異世界トリップしたらなぜかブスと蔑まれた19
五人の美形結界で回りが見えん。
一体何が起こってるんだ。
彼らの反応から、エルスティアがなにやら取り返しのつかない失態を演じたのはわかるけども!
そもそも何をしたの?
知りたい。
野次馬根性で好奇心が疼くぞ~。
座ったまま首を伸ばして、辺りを窺おうと隙間を探す。
10本の長い脚がとっても邪魔!
「ユアさまはそこで動かぬよう」
うげ、後ろに目でもついてるんですか!
サイラスさんに釘を刺された。
「ここにいれば安全です」
シェリアさまがサイラスさんの言葉にフォローを入れる。
言葉足らずの旦那さんのフォローは完璧ですね。
邪魔になるから動くなと言われているのかと思ったら、ここが安全地帯だから動くなってことだったみたい。
どうやらわたしが役立たずなのは十分ご理解頂けているようだ。
この場所にいる限りは守ってくれるつもりはあるらしい。
私を中心に五方向に戦闘態勢を取る五人。
てか、ねえ?
一言いいかしら。
…このフォーメーション、わたしが重要人物みたいじゃない?
あ、いや、そうじゃないことはわかってる!
わたしが一番わかってるから、単に見た目の話よ!?
360度に対応するために互いに背を預け合ってる状況。
で、そこに放り込まれる非戦闘民族かつ非敵対勢力、つまりはわたし。
残された居場所は一つ。
彼らの真ん中。
消去法でこの形になってるってことはわかってるけどさ。
背中を見せても大丈夫と思われてるのは、信用なのか戦闘能力の低さゆえなのか。
我が同居人たちはちゃんとわたしを気にしてくれてる。
…こいつ邪魔だなとか思われてないよね。
守りながら戦うとか、マジお荷物!とか。
あ、でも、言わせてもらうなら、そもそも戦わなきゃいいと思うんだよね!
「貴様らは許されざるべき行いをした」
静かな声でシンが言った。
ふぉー!
先制を喫された。
避けられぬ戦いだと言外に言われましたー!
あまりにもタイミングよく答えが返ってきたので心の声が漏れてたのかと口を押えてしまった。
口には出てないはず。
ならば読心術か。
こわいよ、シンさん。
ちらと窺うようにシンの後ろ姿を見たらちょうど視線を動かしたシンと目が合った。
あわわわっわぁ!
バリア!
魔法攻撃を防ぐほどの威力はない、セロファンのような脆いバリアを纏う。
少し離れれば気付かないくらいの、あっても意味を持たない程度のそれ。
勝手に心は読まないでください。
薄い膜だけど、拒否の心は伝わりましたでしょうか。
わたしが生まれ育った世界ではですね、プライバシーというものが保護されてましてね。
ええと、これはあれです、個人情報保護シールもしくは目隠しラベルみたいなものです。
ちょっとシンが目を見張った。
気まずそうな顔をしたのをわたしは見逃さない!
本気で心を読んでたとまでは思わないけど、やっぱりなんかやましいことしてたな!?
可能性としては魔力の揺れでも見られてたか。
どっちにしてもそんなもので感情を見透かされるのは恥ずかしいからやめて!
魔力が揺れないように張った膜の中に閉じ込める。
これで誰にもわかるまい。
どやあ!
とシンの方に目を向けたらシンはもうわたしを見てなんていなかった。
……自意識過剰、はずかしい。
それなりに長く一緒にいるシンには慕われてる自覚があったんだけど、なにやら彼にはわたしより優先しなければならないことがあるらしい。
すなわち戦闘。
ひいてはエルスティアが犯した罪とやら。
なんだろ、神に弓を引いたとかかな。
シンは意外に信心深いしね、有り得るな。
シェリアさまとサイラスさんは元から神さまの熱狂的なファンだし。
ユタもシンと同様。
キリは…超現実的なはずなんだけど、この世界の人間である限りはわたしよりよっぽど心に根付いているものがあるんだろう。
う~ん、仲間外れ。
でもシンたちのすごい所はわたしにそれを強要しないってことだよね。
それなら全然お付き合いを続けていけますよ。
つまり、エルスティアと彼らと、どっちに心情が傾くかと言われたらもう明らか。
断然シンたちの味方!
