異世界トリップしたらなぜかブスと蔑まれた18
気付いたら知らない場所にいた。
―わけでもない。
うん、見覚えは、うっすらとだけどあるかも。
このピッカピカの床。
「ユアさま!?」
「なぜここに!」
聞き知った声がわたしを呼んだが、先に言わせてもらいたい。
痛い!
スライディングの要領で床を滑ったんですけど!?
膝と肘が摩擦熱で焦げたー!
…ごほん。
まあ、痛いのはともかく。
見知った光だらけの中で諦めを覚えつつ、なにが起きたのかを順を追って思い出してみよう。
そう、まずは我が家から例の戦闘民族が帰還するシーンから。
マレビト二人は意気投合して別れの挨拶をしていた。
「シェリア、次はエルスティアの王宮で」
「ええ、必ずやまたお会いしましょう」
…ラブラブですね。
いいですね。
ひとり身にこの空気はツラいわ~。
あっついわ~。
しっし!
できれば二度と会いたくない。
ああ、でも頼まれごとがあったんだった。
次元の裂け目を塞ぐとかいう、大仕事。
はやく終わらせたいんだけど、…その様子だと世界征服の方が優先度が高いみたいですから?
ええ、大人しく待ちますとも。
お声がかかるのを待ってますからなるべく早くしてください。
心の中の声とは裏腹に、出た声はおそるおそる。
「…あのう、次に来るときは玄関から来てくださいね?」
また突然部屋に出現されたらかなわないからそう伝える。
良い所の出らしいけど、二人ともちゃんとした訪問の手順知ってる?
「我々に再訪の許可を…?」
「なんと寛大な」
一応無礼な訪問だったという自覚はあったらしい。
よかった、基本的に話は通じる。
ひとしきり感激を言葉にされ、辟易していたところで彼らは退場した。
…帰る時も玄関からっていえばよかった。
シュンって突然消えたよ、シュンって。
「…嵐のような人たちだったわね」
「ユアさまには負けますよ」
おい、どういう意味だ、シン、こら。
彼らの電撃訪問のあとは割と穏やかな日々が続いた。
取り戻したというべきかな。
庭の畑を耕し、家を掃除し、シンとユタの獲ってきた食材をキリが美味しく調理して、舌鼓を打つ。
なんてことはない日常が過ぎる。
あんな個性の強い人たちに会った後だと、この平穏がいかに得難いものかがよくわかるね。
まあ、平穏を甘受しているのは当然わたしたちだけのようだけども。
あの二人のせいで世界情勢は大変なことになってるらしい。
破竹の勢いで侵攻を続ける二国はついにこの国に乗り込もうかという所。
あ~らら、王子様(笑)、大変ねえ。
早めに頭下げた方がいいと忠告くらいはするべきかしら?
あの程度の光っぷりじゃ二人には絶対に勝てないだろうし。
いやいや、どうせ聞かないか。
わたしのスタンスは変わらず、見ざる聞かざる。
大丈夫、不干渉の密約があるから、ここは安全だ!
……ん?たぶんそんな話だったわよね?
あの二人のインパクトのせいで大概のやり取りを忘れてしまったけど、確かそんな約束をした気がする。
わたしがするべきことは外の大嵐をやり過ごし、果報を待つことのみ。
と、思ってた時期がわたしにもありました。
異変は本当についさっき。
いつも通り、畑の様子でも見ようかと思ってたら何か違和感を覚えて。
「ん?」
と、声に出せたのはそこまで。
次の瞬間には思いっくそ馬鹿力で引っ張られた。
そして冒頭に戻る。
気が付いたらここにいた。
いや、本当にそれしか言いようがない。
ってか、これ、強制転移?
ああ~、そういえば城を出るときに付いてたな。
一回限りの呪いの魔法。
のぞき見機能がないからまあいっか、なんて放置してたけど。
ここで使ってくるか…。
うん、まあ、使うならここ以外ない場面だけど。
床に転がってるから全体図は見えない。
でもわたしの傍にあるのは多分玉座。
玉座があるなら城の大広間だろう。
どこのって、人光だらけのエルスティアだ。
そしてさっきの声は、決して同じ人種だと混同されたくない戦闘民族マレビト二人。
察しました。
これ、国の終わりのシーンですね?
喉元に剣を突きつけられて降伏を迫られてる的な。
そしてわたしは追い詰められてついに発動した最終兵器!みたいなカンジ?
