51 脅威と男の二面性
前と同じく普段(三千字)より倍くらい長いです。
いつもこうだと良いのになぁ…
視点:男勝りな女冒険者
その日、オレ達のEランクパーティー『翡翠の扇』は鬼戦の森にある醜鬼を討伐するためやって来ていた。
受付で聞いた情報によると醜鬼が十五匹前後で武器は石を中心に拾い物の剣などを使っているという話だ。
メンバーは五人。ランクDがオレを含め二人、後の三人はランクEだ。口減らしとして村を追い出された同郷同士であり、元々仲が良かった事もあってパーティーを組む事にした。最初は七人だったが、身勝手なやつと裏切り者はどちらも死んだ。魔物とオレの手を汚すまいとメンバーの一人に殺された。
今日はオレ達が醜鬼に殺される日だった。
何の変哲もない普通の日、特別調子が悪い事もなく、死なないように生き残るためにと森へ来た。
村を探しながら出てきた魔物を狩り、証明部位と魔石を確保して素材があればそれも回収する。それを繰り返して何度目かの遭遇時、アイツと数十匹の醜鬼は目の前に現れた。
身体が百六十を越えるオレより倍はあり、ガッシリした体格に元々貧弱な種族からは考えられない筋肉、通常より濃い緑色をした肌、手には冒険者が使っていたであろう大楯が握られていた。
醜鬼リーダーと呼ばれる個体だ。
万全の準備はしていた、連帯も上手く行っていた、奮闘もした、が……ハッキリ言えば遊ばれていた。
前衛で盾剣を使い頼りになるアベル兄さん、槍を持つ最年長のユア姉さんと剣を使うセニアが中衛を務め、弓を使う妹のフラミールと珍しく魔法に適性のあった弟のアランが後衛をしている。
毎日必死だったけど、まともに訓練も受けないオレ達では五分も粘れていなかったと思う。出会い頭に呆けてしまっていたオレ達に代わってアベル兄さんが虚を突いた攻撃を防ぎ、眼を覚まさせてくれた。
その後醜鬼リーダーを相手取り、数度に渡って振り下ろされる大楯の攻撃を回避したり防いでいたアベル兄さんを中心に、醜鬼リーダーへ攻撃しながら醜鬼の数を減らしていたが醜鬼リーダーに攻撃が通っている様には見えなかった。
―― ブオォン、ゴッっっ! ――
「ぐあッっ……」
―― ドシン ――
「グフッ」
「兄さん!大丈夫!?返事をして!」
醜鬼リーダーの薙ぎ払った攻撃の直撃を受けてアベル兄さんは背中から木に激突した。
「…………」
気を失ってしまった様で、起き上がって来る気配どころかピクリとも動かない。もしかしたら……とも考えたけれど、後ろの二人を全力で守り抜かなければいけないオレにとっては後先を考える余裕は無かった。
「姉さん!」
「ええ。分かってるわ」
「アラン。フラミーを連れて逃げろ。ここはオレと姉さんで時間を稼ぐ、振り向かずに全力で走れよ!」
「ユア姉もセニア姉も、なに言ってるの…?」
「分かったよ、姉さん。でも、絶対に助けに戻るからね」
「ちょ、ちょっと、アラン辞めて!引っ張らないで!!嫌…こんなの、こんなのは絶対に嫌なの……!!」
「ごめんよ、フラミー。僕も…いや、君だけは絶対に街に届けるし姉さん達も助ける。ぐっぅぅ……ま、街に着くまでの辛抱だよ……」
「……アラン」
二人の声と足音が遠ざかっていく……。
これで良いのだと言い聞かせ安堵したのも束の間、突進してきた醜鬼リーダーが行かせまいとして進路に飛び出したユア姉さんを弾き飛ばし、そのスピードは落ちる事なくオレと正面からぶつかり意地で抑えたものの、力尽きて崩れ落ちるオレを突き上げによって吹き飛ばした。
―― ドシャッ ――
「ガはっッ!」
数秒間も地面を離れ空中を漂ったあと、背中に大きな衝撃を受けたことで肺から空気が漏れ情けない声を出してしまう。その後、視界が回り二度三度と跳ねて転がり前面と土が対面する頃には満身創痍になっていた。
「ぐうぅぅ……」
