17 結末とじゃん拳
お久しぶりです。黒犬です。
今回は前話よりだいぶと期間が空いてしまいましたが、後悔はなく反省はしています。
詳しいことは下で書きますので先に本編をお楽しみ下さい。今回は五千字強書いていますので長めになっています。
怒り本気になったオークを蹴り飛ばし気絶させたことでオーガに火がついた。
こうしてオーガとの第二戦が開始された。
オーガは下手に突っ込んで来ることはせず、様子見も兼ねて会話が続く。
「さて、貴方に本気を出してもらう為にはこちらも最初から全力を尽くした方がよろしいですかな?」
「さあな。俺はお前の全力を知らないし。でもまあ、楽しいに越したことはないな」
俺はオーガにニヤリと笑って見せる。
するとオーガは少しの間笑ったあと、全身の力を抜くように脱力し下を向く。そして、俺の本能が全力で危険だと叫ぶほどの魔力と殺気が溢れ出した。
「確かにそうですな。貴方は道すがらの踏み台だと思っていましたが、考えを改め直さなければなりません……」
オーガの身体を包むように流れていた魔力が先ほどのオークが見せたように身体に吸い込まれていく。
だがオークとは決定的に違う所があった。それは……元々黒色だった皮膚が魔力の影響か黒紫色に変化したことだ。その見た目は非常に悪い。
なぜなら、魔力回路――血管を黒紫に染め上げた感じ――のようなものが身体のそこら中から浮き出ていて脈動しており、線ではなく点線のように繋がっている箇所を見つけることができない。それが逆に得も言えぬ不快感や恐怖感を煽ることに繋がっているのかもしれないが。
そして気のせいかもしれないが、若干若返ったようにも見える。
「ふう……。この身体になるのは久しぶり……いやオークが技を完成させた時以来かの」
「なるほど。本来の形はオーガ、お前のその引き絞られた姿が完成形なんだな」
「それは正解とは言えませんな。この技はその者が望む姿形、そして力を得るための最短距離を進む究極の技です」
オーガは懐かしむように何処か遠くを見ながら話を続ける。
「私の親はこんなものではありませんでしたよ。硬く、速く、そしてミスリル鎧を余裕気に片手で一撃破壊していましたからな」
「お前はどうなんだ?」
「私はプラチナ止まりですな。本気を出し両手に全力を込めて漸く破壊出来るぐらいですから、その異常さが分かるでしょう?」
今の俺に金属の話をされても硬度とかの判断基準がないとどれくらい凄いのかもよく分からない。聞いた俺が言うのもなんだが……。
「ですが、この技に限界はないと思っています。
常に進化しているのです。強化され、形を変え、主人に付き従う……私たちはこの技を「魔核外装」と呼んでいます」
「魔装ねぇ……。それにしても、変化し進化するのは面白いな」
「ええ、ですから私の方からもお願いしておきましょうか。魔装が進化しないうちに倒れないで下さい」
良い笑顔だな、込められてる感情は別として。
オーガは背負っている巨槌に手を伸ばし、取り出すと地面に落とし威力を示す。
「ドゴッ」という音が出て地面は周りよりも三十センチほど凹む。取り出した時に力を入れた素振りがなかったことから、単純にあの槌の重量で地面が凹んだ訳だ。
中々に恐ろしい光景だ。相当な重量の槌を片手で取り出したことにも驚きだが、本来の形である両手持ちになると威力がとんでもないことになりそうだ。
「じゃあ、やろうか」
その言葉を皮切りに激しい戦闘が始まった。初めはお互いの力を確かめ合うようにゆっくりと丁寧に、されど尋常でない速さで相手の攻撃を往なし牽制し叩き落すなどして攻撃を躱し、攻防の速度はどんどん速くなっていく。
その速度は既に通常の人間が捉えられる速度を超えており、達人をもってしても残像を引き連れ経験という名の勘で数撃防ぎきれるかどうかという凄まじいものだったりする。
「中々手応えがあるじゃねぇか」
「はっはっは、そちらも耐えますね」
「なら、俺もそろそろやる気出そうか?」
「失望しない程度でお願いしますよ」
