異世界トリップしたらなぜかブスと蔑まれた22
いやあ、最近みんなよくいなくなるな~とは思ってたのよ?
どこにって、異世界に。
どうもね、神は神でも偉い神さまからお達しがあったらしい。
ちょっと目を離した隙に、お前ら管轄の世界の人間たち好き勝手やりすぎ!
召喚しすぎいいい!
新たな異世界人召喚禁止!
って。
ちなみにこの偉い神さまがジジイ神だ。
この時にもう少し考えてればこんなことにはならなかったのに。
ちっこい神さまたちは素直に自分の世界にそれを伝えた。
で、どうなったかっていうと。
え~?じゃあ新たな異世界人じゃないヤツ召喚するわ~と。
すでに召喚された経験を持つ人間を使いまわすようになった。
つまり、わたしの周りの人たちを。
親友や、兄や、後輩や、恩師や上司を。
過労で死ぬ!と怒りながらも淡々と頑張ってた彼らを、どうしようもなくわたしは送り出してたわけだけど。
彼らは素直に従っているようなタマじゃない。
あ、ちなみに彼ら同士につながりはない。
そのくせ同じような行動ばかり取る。
異世界人召喚って性格で決めてたのかしらね?
「ふふ、もう少しよ、夕陽」
「ああ、もう少しなんだ」
親友カップルがほくそ笑んで。
「あと一回くらいは我慢かな~?」
帰ってきた兄はわたしに抱き着きながら「もういやだよ~」なんて愚痴り。
携帯は帰還報告ばかりで溢れ。
世界を救うたびに存在階級とやらを上げた彼らはついに反旗を翻した。
「自分の世界の問題は自分たちで解決しやがれ!!!」
「俺たちは都合のいい道具じゃない!」
「いい加減にしてー!!!」
ってな具合に。
ぼっこぼこにして帰ってきた。
とってもすっきりした顔をしていたのが印象的だった。
召喚は続いたけど、本当に困窮してちゃんと歓待してくれて、軽々しく召喚なんてしない世界以外はばっさりとお断りしていたらしい。
そんな彼らに、とある異世界は言った。
「お前たちの大切なものがどうなってもいいと言うのか」
きょーはくだ。
彼らは答えた。
「こんな異世界に大切なものなんて何もない」
と。
けど召喚者は悔し紛れにこんなことを言った。
「召喚術を持つ我らがお前たちの世界に干渉する術を持たないとでも?」
彼らははっとして、慌てて地球に帰還した。
もちろん脅迫なんてただのハッタリだ。
神でもなく、神に近くなるほど世界を救い続けた「彼ら」でもない、ただ召喚に頼る程度の者が時空を超えられるわけないでしょう?
でも、タイミングが悪かった。
わたしだ。
ちょうど事故った。
…マジごめん。
ほんと偶然なんだよ!
焦ったのは有象無象の神さまたちだ。
阿鼻叫喚のムンクの叫び状態だったとか。
復讐必至だと思ったわけよ。
世界存在ごと潰される!と。
彼らが関わってきた世界は百じゃ足りない。
それを失うことを考えれば、わたしをどうにか生かすしか手段はない。
でもわたしは地球では死んでしまったからどうにもならない。
生き返る、というのは反則なんだそうだ。
ないない尽くしだけど方法がないわけじゃなかった。
抜け道は異世界。
わたしは懇願されて異世界で復活した。
魂の移動は神の管轄だとかで、ルールに則っていればわりに自由自在らしい。
そこから地球へ渡ればいい、と言い渡された。
異世界から地球へ帰るのは問題ないみたいだ。
まあ、今までも散々召喚とかしてたから、鑑みるに世界から世界への移動制限はそんなにないんだろう。
そういうわけで元々一般人の自分じゃ世界を渡れないので、渡れる「彼ら」のお迎えを待ってる。
神さまに連れて行ってもらえばいいだろうと思うかもしれないけど、肉体がある以上あくまで人間でやる必要があるんだって。
我が友人たちも異世界人に召喚されていたんであって、神さまに世界を救えと引っ張ってこられたわけじゃないもんな。
でもさー、今考えても神さまたちの反応はちょっと大げさだと思う。
さすがに異世界人が全員悪い人なわけじゃないじゃない?
