祈
化物が蠍になって、ロボットが剣を抜いた。それを紅音はずっと見ていた。化物と剣のロボットがなんなのかは分からない。分からないけれど、分かることがある。それは、剣のロボットは紅音達を守ろうとしてくれているということだ。
あの剣を抜いてから、ロボットはどんどん傷付いている。まるで、暴風の中に立つ老木のように、光を背負いながら必死に倒れまいとしている。
あの剣が、ロボットを傷付けているのだ。それでも、あの剣がロボットを抜いたのは、そうしなければならなかったからだろうか。
その暴威が、さらに増していた。理由は分からないが、先からまるで竜巻の中にでも立っているかのように、あるいはミキサーに掛けられてでもいるかのように、鎧の表面がめきめきと破壊されていく。同時に、剣のロボットの周りを飛んでいた蠍の尾や腕も吹き飛ばされている。
攻撃の破壊力は上がっているように見えるけれど、あの蠍を倒す前に自分が破壊されてしまいそうだ。
それでも、戦い続けている。剣のロボットは戦い続けている。
「がん、ばれ……」
声が出たことに、紅音は自分で驚いた。しかし、その内容には驚かなかった。
がんばれ。そう応援するぐらいしか、自分には出来ない。
あのロボットは、きっと私達を守ろうと、助けようとしてくれている。だからせめて、声をかけるぐらいは、想いを届けようとするぐらいはしなくてはいけない。
だから――
「頑張れ! 剣のロボット!」
出来る限りの声で、紅音は叫んだ。あのロボットには聞こえているだろうか。聞こえなくてもいい、でも聞こえていてほしい。あなた達を見ている人間が、信じている人間が居るんだと知ってほしい。
――それって、嬉しいことだと思うから。
「負けんな!」
紅音が叫ぶ声に、同調する声があった。それはさっきまで這い蹲って逃げようとしていた男だった。
「あんな化物、ぶっ倒しちまえ!」
「やっちまえ!」
ぽつぽつと、声が上がる。逃げきれなかった人の声だ。まるで紅音の声が伝播していったかのように、皆剣のロボットに声をかけていた。
それは、純粋な応援だけではないかもしれない。ただ、あのロボットが勝てなかったらどうなるか恐ろしいから、助けを求めるように声を上げているのかもしれない。
それでも、その想いは純粋な願いではあるだろう。
「頑張れ! 剣のロボット!」
頑張れ、剣のロボット。あの化け物を倒してくれ。私達を助けてくれ。
紅音は、紅音達は願う。祈る。
それが届くかどうか、届いたからどうなるかなどは考えていない。ただ、願う。ただ、祈る――