異世界トリップしたらなぜかブスと蔑まれた16
マレビトさま方に頭を下げられて、それをうちの子たちが得意げな顔をしてみてる。
ナニコレ。
まじカオス。
あのね、わたしちょっとお怒りなんですよ?
振り回されるのって好きじゃない。
いや、違うか。
多分、置いてきぼりを食らってるこの状況が気に食わないだけ。
この『突っ立ってるだけ』感が何とも言えない。
周りの変化だけが嵐みたい。
さしずめわたしは台風の目ってところかしら。
…そう表現すると重要人物みたいだわね。
やめやめ!
取りあえずこのわけのわからない状況を打開しよう!
まずは、三兄妹!
君たちだよ、君たち!
「シン、ユタ、キリ。下がって」
間に立つんじゃない。
見えんがな。
「っは!」
そんな気合入った返事はいらん。
騎士か、お前ら。
ってか、いつの間に身に着けたのかしら、シンクロ能力。
綺麗に揃って同じ動きで返してきた。
わたしの傍まで下がってきた三人、なぜか後ろに控えてはくれない。
ま、まあいいわ。
一番の問題はこっちだもの。
「どうぞ、顔を上げてください」
大体、なんで頭下げてるの?
「畏れ多いことにございます」
拒否られた!
なぜだ!
ん?んん?
あれ、わかったかも。
そゆことね。
今日はよくわからない愛の伝道師の訪問があったから化粧してるんだけどなー。
少しはマシになってるはずなんだけど。
「…わたしの顔を見たくない、と?」
そういうことですね。
いいですよ、別に傷ついちゃいない…いや、うそです。
光どもならともかく、人間相手はツラい!
こんな世界に誰がした!
神か!
恨むぞ、このやろう!
マレビトさまは二人とも姿形がはっきりと見える。
やっぱり光って魔力なんだろうね。
放出し放題のタダビトとは違って、ちゃんと収めることが出来るのがマレビトなのかしら?
だけどそんなマレビトさまでも光が漏れ出ることはある。
「そ、そのようなことはございません!」
…ど、どうした?
なんか、光が不安定に瞬いてますが。
光の強弱が感情と連動することはわかってるけど、だとしたら何に心を動かされてるのかね君たち。
はて?
とにかく話し合いが必要だと思うんですよ、わたしたち。
「わたしはあなた方と話がしたい。話は互いの顔を見てするべきだと思うのだけど」
不快かと思いますが、これはどうにもならない問題なんですよ。
見た目だからね。
我慢してほしい。
大丈夫、すぐに慣れるから!
それは実際にシンたちが立証してる。
だからそんなに怯えないで、安心して顔をお上げ~。
宥めるように微笑んでみたけど、むしろ逆効果だったかも。
隣でシンが身じろぎしたからね、スマン、怯えさせたみたいだ。
でも、二人はゆっくりと目を合わせてくれた。
一瞬だけ瞳が揺れたけど、そのあとは真っすぐにわたしを見る。
…いい人たちや~。
今までで一番ブスに対する反応が少ない。
うん、多分いい人。
いきなり殺されたりはしない、ハズ。
話し合いで何とかなる気がしてきた。
ソファに誘導して三人で座る。
シンたちにも勧めたけど席についてはくれなかった。
むーん、後ろで立ってられるのも気になるけど、話が進まないから仕方ない。
不承不承目をつむったのに、肝心のマレビトさまとはお互いに無言。
誰から口を開くのか、様子を窺ってるんだろう。
いえ、わたしもたくさん聞きたいことがあるんだけど。
ちらっと美女を見るときゅっと唇を引き結ぶ。
ちらっと目線をやるとぴくりと美丈夫の肩が揺れる。
これが外交の駆け引きってヤツ?
まったくもって何を望まれてるのかわからないんですがー?
あ~…めんどくさい!
よっしゃ、一番手は引き受けた!!
もう何が一番疑問かって。
「何の目的でここに?」
わたしの暗殺とか?
…いや、ないと思うけどさ。
わたし今まで隙だらけだったし?
やるならさっさとヤってただろう。
二人のマレビトはちらりと目配せし合って、男の方が口を開くことにしたようだ。
あの、この次はお二人の関係を聞いてもいいですかね?
敵国同士じゃないの?
マレビト協定とかあんの?
あるならわたしも入れてほしいんだけど。
「願いを聞き届けて頂こうと伺った。その手段が強引だったことは謝ろう」
そういって二人はまた頭を下げた。
それにしても何と予想外な答え!?
何が予想外って、友好的なところだよ!
「二つほど、我がままを聞いて頂けないでしょうか」
彼女の方が重ねて頼んできた。
強引に事を運べるのに、とっても殊勝な態度に好感大。
暗殺でも、脅迫でも、監禁でもなくて、お願いと来たもんだ!
