異世界トリップしたらなぜかブスと蔑まれた21
なぜか王様が膝をついて頭を下げてる。
わたしに向かって。
どゆこと?
ねえ、どういうことなの!?
助けを求めてシンたちを見たら、どこか満足そうに微笑まれた。
え、助けてよ。
シェリアさまとサイラスさんを見たら深く頷かれた。
え、助けてよ。
大広間の柱の影を見る。
ちらっと見えた影はわたしの視線を受けて慌てて引っ込んだ。
「え、ねえ!助けてよ!」
思わず叫んだ。
見つかったと知った影はすごすごと姿を現す。
ギリシア神話に出て来る神さまみたいな恰好をしたお爺さん。
見覚えはあります。
お久しぶりです。
「ってか、聞いてたのと全然話が違うじゃない!神さま!?」
姿を見た途端に話したいことがどっと溢れてきた。
もう言いたいことがあり過ぎて口がぱくぱく無駄に動くだけで肝心の言葉が紡げない。
最初、この世界に落ちてきたときは混乱で記憶がぶっ飛んでたけど、そのうちゆっくりと思い出したこの世界に来た経緯を端的に言おう。
この爺ちゃんに懇願された。
つまりこの爺ちゃんイコール神さま。
ドゥーユーアンダスターン?
ええ~異世界?と嫌そうにしてたらそれはもう色々なサービスを付け加えてくれた。
次から次に繰り出される特典。
わたしが「わかったから」と止める隙もない怒涛のトーク。
あれは何としてでも商品を売りつけたいセールスマンみたいだった…。
つまりわたしの異世界転移は至れり尽くせりのはずだったのだ。
―はず、だった。
けど、この国じゃハズレ扱いだし!ブスとか罵られるし!
当時は神さまとの約束覚えてなかったからのほほんと聞き流してたけど、酷いじゃない!これじゃ異世界転移詐欺よ!
と、心の中で文句を言ってたら、神さまが揉み手をしながら謙ってきた。
「久しいの、夕陽どの。して息災か?生活の方は不便はないか?このたびわしを呼んだのはどんな訳かの?」
前回は勝手に心を読まれてキモい思いをしたのでやめろと言った覚えがあるけど、律儀に守ってくれているらしい。
てか、生活の方に不便はないか?って聞かれた。
生活環境は整えておくって言ってたもんね。
でも、その生活環境、あんまり居心地よくなくてさっさとお暇したんですけど~?
あれでわたしがのびのび暮らせるとでも?
ちらと王様を見たら床にのめり込む勢いで頭を下げてた(多分)。
王子を見たら呆然としてた(多分)。
宮廷魔道士殿…は光ってて見えない。
相変わらず眩しいと目を細めたら、神さまが首を傾げて、ああ、と合点した顔を見せた。
次の瞬間には無駄に光量であふれていた広間が暗くなった。
おお、宮廷魔道士の姿が若干見える。
王子も、なんとなく美形なんじゃないかってくらいはわかる。
「すまんの、この世界の人間はあまりエコではないでなぁ」
お爺ちゃんが髭を撫でながらむむと唸った。
つまり無駄が多い、と。
ぴっかぴかしてたのはやはりダダ漏れしてた魔力の模様。
「そなたの世界ほど少ない資源を上手く利用しておった所はない」
へえ、ほお。
褒められてなんか嬉しかったり。
それにしてはシェリアさまもサイラスさんも光ってないけど、あれは個人的な制御の問題なのかしら。
改めて少しだけ見やすくなったこの国の人々を見る。
王様がぶつぶつと呟いていた。
「なんという事だ、神のご降臨とは、いかにすればよいのだ」
このお爺ちゃんを前にして神様って認識はあるみたいだけど、見た目ただの老人なのに、よくそんなに畏怖を抱けるね?
「おい、神は何と仰っているのだ」
王子は小声で隣の宮廷魔道士にひそひそやってる。
あれ?みんな、神さまの声聞こえてないの?
