転移1
「ピピピピ」、と聞き慣れた電子音が景気よく鳴り響く。
「ピピピピ」、徐々に覚醒する意識の中、眠りの国の親善大使が再び自国への来訪をしつこく勧誘してくる。 僕は布団を蹴飛ばし、それを追い返した。
そのまま立ち上がり、景気のいい電子音の原因である目覚まし時計のスイッチを叩いた。
その後は、自分でも驚くぐらい迅速に行動できた。 まだ、起床から十五分程度しか経っていない。
実際は寝巻からイタイ私服に着替えるだけだったのだが、丸三年ニート生活をしている僕にしてはかなり上出来な方な方だろう。
またベッドに腰をおろし、ふとカレンダーを見ると、日付は12月25日まで斜線が引いてあるので、おそらく今日がクリスマスだろう。
僕の年齢が23歳なので、無職のプー暮らしをする原因になった、«らしい»<血のクリスマス事件>からもう三年すぎたということだけは分かる。
警察の話によると、僕は事件の現場にいたと聞いたが、被害者が殺害された瞬間を見た精神的ショックにより、<あの事件>より以前の記憶がない。
つまり僕は僕の精神を守るため物心がついた時から3年前までの記憶が一切合切すべての記憶を自ら、自主的に消去してしまったらしい。
今となってはその行為は正しかったのかどうかを見定める術は無いから分からないが僕がこうして生きているのだから、その企みは成功したのだろう。
それに警察は、精神安定までの保護という名目で僕はほとんど軟禁状態である。(自分で食事を作る程度の自由はあるが)
このまま事件の事を思い出す練習[医師には「やめた方がいい」と言われているが]をしていても良かったが、腹が減ってきたので朝食を取るべく、僕、松葉敬キッチンに向かった。