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異世界トリップしたらなぜかブスと蔑まれた12



「魔眼持ちを、こんなところで見ることになるとは」


キタ――――――!

魔眼、キタコレ!


「特別な目を持つものをそう言うのです。」


ユタがわざわざ説明してくれたけど、いらんがな!

だって魔眼よ?魔眼!


いやあ、絶対あると思ってたのよ、だって異世界だもの。

なになに?

キリが魔眼を持ってるの?


キリの顔をのぞき込んでみたが、その瞳は確かに王都でもみかけなかった色。

が、それだけだ。

色こそ珍しいものの、なにか特別に目の奥に紋章があったりはしない。


ちぇー。

見た目でわからないとか、魔眼も大したことないな。


まあいいや、重要なのはその能力!

心のわくわくを隠さずに聞いてみる。


「それで、その魔眼には何ができるの?」


ビームは出ますか?

それとも未来が見えますか?

呪いをかけられるとか?

もしかして弱点が見えたり?


「魔力がよく見えるそうですよ」


え。

……絶句。

なにその魔眼なんて立派な名前もらってるくせに看板倒れしてる能力!


だからどうしたって言いたくなるのをぐっとこらえたわたしはえらい。


だって、それくらいわたしだって嫌ってほど見えるわよ!

標準装備よ!?


その能力のショボさに内心がっかりしていると、シンとユタが説明を重ねてくれた。

王都では魔力を扱う者として出世を約束するものなのだとか。


…さいですか。

随分と意外なものが持て囃されているようで。


で、何で似たように魔力が見えるわたしは蔑ろにされたんですかねえ?

マレビトだから?

それくらい当たり前ってか?けっ!


「人よりよく見える、というのが重要なのです」


はあ、そうですか。

でもそんな能力何に使うのよ。

言っておくけど、わたしの目は今まで何の役にも立ってないわよ?

むしろ生活の邪魔しかしない。


んだけど。

シンとユタがわかるでしょう?という無言の圧力をかけてくるので仕方なしに話を合わせる。


「そうなのかもしれないわね」


全然わからないけど!


でも王都で活躍できるというから一応キリに王都に行くかと聞いてみる。

貴重な光らない人材だから、できれば屋敷で働いてほしい所だけど、意志は尊重しないとね!


答えはありがたいことにNOだった。

わたしと同じく煌びやかで騒がしい場所は好まないのかもしれない。

若い子はそういうものに興味を持つものだと思ってたけど、キリが例外でよかったわ~。


「ユアさま、キリは王都に行っても幸せにはなれません」


シンがきりっとした顔でわたしに伝えてくる。

ええと…別に無理矢理行かせたりしないからね?

本人いやだって言ってるし。


何でちょっとわたしが責められるみたいになってんのよ、納得いかないんだけど。


いやがるキリを王都に追いやろうとするわたし。

わたしを何とか説得しようと試みるシン。


「多分彼女にとって王都はあまりいい場所ではないでしょう」


そしてそれを援護するユタ。

突然ワルモノ扱いされて、三人から説得を受けているこの状況。

多勢に無勢だ、うむ、無難に黙っていよう。


「キリ、あなた。魔眼持ち、というより魔眼しか持っていないのではないですか?」


突然ユタが矛先をキリに向けた。

ん?

…どゆこと。


「魔眼、ね。そういう名前だったんだ」


だが、わたしが思っていた以上にキリは図太かった。

ユタの言葉には答えることなく、あっそ、とばかりにスルー。


キリさん、すごい!

ユタ怖くない?

尊敬するんだけど!


その態度にか、ユタの眉間に皺が寄った。

ひい!

キリ、キリ、ちょっと謝っておこう!


焦るわたしを余所にキリは不貞腐れた女子学生のような態度で、今更自分の目に名前が付いたことに感想を述べた。


「名前なんてどうでもいい。見ようと思えば、なんでも見えるから」


あれ?なにそれ!

魔眼ってそういうこと?

ぬぬ、キリの方がわたしより高性能な目を持っていることが今判明した。

オンオフの機能がついてるって事でしょ。


う、うらやましい!


その機能、どうやったら手に入れられますか?

切実に欲しいです!

キリ?キリさ~ん?


「ユアさま、」


はい、なんでしょう?

