プロローグ・はじまりのおはなし
むかーし、むかし、あるところにひとりの男がいました。
その男は魔法使いの血を引く家系に生まれました。
けれど化学の発達とともに、その男の曾々々爺さんあたりから魔法を使わなくなっていました。さらに一般の女性と結婚したために魔力は薄まり、その力も充分には発揮できないようになりました。
その男はある日、考えました。このままでいいのか、と。
魔法という不可思議な力に魅了された男は自分の中に残る僅かな魔力を何かに使おうと考えました。
そして男は考えに考え抜いた挙句、こう思ったのです。
この力で自分の子どもたちを喜ばせよう。
その男は数年前に妻を失っていましたが、三人の子どもがいました。
その子どもたちは手のかからない良い子たちばかりで、いつも童話ばかり読んでいました。
それを見ていた男はこんなことを思いついたのです。
そうだ。御伽噺の登場人物を実体化させよう。
それが男の苦難の始まりでした。
先祖が残した魔導書を読み漁り、様々な魔法を研究しました。
もちろん、子ども達の世話は忘れません。
疲労とストレスに襲われながら、それでも男は己を奮い立たせ、研究を続けました。
全ては子どもたちのため。
強い意志を持って、ようやく男は完成させます。
御伽造成術と呼ばれるそれは、御伽噺や童話の登場人物をある条件でこの世に顕現させるというものでした。
男は眠る子ども達の枕元に置いてあった『金太郎』の絵本を手に取ります。
一通り、その物語に目を通した後、男は自分の部屋に閉じこもって主人公をイメージします。
そうやって出現したそれは五十のおかっぱ頭があり、百の腕を持ち、力士のような浴衣を着ていました。
成功だ、と喜んだのも束の間、それは五十の顔全てをニヤつかせて男を締め殺し、そして窓の外の闇に吸い込まれるように消えていきました。
実は男が作り出した御伽造成術は未完成だったのです。
朝、いつまで経っても部屋から父親が出てこなかったため、子どもたちは父親を迎えに行き――
父親の死体を見つけました。
三人の子どもたちのうち、長女は父親の亡骸を見て泣き叫び、次女はなぜ父親が倒れているのかと不思議に思い、一番幼い長男は無表情に死んだ父親を見つめているだけでした。