露呈
何これ、マジ? 特撮じゃねぇ? アニメだろ
ロボットかよ。ありえねー wwww 今季もロボット物は豊作だな!
これどこだよ。日本だよな? 日本だよ! だって俺生で見たし
魔術? 魔法? ロボ北ww なんかニチアサで見た気がする
いやこれ合成かなんかだろ。特撮? 新番組? ねーよwwww
オーソン・ウェルズの時代じゃあるまいし。 赤いのきめええwwwwwww
じゃあ本当にそうなのか? ロボ勝手にボロボロになってくwww
そんなわけねぇだろ常識的に考えて 僕のエクスカリバー……
だったら、これ結局なんなんだよ……
ぼんやりとした灯りの下、内藤古書堂のカウンターで有羅はノートパソコンを開いていた。有羅が見ているのは、動画投稿サイトだ。視聴者が、投稿された動画にコメントを付けることが出来、そのコメントが動画にオーバーラップして表示され、他の視聴者もコメントを見ることが出来る。
そのサイトに投稿された、とある動画が問題だった。
二体のロボットが、戦っている。片方はロボットから姿を変え、四足の獣のような姿となり、もう片方は左腕のシールドにマウントされた剣を抜き放った。
それは、《グラディウス》と《ルベル》の戦闘を配信したものだった。
最初、それはライブ配信可能な動画サイトで配信され、録画された動画は直ぐ様複数の動画サイトに投稿された。それらは更に転載され、拡散する。動画を見た人間が文章をアップロードし、それらの反応をログとして纏める。増殖し、姿を変えていくその様は、まるで新種の生命体ででも有るかのようだ。
仮にインターネット上から全ての動画を消去することは出来ても、個人が保存したものまではどうすることも出来ない。この動画の存在と影響を消去することは、最早不可能だろう。
動画は、戦闘を録画して、ただライブ配信したものではなかった。
動画にはテロップとそれを読み上げる声が上乗せされており、画面右上には紋章――ピラミッドから覗く目、プロビデンスの目をアレンジしたもの――が貼り付けられている。
テロップは複数の言語で付けられており、その中には当然日本語もあった。読み上げる声は加工された男のもので、言語は英語だ。
男は語る。
魔法、呪術、魔術――そう名付けられる技術は、迷信の存在ではない。それら力ある技術は、一握りの人間達によって、秘匿されつつ受け継がれてきた。この二体の戦闘マシーンは、魔術という技術の産物だ。見ての通り、現行の科学技術をはるかに超越した、ともすれば現実感が異常に希薄な存在に見えることだろう。
魔術とは、このような存在を現出させることも可能な技術である。そのような力ある技術を、一部の人間が秘匿しておくことは許されるだろうか。
否である。断じて、否である。
故に、私達はこうして魔術の存在を白日の下に晒した。魔術を一般に開放するために。隠匿者を断罪するために。魔術によって、人類を祝福するために。
私達の名はアペルトゥス。その名の通り、魔術の解放者を自任するものである。
「いやはやこれはまた、見事に嵌められたって奴だねぇ。火消しが大変そうだ」
皮肉な笑みを浮かべ、右手に持ったマウスを人差し指で叩いてリズムを取りながら、有羅は言う。
今までも、魔術の存在が公になりそうになったことは何度かあった。しかし、その度にシギルムやその前進となった組織によって、事実は隠蔽され、或いは別の事象を上塗りされ続けてきた。
それは一九一四年。ベルギー、モンス。
それは一九三三年。イギリス、ネス湖。
それは一九四七年。アメリカ、ロズウェル。
それは同年。太平洋到達不能極付近、ルルイエ。
それは一九六八年。世界各地、地下。
そして五年前。日本、あの村――
今まで、シギルムとその前進組織群は、これらの事例全てにうまく対処してきた。公的な広まり方は、精々オカルト本のネタにされる程度――そのネタのされ方すらも、シギルム等によって作られたフェイクであるが――で、一般人にそれが事実だと言った所で、馬鹿にされるのがオチだった。しかし――
こうやって大規模に拡散されてしまっては、火消しも誤魔化しもなかなか難しい。いや、不可能であろうと有羅は考える。
「情報化社会って奴だねぇ。いやはや、怖い怖い。上手くやったもんだ。うちもセキュリティソフトとか入れ直しておかないとねぇ」
今までの事例との大きな違いはそれだけではない。この動画を流した存在――アペルトゥスを名乗る個人、或いは団体は、魔術の存在を社会に公表することを狙って行動を起こした。今までは、別の活動の余波で魔術の存在が公になる危険性が出たことはあっても、魔術の公表自体を狙う事は無かったといっていい。魔術の存在が秘匿されていれば有利なのは、シギルムに限ったことではない。むしろ、小規模な魔術結社のほうがその一般との情報格差による有用性は大きい。秘されてこそオカルトである。
その根本を違えてくる存在――アペルトゥス。
「いやはや。鷲介くんもセラちゃんも、これからが大変だ。さて、どう闘ってくれるかな? って奴だね。僕はどうにも出来ないから、見てるだけしか出来ないけどねぇ」
へらへらと有羅は笑う。
あの二人以外なら、今回の事件をどうにか出来たのかどうか、それは誰にも分からない。しかし、実際事件に対面したのが鷲介とセラフィーナである以上、責を問われるのは当然のことだろう。本来シギルムの人間ではない鷲介は、そこから逃れることが出来るかもしれないが――
――逃げないよねぇ、鷲介くん。
鷲介の事はよく知っている。彼が、セラフィーナに対して思うところがあるのも分かっている。さて、鷲介はそんなセラフィーナを見捨てられるだろうか。
「見捨てたかもしれないね。ちょっと前までの彼なら。何せ君は、そういうのが嫌で嫌で――違うねぇ、怖くて怖くて堪らなかったんだから。でも今は、そうは出来ないはずだろう? 何せ――」
独り言を並べながら、くつくつと有羅は笑う。心底愉快で堪らないとでも言うかのように。
「そして、どうする? ジェイナス。君にとっても、予想外だったはずだけれどもねぇ」
リピート再生された動画は、《グラディウス》が《ルベル》を斬断魔術で斬り伏せるところを再生していた。
「シギルム十戒最強の『魔術王』が、これにどうやって対処するのか、見させてもらおうじゃあないか。まぁ、何があっても、僕は君達の味方だがね。僕が居た所で、どれだけ役に立つかなんてのは知らないけどさ」
言いながら、有羅はキーボードを操作して、動画にコメントを残した。
「次はよwwww っと」