見上げてくる目には鏡のようにきょとんとしたわたしの顔が映っている。


真剣な眼差しになんだか嫌な予感がするわ。


「わたし、エリンダル村のキリは生まれ故郷を捨て、ただのキリになります。もう村に何の権利もなくなるけど、義務もない。わたしは自由です。だから誓わせてください。ユアさまのお傍を決して離れず、生涯の忠誠を尽くすことを。」


は、い…?

ストーカー宣言ですか?

村を出る前の宣言より重い気がするんだけど、ええと、気のせい?


…いやいやいや、まて!

何でだ!?

これでシンとユタに続いて三度目だけど!

マジで、今回はなんの経緯でこうなった!

前兆が少なすぎ!

唐突過ぎー!


居心地の悪そうな村から離れられたから?

うん、多分そうね!

生まれ故郷を捨てるとか、言ってるし!

それ以外に思いつかないもの!


よし、それなら取り返しはつく段階だ!

きっと、たぶん、めいびー!


「キリ、わたしは何もしてない。強いて言えば利害が一致しただけ。わたしにはあなたの手が必要で、あなたはわたしを必要としてくれた。それだけのことよ?」


本当にそうなんですよ!


一緒に居るのが魔力を持たないシンとユタとキリだからわたしは普通に振舞えるのであって、この楽園に光どもが乱入しただけでそれはあっさりと終わる。


あなた、王都でも貴重な人材かもしれないけど、わたしにとっても光らない貴重な人材なのよ!

自覚して!

決してわたしに在りもしない恩なんて感じてはいけない!


さっきも同じような説得したような気がするけど、わたしまだ諦めてないからね。

ファイト、夕陽!


「…ユアさま」


わたしの前のめりな勢いの主張にハトが豆鉄砲を食らったような顔をしていたキリは、その後に満面の笑みを浮かべた。


あら、美人。

元から美人だけど、笑うともはや絶世の美少女。


…わかってる、わかってるわ。

現実から目を背けてはいけないわね。


うん、これ、多分、全然説得が通じてないパターン。


「ユアさま、大好きです。世界で一番、大好き」


ほ~らね!


「ユアさまはわたしの光」


あなたの瞳の方が眩しいわ!

キラキラ光る目がががががが。


「ユアさまがいない世界なんていらない」


じっと目を逸らさないキリにたじろぐ。


…無理ね?

可能と思わせておいて、実はキリが今までで一番、説得の隙がないわね?


詰めていた息を吐き出して、がっくりと肩を落とす。

降参ですよ、はいはい。


精一杯大事にさせてもらいます、キリさん。


「ユアさま、我々のことも忘れないでくださいね」


シンとユタがにこやかに笑いながらも強い目で、じっとわたしを見てきやがる。

へいへい。


やりますよ。

尽くしますよ。


面倒だけどね!

仕方ないからね。


出来る限り守ればいいんでしょ?


あなたたちの、心穏やかな世界を。





さて、遥か遠い場所からわたしではないマレビトがこっちを見てる。

敵意とも害意とも取れない、それでも慎重な用心深さでわたしを警戒してる。


随分と高性能な『目』をお持ちのようで。


上等。

喧嘩なら買いましょう?


命乞いもいいけどね。

もう少し早くわたしに会いに来てくれたなら、きっと力を貸してあげたのに。


残念。


わたしにも、今は守るものがあるらしいんですよ、最強のマレビトさん。


どっかの光野郎にハズレとか言われたけど。

でも、同じマレビトの名に恥じないだけのことはしてみせようじゃない?


だから、ね?

ナメんな!この覗き魔風情が!


気分は中指を立てて。

『目』で睨み返してやれば不穏な気配はきれいさっぱり消えた。


ははん、爽快!





……うん。

………ねえ?もしかしてわたし、早まったかしら。


なんだかそんな気がしてきた。

ものすごくしてきた。


え、ちょっと、ホントに不安になってきたんだけど。

そうだ、保険。

保険をかけておこう!


「シン、ユタ、キリ、いざとなったら一緒に逃げようか?」


万が一の際は敵前逃亡もアリですよね?


唐突な言葉に面食らった表情をした彼らは互いに顔を見合わせてから再びわたしを見た。


「ユアさまとならどこまででも」

「地の果てまでご一緒しますよ」

「ユアさまがいる場所がわたしの居る場所ですもの」


…りょーかい。




いま。

少しだけ、この世界が好きになったわ。






最終回と言い張れば言えなくもない終わり方な気がする。

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