こんなギリギリに呼び出されたのは、まずもって役立たずだと思われていたからに違いない。
こんなヤツ呼んでも何も事態は好転しない、と。
そのまま忘れてくれてればよかったのに。
国の命運が左右されるような大事な場面に間違っても呼ばないでください。
わたしは無関係でいたい。
「最後くらい役に立ってみせろ!のたれ死ぬところを助けてやった恩を忘れたか!」
見ざる聞かざる。
あと、目を瞑っててもやっぱり若干眩しい。
「おい、貴様!いつまで転がってる!」
いや、今の強引な召喚のせいで貴重なマレビトは死んだんだよ~。
そういうことにしておいて。
死んだふりをしてたら慌てたように駆けよる軽い足音。
それからドスの利いた低い声。
「ユアさま、ご無事ですか」
「お前たち、自分が何をしたのか分かっているのか!」
何したんですかね?
わたしを辺境から召喚したくらいかな。
おっと死んだふり死んだふり。
おや?
後方で魔力が歪む気配がした。
わたしが飛び出てきた場所だね。
「ユアさま!」
「な、なんてことを!」
「…わが祖国ながら何と愚かな」
息を飲んだような驚愕を宿したその声。
シンとキリとユタ!
おい、どうやって来た。
あなたたち辺境、ここ王城。
いやそんなのはどうでもいいか。
それよりこれはマズいことになった。
多分死んだふりが彼らには通じない。
「一体なにもの!回廊を無理矢理開いて渡ってくるなど!?どこの呪術使いか!」
声と共に出現した光。
うを、まぶしいー!
この光り方は忘れもせぬ我が天敵、宮廷魔道士殿ではないか。
死んだふりをしてたら何もできない!
動けないと光への対処に限界が!
仕方ない、気絶してていま目が覚めたことにしよう。
「ユアさま…」
ゆっくりと開いた目の前にはわたしを助け起こそうとするシェリアさまと般若のような顔をしているキリ。
こわい、キリ、こわい。
なんか変な音が顎から聞こえてるんですが、キリさん、そんなに噛みしめると歯が削れますよー。
床から体を起こして見回したら、わたしを囲むようにサイラスさんとシンとユタが美形結界を形成していた。
もうそのイケメンのみが発生することのできるキラキラオーラで魔法を使わなくても物理的に攻撃防げるんじゃないですかね。
「き、貴様、裏切っていたのか!他国のマレビトと通じているとは!まさか最初からそのつもりで!?」
この声には聞き覚えがあるぞ。
王子(笑)だな?
「ユアさま、お体に傷が。おいたわしい、いま治します」
わあ、シェリアさまマジ万能。
さらっと使われた魔法で痛みはどっかに飛んで行った。
でも、後ろで舞台を演じてるような彼、放っておいていいの?
あ、でもその前にお礼お礼。
「ありがとう」
にっこりと笑えば、何を心配していたのかシェリアさまがほっと安堵のため息を吐いた。
あわわわわ。
「本当に大丈夫ですよ!?」
死んだふりなんてしててごめんなさい。
良い訳を言わせてもらえれば、一回会ったくらいのわたしをそんなに心配してくれるとは思ってもいなかったんです!
「よかった…」
ほころぶ様に笑うシェリアさま。
戦闘民族とか言ってマジすまん。
「ユアさまがご無事とわかれば…」
ちら、とキリと目を合わせて互いに頷く。
ばっと立ち上がったシェリアさまとキリ。
ど、どした?
「…お前たち、命も取らず自治くらいは許してやろうと思っていましたが。この所業、我慢ならないわ」
「―死んで償うべき」
ぎゃあ!
前言撤回!
戦闘民族は戦闘民族だった!
しかもキリが仲間になった!
まって、今の一瞬に何があったの!?
彼らが犯した所業って何!?
償うってなにを!?
わたしの知らない所でどうやら何かが起きていた模様…。
あの、エルスティアの人たちもさ、せめてわたしが見てるところでやってくれないかなぁ?
知らないと対処のしようもないというか。
「殲滅だ」
「己の罪の深さを知るがいい」
「許さん」
あ、あれ?
あなたたちもですか?
広間にカーンと、ゴングの音が鳴った気がした。
ねえ、ホント、彼らをこんなに怒らせるとか、君たち一体何したの?