(2) リ・パニッシュ
【お題】赤色、骸骨、恩返し
その国の一角には、今や廃墟と化した城が在る。
真偽のほど定かではないが、かつてそこにはこの辺り一帯を治めていた国の本拠があった
のだそうだ。
しかし時代は移ろうもの。
押し寄せる時代の波、覇権を争う各国との戦いの中で城は陥落、その国はあえなく滅んで
しまったという。
そしていつからだろう……主を失ったその古城に、夜な夜な無数の幽霊が現れると人々の
間で噂されるようになったのは。
曰く、無念の内に滅びた王とその部下達がこの世に留まり続けているのだと。
いや、実は単に廃墟であることを利用し、賊の集団が根城にしているのだと。
或いは今も尚、城には代々の王が蓄えてきた大量の財宝が眠っているのだと。
そうして噂が噂を呼び、いつしかこの古城は周辺で活動する冒険者達──ないし盗賊の類
にとって古代のロマンと一攫千金の夢の対象となっていった。
時には腕っ節に自信のある賊らが侵入を試み。
時には噂を聞きつけた冒険者の一団が好奇心のまま吸い込まれていき。
時にはこの古城を調査すべく、何度か当代の国軍が動いたりもした。
……だがしかし、そうしてこの城に乗り込んだ者達は、結局誰一人として帰って来なかっ
たのである。
「──」
繁茂した森の中を進む。
そうして三刻ほどが経った頃だろうか、ケイン達の視界の向こうにぽつねんと、丘の上に
建つ古びた城が姿を現したのだった。
「……あれが例の古城か」
ガチャガチャと甲冑の金属音が重なり鳴っている。
くいっと兜を持ち上げ空を仰いだケインは、背後からついてくる同じく鎧姿の一団へと呼
び掛けた。
「全員、一旦止まれ。今回の目的地が見えてきたようだ。ここで一度休憩を取ろう。軽い飲
食であれば許可するぞ」
その言葉に、一団──騎士達はホッと安堵の表情を零して早速野営の準備を始めた。
心なしか鎧の音も小気味良く聞こえる気がする。程なくして束の間の食事休憩に入った部
下らを眺めながら、ケインも近場の切り株に腰を下ろす。
「大丈夫でしょうか? まだ肝心の現場を検めてもいないのに」
「……だからこそ、だよ。ユリア、君には見えないかい? 皆怯えている。敵の正体も分か
らぬままでは仕方ないのかもしれないけれど」
そうしていると、ふと濡れタオルを差し出しながら一人の女性騎士が話し掛けてきた。
副官のユリアである。ケインは彼女と共に、この国の騎士団を率いる立場なのだ。
「亡霊だの何だの、ですか。軟弱な……。いる訳ないじゃないですか、そんなもの」
だがこの副官は上司である彼の温情を温いと捉えている節があるらしい。
しかしケイン当人は苦笑しているだけで、怒るような素振りはない。
元より彼女は真面目なのである。だからこそ常に努力を怠らず、女性ながらに副団長とい
う地位にまで上り詰めている。そこに関しては、少々堅物な気はあるにせよ、ケインも内心
見習うべきとさえ思っている所だ。
「勇ましいな」
フッと微笑って、ケインは言った。
見つめる先は彼女ではなく、休息を取っている部下達。
「だが誰もがそう強くはないんだよ。……君にだって、帰れる場所や人達がいるだろう?」
軟弱。彼女はそう言うが、彼らの不安に見てみぬ振りをしてその命をふいにさせてしまう
ようなことがあれば、自分は指揮官失格だと思うのだ。
一旦休憩を取ってから、いよいよ古城へと騎士団は突入する。
今回王より与えられた任務は、かねてより行方不明者が絶えないこの古城の実態を調査す
ることであった。だからこそ、部下達は件の噂に不安を覚えていたといえる。
「隊伍を崩さず前進! それそれが分担し、全ての方向に注意を配れ!」
ユリアが得物の槍を指揮棒のように振るい、一行は一歩一歩と中へ入っていった。
廃墟だからといえばそれまでだが、城門も入り口もケイン達を妨げることはなかった。
しかし……それが却って不気味ではある。
時折外が見える城内に、騎士達の鳴らす鎧の音だけがいやに響いていく。
「み、見たところ何か変わったものがあるような感じではないですね……」
