27 ナンパのち、着せ替え人形と美形③
最近、雨続きでやる気がた落ち
その後は、アレな店員が出てくることもなく普通に試着が進んでいったのだが、イマイチ決め手に欠ける感じだった。
しかも、アクアやサラに釣られた男性店員が無理やり服を着させようとした為に、リアンが止めに入ることとなり、初めてその存在に気づいた女性店員が全員固まってしまった。
その後も、他の男性店員はアクアやサラに見惚れており、店名を告げた店員に動かされている者以外はぽけ〜っとしていた。
そして、そんな時に店へと入ってくる人影が三人ほどあった。その三人は入ってくるなり先頭の人物が大声を出し、店内全員の視線を集める。
「愚民共は対応がなってないんじゃなくて!?私はかの有名なウェルミン家の長女、テレサ・ウェルミンなのよ!店の前で迎えて然るべきなのにこの体たらくはどういう事なの。
それに加えて、入ってきた客に対して挨拶も礼もしないとは……そこに呆けて立っている人形はゴミとして破棄するべきじゃないかしら」
テレサと名乗る人物は身長が小さく、百六十センチ以下で髪型をツインテールにしており、赤髪紅眼に吊り目の女だった。聞く限りでは物凄い小者臭がする、傲慢が立って歩いているような奴らしい。
「おや?これはこれは。テレサ・ウェルミン様ではないですか」
指示を出していた店員は、アクア達にアイコンタクトと会釈をしてからテレサという人物の相手を始める。
だが、相手にする直前に見た目は、呆れや鬱陶しいという感情が混じった濁ったものだったが、すぐに笑顔と切り替わる。
「はて?私は今回ウェルミン様が来るというような報告は受けておりませんが?」
「当り前じゃない、そもそも告げる気がないもの」
ここで店員の笑顔が雰囲気的に少し暗くなる。
「そうですか。私は、ウェルミン様が再度この店にいらっしゃった理由が分かりませんな」
「ふん。貴方の店に置いてある服のセンスと、質の高さだけは認めてあげて・・・」
「それにしても、おかしいですな?私の記憶違いでなければ、ウェルミン様に三回ほど出禁をお伝えしているはずなのですが……?」
店員は女の言葉を遮り、相手の不満げな顔も笑顔でスルーして、重要なことをもう一度相手に伝えた。
「貴方の言葉に何の意味があって、どんな強制力があるのかしら?」
ここでアクア達は、店員が後ろで組んでいた左手の力を強めたことで、右手首から"ぎりり"という鈍い握り締め音がはっきりと聞こえた。
「ははは、これは困りましたな。強制力ですか……たしかにウェルミン様に比べれば"私"など比べるべくもありませんな」
「当たり前でしょ?私を貴方やそこらのゴミみたいなのと一緒にしないで欲しいわね」
最初の一言で、言葉に含まれる意味を理解出来てないと呆れたからか、店員の左手から力が抜けるが、再度従業員を馬鹿にされた事で、今度は、握り拳を作った右手の血色が悪くなっていく。
「私を馬鹿にするのは良いが、従業員を馬鹿にするのはやめて貰おうか?」
言葉を発した店員は剣呑な雰囲気を纏い始める。
「やめときな。あんたじゃぁ俺には勝てねぇ」
店に入ってきてからずっと喋っていなかった二人のうち、片方がそう言う。目立たない地味目の色をした皮鎧を付けており、茶髪に眼帯という格好をした男だ。背中にはロングソードだと思われる剣が右肩から腰の左側にかけて一本だけある。
「一応、これでも護衛なんでな。手出し無用で頼むぜ」
男はそう言いながら、背中にある剣の柄を右手で掴む
「……」
店員は握り拳を緩めて一息つくと、穏やかな顔つきに戻りテレサを案内しだした。
因みにもう片方の人物は、黒服に背筋がしっかりとした老人ということだったので、多分だが執事だろう。
店のオーナーだと思われる店員が離れてからは、他の女性店員達にオーナーが戻ってくるまでは「私達が選ばせて頂きます」と言ったので素直に従った。
暫らくすると、店員が堅い笑顔ながら戻ってきた。
「途中で役目を降りてしまい、申し訳ございません。その代わりと言うわけではありませんが、商品の割引サービスをさせて頂きます」
「いえ、それはまた今度でいいわ。外の方に用事が出来てしまったみたいだから」
アクアがそう言いつつ外に顔を向け、扉の向こう側にある、通りを睨んでいる。
「それはどう言う……?」
「サラ、リアン行くわよ」
「「はい」」
二人に声を掛けると、アクアは早足で扉に向かう。そして、外に出る前に振り返り、従業員全員に聞こえるように言った。
「巻き込まれたくなかったら、少しの間は外に出ないことよ」
外に出ると、店に入る前と同じ光景が目に映るが、近くの路地には影に隠れる存在が幾つも確認できた。把握出来るだけでも十数人いるようで、皆が店のほうに視線を集めているので、目的はここで間違いないようだ。
そして、潜んでいることを察知されたからか、正面の影から一人の男が現れ笑顔でこう言った。
「俺達はその後ろの店に用事があるんだ。だからそこを退いてくれなか?」
「嫌だと言ったら?」
「……死ぬような痛みを味わうぞ?」
「そう……温いわね」
その言葉は男の怒りに触れたらしく、前のめりな中腰になり腰の後ろに手を伸ばす。
男は怒ったが、アクアや俺たち子竜からすると真面目な一言なので、アクア的には何が悪かったのか理解できないでいる。
「そうか、では死ね!」
そういって男は右手で刃物を逆手に持ちながら襲い掛かってきた。
本格的な作者紹介はもう数話後に書きます。黒犬的には、F級軍師や状態異常スキルやルールブレイカーがマイブームです。追っかけは楽しいからね、書くのが遅れても仕方ないよね。