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異世界トリップしたらなぜかブスと蔑まれた2




王子(無礼者)との対面から少々この異世界に対して冷たい目線を向けるようになったとは言え、どうにもこうにも今の自分には他に生きる術がない。


仕方ないので言われるがまま城に厄介になっている日々。


厄介と言えば、ブスだと面と向かって言われた後にも更に、加算して、もう一つあった。

わたしとしてはもうどうとでも言ってくれ、という気分である。


王子(推定美形)に連れられ、決められていた手順かのように白亜の城の大きな広間に連れていかれて、王(二等星)と対面したわけだが。

わたしが現れた瞬間、広間のそこらかしこに蟠っている光の塊がざわざわとしていたから、王子(球体)と同じように、わたしは彼らの予想したマレビトとは大分かけ離れていたのだろうとは思う。


玉座の前に立たされて、膝をつけ直視はするなと王子(無礼者)に隣から注意されたけど、元より明るすぎて直視など出来ない。

その言葉はむしろ願ったり叶ったり、早々に頭を垂れる。


王(楕円形)はさすがに王子(球形)とは違い、わたしを頭ごなしに罵ったりはしなかった。

声だけは普通に聞こえるところが唯一の救いだろう。

荘厳な声は何事かを話していたがよくわからなかった。


そのうち二等星(王)が誰かの名前らしきものを呼び、進み出た光の方がわたしには一大事だった。

スーパーノヴァ現る!

もはや目が潰れる…。


薄眼すら辛いぞ、この天敵め。

かといって睨むこともできない、まぶたの裏どころか脳内を焼かれる様な光(超新星)からはひたすら顔をそむけ続け、言われるがままに差し出された水晶らしきものに触れる。


触れた後は何が起きたかと言えば何も起きなかった。


あまりの周りの無反応ぶりに薄眼を開けて様子を窺ってしまった位だ。

表情の一つでも分かればいいのだが、生憎と光の塊の感情など読み取れるはずもなく、わたしはひたすら反応を待つ。


焦れたのは自分だけではなかったらしい。


「どうなのだ、我が宮廷魔道師殿」


ありがたや、王(親切)の解説。

この光(光量テロ)の名前は何とやら、肩書は宮廷魔道師らしい、大変わかりやすい。


「恐れながら申し上げます」


宮廷魔道師は王に向き直り(多分)声を上げた。

宮廷魔道師といえば老齢と相場が決まっていると思うのだがその声は若い。

つまりこの光量は星が死ぬ間際の超新星爆発とは違うようだ。


「我が国のマレビト様におかれましては」


長く遠回しな彼の説明によると、魔力は小さめ、とのことだ。

王(二等星)は一目見たときからわかっていた、とため息とともに小さく呟いた。


あれか、光ってないからか。

何となく、そうではないかと思っている仮説がある。

この光ってファンタジーお約束の魔力じゃね?

