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異世界トリップしたらなぜかブスと蔑まれた13






森の恵みに感謝しつつ、家庭菜園に勤しみ、日々傷む屋敷の修理に奔走する。

とんだスローライフを満喫しまくっていたわたしたち。


こんな隠居じみた人生は嫌ではないのかとたまに聞くこともあるけど、ありがたいことに一切の曇りのない目で、真実と分かる言葉で彼らは今が一番幸せだと言い切る。


何というか、本当に変わった…もとい本当にいい人たちだ。

若いのに華やかさに一切憧れを持たない枯れてる精神が少々心配にもなるが、まあ本当に楽しそうだから余計なお世話ってヤツだろう。


ブスには三日で慣れるというけれど、彼らもまた慣れてくれたようで、最近は少しずつ距離を縮める試みが楽しい。


キリが来てくれたおかげで食生活はとても豊かになったし、屋敷も少しずつ手が回るようになってきた。


ついでにわたしの体重減少も止まってしまった、残念過ぎる。

キリの料理の腕が良すぎるのがいけない。


シンとユタはもう「猟師」と職業欄に書いても許されると思うんだ。

そのうち木や獣を狩りつくすんじゃないかと心配になるほどだ。


「ここにユアさまがいらっしゃる限り、それはないでしょう」


ユタが笑ってそんなことを言った。

意味がわからないから笑って誤魔化した。


「ユアさま、ほらソフィーが咲いてますよ。色は白ですね、今日はいい日になりそう」


庭にはキリと一緒に植えた花が早々に咲いて、とても彩り豊かになった屋敷はおんぼろの寂れた雰囲気を一掃してくれた。


ちなみにソフィーとは花の名前らしいが、わたしにはパンジーにしか見えない。

パンジーと違うのは咲くまで色がわからない点で、人々はその日咲いた花の色で一日の運勢を占うんだとか。


しかし、わたしには何色が当たりなのかがわからない。

むしろ何色ならキリから「いい日」以外の言葉を聞けるのか、最近気になって仕方がない。


四人暮らしは本当に穏やかで、社会人としてあくせくと働いていたわたしには夢のような時間だ。

たまに三人がわたしへの称賛ラッシュになるけど、それにさえ目を瞑れば悪くはない。


季節を跨いでもそれは変わらず。


「思ったより、気候の変化が少ないのね」


そんな感想をもらせば。


「ユアさまがいらっしゃいますから」


とシンから返ってきた。


あれだよね君たち、なんでも人のせいにすればいいと思っている節があるよね?


変化なんて待ち望んでいなかったけど、まあ、なんだ、いつかは来ると思ってたよ。

四人、日々を楽しく可笑しく過ごしていたところに突然の乱入者。


「ユアさま、どうしましょう」


どうしようもこうしようも、それなりの身分であるように見えるから丁重にお迎えするのが筋なのでは?

とは思うものの、この三人、まったくもって世間の常識に迎合する様子が見られない。

完全にわたしの答え待ち。


「メイクしてくるわ。シン、ベールも必要だと思う?」

「いいえ、問題ないと思います」


わたしの結界に見事引っかかってくれたおかげで、それがちゃんと機能していることを教えてくれたのだから、まあ、その功績によって屋敷に入れてやってもいいだろう。


化粧を整えてから結界の機能を落とすとようやく動けるようになったらしい貴人、ってか人型光。


久々に見ると明るい。

場違いに明るい。

つまり眩しい。


厚塗り化粧が剥がれ落ちるのではないかと不安になるほど眉間に皺が寄る。


「いったい何だ、この仕掛けは!」


声は張りがあって若かったが、如何せん王都からの使者様は最初から非常にエラそうでご立腹だった。

そういえばこんなんだったな、と王都での日々を思い返したものだ。


すでに屋敷に通したのが間違いだった気がしてきた。


「大体、私を待たせるとは何様だ!」


マレビト様だよ。

そういうお前は誰だ、わたしより偉いのか?

ああ?


とガンを飛ばしてしまった。


どうやらそんな口を利けるほどには身分があるらしい。

あるいはそれほど侮られているのか、わたしの価値が低くなったのか。


どれでもいいけど、多分あの失礼王子の仲間だろうと思っておく。

なんとなく、それだけで「仕方ない精神」が少し増す気がする。


一応形になっている客室に通して、話を聞こうと正面に位置する場所に座る。

ちなみに、一言目はこれだ。


「ふん、何度見ても不愉快になる顔だ」


正面切って言われた。

久々なので感慨深い。

だが光。

なにを言おうが光。

うむ、人間を知ってしまった今、わたしの中で光の存在価値が底辺まで落ちている故か、心底どうでもいい発言だ。


でも馬鹿だな、とは思う。

世間とか、身分とか、価値とかを別にして。


わたしがあんただったら思っても言わない賢明さはあるわよ?