傷だらけの身体に鞭を打ち動こうとするが、限界を迎え悲鳴を上げる身体は痙攣するだけ。段々と霞んでくる視界が最後に捉えていた光景は、酷く残酷だった。
いつの間にか逃げる二人を追い越していたオレは、アランとフラミールを最後まで守ろうとしていたユア姉さんが、使えなくなった大楯を捨てた醜鬼リーダーに腹へと重い拳を受けて倒れ、アランは醜鬼に囲まれて殴られていた。
次に眼を覚ますとオレ達女は捕らえられていた。
汚くて臭くて醜い醜鬼がオレ達を縛り付けながら騒いでいる。両隣にはユア姉さんとフラミールがいたが、姿の見えないアベル兄さんとアランを探して心が騒つく。醜鬼は女を捕らえて犯す習性があるが、この際それはどうでもいい。それよりも大切な家族が今も苦しんでいると思うと心の中が焼けるようだ。
「くそっ、こんな所にいる場合じゃねぇのに……」
その声がきっかけになったのか、二人も眼を覚ましたようだ。臭いに顔を顰め醜鬼を見て悲鳴を上げる。特に動けず醜鬼を直視する状況で追い詰められているフラミールが大きな声を出している。
その悲鳴を聞いて楽しんでいるのか、醜鬼は濁った鳴き声をさらに濁らせて笑っている。そして、準備が整ったのかじりじりとこちらに詰め寄ってきている。
先程は気にしないようにしていたが、やはり醜鬼に犯されることは生理的に無理で不快感が溢れて出るのは止められなかった。
「オレに近づくんじゃねぇ!ぶっ殺すぞ。ちくしょう…リーダークラスが居るなんて聞いてねぇってのに村規模の集団とか勘弁しろよぉ…」
もう無理だと諦め涙を流し天を仰ぐ。すると、ふと視界にこちらを木の上から眺める男が映る。オレはこのありえない奇跡的な状況に呆けてしまった。当然だろう?諦めた矢先に希望が見えたのだから。
ここからでは少し遠くて確認し辛いが、相手は少し気不味いのか少しの間の後に身振り手振りでこちらへ何かを伝えようとしていた。何を表現しようといているのかは分からなかったが、助けてくれそうだと何故か確信できた。
「ハハハッ……最後の夢としては悪くないね」
その時にはもう、オレの涙と声は鳴りを潜めていた。突然黙りこくったオレに姉さんとフラミーは驚いたようだが、オレの顔を見て何かを感じ取ったのか不安そうな表情は消えないまでも眼には僅かばかりの希望が宿っていた。
醜鬼達が汚い笑い方をしながら腰布に手を掛け始めた次の瞬間、運命は変わった。
「ほいっと。そのまま永眠してろ」
―― バシャン、ジャポン、ビシャ ――
―― ゴボボボッ……ゴポッ…ブクブクブクっ… ――
かなりの距離、高さがある木の上から一息で目の前に現れた男は常識を無視したような軽い着地を決め、魔法を使用したのだろうか?空中に出現させた水球だろうものを十二匹全ての頭に被せて簡単そうにこの場を制圧してしまった。
だが、頭に被さった後にウネウネと動く水は気持ち悪く、水流が発生しているのか細い渦を巻きながら醜鬼の体内に入り込み空気を奪っている様は許容出来ない恐ろしさを掻き立て同情してしまう程だ。
「「…………」」
それでも助けてもらった事には変わりなく、感謝を伝えた。けど、その男は何でもない風に気にするなと言ってのけた。
その後少し難しい顔をしていたが、スタスタと歩いてオレ達の縄を一瞬で切り裂いて通り過ぎ、テントの奥の方で小穴を開けて外を覗いたと思いきや直ぐに戻ってきて、死んだ醜鬼を端へと蹴り飛ばし足元に人ひとりが楽々入れるような傾斜した穴を作り出した。
男は穴から少し離れた場所へ移動してキョロキョロと周りを見回し、ぶつぶつと何かを呟くと地面から土の紐状のものが伸びて落ちていた布を拾い始める。新たに出現した渦を巻く水球の中に集められた布が放り込まれていき、新品同様に綺麗になって取り出された端から男の腰から伸びる水を纏う草紐に縫われて服になっていった。
水球から出てくる汚れという名のヘドロにはドン引きした。