―― 混合格闘術 展開 ――
俺は心の中でそう唱える。口にする気はないし、する余裕もない。オーガが力の発動時間なんて稼がせるものかと攻撃の威力とスピードを徐々にだが上げているからだ。
しかし、俺の技は言葉にして発動するものではない。無詠唱・無言化・簡略化即発動を基本としているので激戦をしていても問題ない。
本音を言えば、修行がそれを許さなかった。
凄く簡単に説明するならば、
・詠唱なんて論外
・技名発言=致命傷攻撃の誘発(言い切る前に中断させられる)&発言からの内容予測による完全回避
・大型魔法(擬似太陽)などはイメージに割く容量と余裕が無くすれば死ぬ一歩手前にされ、完全回復――死なない程度にゆっくり回復――させられる。
因みに、ゆっくりがどの程度なのかというと。自分の身体構造がしっかり観察できるレベルで遅いと言えば分かりやすいだろうか。それこそ、筋肉の筋が一本一本「最低限」修復されていく光景だ。
この技は魔法と格闘を混合というように、同時に操り一発の威力を上げながら手数も増やせるといった最高の思いつきだ。
しかし未だに開発中で使い勝手が悪く、燃費は最悪で扱いを間違えると自爆するレベルなのではっきり言って使いたくない。技名も開発途中だ。
「む?なんの真似だ…いきなり防御を捨てるとは」
「そんな風に見えるか?」
俺が混合格闘を発動させようと思うと、魔力鎧を解除することになる。なので勝手に防御を捨てたと判断したのだろう。
「俺の言葉を忘れるなよ」
そう言って、防御が無くなったことを即座に理解し全力で横薙ぎにされた巨槌を、その場で身体を捻り一回転して遠心力をつけた右足の踵落としで打ち落す。
普通そんな事をすれば勢いを削ぐことが出来ずに吹き飛ばされるのがオチだが、混合格闘術を使っている今は違う。
魔力を足に集約し、その魔力を三分割して付与する。一つは足を守る用に、二つ目は足に重さを加える為に土魔法でひたすらに圧縮した岩をくっ付ける。
三つ目は足と槌が接触した時点で土魔法で覆った所全体を下方向に向けて、残った魔力全てで爆発を起こすことで威力を底上げした。
側から見ると、岩のブーツを履いた某炎のストライカーみたいな感じになる。踵落としという違いはあるが……。
打ち落とされた巨槌は地面を砕きその身を半ばまで埋める。そしてその持ち主を空中へと放り出してしまう。
「ぬっ!?」
「油断したツケは大きいぞ?」
俺は右足を戻すよりも巨槌を足場にした方が速いと考え、右足を柄と頭のT字形の場所に引っ掛け身体を引き寄せ左足で頭を蹴り接近する。
俺は手に雷魔法を纏わせ、肘には加速用の爆発魔法を展開し大きく振りかぶった右手を全力で振り抜く。
「オラァ!」
「ぐっ……」
オーガは咄嗟に戻した片腕だけで俺の拳を受け止めるが……。
「吹っ飛べ!!」
「ガァアァァ……」
吹っ飛べと口にした時に爆発魔法を使用し、腕の骨を砕き完全に防ぎきれなかった拳は腹へと刺さる。
即席だが更に爆発魔法を背中で発動させ衝撃を内蔵に伝えてやると共に俺は魔力を体内へと流してやる。
オーガは地面にぶつかり一、二回バウンドして転がる。その際受け身を取ろうとしていたが拳に纏わせた雷魔法がそれを許さない。
俺はというとオーガを吹っ飛ばした際に加速した身体を地面に打ち付けそうになったが、自分の技で自爆する事なく受け身を取って勢いは殺せた。
「やっぱ即席は加減が難しいな」
「グフッ……ハァハァ……」
オーガは地面にうつ伏せ状態になって血を吐いており、ギリギリ意識を失うことだけは避けたようである。加減したとはいえ、この人の身体で出せる魔力の半分を込めたのにも関わらず耐え切るとかこいつも中々に化け物である。
俺はオーガに向かってゆっくりと歩いて近づきながら声をかける。
「やる気は出すつったろ?それに俺をその辺の雑魚と一緒にするなよ」
「ハァハァ……グッ…確かに。これは少し見誤りましたかな……ガハッ」
「どうする、まだやるか?」