「普通の廃墟、ですよねぇ。何で誰も帰って来ないんだろう?」
「ま、まさか本当に幽れ──」
そうして、だいぶ中ほどへと進んだ頃のことだった。
再び徐々に不安を覚えてきた騎士の一人が、ふと別の方へ視線を向けたまま固まってしま
ったのである。
「? おい、どうした?」
「顔が青いぞ」
「あ、ぁぁぁ……」
凍り付いた、そう表現するに相応しい様子。
周りの仲間達が不審に思って足を止めていったことで、先頭を行くケインやユリア達もよ
うやくこの異変に気付く。
「そ、そこっ! そこに今目が、目がギロンッって!」
一同の凝視が、一斉に彼の指差し叫んだ方を向いた。
目を凝らす。朽ち果てた壁材と瓦礫の山の中に──無数の骸骨達が立っていた。
「ひっ……!?」
「ま、まさかホントに──」
「何をしているの!? 総員抜剣! 来るわよ!」
騎士達に戦慄が走った。
だがそんな中にあっても、ユリアは冷静であり勇ましい。槍の切っ先を構えると、即座に
状況を把握し一同に戦闘体勢を取らせる。
──沸くように出てくる、というのはこういうことを言うのだろう。
最初の悲鳴とユリアの叫びを合図にするかのように、骸骨達はあちこちの物陰から姿を現
すと一斉にこちらへと襲い掛かってきたのである。
「ぐっ……!?」
「うぁっ!」
見れば、骸骨らは皆武装していた。
多少ボロではあるが、剣に槍、中には弓まで。
隊伍というものはまるでなかったが、それでも四方八方からの白兵・射撃が注いできた事
で外側にいた騎士達の何人かが衝突、負傷してしまう。
「陣形を方円に変更! 盾を活用して班単位で応戦するんだ! 数に押されている、向こう
の勢いに呑まれてはいけない!」
ケインは険しい顔をしながら、それでも抜き放った剣と長盾を巧みに使い分けてこの骸骨
兵らを斬り伏せていた。同じくユリアも彼の横で緻密な突きを放ち、迫りくるこれらを次々
に吹き飛ばしている。
「……まさか、本当にこんな化け物が……」
「だがこれではっきりしたな。襲われたんだ。今までこの城に入り込んだ者達は、皆」
「……。ええ」
骸骨兵の剣や槍先を盾で受け止め、瞬間いなして身体ごと斜めに逸らせる。そうして体勢
を崩した彼らを、ユリアの槍が仕留める。
先刻の自身の言葉を、彼女は悔やんでいるようだった。他の騎士達ほどではないにせよ、
その色白の肌にはつぅっと汗と寒気が伝っている。
「総員、このまま陣形を維持して走るぞ! こんな通路上で戦い続けては潰される。もっと
広い場所に出て、迎撃組と退路確保組に分かれる!」
それから暫く、ケイン達はある種撤退戦のような立ち回りを強いられることになった。
四角形の陣を組んだまま、走る。盾を重ねて壁とし、追いすがってくる骸骨兵らの攻撃に
耐え忍ぶ。
だがそれでも、途中何人かがその刃に矢に倒れてしまった。
存外に奴らの得物は高い殺傷力を持っているらしい。肩は鎧ごと深々と斬られ、唸る矢は
真っ直ぐに飛んできては刺さる。
白銀と蒼で統一された騎士団が、一人また一人赤い水溜りの中に倒れていった。
ケインは自身も多少ダメージを負いながら、しかしそれでも彼らの救助を命じることはな
かった。この状況ではできなかった。
叫べたのは「走り続けろ」と「盾役を替われ」のみ。
数は圧倒的に相手側の利だ。今ここで隊列を解いてしまえば、もっと多くの部下を失う事
になるのは目に見えていた。
まだだ。まだ死んではいない……。
そうむりやり己に言い聞かせ、ケインはユリアや部下達と共に古城内を駆け抜けていく。
「──ッ、ここは……?」
「広間、のようですね。ですがこの装飾の跡……まさか」
そうしてやっとの思いで出たのは、確かにずっと広い場所だった。
だが他の皆と同様、辺りを見渡すユリアの表情は硬い。
先程とは質の違う床の石材、大きな円柱の残骸や絨毯だったもの達。
そして何より──ずいっと視線を遣った向こう側にある、古びた玉座。
「王の間、か……」
「ど、どうするんですか? これじゃあ退路は……」
「奥に螺旋階段は見えますけど……二階から逃げるってのはできますかね?」