そんなこと「彼ら」だって承知してる。
いくら脅してきた悪人がいたとしても、無理に働かされていたことがあったとしても。
それをわたし一人が死んだからって世界ごと壊す理由にはならない。
「なる、なるよ!夕陽どの、少しは自覚してくれ!」
とかお爺ちゃんが説得するから、死にたいわけでもないわたしは神さまの勧誘に乗って現在ここにいるわけだ。
神さま曰く、彼らは世界を壊す暇などなく、どこぞに飛ばされたわたしの魂を頑張って探してるとか。
無理すんなよ、みんな。
わたしのんびり待ってるから。
特に不自由もございませんので、たまに、いやたくさん休むといいよ!
で、話を戻そう。
時空裂の話だ。
あれを開いている意味はわかった。
「でも、亀裂が広がると世界が消えるのでしょう?」
「であるな」
…であるな?
え、「であるな」?
聞き間違いかしら?
わんもあぷりーず。
「世界が一つくらいなくなっても構わんだろう」
ちょ、おま!
「むしろ時空裂が一番広がる時、つまり世界が消えるときが一番のチャンスだぞ。それだけ外界からそなたの存在が見つけやすくなる」
お茶目にウィンクなんぞくれた。
いや、わたしそんなのに付き合ってるどころじゃないんで。
ってか、なにその犠牲論。
その時に見つけてもらわないと、わたしも世界と一緒に消えますよね?
「なあに、またそなたの魂を回収して他の世界に運べばいいだけだ。そこでまた時空裂を作ればいい」
何度でも試そう。
「彼ら」が夕陽どのを見つけるまで。
と、神さまが上機嫌に言った。
…ぎょえ。
神、こわい。
「わしはアレらの方が恐い」
だ!か!ら!心読むなし!
「世界が何百と消えるより、一つ二つの犠牲で済むのだ、お得ではないかね?」
そんな損得の話なんですか、これ?
犠牲規模がとんでもなくてヤバい。
わたしの手におえる話じゃなくなってる!
あれぇ?おかしいな。
神さまに問題解決してもらおうと思ったら、問題が大きくなって戻ってきたぞ?
は、はははは。
…大体、神さまの中でのわたしの存在価値がおかしいんだよ!
世界とわたしで、明らかにわたしに天秤が傾いてるよね、これ!!
おかしいよね、おかしいでしょ!
おかしいって言ってよー!
願い空しく神さまはにこにこ笑ってる。
こわい。
とりあえず神さまはわたしには理解できない超絶理論で動いてるって事だけはわかった。
だから神さまなのかもしれない。
「彼ら」もよくこんなワケわかんないのとやり合ってるわね。
いや、むしろどうやったらこんなのに恐れられるのよ。
思考散漫。
あかん、落ち着け自分。
とにかく言いたい。
これだけは言いたい。
たった一つの疑問を叫びたい。
どうしてこうなったの!?
望んでない、わたし欠片も望んでない!!
「…ユ、ユアさま」
聞き知った声にぞわっと背筋を何かが駆け抜けた。
この世界の人の声。
神さまに、崩壊を定められた世界の。
後ろを振り向くとみんながわたしを見てる。
シェリアさまは穏やかに微笑み、サイラスさんはいつも通り。
シンは拳を強く握り込み、ユタは困った顔で、キリは寂しそうだった。
初めて目があった宮廷魔道士さんの目は絶望に濡れていた。
他の人間に神さまの声は聞こえていたんだろうか。
聞こえてないといいなぁ~…。
「おい、いい加減教えろ!一体何の話をしてるんだ」
宮廷魔道士さんに食ってかかってる王子。
なんだか今はあんたの存在に癒される。
こんなことを思う日が来るとは思わなかったわ…。
けど王子の言葉なんて完全無視して、顔を上げていた宮廷魔道士さんはわたしからやっと目を逸らした。
ぐっと唇を引き結んで、神さまに深く頭を垂れる。
恭順の意、ってヤツだろう。
深々と頭を下げた魔道士さんは王子の疑問にやっと答えた。
神さまの言葉を伝える。
「神は、仰せだ。この世界は、彼女のためにある、と」
その言葉は。
それは。
この世界の終わりを、認めるってことだ。
…って、え!?
そんな簡単に諦めんのおおおー!!!?
2017年、あけましておめでとうございます!