「それは無理でしょうな。身体の自由は奪われ、体内にも少しではあるが違和感を感じる……何か仕込まれていますな」
これ以上動いたら貴方に殺されてしまいますよ、と笑っている。
「正しい判断だな。さて少し寝とけ、次起きたら俺に従ってもらうからな」
「分かりました。約束しましょう」
その言葉を聞いてから首筋に触れ雷魔法を使いスタンガンの要領で気絶させる。
「ぶはっ……。きっつ…キツ過ぎるわ!」
俺は大きく息を吐き四つん這いになる。そして大の字で仰向けになり空を見ながら、そのまま少し休憩するかとそんな事をぼんやりと考えた。
△▼△
「なぁ、これどうする?」
「フェリオスは待機してろって言ってたけど、彼だけが美味しい思いをするのは違うと思うんだ」
「確かにそうね。でもこの状況を変えることも、ましてやあの集団を殺して悪化させる訳にもいかないのは難しいわね」
「大人しくしているのが一番じゃないかなぁ……」
一人だけ戦闘を楽しむために場所を移し、フェリオスが森の中に消えていった方向を眺めながら子竜たちはそんなことを口にしていた。
「なぁ……俺たちってもうここにいる必要無くないか?」
「確かにそうだよなぁ。未だオークとオーガの集団に囲まれているとはいえ、目的の救助は成功してるといってもいい訳だし」
「それにさ、あんな強い奴ら引き連れて移動してくれたあの無茶苦茶野郎の為にも森から出た方が良いんじゃね?」
口々に「帰りたい」だの「逃げよう」などと言っているのは、連れてこられた中でも最弱に位置するランクDの冒険者パーティー全てだ。
ならランクCはというと……遠まわしではあるが似たようなことを仲間内で話している。ランクDとは違い話しながらも警戒を解かず、大っぴらに話してはいるがそこがワンランク違う所なのだろう。
オークやオーガは棍棒や誰かが使っていたであろう錆び付いてボロボロの様々な武器を持っている。武器は握っているものの構えようとはせず、全身を脱力しているように見えることから戦意はないと感じさせる。
それでも冒険者達を包囲しているせいで易々と逃げられるような状況ではなく、耐久力は低いが盾にはなるであろうオークを先頭にその後ろに立つ感じでオーガが控えている。
フェリオス達が森の中に消えてから数分後、森の中からありえない爆発音や地鳴りが聞こえてくる。それは時間が過ぎるにつれて激しくなり、一度止まったかのように思えたが激化して再び聞こえきた。
鳥や動物の他にも小型の魔物達が必死に逃げてくるのが、手に取るように分かる。見えてはいなくとも数多の足音が、そして砂煙を上げながらある方向から一斉に遠ざかるようにして動いているからだ。
「いや、まぁ。何とかするとは言ってたが、彼奴が場所を移してなかったと思うとゾッとするな」
「そうですよね……あはは。なんかもう聞こえちゃ駄目な音してますもんね……」
「よし、じゃあじゃん拳で決めるか」
「勝った人が一人、様子見に行くってことで文句ないわね?」
ブレイズがそう切り出し、アクアがルールを提案する。他の二人も同意しているのか頷きで返答する。
そして四人が輪を作り、真剣な面持ちで自分の運命を掛けるべき三つの形を思い浮かべながらそれぞれが拳を中央に集める。
そして声を合わせ……。
『じゃーんけーん!』
『ほい!!』
「やった……よかったわ。じゃあ私が見に行ってくるわね」
『ぐおぉおぉぉぉ……!!』
結果として言えばアクアの一人勝ちである。
アクアがパーを出し、他の子竜達は力み過ぎたのかグーを出してしまい一回で勝負がついてしまった。
因みに、相手が出す手が見えていても変更してはいけないルールも暗黙の了解で入っている。理由は簡単、動体視力が良すぎるせいでいつまで経っても「あいこ」になってしまうのである。それに気付くのに初回は百回を超えた。
そう言ってアクアは行動実行するべく自分を頂点に子竜達を使い菱形を作り、分身を生み出すと共に後ろに倒れ込むように菱形の中央に移動し足元に作った水溜りの中に消えていった。
△▼△
「あー……。どうすっかな〜」
