6 初めての魔法
俺は早速魔力を感じる為に意識を集中させていく。
意識を集中させてから少しするとすぐに周囲に漂う魔力を感知する事に成功し、体内の魔力も同様に感知する事が出来た。
全身に魔力が行き届くようにイメージしながら魔力操作を試みてみるものの、成功する気配が無く暫くの間頑張ってみるが特に何も変わらなかった。
そこで俺は色々と工夫してみる事にした。最初は集中出来ていないのではないかと思ったが、周りの音が聞こえないぐらいに集中しても駄目だった。それならば次だと、全身の毛細血管までイメージしてみるがそれも失敗。なら後はイメージだけなのだが、靄を別のものにすれば上手くいくのでは?と思い実践していると最終的には液体へと辿り着いた。
何がいけなかったのかというと、靄の状態で全身に魔力を送るという行為自体のイメージが曖昧だった事に原因があったのだと思う。周囲の魔力を靄として体内にある魔力を液体とイメージしたら今までのは何だったんだと思うぐらいにすんなりと魔力循環が行えた。
そう、魔力も血液と同じように全身を流れているとイメージしただけなのだ。だが、周囲の魔力まで液体とイメージしてしまうとこれまた失敗するのだ。
魔力循環に慣れてくる頃には全身がほんのり温かくなってきていた。魔力循環をしていて感じた事と言えば、感覚が鋭くなり今までは聞こえなかった遠くにいるであろう鳥の鳴き声の種類まで判別できた。
それに鼻が良くなったのか臭いで龍達が大体どの位置にいるのか分かるようになり、演習場で流れたであろう血の臭いや海独特の臭いで距離感が何となく掴めるようにもなった。
まだまだそんなもんではない。多分今の状況からするに五感全てが強化され、龍達が言っていたように身体強化もされているはずである。そう考えると魔力循環とは簡単に出来る割に恩恵が多すぎる気がしてきた。ただまぁ、見えないリスクがあるのかもしれないが……。
次にする事は確か、属性と魔法の完成形をイメージしながら発動したい箇所に集中させる……だったか?今使える属性は火、水、雷、土と四つあるし、それにどれも使ってみたい魔法が沢山あるし……よし!ここは火にしよう。
生活で良く使うだけにイメージし易いし、水もそうだけど派手さを求めるならやっぱり火のイメージが強いからな。それに地球でいつも見ていた大きな存在であり、夏には自己主張が激しくなる”あれ”を再現出来るのかも気になるし。
先ずは属性のイメージだな。
【火とは生命を支える存在であり、脅かす存在でもある。
一度燃え広がれば、赤く、熱く、炎々と存在し続け、全てを破壊し尽くしたかと思えば悲惨な景色を残し消える。
逆に小さく赤々と燃える程度であれば様々な恩恵を与え、生活を豊かにする存在でもある。
関係を断つ事の出来ない存在であり、生命の源である】
次は魔法の完成形をイメージする。
尻尾の先端を顔の近くに持って来て集中する。
そこに魔力を集中させる為の力点を置き、それを中心に螺旋を描くようにして球体――某忍者主人公が使う技の螺旋球体のイメージ――を作り出していく。但し、集中している魔力は全てを燃やす赤の色をしているが……。
そして魔力に意志を込め直ぐに発動――はさせない。このまま発動させてしまうと、ただの魔力球を発火させただけなので大した威力は発揮されない。
だからその魔力球を限界まで圧縮するように膨大な魔力を込めていき、発動後の事も考えて球体を更に魔力で覆うようにする。
球体を魔力で覆うのには二つの理由が存在する。一つ目は発動後の威力が強すぎる為、周囲の温度が急激に上昇するのを防ぐ事。そして二つ目が火災などで起こるバックドラフトを意図的に発生させ、凶悪な威力を誇る魔法を破滅の導き手へと昇華させる事である。
少し不快感というか疲労感のようなものを感じて来た辺りで魔力を込めるのを止める。そして圧縮と意志を込めるのに集中し、意志には攻撃範囲と覆う魔力に隠蔽のイメージを明確にして目を開け尻尾の先端を見るとイメージ通りの『擬似太陽』が出来ていた。
擬似太陽は言い過ぎかもしれないが自分が今出せる魔力の半分以上を突っ込んだ魔法なのだから少しぐらい見栄を張っても良いと思う。初めての魔法でもあるのだし……。
「む?魔法は完成したのか?」
「ああ。初めてだからちゃんと発動するか分からないがな」
それだけが唯一の問題なんだけどね。あと喋る余裕しかない程に集中しないと維持出来ない。
「余り魔力を感じないのだけれど、どうしてかしらね?」
「確かに如何にもな見た目をしてますが、特に脅威を感じませんね」
「特に失敗という訳でもないのだろう?」
「もちろん。魔力を半分以上込めたからな魔力感知のある敵だと逃げられそうだし、範囲指定と共に隠蔽の効果も付与しといた」
隠蔽効果ってどれ程なんだろう?
「初めて使うにしては面白い事を考えるものだな」
「フォートレスやブラッドは回避しなくても致命的ダメージを受けないと分かったら回避を捨てるでしょう?そういう相手に対しての策……と言うのもあるのでは?」
「ソニックさんにはバレバレですか……」
「脳筋じゃない限りは相手の手の内が分からないから避けるのが当たり前なのだけれど……」
「儂は脳筋ではない。相手を見極めるのも大切な事だ」
「儂は避けたり逃げたりする事は好かん。全部受け止め切れるならそうするのだが、流石に生存本能には逆らえんと言う事だ」
どっちもそんなに変わんねぇじゃん……。
「む!今良からぬ事を考えなかったか!」
「そんな事はないですよ。それよりもこの魔法の威力を知りたいし、維持が難しいので早速使ってもいいですか?」
あっぶね〜……ブラッドさんそこは鋭いのかよ。フォートレスさんは気が付いてないみたいだけど。
「儂らでも見抜けぬ魔力を内包した魔法がどこまでの威力を発揮するのかとても楽しみだの」
「そうね。とても楽しみだわ」
隠蔽効果で誰も気付かないとは思わなかった。それに、フォートレスさんとミストさんが意気投合するとは……。
「何の魔法か分からないし魔力量を感じ取れないから何となくでしか判断できないけど、アレは結構やばい気がするね」
「確かにな。炎の赤だけではなく黒い色もあるのが気になるな」
そして俺は初めての魔法を尻尾を振りかぶり、演習場の中央へと放ち解き放つのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
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