完成した服の出来栄えに満足しているのか頻りに頷いていたが、声を掛けるとその服はオレ達にあっさりと放って渡された。
「ホレ、取り敢えずこれ着とけ。後は向いといてやるから正面の警戒は任せた」
少しきょとんとしてしまったが、三人とも互いの姿を改めて見て顔が真っ赤になった。恩人とはいえ知らない男に裸を見られたのはこれが初めてなのだから仕方のない事なのだ。
男の指示通りにテントの入り口の方を向いて渡された服に着替える。元々着ていた服は醜鬼に破かれて使いものにならなくなってしまっているが、手に持っている服の方が上質に感じるのは何故だろう…。
オレがボロ布に手を掛け始めた時、背後から威圧的ではないが何らかの圧を感じた。すごく振り向きたい衝動に駆られるが、隣にいるユア姉さんから腕を掴まれてビクッとする。
「止めておきなさい」
「で、でもよぉ。確認ぐらい……」
「あの人の強さを見たでしょう?それに、先ほど言われた事を思い出しなさい。今あの人を怒らせては二度と生きて帰れませんよ」
「そうだよぅ、セニア姉。アベル兄やアラン兄を見つけるためにも怒らせるのは不味いよ」
姉どころか妹にも諭されてハッとする。この後、武器も防具も無いオレ達が二人を探す為にも協力してもらう事を考えたら、今怒らせてしまうのは確かに不味い。
「そうだな…オレが間違ってたよ」
考え無しに行動しようとした自分を恥じる。目の前で起きた異常な現象の数々に頭が混乱して大切な事が抜け落ちていたようだ。
オレ達が着替え終えて声を掛け許可をもらって振り向くと唖然とした。
気にしない様にはしていたがテントの奥にはオレ達よりも前に醜鬼達に捕まった女達がいて、死んで骨となった者もいれば生きているかも怪しい無惨な姿をした者もいたはずなのだ。それが少しの間で健康体になっていた。もはや自分でも何を言っているのかよく分からない。
男は脱出させるから手伝えと言って人数分の新たな服を押し付け、交代だとばかりに入り口付近へと歩いていく。女体に触るのに抵抗があるのだろうか?醜鬼に犯された女にとっては今更な気がするが、その気遣いには好感が持てるので黙って従う。それ以外に選択肢が無いとも言う。
女達に服を着せた後は脱出するために一人各二人も担がされ、時間が経ったとはいえ痛む身体に無理をして男が掘った穴を通り必死に足を動かす。殿は男が担当し、いち早く穴を出たオレ達は醜鬼村から少し離れた場所に出ていた。
「ハァハァ…はあぁぁ……もう無理だよぅ」
先頭を歩いていた一番体力の無いフラミーは地面に女を寝かせると、自分もふにゃふにゃとへたり込んだ。これは少し休憩しないと動けなさそうだ。
「情けないな、フラミーは」
軽口を叩くが、正直なところオレにも余裕があるわけではない。完全に危機を脱したとは言えない状況で弱音を吐いて妹に心配ごとを増やす訳にはいかない。
「そうよ、フラミー。貴女はもう少し鍛えて体力をつけないとね」
姉も同じ考えのようでオレと視線が交差する。
「…………」
フラミールは何か言いたそうにしていたが、言葉にすることは控えたようだ。まあ、吹き飛ばされたり叩きつけられる所を見られているので痩せ我慢だと疾うにバレているだろうが……。
周囲警戒をしながら雑談していると穴から男が出てくる。と、同時に通ってきた穴も塞がってしまい、先ほどまでそこに穴があったとは思えないほどに景色へと溶けてしまった。
醜鬼村から脱出したは良いものの、これからどうやって逃げ延びるのか家族も助けてもらえるかなどを聞いていない事を思い出し、一先ずどの方向へと逃げるのか訊いてみる。
「ここからどこに逃げるんだ?」
「いや、逃げねぇよ」
はて、オレは何か可笑しなことを言っただろうか?今、逃げないと聞こえた気がする。リーダークラスのいる村相手に何する気だ?
