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断章二・さんばんめのおはなし

 むかーし、むかし、ひとりの女の子がとある本を見つけました。

 その本はかつてその女の子の父親が作った御伽造成術の資料でした。

 同時にそれは女の子の夢を叶えるものでした。

 ですから、女の子は一瞬でそれに魅入られました。

 これで世界を本の中のような不思議な世界にできる。これでみんな本の面白さを分かってくれる。

 そう思った女の子はその本を読み始めました。

 その本の出だしには『この世にキャラクター登場人物を顕現させるには童話などの登場人物と神話の神々などを融合させる必要がある』と書かれていました。

 女の子は大好きな童話は分かるものの、神話なんて触れたこともありません。

 けれど女の子の父親が遺した本の中にはたくさんの事典がありました。

 悪魔辞典に天使辞典、クトゥルー神話にケルト神話、ギリシャ神話……などなど。

 だから女の子はこれを使えばいいと考えました。

 父親の遺した本を読み終えると近くにあった『クトゥルー神話』を開き、適当な神々を想像しました。

 頭の中にその神を思い浮かべながら、さらに大好きな『不思議の国のアリス』のアリスを思い描きます。

 そしてそのまま呪文を唱え始めました。

 けれど、女の子が見つけた御伽造成術の資料は、女の子が持っていたものが全てではなかったのです。

 そのため、術は不完全でした。

 それでも術は発動したのです。

 未完成のその術は女の子自身にかかってしまい、女の子自身を変貌させていきます。

 こうして、クトゥルー神話に出てくるアザトースをもとに、アリスがこの世に顕現したのです。

 そのアリスは、呪文が不完全であったがゆえに呪文を唱えた女の子、音木(おとき)亜梨栖(ありす)の意思がアリスよりも強く、亜梨栖はアリスでありながら亜梨栖の自我をきちんと持っていました。

「お姉ちゃん……?」

 術を唱えるときに大きな音がしたので、弟の白兎(はくと)は恐る恐る亜梨栖のいた部屋を覗きました。

 そして亜梨栖の変わり果てた姿に声を失ってしまいます。

 亜梨栖はニコリと笑い、術を唱えました。

 けれどその術は先ほど亜梨栖を取り込んだ術と少し違っていました。

 亜梨栖は自身を取り込んでしまったことが、術が失敗した原因だと感じ取り、その場で術を弄ったのでした。

 父親の血を受け継いだ亜梨栖には、ごく僅かに魔法使いの血が流れていたのです。

 だからこそ、その血が亜梨栖に失敗を即座に理解させ、術を正しいほうへと修正させました。

 それでもなお、まだその術は不完全でした。

 童話と神話を融合させ、自らを登場人物に変貌させる不完全な魔法から、童話と神話を融合させ、人間を土台にこの世に登場人物を顕現させる、それでも不完全な魔法となった御伽造成術は、亜梨栖の弟を土台にして、『不思議の国のアリス』に出てくるウサギと、悪魔のモレクを融合させたウサギをこの世に顕現させました。

「たいへんだー、たいへんだー」

 そのウサギは何かに慌てた様子で、急いで走り出しました。

 亜梨栖はなぜだかそのウサギを追わなきゃという気分になり、ウサギを追いかけ始めました。

 ここから亜梨栖の物語――世界を不思議で満たす物語が始まります。


 そしてこの時からでした。

 数年前に現れた、次々と人々を殺していく〈絞首斬首人〉のような正体不明の殺人鬼(アンノウンマーダー)――のちに“怪異”と呼ばれる怪物が立里市を闊歩するようになったのは。

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