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デイリーヨサノ

叫び続ける、そして殴り続ける、返って俺と長柄の方が驚いた方だ。


 こんなに強いのだろうか。俺はこの集団を無謀で立ち向かったつもりだ。しかしアイツはまるで、絶対にいける。と決心したような体制で立ち向かった。

 その姿はまるで、勇者がたくさんの魔物に立ち向かうかのように無謀であった。


「与謝野ォ!」

 賀島は戦いながら喋り出した。

「その白いパーカーを着た奴は俺の知り合い、『黒鬼広海』って男だ! 渋谷区ナンバーワンの座を手にしてる奴だ! 絶対ぶっ飛ばせ!」

 つまり………俺の相手は……この渋谷区で一番強い奴ってことか?


 まさかコイツが黒幕だったとは……!

 徐々に俺の体中には憎悪が込み上がった。爆発的な怒りが今でも破裂しそうなくらいだ。

「テメェ、よくも俺の名前使ってキングとかいうチームみたいな変なガセ流しやがったな……」

「はは! ココは渋谷区って名乗っただけで異端者扱いされて潰されちまうからなぁ!」

「なぜわざわざ俺の名前を使った……? 動機を言え」

 胸ぐらをしっかり掴み、顔を近づけた。

「答えろ! なぜだ!?」

「テメェの経歴思い出せばすぐ分かる話だよ! お前は高校時代に学校の番はってたろ? そして辞めた後は政治家をのしただろ!? そんな奴になり切らなきゃデケェ顔できねーに決まってんだろ!? 馬鹿かお前!?」

 おのれ………初対面ながらこんなクソ野郎と出会っちまうとは……。

 これでも渋谷区ナンバーワンなのか? よほど賀島のほうが強く見えるんだが……。


「佳志。俺は亜里沙と賀島の妹を………」

「ちょっと待てやぁ!」


 黒鬼という男は、いつの間にか手にしたナイフを彼女たちに傾けた。


「テメェらが俺やあの群れを潰すのは勝手だがなぁ……、これはゲームだ。ルールを言い忘れてたなぁ…。俺を倒すことができれば、この2人を開放してもいい。ただしタイマンだ。

 不正でアイツらを助けようとした時点で、俺はあの女どもをめった切ってもいいという権利が渡される! つまり俺にタイマンで勝てばいいってこった………」


 なるほど……つまり亜里沙と賀島の妹は人質ってことか。


 賀島は群れと戦い、俺か長柄はコイツとタイマンする……そういう形勢だな。


「待てや」


 聞き覚えるある声が横から聞こえた。

 この声は昔、飽きるほど聞いた記憶がある。

 大きな扉がゆっくりと開くと、二つの人影が見えた。メッシュで並外れな髪型と、黄昏のツンツンヘアー。

 ………与謝野慎と………与謝野真………。


 なるほど。

 俺は今、高揚している。なぜなら俺と長柄と賀島にとって今、絶対的な勝機が迎えにきたのだから。奴らは、

 与謝野(救世)兄弟(主)だ。


「ははは! こりゃ俺のセガレがボロボロになっちまうわ」

 与謝野真、即ち俺の親父はヘラヘラ笑いながら倉庫に足を踏み入れた。

 なぜここが分かったんだ……?

「大きなお世話だよ! 親父はとっとと俺とコイツとのタイマン見とけってんだ!」

「そーはいかねーんだわこれが。俺は今まで黄金美チャンネル見て、お前の活躍を色々と鑑賞させてもらったが、今回は違う」

「どういう事だ。今回も大活躍披露させてやるよって言ってんのが聞こえないのか」

「どうやらそいつがどういう人間か知らねーようだな……佳志」

 親父はポケットから何かを取り出した。わずかに鉄臭い……。


 ――拳銃!?


「何もそこまですることねーだろ?」

「いいや。これはケジメだ」

 何のつもりだ? 拳銃は黒鬼へ向けているが、殺すとこまではいいと思う。

「黒鬼広海。……いや、セロ団の団長さんよ」

 その瞬間、血の気が引いた。

 それは俺だけじゃない。最も、俺の後ろで突っ立っていた男が一番驚いたであろう。


 何だ? 意味が分からない。この男はただの成りすましの不良なんじゃないのか!?



 バァン!


