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異世界トリップしたらなぜかブスと蔑まれた14






自称、大貴族の跡取りで、次期宰相で、王子の側近とかいう立派な肩書を名乗っていた彼は突然の愛に目覚めた末に、狂ったようにわたしを賛辞してきた。

お前の脳内がイッちゃってることはわかってるけど、わたしもそろそろ魂が抜けそう。


さっさと王都へ追い返すべく、元々の彼の用事が何だったのかを必死に聞き出した。

後ろ髪を引かれるような態度で何度もこちらを振り返りながら屋敷を後にする彼の姿が見えなくなった時にはここ最近で一番の安堵を感じてしまった。

仕方ない。


「さすがユアさま」

「相変わらず罪なお方ですね、ユアさまも」

「当然と言えば当然の成り行きのような気もしますが」


上からキリ、シン、ユタだ。

言葉が胸に突き刺さる。


使い慣れない魔法を躊躇いなく使っちゃうユアさまスゴイ!

洗脳とか、エグイ。

失敗した結果としては当然ですね。


ってことですね!

自分で分かってるからそれ以上責めるの禁止ー!

君たちの皮肉が痛い!


ええ、ええ。

反省してますよ。


未知の力とか、安易に使うもんじゃないな。

一体、どこでどんな化学反応をしたらああなるの?

光を奪うことは今後絶対にやめよう、危険な魔法だとわかった。

アイツがわたしを追い詰めるためにわざとやっていたのだとしたらこの上なく成功してると思う。


「して、ユアさまどうなさいますか」

「さっきの話?」

「はい、他のマレビトさま率いる二国の話です」


苦労の末に聞き出した「そこそこイケメン」の用事はつまりそういう事だった。


ついに自国を掌握した二人のマレビトが動き出したという、そういう情報。

互いの国に刃を向けず、それぞれが目指すのはこの国。

途中にある国を降しながら破竹の勢いで侵攻しているのだとか。


「まあ、マレビトとしてはわたしが一番格下だし、当たり前の行動よね」


三国の位置関係は正しく三角形の角にある。

どこを目指しても同じ距離ならば、最初から強者を相手取るより弱者を吸収してから備えた方が無難だろう。


つまり二人のマレビトも、先にこの国を取り込んだ方が勝つというタイムアタック中。


「取りあえずは様子見かな。そのまま王都に向かってくれるなら良し、ダメならその時考えましょう」


言ってからはっと気付く。


「あ、いや、………ごめん」


思わず巻き込まれたくない本音が漏れたけど、わたしと違ってこの国に所属しているのだ、三人は。

明らかに配慮が足りなさすぎだ。


少し考えてみる。


「シンは、国を守りたい?」


唐突なわたしの質問にシンが目を見張った。

わたしが真剣だとわかると、考えをまとめるようにゆっくりと話し出す。


「……そうですね、なんの対価もなくそれが成せるのなら」


目を宙に彷徨わせていたシンは一度頷き、わたしをしっかりと視界に捉える。

瞳に映るわたしの表情は結構緊張してた。


「でもそんな夢物語はない。だから答えは否です。ユアさまより大切なものはありませんから」


と、ときめくわぁ。

同じくらいに恥ずかしいけどな!

照れて目線を外したくなるけど、が・ま・ん!


琥珀色の瞳はこの国では珍しくないんだけど、うん、やっぱりシンの色が一番好きだ。

短い蜂蜜色の髪とよく似合ってる。

あと近付くとお日様のいい匂いがする。

スマン、わりと匂いフェチなんだ。


存分に堪能してから視線を滑らせた。

ら。

言葉をかける以前、目を向けるより前にキリに畳みかけられた。


「それってユアさまのお力で国を救って欲しいかってことですか?冗談じゃないです、ユアさまが動く価値がどこにあるんです?ユアさまが手を貸さないとダメな国なんてどうせいつか滅びます。いえ、ユアさまに心労を齎しているのだからむしろ今すぐ滅びればいいと思います!」


キリはこれで通常運転なので気にしない。

この子、愛国心が最初から希薄だからね、うん。


ちなみにユタの答えはスマートでした。


「これからの私達の話をしましょう。我々四人の。」


国なんてカンケーねえ!ってことを一言で表現した。


男のくせに異様に綺麗な長髪は…なんだっけ、銀色と灰色を混ぜたような、あ、そう!ムーングレイってヤツだ。


ユタは外見インテリ風で細かそうにみえるのに、これがわりとおおざっぱ。

わたしの事には小姑のようにうるさいけど、自分の事となるとそれが顕著になる。


せっかく女が羨むような髪を持ってる癖にいつも無造作に放置しているから最近では勿体ない精神でわたしが結っている。

楽しいことこの上ない。


ユタはいつも居心地悪そうだけどね!

