8 修行と旅立ち(前編)
これからも不定期ではありますが、一週間おきぐらいにに投稿出来れば良い方かな?と思っています。
今までは設定の間違いでユーザーからしか感想を書けないようになっていましたが、変更しましたので改めてお気軽に誤字脱字や感想を書いて下さい。
俺は龍達に考え付くことを話してみたところ、出来る限りの事は協力すると言ってくれた。やっぱり優しい人――龍達である。
「すまないな。助かるよ」
「気にするな、名まで貰い受けときながら今さら見捨てる気はない」
「そうよ。私達にもアクア達の為にもなる事だから一々気にしてちゃダメよ」
俺が龍達に言ったこと、それは異世界――つまり龍達が住むこの世界――の知識や戦闘を教えてもらう事だ。
知識はまだ分かるにしても、なぜ神から生まれた竜が戦闘を学ぶのかと思う人もいるかもしれない。だが、思い出して欲しい。俺は地球の戦争とは縁が無い日本で生きていたし、何ともない平凡な日常を繰り返すだけの凡人高校生だった。
戦闘経験があるか?と聞かれれば断じて否だ。しかし、ことゲームに関してはあると言える。俺はFPSやTPSのシューティングゲームやシミュレーションゲーム、その他のゲーム、アニメ、小説、漫画といった娯楽をストレス解消にしていた為に知識だけはある。だが逆に言うと知識だけしかない。
学校の授業で剣道はやった事がある。だが素人に毛が生えた程度だろうし、水泳はやっていたが戦闘には全くもって関係ない。こんな平和ボケした奴が生き残れる可能性がどこにあると問いたい。
あるとするなら俺には、この世界に来て手に入れた生物としての本能というものがある。人のときもあったのだろうが、危機感が無さ過ぎて消えていたと言っても過言ではない。可能性の中にはスキルや魔法も入るだろうが使いこなせなければ宝の持ち腐れである。
本能は戦闘において自分の運命を左右する程には重要である。だがそればかりに頼っていては、勝てる物も勝てなくなる。
だから少しでも生存確率を上げる為に龍達にこうして戦闘の教えを請うような真似をしている訳である。
そして、俺が習う期間はというと……。
「じゃあこれから一年間頼むよ」
「うむ。任せると良い」
「ああ。儂らが一年間みっちりと仕込んでやるから覚悟する事じゃな」
「僕は戦闘があまり得意ではないから知識を教えてあげるよ」
「私もそうだから、魔法の方を教える事になるかしらね」
普通に比べれば習う期間が短いのは、俺自身が面倒臭いと思っている訳ではない。寧ろ最重要とさえ考えているのだが、異世界への興奮を抑えきれずにいるのだ。
異世界転生を果たし、剣と魔法のファンタジーの中心に自分がいると実感出来れば、誰だって興奮が限界を通り越して爆発するに決まってる。少しも興奮せず感情が冷めてる奴と俺は友達になれる気がしない。
△▼△
俺の考えと龍達の意見を聞き、一年間の大まかな割り振りをしたのがこんな感じである。
第一、四半期
戦闘:ブラッドに手伝ってもらい、威圧・殺気に耐える訓練、五感・反射の強化、竜・人形態での格闘攻防、応用など……人としての本能と竜に備わる最強の本能、その両方を使用し余った期間を応用と秘策に当てた。
第二、四半期
魔法:これは朝ソニックとミストに、より効率的に魔法を発動出来るように教えてもらう。そして、昼以降はフォレストに気絶するまで実践訓練と防衛戦を付けられた。
第三、四半期
知識:ソニックに教えてもらったのはこの世界の人が生きるのに活用してきた知識だ。どうしてそんな事を知っているのかというとソニックは勇者と賭けをして勝ち、勇者の持つ出来る限りの情報を得たらしい。――が、聞いてみれば勇者の賭けたものは龍鱗だった。