 拳銃を上に傾けたまま発砲された。

 そして今まで乱闘していた群れ、そして賀島も、この与謝野真という黄金美町の王者ともいえる男に目がいった。


「貴様らに宣言する! 貴様らを寸前までボロボロにした男は決してそこにいる、与謝野佳志ではないことを断じて保証する!

 真の犯人は、この黒鬼広海だ! しかしこの男を今ここで処分することを断ずる!」

 いかにも王様といった感じの雰囲気を出した口調でそう宣言した。


 そして慎さんも前に出た。

「関係者は二人、黒鬼と、長柄。おい、お前も長柄の事を知ってるだろ?」

 黒鬼が途端に困惑した表情になり、後ずさりした。

「……………瀬呂がどうしたってんだ……?」

「ふむ、まさかこの街の狩人と呼ばれるこの男の下の名前を呼ぶ男が1人でもいるとはな。どうやらセロ団という宗教兼集団犯罪グループのトップであることも間違いないようだな」

「くっ………!」

 亜里沙の言葉を回想した。セロ団……そして長柄瀬呂……。西洋――

 こんなどこぞの不良が……犯罪グループのトップだと? もっと老けたオッサンだと思ってたが……。

「おい、ちょっと待て」

 長柄が黒鬼の前に出た。

「俺を糧にダシにしてあのクソ団作ったのは、テメェか?」

 怒った顔は想像以上に怖いはずだ。長柄は俺に背を向けて顔を伺えないが、少なくとも黒鬼はその顔を直視している。そして恐れている顔がよく見える。

 だが黒鬼は腰を抜かさずに冷や汗をかきながら誤魔化そうとしていた。

「あぁ……あぁそうだよ! あん時は俺も外国に送り込まれたからなぁ……!」

 一体何の話をしてるんだ? 俺も亜里沙から少し聞いただけだからあまりよくは知らない。

「…………とりあえず、歯ァ食いしばれこの疫病神がぁ!!」

 ドガッ!


 それは気持ちのいいくらい響く一発だった。

 そして黒鬼はそのままぶっ倒れた。

「ふざけんなよ……ふざけんなよ! 宗教とか言って勧誘しといて……人は殺すは物は盗むわ……、俺をこんなに病ませたのはどこの誰だと思ってんだ! 無駄に格闘技術極めさせやがって! だから人を殴っても殴っても晴れないんだろうが!」

 何と言うことだ……。あんだけタイマンには自信ありげな黒鬼をこうも簡単に………。

「これ以上は止せ。長柄」

 慎さんが止めた。長柄は離せと言わんばかりにバタバタと暴れた。



 …………つまり、長柄の生まれ育ったところは、長柄にとってはかなり不快で、その生まれ育ったところを作った張本人が黒鬼……ということか。



 一方、賀島は急いで妹の両手を縛っていたヒモをほどいた。

 すると妹、賀島陽は兄、賀島有我を力いっぱい抱きしめた。そして兄の有我も、優しく抱擁した。

「ごめん……ごめんな陽。俺が……俺が無能なばかりで………!」

「ううん……。全然気にしてない。ごめん」

 賀島の方がより一層号泣しているじゃないか。どれだけ心配だったかが強く伝わるなぁ……。



 さてと、そろそろ俺も亜里沙のヒモを解くか。

「たーく、相変わらずマヌケだなーお前は――」

 バッ!


 ………ん? 今、避けられたか?


 亜里沙の様子を見ると、汗をかいて、首を左右にぶんぶん振って拒んでいる様子だった。なぜだ? 俺、何か悪い事したのか?

「おいどうした? 俺はお前が知ってる佳志だぞ? もう偽物じゃねーって」

「嫌だ………近寄らないで………」

「はぁ? 意味分かんねーよ。家帰って落ち着こう―――」


「嫌だ! 死にたくない! 助けないで! 近付くな!」


 …………どうしたんだコイツ!? 助けないでって……?


