魔術の夜
「……どういう事だ?」
とある室内。
魔術師は焦燥を含ませて携帯電話に向かって問う。魔術師である以上、魔術的な手段を用いて通信することも可能だが、利便性を考えたらこちらの方が上だ。魔術師であるというだけで、魔術に拘るのは二流だけだ。
電話先からの返答を聞き、魔術師は苛立ちを隠すこと無く舌を打つ。
「外部からの魔術師が忍び込んでいる……なるほど、狙いはなんだ?」
魔術師は再度問う。問わねばわからないことも有る。問えば分かることも有る。ならば問うてしまうべきだ。効率は重要だ。
「なるほど、そういう事か……いや、良い。問題はない」
魔術師の目的が何だろうと、盤面はこちらに有利だ。勝利条件はあまりに多く、使える手駒のこちらに多い。
頭数の不利がある可能性もあるが、それはゲームマスターとプレイヤーとでも言うべき、相手との条件格差が原因だ。文句は言えまい。
勝てる。
「方法? 単純に二つある。侵入者を排除するか、針の進みを早めるかだ」
ふ、と魔術師は笑う。
「どちらを取るかと言われれば、針の進みを早める方を選ばせてもらおう。戦闘能力も良くわからない魔術師と戦うなど、御免だ」
魔術師同士の戦闘において、情報はそれなりに重要なものだ。戦場で名乗りを上げて戦うわけではない以上、相手の居場所と戦闘能力の把握、即ち情報収集から魔術師同士の戦いは始まると言える。
相手が持ち込んでいる術式兵装、扱える魔術の程度を知り、奇襲を掛けることが出来れば実力差は覆すことが出来る。
時間をかけて情報を集めることも可能であろう。しかし、それをする必要はない。戦わずに済むのなら戦いを避けるのもまた魔術師の有り様だ。戦場に出て戦う魔術師も居れば、学徒の魔術師も居る。
ここに居る魔術師は、どちらかと言えば後者。フィールドワークを行うこともあるが、それも基本的には理論を実証するのが目的だ。
「儀式は予定より早める。きちんと責は果たす。心配はするな」
そう言って、魔術師は通話を切った携帯電話を異空間に閉まった。
別の魔術師の乱入は予定外の事だ。しかし、全てが全て予定通りになど行くわけがない。その上で目的を果たしてこそ一流と言える。
ならばこそ、やってみせようではないか。
これより始まるは魔術師同士の魔術戦。
魔術の夜はこれより始まる。