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異世界トリップしたらなぜかブスと蔑まれた11




「あの、取りあえずお話を…」


伺いたいのですが。

と、声を掛け終わる前に彼女は上半身を起こして、がしっとわたしの足を両腕で抱きかかえた。


ひい!


「お願いします!!!」


言葉はお願いしているのだけど、行動が死んでも離してなるものか!と言っている。


「頷いて頂けない限り離しません!」


あ、うん。

言葉でも言ったね。

素直だね。


思わず遠い目をしてしまった。


「無礼者!ユアさまから離れろ!」


ごうっと吠えるのはシンで、私たちの周りを油断なくステップを刻んでいるのがユタ。


「不審な行動は慎みなさい!」


ユタの声も聞こえる。

でも、戦闘態勢ってのはわかるんですが、速すぎて見えないっす。

あと、村の人が「なんだアイツ、キモ!」みたいな目をしてるから、ちょっと止まって、落ち着いて。


「いやです!あなたはわたしの運命の人です!絶対に離さないんだから!!」


ロマンス小説とかでよく見る台詞、あとはホラー小説でもたまに見るね。

運命の人。

…自分が言われるとは思ってなかったなぁ。


黄昏てるすぐ傍で、離れろ!離れない!の攻防が絶えず行われているのだけど、まあいい、取りあえず事態の収拾が肝心だ。

村人たちがドン引きしてるし。


「あれって…」

「あいつがあんなに喋ったのはじめて見たぞ」

「変なことばっかり言って皆を困らせる、あの不気味な女よね?」

「というか、あんな顔してたんだな。いっつも暗い顔して下向いてるから気付かなかったが、かなりの美人じゃないか」

「美人だからどうだってのよ、あの子が村のごく潰しであることに変わりはないでしょ」

「まあ、そうなんだが。」

「今までどれだけ足を引っ張られてきたと思うの?よく思い出してよ」


…ああ~うん、ドン引きドン引き。


「あの、落ち着いて。それからわたしの質問に答えてくださる?」


わたしの腰あたりにあるきれいな顔を見下ろして話しかけると、シンとユタと言い合いをしていた彼女はすぐに反応してくれた。


「喜んで!」


ぱっとわたしを見上げた顔は紅潮していて、まるで…まるで、恋でもしているかのようね?

断るわよ?


「お名前は?」

「キリとお呼びください!」

「ではキリさん」

「『さん』なんて、とんでもない!呼び捨てで!呼び捨てでどうぞよろしくお願いします!」


あ、はい。

かしこまりました。


「キリ、あなたのことが知りたいの」


美しい瞳が比喩ではなく輝いた。

違うのよ!?

口説いてるんじゃないの!

何が出来るかが知りたかっただけで。


慌てて具体的に言い直す。


「家事は出来る?お裁縫や料理や洗濯や掃除、それから」

「できます!好きです!大好きです!」


食い気味に答えられた。


「あなたが居れば何でもできます!やれます!好きです!あなたのために何かをすることはきっと至福に違いありません!」


「好き」をひたすら連呼されているんだけど。

家事が、よね…?


「ユアさま!その者は不審者ですよ!」

「情けなど無用!今すぐに帰りましょう、わたし達三人で!」


お言葉を返すようですが、多分、この村の人たちには私たちの方が不審者だと思うよ。

それにねえ?


わたしが少し二人から目線を外すと、察しのいい彼らはすぐに周囲に気を巡らせてくれた。


「おい、あんな怪しげな連中に引き渡してもいいのか?」

「いい厄介払いよ」

「だが、子供を産むくらいは出来るんじゃないか?」

「あんなのろまの子供?冗談じゃない、ろくなのが出来ないに決まってる」

「同感だわ、愚図が増えるだけよ」


シンとユタは苦い顔をした。

ちょおっと、ここには置いていけなくない?


目線で問いかければ二人は嫌々な雰囲気をそこはかとなく醸し出しながら喚くのをやめた。


不承不承ではあるけれど、納得してくれたらしい。

どうもありがとう。


「キリ、屋敷は近くないわ、そう簡単には村に帰省はできない。それでもいいなら、荷物をまとめていらっしゃい」


キリは初めて、驚きに目を見張った。

どんな表情をしても、美人は美人ね。


「一緒に行きましょう?仕事は楽ではないけどね」


ばちこーん、とウィンクを飛ばす。

普通だったら吐き気を催しそうなものだけど、彼女はそんな感情を欠片とも見せなかった。


やっとわたしに縋っていた腕を離して、深々と首を垂れる。


「温情、感謝致します。この恩を返しきれるとは思いませんが、必ずや御身のお役に立ってみせます」


…飽きてるかもしれないけど、言わせてもらってもいーい?


重い、重いよ!!

肩が凝るうぅぅぅぅ!!!


はい、提案します!


「そんなに気負わないで、楽しく過ごしましょう?私たちは対等でしょう?」


そう!わたし達は家事を出来る人手が欲しい。

彼女はわたしの傍に居たい。

多分村を離れたいってのが理由かな。

まあ、こんな環境じゃそれも仕方ない。


つまりwin-winの関係じゃないか!


そういうつもりで言ったら、何故か彼女の美しい瞳に水の膜があれよあれよという間に膨れ上がって零れ落ちた。


なぜ!


「あなたは、わたしの光です」


どうして!


「あなたは、わたしの世界、そのものです」


のおおおおおお!

今回は小さな親切をした覚えはある!


だが、そんな大きなものになった覚えはない!

そして望んでいない!


「待て、女!ユアさまは俺の光だ!」

「そうだ!そして俺の世界そのものだ!」

「「お前の入る隙はない!!」」


びしっと、男二人がキリの前に立ちふさがって宣言している。


なんなの?

バカなの?


「そんなことないわ!ユアさまはわたしの運命の人!あなたたちこそ入る隙などないのよ!」


キリが負けてない。

…負けてもいいのよ?

というか、負けましょう?

張り合うと感染するわよ?


もう、手遅れのような気がひしひしとするけれども。


三人から顔を背けて、わたしは手を叩いて言った。


「帰りましょう!」


色々なものから目を背けたい年頃なのよ、許して。






短いですが、許して。

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