「おい佳志。そいつはパニックに陥っている危険性がある。慎が抱えれば何とかなるだろう」

 パニックっつっても………混乱しすぎだろいくらなんでも……。


 そしてその事件はその日で治まり、黒鬼は間もなく逮捕され、有罪を罰せられた。

 長柄は二、三日あたりは怒りに包まれた様子だったが、一週間後には普通の態度に戻った。


 賀島からも時々連絡が来て、たまに城の写メを貰う。多分妹さんと行ったんだろうな……。


 それにしても、平和なようで曖昧だ。

 これは日常ではない。明らかに非日常だ。


「おはよう」

「……」

「飯食った?」

「……」

「いってきまーす」

「……」

「おやすみ」

「……」


 ……

 …………

 ………………


 あれから一度も、亜里沙の声を耳にした事がない。

 そしてあれから一度も、亜里沙の笑顔を目にした事もない。

 そしてあれから………怒られた記憶もない。


 どうしてしまったんだ……亜里沙。


 一か月後――――


 バーからアパートへ帰って来た話だ。


 また気まずい雰囲気を耐えなければいけないのか、と思うと胸が痛くなる。どうして亜里沙はあんな風になってしまったのだろう。

 居間へ行くと亜里沙が机の前で後姿に正座をしていた。やはりまだ――。


「佳志」


 久しぶりに彼女の声を聞いた。俺の名前を呼んでいる。亜里沙は今、俺の名前を呼んだはずだ。それは間違いない。

 一体なんだろうか?

「私ね、考えたの。このまま佳志と暮らしていけばいいのか、そういう義理ではないのか」

 改まった様子で、俺も机の前で正座をした。

「一年前も確か、私が線路に落ちようとしていた時に佳志が救ってくれたよね。その事を一か月前に思い出したの。でも、そう考えると、この前の通り、また佳志はまた私を助けてくれた。

 私はアンタに………何1つ恩返しをしていない……」

 次第に亜里沙は涙ぐんだ。俺は焦ってティッシュを数枚か取り出して彼女に渡した。

 何一つ恩返しを………。本当にそうなのか?


 何一つ………。


 まさかコイツ、その事でずっと悩んでいた……のか?

「電車の時も……原付を見つけてくれた時も……誘拐から救ってくれた時も……私は佳志に借りしか作ってなくて、私は何もしていない……。だから情けなく感じてきたの………。私みたいなダメ女………生きる価値なんかないって…」

 ………。

 ただひたすら困惑した。なぜならコイツが言っている事は間違っているからだ。


 情けないのはその弱音だけだろう………。


 段々俺も涙が出てきてしまう。少なくとも、俺にとってはとても些細な事だ。そんな小さい事でずっと悩んでいた彼女が情けなく見える。


「お前、この期に及んで何言ってる? 何一つ恩返しをしていない? ちゃんと振り返ってみろよ」

 振り返れば色々ある。

 コイツは俺の病気を見つけてくれた張本人。そして俺をココに泊めてくれた恩人だぞ。

「忘れたとは言わせないぞ。俺はお前にちゃんと感謝している。だからお前を守りきる義務があると、俺は思うんだ。なのにお前がその恩返しに対して自分を責めるのは、あまりにも間違っていないか?」

 亜里沙は何かに気が付いたかのようにハッとした顔をした。

「この街は荒れてる。荒れ地だ。お前がなぜここに居たいのかは知らないが、黄金美町は物騒な街だ。だから、ココに居たいという意思である亜里沙に俺は期待に応えなければいけない」

 涙を拭きとった亜里沙は再び目から涙が出るが、それから表情は微笑みへと変わった。

 何も言わずに彼女は俺に勢いよく抱きしめた。

「…………誰が守ってくれって頼んだのよ………」

「俺が勝手にしてることだ。許してくれ」

「………バカ」



           *



 ――私は気付いた。彼が私を本気で守ってくれていたということを。薄々、なぜ彼は私をこんなに必死に守るのだろうと感づいていたが、普通に考えてみればとても簡単な答えだったのだ。

 佳志は私が好きだから。


 そんな佳志を、私は愛してる。



「ありがとね、佳志」

 疲れ切ってベッドで寝ている彼の唇に、私は1つ恩返しをした。
















     あとがき




 与謝ログ第三期、いかがでしたか。最初はバッドエンドにでもしようかと思ってましたが、やっぱり2人は幸せで終わりたいと思い、普通のハッピーエンドを迎えました。


 与謝野佳志は正義の味方という、ベタな設定にしておきましたが、あくまでも不良という裏世界を歩んできた経験があるため、事件があったら自分の手で救うという思考回路にしかいきません。そして見返りを求めないところも彼ならではの魅力だと思います。

 仁神亜里沙は通常ツンデレキャラをイメージして描いたつもりです。



 余談ですが、この次の作品を描く必要ないと思うので、賀島有我の高校時代を描いてみたいと思います。


 ご愛読ありがとうございます。




  THE END


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