なんだか正解の様な気がする。


気になったのはそれだけじゃない。


魔力は小さめ、とは誰と比べてか。

ここにいる光たちとではない、なんたら国とうんたら国のマレビト様に比べて、と言った。

稀だからマレビトじゃないのか!と突っ込みたい所存。


そして魔力が「ある」という事実。

なにそれ、心躍る。


「これで三国のマレビトが揃ったわけだが…さて」


これで王が長い髭でも携えて思慮深く唸っているのだったら絵にもなるけれど、光の塊ではどうしてもシリアスにはなりきれない。


「つまり我が国は外れを見事引き当てたわけですな!」


怒ったような口調で隣の一等星(王子)が苛立ちを示した。


発見。

光はよくみるとその輪郭と光量が微妙に変わっている。

感情の発露だろうか。


王子(未確認物体)は直視しにくいので他の光に目を向けてみると同じように、あるいは明らかに瞬きを繰り返しているものもある。

光量の違いが大きいあれはきっと不安。


なんだかコミュニケーション手段への希望が見えてきた!…かもしれない。


「これでどうやって他国と渡りあえというのですか!」


王子(ヒステリー)はわたしを指さす。


いや、そんなこと言われても。

突然に異世界にやってきてだな?予言を頼りにした彼らの予想と違うからと勝手に怒って。

どうやら他国との交渉だか戦争だかに使えないとぬかしやがる。


なんか、理不尽しか感じない。


「王子、口を慎め。何を言っても状況は変わらん、そしてソレがマレビトであることに変わりはない」


あーやな感じ。


結局、名は聞かれなかった。

わたしはつまり出来そこないのマレビトなのである。


まあお互いさまかもしれない。

わたしも彼らの名を知らないし、個体の区別もつかない。


そうしてお城での生活が始まったわけだが、何ということもない怠惰な生活を続けている。


彼らの思惑は、腐ってもマレビトなのだからという思考での使い道のわからないジョーカーの確保と言うところか。

こちらとしても何もわからないまま外界に放り出されても野たれ死ぬだけなのでありがたいと言えばありがたい。


豪奢な部屋を与えられ、侍女らしき光がたまに現れる飼い殺し生活は優雅だ。

なにせ掃除も洗濯も食事の用意もしなくていい。

好きな時に起きて好きな時に食べて、好きな時に寝ればいい。


が、退屈は人を殺す。

ついでにそのうちお役御免になるにしても、何らかの道具として役に立てと命令されても知識は役立つだろう。


そんなわけで侍女(五等星)に書庫の場所を尋ね、ほとほとと一人で訪問を続ける毎日に移り変わった。

知識は力である、危惧したのは知識を蓄えることを禁じられることだったが、どうやらその心配はないようだ。


侍女(人型)の囁きによると、見るのも不愉快だから一人で書庫に籠ってくれるのなら大助かりとのこと。

何でこんな何の力もないブスが働きもせず自分よりいい生活をしているのか、と乱暴にお茶をセットしながら面と向かって言われたこともある。


もちろんチクってやった。


残念ながら光の見分けがつかないので、彼女が侍女としてそのまま勤務しているのかはわからないが、生活はとても静かになった。

結構なことだ。


廊下を守っている騎士たち(細長)も特に何を言うわけではない。

通り過ぎたあとに耐えきれないかのように同僚と笑うだけである。


「見たか?」


噂通りのブスだというのだ。

たまに違う騎士と入れ替わっているらしいのだが、彼らの声を聞くに、怖いもの見たさに勤務を変わってもらったのだとか。


「変わってもらった甲斐があったってものだ」

「ああ、それにしてもあれでよく堂々と歩けたもんだ」


あれでは男も知らないだろうとか、顔さえ見なければ俺はいけるとか、大変ゲスな話がこれ見よがしにされる。


痛くも痒くもない、とは言わないが、価値観の違いここに極まれり、である。


わたしは自分がブスだと思ったことはない。

美女とは言わないが、それなりに褒められ、それなりに好かれ、それなりに愛されて生きてきたこの自信をいまさら覆せるわけもないのだ。


鏡に映る自分の顔はいままでと一つもかわらず、ブスと言われても困るというのが本音。


自覚のないブスほど蔑まれるものはない。

今の自分はそんな状況なのだろうな、とは思うのだけど、異文化交流と言うのはそういうものなのかもしれない。


そのうち持っていた化粧道具も尽きたら、この世界のものを使うことになるのだろうけど、今となっては社会人の義務であった化粧はわたしを守る鎧となった。

とてもとても、ノーメイク(無防備)で自分を蔑む彼らと向かい合う気にはなれない。


そういうわけで書庫はわたしにとって憩いの場だ。

書庫と言っても王宮の書庫であるからその規模はちょっとした図書館並み。

本好きならば一生退屈しないかもしれないが、そういうわけにもいかない。


世界を知らなければと歴史書を読み、図鑑を目にし、大衆文化の研究書に目を通した。


それによると世界は平面で、魔物とやらがそれなりに跋扈し、文明は魔法依存。

人以外の種族も多く、お約束の獣人やその混血である亜人、エルフやドワーフもいるらしい。


ファンタジーである、夢である、萌えである。

ぜひとも会ってみたいが、彼らもまた光の塊なのだろうか。