いいよ、いいよ!
聞くよ!
よほどの事じゃない限りきいちゃうよ!
え、ちょろい?
いいじゃない!
自分に災厄が降りかからないならどーでもいいわ!
ええい、もってけドロボー!
大体、わたしに出来ることなんて高が知れてるし?
この人たち、大概のことは自分たちで出来る人たちじゃない?
つまりそんな大したお願いじゃないはず!
「お願い、とは?わたしに出来ること?」
どーよ、この推理!
当たり?
ねえ、当たり?
「一つは、我らの進軍を阻まないでいただきたい」
「いいともー!」
ああ、即答できるお願いでよかった!
「…は?」
あ、ごめん。
空気読まなかったね、スマン。
ごほん。
わかってるわ、こういうのは荘厳な遣り取りが大事なのよね。
「なにか、ご事情があるようですね。いいでしょう、むやみな殺生をしないと誓えるのなら引き受けるのも吝かではございません」
「寛大なお言葉、感謝いたします」
精一杯見栄を張って言ってみる。
羞恥心とかのぞかせたらもっと恥ずかしいもんね、なりきるよ、私は!
「して、二つ目は?」
一つ目はすでに決まっていたことだから、お願いでもなんでもない。
でも、そんなことは言わない!
売れる恩は売るべし!
だから二個目がわたしにとっての本当のお願い事。
ちょっと心苦しいからなるべく叶えてあげたいところ。
さあ、どんと来い!
「本当に勝手な願いですが、どうか、時空裂の修復に力を貸して頂きたいのです」
…わっつ?
なんか知らん単語が出てきた。
日本語でオケ。
真剣な目を二人から向けられると思わずタジるね。
わたしとは迫力が違うよ、顔立ちがきれいなだけに。
「本来なら我ら二人でやるべき事。しかし亀裂は予想より遥かに早く広がりつつあります。課せられた使命を全う出来ない憫然たる身をいくら詰ってくださっても構いません。ですが、今はあなたのお力が必要なのです」
亀裂って、あれですか?
遠く、そりゃもう遥か遠くの空に見えてるあの不気味な目みたいなのですか?
なんだ、あれ亀裂だったのか。
徐々に開いていくから本当に目かと思ってたわ。
神が空から見てるよ、的なこの世界特有のものかと…へへ。
で?
あれを塞ぐのが二人の使命と?
やっぱりあるんだ、マレビトの意味。
で、わたしは?
人数に入ってないの?
仲間外れとかひどくない、神さま。
まあ、楽できるならいいか。
手伝う程度ならいくらでもするし。
何をすればいいのかはわからんがね。
そもそも、あの亀裂なによ?
「我々マレビトが時空を渡ってきた痕跡です」
え?
「早急に対処せねば世界が裏返りましょう」
思うより深刻な事態だ、と。
いや、そんなことはどうでもいい。
その前!
何て言った?
痕跡?
我々マレビトの?
「…それを塞ぐのがお二人の役目、と?」
「はい」
あ、あのー?
…ねえ?
わたし、ものすっごい当事者じゃない?
なんで二人で何とかしようとか言う話になってんすか?
え、え?
そんなにわたし役立たず認定されてたの?
もう猫の手でも借りたい!後がない!
くらいの状況にならないと頼られないような!?
「どうかお願い申し上げます」
悪意は欠片も見えない。
ただ誠心誠意、本当にわたしの力を必要としてくれてる。
こんな頼りないわたしに頼み込んでる。
忌々しいとか、嫌々だとか、そんな感情もない。
いい人!
もう、なんか………ゴメンナサイ。
エラそうなこと言ったりしてすみません。
わたしが力不足なせいで二人にご迷惑をおかけしてたようで…あわわわ。
恥ずかしい!
手伝います!
いえ、手伝わせてください。
こちらからお願いします。
ええ、少しでもお力になりたいんです。
「どうか、ご助力を!」
「よろこんでー!」
椅子から立ち上がって、がしっと美人さんの手を取った。
何だか沈黙が下りたけど、今はそんなこと気にしてる場合じゃない。
頭を下げるべきなのはわたしでした!
微力ながら全力で取り組ませていただきます!
…あ、そういえば一つ疑問が残ってるのですが。
「ところで、他国侵攻と亀裂の修復には何の関係が?」
驚きに見開かれていた水色の目が透明な笑みを湛えて、彼女は言い切った。
「ぜんぜん関係ありませんね!」
ないのか。
「紛れもなく、疑う余地もなく、一片の言い訳もない、純然たる野心です!」
言い切ったところは天晴と讃えるべきなんですかね?
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