後ろに控えていた三人の空気に気付かない鈍感さは称賛すらするわ。


が、ヤツの鈍感さはそれ以上だった。

我が家の三人を見るなり顔を顰め、叫んだのである。


「『加護なし』がわたしに近寄るな!」


まるで見えるはずのない病原菌を目にしてしまったような反応で大げさにのけ反った。

よほど嫌だったのだろう、生理的嫌悪か、条件反射か、とにかく何かを考える前に出た行動のように見受けられる。


生まれた時から染みついた価値観って、本人の意思以前の話。

…とは思うんだ。


だけどさー、その行動を取っているのは本人なワケじゃない?


つまり不快なものは不快。

何がって、コイツが。

そう、目の前にいる、この、性別男、らしい光。


なんだろうねえ?

わあ、とっても不愉快~。

うちのかわいい子を貶められたことが、ものすっごい腹に据えかねる。


今まで聞き流すBGMのようだと思っていた言葉がムカつく。

声がムカつく。

存在がムカつく。


自然、声が低くなった。


「言葉は選びなさい?誰の前だと思っているの?」


訳:マレビトであるわたしの機嫌を損ねてどうするの?なめた口利いてるとぶっ潰すぞ?です、はい。


光が少し瞬いた。


「ふ、あっははははは、これは面白いことを言う。貴様こそ誰に言っている?王子の覚えめでたい、次期宰相と名高いこの私にか?」


国の行く末がガチで心配になった。

それなりに強い光量を持つそいつの口上は続いたけど、公爵だか侯爵だかの跡継ぎだとか、剣も魔法も使える文武両道だとか、どれだけモテるかとか、実に中身のないことばかりだった。


つまり生まれ持った身分に胡坐をかいて、自身を顧みることもできないお坊ちゃんってことでファイナルアンサー?

シンとユタの爪の垢でも飲ませてもらうといいと思う。


「知っているぞ、お前が宮廷魔道士殿から無能の烙印を押されたこと。何の役にも立たない、名だけのマレビトを保護してやっている慈悲深きわが国に対して、その自覚なく驕り昂るとは。なんと滑稽なことよ!」


滑稽なのはお前だアホ。

こいつ、国と自分をイコールで括ってやがる。

まあ、そうでなくとも感謝なんてしてないけど!


ことさらゆったりと微笑んでやる。

ブスだから優雅には程遠いかもしれないけど、気分というやつだ。


「慈悲をかけているのは、わたしよ?」


そりゃあね、他のマレビトに比べたらちょっと存在感が薄いかもしれないけど。


「どうしてタダビトに侮られる謂れがあるの?」


訳:マレビトと比べたら大玉と豆鉄砲かもしれなけど、お前程度に負けるわけないだろ!


光(馬鹿)の耳には本音の方をきちんと届けられたようだ。


「は?」


言ったことは紛れもない真実。

うるさい口上の止まった光はやっと目の前にいるのが誰かを正しく(・・・)認識しようとしているらしい。


そう、わたしマレビト様。

あんたみたいに偉くはない。

あるのは、そうね。

何もかもをねじ伏せる圧倒的な力くらいかしら?


「もう一度聞いてあげる。あなたはわたしに自分の価値を示すことができて?」


訳:とっても不愉快になったわ!助かりたければ土下座でもすれば?


あれかしら、こいつら本当にわたしを何も出来ない小娘だと思っていたの?

トリップ直後ならともかく、今までずっと何もせずにのうのうと過ごしていたとでも?


城に居た時から書物を読み漁っていたわたしの知的探求を止めもせずに、しかも城から素直に出したくらいだからその通りなんだろうけど。

うーん、わたし以上に平和ボケしているようで、なんというか、ご愁傷さま。


他のマレビトはわたしより強いって知ってるだろうに。

ちなみにわたしは国を庇うつもりがない。

未来は推して知るべし、なむ。


「え?は?」


光から漏れる間抜けな声。

でも~?


にんまりと、見せつけるように嗤う。


今更許すわけないでしょ?

だって、わたしを怒らせたんだもの。


菩薩のようなわたしが怒ることなんて滅多にないのに。


「ある意味、幸運ね。あなた」


さて、何が一番効果的かしら。


怯えた目を向けても無駄よ。


そういえば、わたしを怒らせた理由。

それに価値を置いているのなら、きっととても大事なものなんだろう、あなたにとって。


「ね、それ(・・)、ちょうだい?」

「う、…あああ」

「ちょうだい?」


睨みながら微笑んで、プレッシャーを嫌と言うほど乗せる。

はいかYESの二択だよ、はやくして。


「は、い」


顔面を蒼白にした光が絞り出したような、あるいは押し出されたような呻き声で答えた。


は~い、了解いただきましたー!


