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異世界トリップしたらなぜかブスと蔑まれた4






光どもとのままならない交流と自分の視力と未来に不安を感じて、ついに城を辞する日。

城の中を馬車で進み、城門を抜ける際についでとばかりに人さらい。


さらって来た彼の名前はシンと言った。

呆けている彼から無理矢理聞き出した、馬車の中の初めのやり取りだ。


今までの経緯を纏めるとこんなものなのだが、何気に人型光の御者が何事もなかったかのように馬車を走らせ続けているのがすごい。

例の人さらいシーンでも、今現在も、だ。

マジであいつ、機械じゃなかろうな?


まあいい。

とりま、光より人間が優先事項だ。


「すてきな名前ね」


目一杯の愛想を乗せて褒める!


この世界の人間にとってわたしがブスだということは十分に承知している。

陰口でも、正面切っても、城の中で叩き込まれたからな!


が、それでも笑顔を向ける。

だって、わたしは心底、彼に好感を持ってもらいたい。


ブスだけど!

主観ではブスじゃないけど!

ううん、ややこしい…悩ましい…。


それでも、どんな表情より笑顔ってのは友好を示すもんだ。


彼は城門の兵を務めていただけに立派な体格をした、短髪の青年。

けれど目尻の下がり具合が上手い事印象を柔和にしていた。


シン。

この世界で初めて知った、人の名だ。

人と人との交流はやはりこうあるべきなのだ。

つまるところ、あの愚者の巣窟にいたのは人間ではなかったという結論に行き着くわけだが、もう関わることもない人物だけにどうでもいい。


シンは聞いてもいいのかと迷った素振りを見せた後、思い切ったように口を開く。


「もしや…マレビトさまでいらっしゃいますか?」


顔を見ただけで正体がわかるとか。

どこまでブスの噂は広がっているんだ!


そして、その肩書は好きじゃない。


夕陽(ゆうひ)、と呼んでください」

「ユアヒ…ユエヒさま、ですか」


たどたどしいシンの発音に、はじめて気づいた。

どうやら互いに話している言語が違う。


翻訳機能に今さら気付いたが、これもマレビト特典、だろうか?

素直にありがたい、絶対に恩恵を外さないで欲しい。

今さら外国語とか絶対無理だからね、神さま。

切実に頼むよ!


それでもって名前は多分翻訳対象ではないのだろう。

日本語で伝えられた言葉はひどく発音しにくいようだった。


「あの、これは…つまり、私は光栄にもマレビトさまの従者として選ばれたと思ってよろしいのでしょうか?」


名前の問題は棚上げして、シンは自分の置かれた状況の確認に移ったらしい。

しかし彼の言葉を聞くに、乱暴に誘拐してきた自覚があるのだけど、マレビト権限は思ったよりも強いのだろうか。

しぶしぶ受け入れるどころか、有り難がっている様子。


それでいいのか、異世界。

自分が言うのもなんだけど、誘拐がまかり通る世の中とか怖すぎる。

勝手に勘違いしてくれるとか、ものっそい好都合だけど!


ってか、従者って。

やっぱりいるもんだよね、高貴な身分の人にはさ!

わたしマレビト、高貴な人。…多分。

が、気ままな一人旅に放り出された、これ如何に?

いや、いいんだけどね。

馬車の中がずっとミラーボールのように輝かれても困るから。


でも、きっと彼の中では不自然だったのだろう。

マレビトたるもの従者の一人もいないのはおかしい。

あれ?俺か?

という思考を辿ったと推測されるので、わたしは余計なことは言わずに是の言葉を口に乗せる。


なんでこのマレビトは正式な沙汰もなくさらうことで従者を決めたのか、という事実がどう解釈されているのか気になるところだけど、ここは我慢!


「はい。勝手を言いますが、出来れば受け入れていただきたいです」


旅は道連れ。

一人は気が滅入る。

光ばかりを相手にしていた時とは状況が違った。

人間がいるということを、わたしは知っているのだ。


ああ、人との会話に飢えているわたしにどうか御慈悲を!

神さまシンさまマレビトさま!

シンがどうか「うん」と言ってくれますように!


