を伸ばし……

 そして、ひとりでに腕が圧し折れた、ように見えた。周囲からは。


 明らかな異常事態に眼鏡の男が漸く吐き出す。

 後一人、ガタイの良い男はカウンターに座って煙草を銜えたまま何も言わない。


 こうなってしまったらもう少しやらなければ、と太陽は思った。

 中途半端な所で終らせてしまうと中途半端に恨まれてしまう。とことんまでやってビビらせとかないと後に尾を引く。


 でも今更ビンで殴ったってインパクトが薄い。


 「(……仕方ない。悪ぃけど、もうちょっとコイツを痛めつけてくれ)」

 『は』


 ソルは忠実だった。崩れ落ちた男の身体が持ち上がる。


 傍から見たら男の身体がひとりでに宙に浮いているように見える。

 ソルは首を絞めているのか、男はバタバタと足を振って口の端から泡を吹き始めた。


 「……けっ……かっ」

 「なんだこりゃぁ……おい……おい!」


 明らかに危険な状態だった。


 「おい! やめろ! 殺す気か!」

 「場合に寄りけり」


 太陽は上役らしい眼鏡の男と見詰めあった。

 男は太陽の目を見てゾッとしたような顔をする。

 失礼な奴だ。太陽は険を強めた。


 「取り敢えず、真紀さんの傍から離れなせぇ」

 「あぁ?!」

 「さっさと離れなせぇ」


 太陽はゆらりと掌を持ち上げる。ソルは意図を察したようでアロハシャツの男を更に高く吊り上げた。

 眼鏡の男は冷や汗を一滴垂らし、ゆっくりと後退る。


 「そちらのアンタも」


 銜えタバコの男も無言で立ち上がり、カウンターから離れた。


 太陽は「よござんす」と言って手をぶらぶらさせる。ソルが男を開放する。

 床に崩れ落ちた男はびくびくと痙攣している。


 太陽は意識と呼吸を確認した。失神しているが息はある。

 良かった良かった。死んでない。


 そこまで調べて、仰向けに倒れた男の頭を喧嘩キックで蹴り飛ばした。

 歯の欠片が飛んでいく。男の腹に更に喧嘩キック。鼻血と呻き声が溢れる。


 「事情は知りやせんが、真紀さんに手を出したら殺しやす。

  俺のガラを調べて、家族やダチに手を出しても殺しやす」


 太陽の何の光も無い目に呑まれて、男達は何も言えないようだった。


 「どこまでも、追っかけて行って、殺しやす。

  ……ちょいとやり過ぎちまいました。これ以上やらなくて良いように、ここいらで勘弁してくれやせんか。

  俺も出来りゃ殺したくは無いんで」


 真紀がやっぱり間延びした声で茶々を入れる。

 茶化すような口振りだが、彼女も汗を掻いていた。


 「ようちゃんかっくいー。ナイト様だねぇ」


 男達に拒否権は無かった。



――



 文太が文化堂のカウンターに座りながらボケっと言った。


 「お前アレやばくねぇ?」

 「やっぱやべぇよな」

 「やべぇだろ。どうやったんだ」

 「そりゃ……なんつーか、やべぇ力を借りる的なサムシングだよ」


 語彙力皆無の頭の悪い応答が続く。


 「お前超能力者だったのかよ、やべぇ」

 「残念だが違う」

 「じゃぁ霊能力者か」

 「……そんな感じ。つい最近クラスチェンジした」

 「クラスチェンジって」

 「ミステリアスな所がある男はモテるんだよ」

 「さっきの見たら普通はドン引きだろ」


 当然さっきソルがした事に関してだ。

 ソルの姿は見えないのだから、太陽が下手人にしか見えない。

 確かに文太が言う通り普通はドン引きだ。だがそういう文太自身はあまり怖がっている様子ではなかった。


 真紀ですら受け入れ難い物を感じているのだろうに。


 「文太はどう思う」

 「俺はまぁ……よく分かんねぇしな。ビビってもしょーがねーっつーか」

 「何かの本で読んだけど“未知”ってのは“恐怖”らしいぞ」

 「知るかよ、ハハッ」


 良かったぜ、と太陽は言った。これまで散々文太と一緒に馬鹿をやってきた。

 長い時間を過ごした、離れ難い相手だ。もしこの悪友から変な目で見られたら流石に切ない。


 ケラケラ笑った後、文太はあっけらかんと毒気無く続ける。


 「おい、俺にはやんなよ?」

 「やらねぇ」

 「なら良い。恐くなんかねぇよ」

 「…………あぁ、絶対やらねぇ」


 何故か二人は唐突にハイタッチした。真紀はぼーっとそれを見ていた。

 男友達って良いなぁ。そんな事を考えていた。



 「で、真紀さん。さっきの奴等何なんだ」

 「知り合いの所の従業員さん」


 知り合いってヤクザかよ。


 「もっと若い時に知り合って、当時は持ちつ持たれつだったんだけど」


 ヤクザと?


 「事務所とか段々大きくなって、新しい人とかはあたしの事あんまり知らないらしくてさぁ」


 困っちゃうよねぇ。

 ……困っちゃうねぇ、と文太は呆れたように返した。


 「結局何しに来たんだアイツら」


 あの後連中はアロハシャツの男を医者に見せるとかで帰って行った。

 後でまた伺いますと馬鹿丁寧な感じで言っていたから、本当にまた来るのだろう


 「知り合いの娘さんがちょっとヤバい状態でねぇ」


 ヤバい?

 こりゃ大変だ。真紀さんの語彙力まで低下しちまった。


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