姉さんが必死に今の状況を説明し、フラミールが死にたくないと何とか思い留まってもらえるよう言っている。
だが、男は"いや、知ってるけど"とでも言いそうな暢気顔でコトの重大性を流した。その直ぐ後に、オレ達の得意武器を訊いてきたと思いきや今度は全身を舐め回すように観察した。一体何がしたいのだろうか……。
「ふーん、観察しただけだとこれぐらいの精度が限界か」
面倒臭そうな声と共に足元の土から何かが飛び出てくると、先ほどの質問が注文であったかのように足元には剣が刺さっていた。土製の弓は流石に難しいのかフラミールだけは盾だったようだが、驚くほど手に馴染んでいるようだ。
男は武器に違和感を抱かないのを確認すると、一人でぶつぶつと喋り始めて納得するように頷くと離れた場所に家を作ってしまう。草やら樹皮やらを巻き込んだ即席の四角い土の家は強固であり、何度か叩いても蹴っても壊れず頼もしい休憩所となった。
未だに意識の無い女八人を家の中で寝かせて、オレ達三人は外で警戒しながら待てと言われた。武器を渡された時点で戦わされると思っていたが、待機を命令されるとは予想外だった。
「ちょっと待ってくれ。まさか、ここに置いていく気か?」
「置いていく?まだ寝ぼけてんならこれでも飲んでろ」
「おわっ」
投げ渡されたのは三つの草紐のポーチベルトで、中にはポーション瓶が入っていた。
「こ、これって……」
「身体にダメージ入ってんだろ、知ってるよ。だからここで見張りでもして休んどけってこった。報酬はそれで文句ねぇだろ?」
「それは…そうだが」
高が見張りの対価にポーションを三本も出した事に驚いて生返事になってしまう。
「貰っておきなさい。でも、良いんですか?こんな高価な品を軽く渡してしまって」
ユア姉さんは男の言葉に裏がないか確かめているようだ。当然だ。現状の傷を癒すだけなら一本で済む所を態々余るように二本も追加している。それも三人分で六本も余る事になる。
「問題ないな。気休めで持ってきただけだし。もしかしたらと思って買っておいたが、案の定他人に使ってるしな」
「そうですか……」
オレの眼には男が嘘を付いている様には見えず、ユア姉さんもそう思ったのか追求はしなかった。力量差がある相手に対してこの問いは愚問になるが、確認を怠ればこちらが損をする羽目になる。幾度も経験した事だ。
「そんじゃぁまぁ、戻ってくるまで見張り頼んだわ」
さっさと背を向けて手をヒラヒラと振りながら醜鬼村へと歩いて行く。途中で腰に手を伸ばすと次の瞬間には長物が出現しており、それを腰に提げると男の雰囲気がガラリと変化する。
「姉さん、アレって…」
「刀…だと、思うわ。確信は出来ないけれど、剣より細く長い刃渡りに、反りのあるレイピアとは違った平たい鞘……」
「でも……それは勇者様が愛用していたけど扱いが難しいって聞いたよ?作り方も使用方法も独特過ぎるから憧れはさっさと捨てた方が良いって店員のお兄さんが言ってたよ」
「そうね。何処から取り出したかとか、何故今の状況で刀なんて珍しい物を使うのかとか疑問は尽きないけれど……『龍の塒で喧嘩』するほどの元気は持ち合わせて無いわね」
瞳に映る男は、先ほどまでオレ達と会話していた暢気な奴とは思えないほどの闘気を宿し、その身を隠すかのように静寂を支配する霧に消えていった。
そう、いつの間にかこの場に現れ、霧だと認識出来た時にはもう土製の家から数メートル先は白い壁のようだった……。
そのうち追加します。
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今回は少なめですが、これで以上です。
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