じっと、シンがわたしを見詰めてくる。

照れる!とか恥じらい(笑)を前面に押し出したくなるけど、たぶんこれは真面目な場面。

人を推し量る、そんなシーンだと思う。


だから出来るだけまっすぐにシンを見返した。

だいたい、ブスと罵られ続けていたわたしの顔を、目を、直視してくれる人なんてこの世界で初めてだしね。


少し、嬉しくて笑ってしまったかも。

不謹慎だと思われてないかしら?


シンがふっと力を抜いた。

わたしも知らずに詰めていた息を吐き出す。


「一つだけ、お聞かせ願えますでしょうか」

「もちろん」


はいはい、なんなりと!


「なぜ私をお選びに?マレビトさまにおかれましては、城の中で多くの者と顔を合わせた事かと存じます。そして彼らは皆、優秀ではございませんでしたか?」


なぜあなたを従者に望んだかって?

そんなの決まってるわ!


確かに城の中では多くの光を見たけどね!

光の個体識別方法なんてわたし知らないわよ!

わたしが出会った光が何匹かもわからないのに、どんなヤツだったか、なんて判断する以前の問題じゃない!


それでもって聞こえてくるのは陰口と罵り言葉だけ!

光全般嫌いになったって当たり前だと思うわ!


沈黙したわたしに心配そうにシンが声をかける。

焦れたのではなく、心配で、だ。

いい人!


「あの、マレビトさま?あ、いえユア?さま」


名前、うろ覚えだったでしょう?

とは突っ込まないでおいてあげよう。

顔が見える以上に、きっとシンは表情が出やすい性質だ。


「少し、考え事をしていただけです」


そう、シンの質問に何と答えようか、必死に考えていただけなんです。


ただ人が恋しかったとか、そんな理由でさらってきたんだよ、マジごめん。

後悔もしてないけど、それもまたごめん。


君が思うような立派なマレビトじゃなくて、本当にすいません!

光の群れたちには反発心が湧いても、この善良な人には素直にそんな風に思える。

北風と太陽の話を思い出すわー。


先ほどと反対に、今度はわたしがシンを見返す。

シンはちゃんと目を合わせてくれた。


うん、ここは正直に話そう。

いや、ちょっと待て。

その前に、王子(笑)たちを光らせているのは前に考えたように、魔力でいいのだろうか。

まずはそこから確かめるべきかな?


「シン、わたしの推測ではありますが、もしやあなたには魔力がないのでは?」


ないのならきっと光=魔力の方程式は成り立つはずだ。

だってシンには光がない。


「…やはり、そういうことだったのですね」


ん?


「ご慧眼恐れ入ります」


え?

なに?


「マレビトさま、いえ、ユアさまのご慈悲に感謝を」


ちょ、答えは?

まって、突然感謝されても訳が分からないわ!


「私はずっと足掻いておりました。きっと無理にでもこの地から離れなければ永遠に足掻き続けることでしょう」


…は、はい?

どうしていきなり悟ったような顔をしているのかしら、シンさん?


説明を求む!

ヘルプ!


「私の努力は報われない。わかっていたことです。けれども自分では足掻くことをやめられなかった…どうしても」


もしもーし?

どこを見てるの?

ねえ、そこは馬車の天井よ?


「ユアさまは見抜いておられたのですね…」


ふっとシンが自嘲めいた笑いを漏らす。

垂れ目気味なせいで柔和な印象になりがちだけど、十分にカッコいい顔がそんな表情とか!

本当にありがとうございます。


「不肖、シン・アークレスト、この名にかけて誓いを!我が身をお救いくださいましたユアさまに身命を捧げお仕え申し上げます!」


…重い。

重いよ、シン!

そんな誓い望んでない。


わたしはこう、軽い感じで話し相手が欲しいだけなんだよ。

例えば従者という肩書の、気安い友達とかさ!


「ユアさま?」


シンは光ってない。

けど、その瞳が王子並に眩しいのはどういうわけだろう。

あと、どうして脅されてるような気分になるんだろう。


「…え、ええ。これからよろしく」


口が勝手に答えた。

シンは魔法使いかもしれない。


光=魔力とか、多分間違いだわ。




そうしてわたしは初めての仲間を得た。


なにかをすごく、間違えた気が…する、のだけど…大丈夫よね?ね?






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