宮廷魔道士はダラッダラ汗を流してた。
床に水たまりを作る勢いで。
…どうしたお前。
「してそなたら、我が客人を十分に歓待しておるか?まさか不自由はさせておらんな?」
様子のおかしい宮廷魔道士に神さまが話しかけた。
そういえば、異世界はどんなところだって聞いた時、ちょうど異世界人が現れる予言がある世界があるからそこにわたしを捻じ込むってなことを言ってたな。
ちゃんと迎える準備ができた場所で、ちゃんと敬われる立場として異世界人を呼ぶ予定だったから、今から別の世界で自分が直接声を掛けて慌てさせるよりよほど万全の体制が整っている、と。
ああ、つまり、神さまは当然わたしが自分の予定通りちやほやされて過ごしてると思ってるわけか。
「…は、それは、」
神さまが話しかけたから声が聞こえたのか、それとも宮廷魔道士は初めから神さまの声が聞こえていたのかわからないけど、答える彼の喉は小鳥よりか細い。
初めて見えた宮廷魔道士の長い黒髪は、下げた頭から床に散らばってとてもきれいだ。
顔は下を向いてるから見えない。
日本人としては大変親近感を抱く色合いだ。
ん~。
少し考えて、確かに不快な思いはしたけど、許せないほどじゃないから窮地に陥っている宮廷魔道士に助け舟を出すことにする。
「快適に過ごさせてもらってますよ、神さま」
「…ふむ、さようか」
嘘じゃない。
森の中でののんびりした暮らしはとっても快適。
今更邪魔されたくない。
神さまは今度はシェリアさまとサイラスさんに目を向けた。
二人は片膝を床について、背筋を伸ばし、胸に手を当てて頭だけを恭しく下げていた。
見た目がとっても荘厳。
神さまよりよほど威厳がある。
「わかっておるな?」
「「は!」」
…なにを?
ってか、なにが?
まあいいか。
あの二人も神さまにお呼ばれしたんだし、何か約束事の一つでもあるのかもしれない。
「で、我が客人よ。何用でわしを呼び出したのかね?」
おおっと、忘れてた。
ええと、用事、用事。
ん?んん?あれ、これって…。
ピンチだったから呼び出したんですけど、なんかすべて解決しました!
ってか?
言えるかー!!
いや、だって神さまですよ、神さま。
お爺ちゃんにしか見えないけど。
わたしにとっては、って話でさ。
この一斉に頭を下げてる人たちにとってはすごーく偉い人なわけじゃない?
それを用もなく呼び出したとか言ったら……おお、こわ!
多分針の筵ってヤツだね!
体験したくないよ、絶対。
よ、用事、なにか、適当にでっち上げよう!
そうだ、そうしよう!
「あ~、えー…」
「夕陽どの?」
やべえ、何も思いつかない。
生活は満たされてるし!
シンたちいるから寂しくないし!
シェリアさんとサイラスさんは友達と言えなくもないし!
魔法便利だし!
は!
「あ、あの空の亀裂、直してくれません?」
わたしは窓から空を指差す。
よ、よかった!
ちょうどいい課題があったよ!
「亀裂?ああ、時空裂か」
「放っておくと世界が裏返ると聞きました。シェリアさまたちだけでは塞げないそうで」
「それはそうであろう」
うむうむとお爺ちゃんが頷いた。
は?
「わしが広げておるからな」
は?
え?
シェリアさまを見る。
首をぶんぶんと振られた。
サイラスさんを見る。
目配せされた。
お、おっけー、聞きます。
なんでわたしたちが塞ごうとしてるものを広げてんだよ、てめえ!
「どういうことです?」
「そう怒るな、そなたのためなのだ」
わっつ?
「わたし、のため?ですか?」
「ああ、世界を完全に閉じてはさすがのアレらも夕陽どのを探すのは困難だろう」
アレら。
彼ら、ですね。
神さまがぶるった。
ちょっと顔色も悪いかもしれない。
いや、そんなに怖くないよ?
すこーしぶっ飛んでるだけで、あの人たちも常識ある人間だよ?
「そなたくらいであろう、アレらをそう言えるのは」
あ、心読むなし!
読んでおらんからな、と被された。
やっぱり読んでるじゃん!
「まあ、よい。とにかく完全に閉じてしまっては彼らが夕陽どのを探す手段がなくなるのだ。そなたの帰りも遅くなる」
お出迎え待ちの身としては何とも言い難い。
「ユアさま?」
シンたちが驚愕した顔を向けてる。
ええと、うん、言ってなかったけど、わたし一時滞在なんだよね。
よし、そもそもの話をしよう。
わたしが異世界転移なんぞを体験する羽目になった経緯を。
わたしは死ぬはずだったのだ。
だって普通の人間だし。
事故ったら、かなりの確率で死ぬでしょう?
そういうことだ。
問題はわたしの周り。
一つだけ、わたしに人と違う所があるなら。
特別なところがあるなら。
あえてチートというなら。
わたしは、まあ、つまり、人脈チートというヤツなのだろう。