これは龍達にしてみれば面白くない事の一つに入る。何故なら自分達を素材としてしか見てないのが気に食わないらしい。
だがそこはやはり勇者と言うべきか、疫病で苦しむ民衆を救う為に単身で危険地域に指定される龍の巣に踏み込んで来たらしい。
ただし先程も言った通り勇者は単身であり、街の長は兵力を出し渋ったらしい。
勇者は今までにもそういった事が多くあり、善意で活動してきた筈が金や権力に負け守り通す事が叶わなかった者達が多くいた。
そして勇者でも心が折れかけていた所にこの事件が起き、賭けに負けたのにも関わらず龍鱗を持たせてくれた御礼にと街の者達を治した後に死ぬまで一緒にいた事を話してくれた。
第四、四半期
混戦:これにはブレイズと他の子竜、ブラッド達も合わさって訓練する事になっていた。俺もある程度の実力を付けられたので、子竜達と混ざって戦えるようになり様々な模擬戦をした。
俺が加わった事により、普段自分達が受けていた模擬戦よりも更に激しくなっていると子竜達が愚痴を零していた。
他にした事と言えば子竜達との連帯戦や死闘、クラグの口調矯正に他二名の口調修正、人化を使った混戦やスキル・魔法の見せ合いなどである。
△▼△
そして長くも早く感じられた一年間の修行?がもうすぐ終わろうとしていた。
「そろそろ一年経つのか……。俺もかなり実力が付いてきたと感じるし、人化しても殆ど違和感が無くなったのは嬉しいな」
最初は人化しても何故かあんまり馴染んでいなかったのだ。理由は不明でモヤモヤした感情――クイズなどで答えが出かけているのに、ハッキリと思い出せないような感情――があり、修行していくうちに無くなっていった。
「ブラッド達と離れるのは少し寂しいが、漸く異世界を見て回れると思うとワクワクしてくるな。勇者の件があるからあまり期待は出来ないけど……」
そんな事を呟いていたら、噂をすれば何とやらでブラッドが歩いてきた。
「ふむ。こんな所で何をしていた?」
「少し、気持ちの整理をな……」
俺が今いる場所は森の中にある湖で、人の姿で胡座をかきながら湖面をぼーっと眺めていた。
「お前やブレイズ達とも別れると思うと、な……」
「その事なんだが、彼奴らも一緒に連れて行ってくれんか?」
「急にどうしたんだよ。そんな予定聞いてないぞ」
「世界を見るだけなら儂ら龍には翼があるからそんなに苦労はしないが、世界を知る為には人と交わろうとしているお主に預けるのが一番だと思ってな」
確かに俺は街へ行ってみたい思いはあるし、冒険者にも興味はあるがハッキリと話した事は無いはずだ。
「お主の邪魔にならぬのなら連れて行ってはくれんか」
「どうして俺が人と交わると思った?」
「バレていないとでも思ったのか?最近お主が遠目から街の様子を見ておるのは全員知っとるぞ」
「気配察知が甘かったか?だが気配まで断って行動していた筈だ……」
「観察している時に気を抜いてはいかんな」
「なるほど……集中しすぎたか」
「そういう事だな」
二つの事を同時にこなすことはまだ慣れていないので、実力者からするとどちらも中途半端な出来に見えるんだろうな……。
「で、ブレイズ達の話だが本人に確認はとってあるのか?」
「まだだな」
「まだなのかよ。よくそれで連れて行く云々の話が出来たな」
「なら本人達に聞くのが一番早いだろう。演習場に皆いるから行くぞ」
「用意周到だなぁ……。それでも本人達が嫌がったら連れて行く気はないぞ」
「ああ、それで良い」
そして俺達は森を抜けた辺りから演習場へ向けて飛び立った。そう、俺は魔法――と言うよりも魔力を操ることがある程度上達したので、魔力の翼を使い飛べるようになっていた。
そして演習場近くまで来るとそこには談笑している他の龍達がいた。