明確な拒否の言葉を聞くまでやめないよーふふん。


「他国のマレビトさまの目的は、この国の併呑、ですよね」


シンが少し不安そうに聞いてきた。


「…だといいんだけど」


それなら真っすぐ王都に向かってくれるはずだ。


ま、少なくとも国民皆殺し、なんてのは現実的ではない。

それなりに大きく、彼の二国からは遠く離れているこの地を直接支配するには無理がある。


それはシンもわかってる。

懸念は一つ。

わたしの存在。


大変ありがたいことに、二国からの侵攻の直線上からはこの辺境の地は少々外れている。

ここに来るには手間をかけて足を延ばさなければならない。


「来るかしら?」


賭けだ。


わたしが国のためには動かないという安全性を彼らは知らない。

脅威と感じているのなら排除目標になるだろう。


あるいはマレビトは相いれないという前提ルールがあることも考えられる。


なんにせよ、あの二人はどうも明確な目標があって動いているように思えた。

今回の行動も、まるでそこに至る過程でしかないような。


やっぱり、自分の知らないマレビトの意味があるのだろうか。


「この国も、どう出るかな」


例のお坊ちゃんは国からの情報を伝えに来たらしいけど、当然そこには意味がある。

準備しとけよ?ということだ。


マレビトに抗する術を持つのはマレビトのみ。

お坊ちゃんは分かっていなかったようだけど、城には知っている人もいるってことだ。


あれだもんね、マレビト最弱にして魔法初心者のわたしだってただの人間に負けるとは思わないし。

マレビト特典は伊達じゃない。


日本に生まれ育ったわたしは根っからの平和主義者なのだから、ホントこんなきな臭い話は勘弁してもらいたい。


なにより他国に戦争を仕掛ける彼らが同じ平和主義とは思えないから厄介だ。


やっぱり逃走一択だろうか。

いやいや、逃げれるわけないし。

『目』にすんげーガン見される今日この頃。

そっこー見つかるのが『目』に見えている。


あ、わたし今うまいこと言った。


じゃなくて!


解決法だよ、解決法!

思いつかないけど!


二国の侵攻なんて、お坊ちゃんから聞くよりはるか以前に知ってたし。

同じマレビトだからね、行動がわからないわけないじゃん。


でも!

それでも、今に至るまで何一ついい案は思い浮かばない…あわわわ。


巡らせすぎた頭がパンクしたらどうしてくれる。

悩みに悩んだけどさ、情報が少なすぎんだよ!


大体、相手の思惑が知れないのが悪い!

あと人となりが知れないのも悪い!


何の判断材料があるっての!?この状況に!


もう、段々とめんどくさくなってきた。

タダでさえ他のマレビトよりスペックが低いんだぞ、この野郎!


眉間を揉みながら破れかぶれに言ってみる。


「あー、もういっそ会ってみるってどうだろう」

「それが出来たらどうするのです?」


もちろん直接聞くのだ。


問題を解くのが無理なら、答えを見ればいいじゃない。

カンニングは昔から得意だった。


「なにを聞きたい?」


そりゃ、当然、何考えてんだって。

マレビトって何なんだって。

それから、わたしをどうしたいんだって。


「では要望にお答えしよう」


若い張りのある男の声がそう言った。


………………ん?


「あら?なにを驚いておいでで?」


鈴のような女性の声がした。


…………え?


「望んだのはあなた様でございましょう?」


ころころと笑う声はキリじゃない。


「さすがの我らといえどもこの結界を抜けるには少々骨が折れる。あなたが許可の言葉をくれて助かった」


低音が心地いい声はシンのものでもユタのものでもない。


嫌な予感にのろのろと顔を上げる。

み、見たくねえ。


それでも見ないわけにはいかない。

一言目は決まっていた。


「…あの、どなたさまで?」

「あら、招いてくださったのに今更ですわねえ」

「お初にお目にかかる、最後のマレビト殿」


ど迫力美人と弩級美丈夫がそこにはいた。


にっこりと誰もが見惚れる笑顔で美女が言う。

切れ長の水色の瞳はあれか、宝石かなにかでしょうか。


「うふふ、どうぞ、よしなに」


あ、よろしくしたくないです、さようなら。


「ちょ、拒否るな!追い出されるから!」


慌てたような声を上げる褐色の肌の美青年。

背が高い、体も大きいけど無駄なところのないしなやかな筋肉がその全てだ。

結論、強そう。

う~ん、シン以上に好みな外見をはじめて見た。


いえ、一国を支配下に置いて戦争してるって時点でアウトだけども。

わたし平和主義者なんで。


うん、ええ、はい。

紛れもないマレビトさまですね、ほんとうにありがとうございました。




……………どゆこと?




ちょお!

なんでや!?

に、にげ!


られるわけないだろ!?


あわわわわわわわわわわわわわわ!






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