そんな事を口にしながら、元草むらだった地面に身体を預け仰向けの大の字状態で空を仰ぎながら伸びているのはフェリオスだった。
オークとオーガを倒した後、少しの間空を見ていたが地面に転がしたままでは可哀想だと重い身体を引きずりながら二匹?を木に凭れさせた所で力付き、再び空を見ていたのだ。
そんな所へ近づく人影があった。
「何やってんのよ」
「ん〜?ああ……アクアか」
「質問に答えてくれる?」
置いて行ったことが不満で少しイライラしているようだった。
「すまん。はしゃぎ過ぎて力尽きた」
「そう。あっちの二匹は倒したみたいだけれど、どうするのかしら?」
「とりあえず全員に回復魔法掛けてくれないか?さっきから身体は痛いわ魔力は回復しにくくて怠いわで最悪なんだ」
するとさっきまでのイライラ顔がパッと花が咲いたように満面の笑みに変わる。非常に嫌な予感しかしない。
(そうなんだ……ふふふ)
「ねぇ。罰ゲームを受け入れるなら回復させてあげないこともないわよ」
俺は自然と顔が引き攣るのを感じた。
「へぇ……例えば…どんなの?」
「そうねぇ、皆んなの所へ戻るまで私の言うことを文句を言わずに聞くこと、とかかしら」
「具体的には?」
「それを教えたら面白くないじゃない」
終始笑顔で小悪魔みたいに笑うアクアは凄く魅力的で見惚れてしまう程だが、見ていることがバレると罰が重くなるので程々にしておく。
アクアはオークとオーガに小躍りしそうな足取りで近付いて行き、溢れんばかりのピンクオーラと内心で考えているだろう罰の黒いオーラを背負いながら回復魔法を掛けていく。俺の見間違えでなければ人の姿で治癒を使っていた筈なのに、竜の状態でしか使えない即時回復を使っているようにしか見えなかった。
「治してきたわよ」
「助かった。俺じゃ自然治癒力を活性化させるぐらいしか出来ないからな」
「さ、次は貴方の番よ」
アクアは俺の頭に触れ、目を閉じ集中しながら回復魔法を唱える。
「復活」
俺の身体が一瞬だけ輝き光が治ると、身体のあちこちにあった打撲や内出血の跡が消え全て元どおりになっている……筈だった。なぜか全身に残る倦怠感は消えなかったのだ。
「あの……」
「さっ、帰りましょうか」
笑顔でそう言われ強制的に黙らされる。約束を破る訳にもいかず、されるがままの状態で言われたのは普段のアクアからは想像もつかないものだった。
「フェリオス。貴方は私におんぶされなさい。それが今回の罰よ」
「それは罰なのか?」
「ええそうよ」
アクアは俺をおんぶした後、ますます機嫌が良くなりオークとオーガを水の球で包み宙に浮かべると、鼻歌を歌いながらピンクオーラ全開で全員がいる場所へと歩き始めた。
改めまして、お久しぶりです。黒犬です。
上に書いた「後悔はなく反省はしている」はプロフィールに書いたまんまです。自分のリアルを大切にし、小説は趣味の範囲にするってことです。
リアルでは7月頭から国家試験午前免除対策とテスト勉強、そしてその合間にバイトという自分にはストレスマッハのような状況でした。(バイトは立ち仕事なので主に足腰が痛い)
しかも、国試直後にテストが並んでいる死の四日間でした。
結果から言うと国試は後一歩及ばず、テストは再試を回避出来ました。これでまた国試前は余裕が無くなることが決定しました……ははは。
最後に「作者のお気に入りコーナー」を毎回書きたいと思います。(プロフィールのブクマ見れば一発)
自分とは違いプロの方なので圧倒的に面白いと思いますし、目標でもあります。
第1回目の方はこちら!
『転生したらスライムだった件』の伏瀬先生です!
自分をなろうにどハマりさせた人です。暇潰し気分を人生の一部(趣味)にまで引き上げてくれた伏瀬先生には感謝しかありません。
なろうは既に完結し、今は書籍化して漫画も出しています。自分的には早くアニメ化もしてほしいですね。
内容は一切紹介しません。紹介するより読んでもらった方が先入観なくゼロから入れますので。
第1回目終わり