王様が玉座から立ち上がってびしっとわたしを指した。
いや、見えないから「多分」、なのだけど。
見えてもどうせ光の塊なのだけど。
「我が国のマレビトでありながら祖国に弓引くとは、神に弓引く行為に等しいと心得よ!」
ほら、勘違いしてる人いるじゃん。
絶対このフォーメーションが悪い。
おーい、わたし無関係ですよ~!
ま、言わないけどさ。
これ以上目立つようなことはしたくない。
…てか、いつからここがわたしの祖国になったよ?
「貴様がすべての元凶であったのだな!この俺を騙し、目の届かぬ所へ逃れ、密かに他国のマレビトを取り込み、世界を恐怖で染め上げた。マレビトだからと、その心根の善良さを疑わなかった自分が返す返す口惜しい!」
王子、事実を捻じ曲げすぎ。
言い分を聞いてると全部わたしが悪いらしいぜ?
おーこりゃこりゃ失礼(笑)
…悲劇の主人公か、お前は。
ブスだブスだと人を蔑んでおいてよく言うわ~。
わたしが比較的善良な人間だということは認めるけど、その善良なわたしにお前が何を返してきたのか忘れたとは言わさん!
悲劇の主人公は大げさに嘆いた末に、はっと顔を上げた。
「いや、もしやお前、本物のマレビトを殺し、自らが入れ替わったか…?…なんということを…怖ろしい。人間のすることではない」
をい。
おいおいおいー!
なんっじゃそりゃ!
あくまで自分は被害者だと言い張るか!
被害者だと主張するためにそこまで言うか!
だめだ、こいつ、はやく何とかしないと!
―なんとかしないと本当にわたしが妄想に取り込まれるぅ!
アホだけど権力があるだけに厄介!
こいつが黒を白だと言ったら白になることも多かろう。
だって、わたし本当に本物のマレビトだって証拠ないし!
「神の使いを弑した大逆者よ、悪は滅びる定めぞ」
え、これ、けっこうピンチ?
「聞いたかマレビト殿!そやつはあなた方の仲間ではない、むしろ仲間を殺した大罪人。あなた方がその力を向けるべきはわれらではなく―」
―わたしだって?
シェリアさまとサイラスさんが離れたら一気に形勢不利やんけ!
いや、それよりもね。
いい解決方法思いついたよ!
そう、その名はキレたもん勝ち。
特に普段怒らないわたしだからこそ、ここぞという時に効く。
社会に出てから一度だけ行使したこの解決法。
その時は周りが右往左往した末に必死にわたしを宥めてくるという結果に終わった。
普段は無関心な同僚も、冷たい上司も、やり過ぎに気付かなかった先輩も、みんなして「ごめんねー、大変だったよねー、負担掛け過ぎたよねー」と温厚なわたしがキレるほどの事態だったのだと顧みてくれた模様。
あの結果をもう一度!
よし!
おこっちゃうよ、わたし怒るからね?
局地的大地震でも起こしてやろうかと思っていたけど、それは結局不発に終わった。
先を越された。
さっきから挫かれすぎて心が折れそう。
「神の御使いとして、神に代わり判決を言い渡そう」
サイラスさんが重々しく口を開く。
どうもサイラスさんの言葉にはわたしの魔法行使を阻害する要素がある。
「有罪」
シェリアさまが言った。
同じマレビトだからか、シェリアさまの声には集めた魔力を散らしてしまう効果がある。
散らしてしまう、というよりは集める気にならなくなると言った方がいいかも?
「有罪」
そんなことを考えているとシンが続いた。
「有罪」
ユタも続く。
「有罪」
キリが。
「有罪」
最後にサイラスさん。
ちょお、わたしの話じゃないよね!?