「では、いただきます」


両手を合わせて挨拶を。


それから「目」を向ける。

「発動」させる。

「奪取」する。


光は段々と存在感をなくしていく。


「う、あああああああああああああ、いやだあ、やめてくれええええ!」


自分に何が起きているのかを本能で悟ったらしい()はもがき暴れようとする。

大した手間でもないけど、焦点が微妙にズレるからやめてほしい。


「いい子だから、駄々をこねないで」


声に力を乗せると大人しくなってくれた。

重畳。


わたしの思い通りに動く力が問いかけてくる。

期限?

そうね、彼が三人に誠心誠意謝ってくれるまででいいかな?

いや、せっかくだからおとぎ話をオマージュしてみようか。


呪いを解くのは、やっぱり真実の愛じゃないとね?


全てを終え、わたしは満足して問いかけた。


「ねえ?身ぐるみ剥がされた気分はどう?」


目線を向けた先には、まるっと光を失った男が呆然自失の体で床にへたり込んでいた。


すっかり光の塊から人間になった男の顔立ちはまあまあで、本人が自慢するように女にはモテそうだが、如何せん性格に難がありすぎる。

あとタイプじゃない。

もう少しシンみたいに精悍さが欲しい。


「ああ、そういえば忘れてたけど、あんた何の用だったの?」


男はわたしの声にはっと自我を取り戻して、先ほどまでの狂乱を忘れたかのようにきりっと表情を作った。


いきなりこっち向かないでよ、びっくりするじゃない。

なんか、意識を飛ばしていた人間が、唐突に立ち返ると連続性がなくて怖い。


「マレビト様、私は世界の真実に辿り着きました」


…あ、電波がいる。

ここに。


「矮小なわが身と、マレビト様の神のごとき偉大さを知りました」


え、予想外にもほどがあるんだけど。

確かに光を奪ったよ?

でも、なんか、目からも光が消えてるんですが、それは。


「それは世の理そのものです」


おい!

誰だ、こいつのこと洗脳したヤツは!

は、敵の策略か!?

例のマレビトのせいか!?

こんな刺客を送り込んでくるとは、卑怯な!


「世界の中心であらせられるマレビト様に、それと知らず無礼を働いたこと、わが身の愚かさに絶望が募るばかりでございます。かくなる上は死んでお詫びを」

「ま、まてまてまてまて!タンマ!落ち着こう、すろーだうんぷりーず!あ、いやこれなんか違う、Be cool!そう!ビー、クール!オーケー!?」

「ああ、マレビト様のありがたきお言葉!その妙なる調べを耳に出来ただけでも、ゴミ屑のような私の人生にも意味があったと思えます」


感動に打ち震える男がじりじりと近付いて、がしっと手を掴まれるかと思いきや、ふわっと手を男の大きな手で包み込まれた。

まるで触れるのも畏れ多いと言わんばかりだ。


「お許しいただけるのであれば、私がすぐさま城に赴き、皆の者を説得いたしましょう。あなた様が如何に素晴らしい存在なのかを説き、我々人間はみな、等しくマレビト様の足元にひれ伏すべき卑小な存在なのだと知らしめてまいります!」

「あわわっわわあああ!戻そう!光!戻すから!大丈夫、すぐに元通りになるから!」

「そんなもの必要ありません!私は目覚めたのです!」

「いったい何に!?」

「愛に!」


ほわっつ!?


「私は真実の愛に目覚めました」


………愛に、目覚めたらしい。


あ、うん、…そう。

な、なら仕方ないよね?

うんうん、ちょっとおかしいのも愛のせいならば仕方ない。

愛は何ものにも勝るとか言うし。

知ってる知ってる、偉大だよね~。


「愛とは捧げられるものではない。そう、捧ぐものなのです。止めようもなく、溢れ出てくるものなのです」


なんだか女遊びが激しそうだったからいいと思うよ、君の一途な気持ち!

おめでとう、マレビトとして祝福する!


で。

だから!


すぐに帰ってくれる?

いま!

すぐに!

らいと、なう!!


「この愛は、永遠です」


目に光が宿ったのが見えた。


かえれ――――――――――!!?


眩しいんだよ!

許可なく勝手に光に戻んないでよ!


しかも光量が増した気がするんですが、こいつ何に進化したんですか、神さま!


泡を吹きそうな気分ってのをはじめて味わった。

一生知りたくなかった。






あ、こいつただの脇役なんで(え

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