予言の話も理解した。

一昔前、広範囲にわたる宮廷魔術師様から市井の呪い師まで、予言に適性のある者が一斉に同じ予言を下した。


曰く、マレビトが現れるといのだ。

この拮抗した三国に、それぞれ。

そして大きく世界図が変わると。


一大事である、版図が塗り替えられるということは国が栄えるか滅びるかの二択なのだから。


わたしは他の二人より魔力が少ないと言われたのだから、他の二人は他国に知れ渡るほど以前に降臨なさっていたということだろう。


わたしへの風当たりがきついのは道理なのだ。

国の存亡がかかったこの事態。

一番の頼みはたった三人で世界が変わると予言されたマレビトその人。


事情は解ったが、とてもとても同情はできないし、この国に肩入れするほどの情のやり取りもない。


他国への牽制となるほどの力もなく、策を練るほどの知恵もなく、籠絡するほどの美しさもなく、それどころか協力する気がない。


まあつまりそういうことだ。

この国に降り立ったマレビトがわたしであった瞬間からこの国の滅亡は決まっていたのだ。


彼らはマレビトの使えなさに憤って焦っても大きな危機感を抱いてはいない。

国が滅びるなどと本気で思っている者はいないらしい。


随分とのんきなことで。


他の二人のマレビトについては光(十把一絡)に聞いて回った。

たまに「先ほども同じことを聞かれましたが…」なんてハプニングもあったが、まあご愛敬。


知り得た情報によると彼らは北の美女と東の美男だそうだ。

北方の国、アルストメリアに降り立ったのは妖艶なる氷使い。

白い肌に幻想的な水色の髪と蒼い瞳の、それはそれは美しい女性だそうで、北の王は一目で虜になったようだ。


東の国、エルドランには美丈夫。

大きな体躯と浅黒い肌、そして黒い髪と、深紅の瞳を持った精悍な若き青年。

東の国を襲った未曾有の大災害、大噴火を荒れ狂う炎のような気性でねじ伏せ、その大剣で海を割り航路の守護者となったことで今や飛ぶ鳥も落とす勢いだとか。


聞いて一番初めに思ったことは、あ、絶対に同郷じゃない、という何ともな感想。

残念だと思う気持ちが自分にはまだ残っていたようだ。

うぬ、心とはままならないものである。


他国のマレビトをまるで見てきたかのように語る光(十把一絡)からはそれに比べてお前はどうだと無言で訴えられたが、知ったことではない。


こいつらは一体自分に何になって欲しいというのか。


二人のマレビトの英雄譚とそのまま受け取っている彼らは馬鹿ではないだろうか。

いや、だからこそ自分がここにマレビトとして立っているのかもしれない。

もうちょっとマシな国であったならもう少しマシなマレビトが現れていたのではないかと思う。

たまごが先か、ニワトリが先か、答えの出ない話はやめよう。


つまり自業自得、こっちはただのとばっちり。


二人のマレビトは結論、傾国の美女と、簒奪者になったわけだ。


北の国は狂いに狂った。

王が彼女欲しさに王妃を亡き者に、父と同じく彼女に魅せられた王子が復讐と情愛で玉座を奪った。

夫が妻を殺し、息子が父を殺し、彼女の虜となった男たちはあらゆるものを捧げ、ついには他国を手に入れようというのだ。

彼女がそれを望んだのかはわからないけれど、そんな血生臭い事態に巻き込まれるくらいならブスでいい。


東の国はさま変わった。

相次ぐ災害に疲弊しきっていた国には救国の英雄が現れた。

火山は沈黙し、大穀倉地帯は息を吹き返し、何も生まない荒海に航路を敷いた。

生活はより豊かに、人々は英雄を称え、無能なる王族たちはお飾りになり果てて、国は英雄に頭を垂れた。

彼の目には野心が、そしてそれを止める者はかの国には誰もいないのだ。


なるほど、マレビトは世界を変える。

それを考えれば、身中の虫としては自分が一番の当たりだと思うのだが、どうだろう。


さてはて、遠からずこの国が彼らに蹂躙されるとして、抵抗しなければなんとかなるだろうか。

同じマレビトとして、どれほどか無害だと解ってもらえれば、見逃してもらえないかなー。


状況はこんなもの。


他には魔法だろうか。

これについてもわかったことがある。


一言で示そう。

魔法、これ万能。


科学なんぞが発達する余地がないほどに便利だ。


ここでやっと初めて自分がマレビトであることを実感した。

人さま、いや光さまより断然魔法の扱いが上手いという事実。

なんだか魔法もろくろく使えない出来そこないと罵られたような覚えもあるが、きっと思い違いだろう。

被害者妄想(笑)に浸るような殊勝な心はどこにもない。

ないったらない!


いや、実際は魔法の打ち合いをしたことはないから、多分、なのだけど。

本に載っていた魔法のことごとくが簡単にできたから大丈夫なはずだ。

この書庫全ての書籍に載っている魔法が初級であるとか、現実的ではないことが起こらない限りは…うん、大丈夫だと思う。


多分マレビトである恩恵だろう、それとも知らなかっただけで、生まれた時から才能があったのだろうか。

だとすればこんな世界に現れなければ発揮されることがなかった埋もれた才能だったわけだ。


そんな発見、まるで嬉しいと思えない状況だけどね!






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