「おっ、帰って来た!」
「フェリオスはいつも私達を待たせ過ぎなのよ!早くしなさいよね!」
「そんなに言うほど待たされた記憶はありませんが……」
「確かにそうだよね」
相変わらずブレイズは修行をするようになってから全員にタメ口になっているし、アクアは事あるごとに文句を言ってくるし、クラグの口調は普通になったが多少の引っ込み思案が残ってしまった。
唯一変わってないのがサンダーだけであるが、こいつの性格が変わったらこのメンバーを纏めるのがいなくなるので良かったと思う。
「さて、いきなりだか重要な話が皆にある」
すると、さっきまでの雰囲気がガラリと変わり真剣な表情になる。
「儂らがフェリオスに修行を付けていたが、それももうすぐで一年経つ。その意味は、分かるな?」
そうブラッドが話すと、ブレイズ達の目が俺を見てきた。その目には少しの寂しさが見てとれた。
「そこで儂らから提案がある。ブレイズ、サンダー、アクア、クラグ、お主達はフェリオスと共に旅に出る気はないか?」
すると、少し悩んでからブレイズが聞いてきた。
「ブラッドの親父。それは俺達が独り立ちする為か?それとも他に理由があるのか?」
「儂ら龍は今までに人と関わる事は避けてきた。それは横暴で愚かな人間共と関わる必要性が無いと判断してきたからだ。」
まあ確かに概ね間違ってはいない。
「だが、世界を知り学ぶには弱者でありながら生き永らえてきた人の世界を知る事が最も早いと儂は思う」
人は弱いから常に脅威を排除しようとするし、その為に多くの情報を集めようとする。それに知識欲というものも存在する。だから地球ではあらゆる物が進化しまくっていたしな。
「まあ簡単に死ぬ事はないだろうから、世界を知ってこいと言ったところだ。」
さて反応は……?
「分かった。俺はついて行く」
「私も特に異論は無いわね」
「人の考えか……興味が湧いてきたよ」
「皆が行くなら僕も付いて行くよ」
「だ、そうだか?」
「はぁ……。何となくこうなる事は分かってたけど、前途多難だなこれは」
人間を下に見てるこいつらは人と問題ばかり起こしそうで俺の暮らしが忙しくなりそうだな……。
「なら一つ条件がある。俺の持つ『眷属契約』スキルで契約してもらう」
「理由は?」
「お前らの行動制限と連絡手段の追加と、緊急時の人化解除の回避だ」
『眷属契約』でテレパシー会話を可能にし、『眷属強化』で人化を貸し与える事で本来能力が解除される場面を回避する事が可能になるのである。
人化は実験を繰り返して分かった事が幾つかある。
人化は他人に掛けた場合、力を限界以上使ったり人間が保有する三分の一以上の失血や気絶で解除されていた。だが俺が自分自身に能力を使った場合は特に制限なしだった。
だから眷属契約をし強化で能力の貸し与えによって、人間にバレるといった一番のリスクを無くしてしまおうという考えである。眷属契約はまだした事が無いがな。
「まあ、成功したらの話だ。失敗したら自己管理となるけど、バレたら容赦無く俺は人間側に付かせてもらう」
「当然だな」
「そうね。そんな覚悟さえ持てないようなら生き残れないものね」
「この場合心配なのは僕やクラグではなく、アクアやブレイズだと思いますが?」
「そうだよね。僕もそう思うよ……」
「「どういう事(よ)だよ」」
「僕が言っても君達は否定するじゃないか」
(心酔しすぎだよね……)
「クラグ……何か言ったか?ん?」
「何でもないよ。そう。何も言ってないさ」
相変わらず仲が良いのか悪いのか……。
「じゃあ契約を始めるぞ?」
全員が頷いた事を確認してからスキルを発動させるのだった。
ここまで読んでいただきありがとうごさいます!
良ければ続きも読んでいってください。