神を謀ったりしてないからね!?
「ここに大義名分は成った。」
「これより断罪の儀を執り行う」
マレビト二人が厳かに告げた。
思わず身を竦めて厚い結界を張り巡らせる。
防衛本能ですぅー!
「輪廻の輪から解き放とう、迷える者が最早迷わず済むように」
「マ、マレビトさま!!?」
「どうぞ目を覚ましてくださいませ!」
お?
慄いてるのがわたしだけじゃない。
お?
ってことは断罪されるのわたしじゃない?
「マレビトさまともあろうものがそのような俗物に謀られるとは何事です!」
宮廷魔道士殿の叱咤が聞こえた。
強い、サイラスさんとシェリアさまにそんな口を利けるとか尊敬の域。
「まだ言うか」
ユタの低い声が怖ろしい。
「ユアさまは正真正銘のマレビト。真実を見抜けぬ愚か者どもめ、生き恥をさらすよりは死んだ方がマシだろう」
…死?
あ、やっぱり断罪ってそういう話?
重い!
重いよ、異世界!
神への侮辱罪って話よね!?
エルスティアの人からしたら、国を守らないマレビトなんていねーんだからあいつ偽物じゃね?神の使いを語るとかマジあり得ない。
で、サイラスさんたちからしたら、本物のマレビトを偽物と言い張るとは自分たちや神を侮辱したに等しい!と。
うっかり絡んじゃったんですけどー。
えー、どうすればいいの?
これ、このまま進むととっても寝覚めが悪いことになる予感。
だってわたしのせいみたいじゃない。
自分のせいで誰かが死ぬとか、無理。
マジ無理。
それか知らない所でやってくれればよかったのに!
もうわたし完全なる当事者じゃん!
くっそーそれもこれも辺境から強制転移させたヤツが悪い。
どこの誰だよ。
許さん。
とりあえず事態を穏便な方向に導かねば。
それか死ぬにしても理由がわたし以外でお願いします。
さて、なんて声をかけよう。
こんなシリアスなシーンで「あのー、こわいんでやめてくれません?」とか言えない。
なら…そうね。
―神頼みでもしましょうか。
祈る様に手を組んで。
「神さま、神さま。」
呼びかける。
なんか、どうでもいいから、どうにかしてください。
面倒なことに巻き込まれてます。
お前のせいだぞ、こら。
のんびり暮らしてていいって言ったのに。
その環境整備も自分でやらなきゃいけないとか聞いてない。
ブスと罵られるくらいは我慢してもいいけど、これはダメ。
だから―、
いい加減出てこい、このクソジジイ!
どこかの空間で「ええ!?」とびっくり仰天して慌てて走り出すジジイの姿を幻視する。
ジジイだけあって動きが遅い。
若返れ!
そうこうしてる内に一触即発の広間の緊張は頂点に達していた。
間に合うか?
ジジイを叱咤しながらちらと目を開ける。
美形結界の間で光の塊が蠢いていた。
相変わらず何一つ状況がわからん。
けど、光が収束する様は見える。
―まあ、あれくらいなら大丈夫かな。
サイラスさんも、シェリアさまも。
キリは魔眼持ちだし。
…あれ?
って、シンとユタ!
まってまって、タンマ!
その人たち魔力ないから!
ユタ、はもしかしたら大丈夫なのかもしれない。
いや、わからないけど。
なんかちょっと人とは違う力があるとか、でもダメかもしれない。
シンに至ってはなんか特別とか聞いたことない。
とにかく、その二人はダメー!
光の塊から収縮された何かが飛び出し、わたしは慌てて事態に気付いて立ち上がる。
火事場の馬鹿力ってスゴイと思う。
人生で一番素早く動けたんじゃないかな。
うーん、こんだけ動けてたら生まれ故郷でうっかり事故ることもなかったかも。
美形結界の隙間に体を捻じ込んで結界から飛び出す。
気が付いた時には目の前で光が重い衝撃と共に飛散した。
「なに!?」
「ユアさま!」
…いたいっす。