生き残った部下達は当初の三分の二ほど。それでも彼らの少なからずは大なり小なり負傷
した状態だった。
鎧や服に染み込んだ赤が胸を痛める。ケインはちらとユリアを見遣り、一旦彼らを多人数
の班と少人数の班に分けて言う。
「ユリア。君は皆とできるだけあの骸骨達を食い止めてくれ。出入り口が一つならそこを固
めて応戦すれば時間を稼ぐことはできるだろう。私ともう一方の班ははその間に、あの螺旋
階段の向こうから退路が作れないか見てくる」
はい。分かりました。
キッと平素以上に表情を引き締めて、ユリアが拝承していた。
ケインはもう一度彼女と、残り大部分の部下達を見渡して頷く。
時間はそう残されていない。既に来た道の方からも、骸骨達の足音が聞こえてきている。
『──』
だが、駆け出そうとしたケインらの頭上から、突然何かが降ってきた。
ズトンという轟音と土埃。思わず足を止めたケインは、目を細めて先制攻撃をしようとす
る部下達をサッと手で制する。
『マタ現レタカ』
『我ラガ主ノ眠リヲ妨ゲル者ドモヨ』
土埃の後。そこに立っていたのは二体の骸骨兵だった。
しかし纏うその雰囲気は、先程までのそれとはまるで違う。
一体は、生きていれば巨躯であったろう身体に、戦斧を担いだ骸骨兵。
一体は、なりこそもう片方に比べ小柄だが、二本の剣を握り締めた骸骨兵。
何より人語を話していた。頭蓋骨の目に赤い光を灯らせ、明らかに敵意を示している。
「……主?」
ケインは見上げつつ、そう小さく呟いていた。
伝え聞く話では、此処はかつて一国の王城だったという。
では、まさか彼らは──?
「団長!」
「……大丈夫だ。それよりそこのお前達、幾つか訊きたい事がある」
ユリアが部下達と共に槍を振るいながら、こちらへ呼び掛けていた。
だがケインは肩越しにそれを見遣り、すぐにこの二体の骸骨兵にこう質問を投げ掛ける。
「──此処へやって来た者達を殺してきたのは、お前達か?」
しん。一瞬静まり返った場。
だがややあって二体は、もう頬肉もない筈なのに哂っていた。
ああ、そうだ──。そう言わんばかりにカタカタと骨を鳴らし、各々の得物を突き出す。
「……そうか。ならば約束しろ。私がお前達と戦おう。その代わり部下達には手を出すな。
後ろの骸骨──おそらくはお前達の部下、仲間達もだ」
「だ、団長!?」
「どうだ? この一団のリーダーは私だ。私さえ始末すれば、後はお前達のやりたい放題に
なると思うが」
『……』
ユリアが血相を変えて止めようとしていたが、ケインは聞く耳を持たなかった。
そんな提案に、二体はどちらからともなく顔を見合わせ、そして頷く。ずしり……存外な
重量が二体分、古びた石畳と絨毯の上に圧し掛かる。
「私も加勢します!」
「いいのか? 正直、分は悪いぞ」
「尚更です。上官を危険な目に遭わせておいて、おいそれと副官がありますか。どうやら団
長の要求通り後ろの骸骨達は止まってくれているようですし、逆を言えばおそらくこいつら
を倒せば活路が見出せるのではないかと」
「……。二刀流の方を頼む。見てくれからして君と同じタイプだ」
ユリアが駆けて来て、了承を得る前から槍を構えて言う。
肩越しに見遣ってみれば、確かに骸骨兵らは傍観の体勢になったようだ。言葉こそ発して
いないが、やはり彼女の言う通りこの目の前の二体の指揮の下で動いているらしい。
ケインとユリア、斧持ちの骸骨と二刀流の骸骨。
双方が適度に距離を取って向き合い、構えた。
『──!』
先手は、骸骨達の方。
やはり存外に速い身のこなしで迫ったかと思うと、二体は戦斧と二刀、それぞれの得物を
二人に振り下ろしてくる。
「ぐぅ……!」「……ッ」
ケインは最初盾で断撃を受け止めようとしたが、すぐに重量差で難しいと判断した。盾ご
と身を捌いて半身、直後滑り込むように戦斧の分厚い刃が床に突き刺さる。
「おぉっ!!」
二刀の振り下ろしを受け止めたユリアは、ぐっと両脚に力を込め一旦槍を手元で一回転、
続く柄先での突きを加えてこの骸骨の将を弾き飛ばす。
それからは、ひたすら二人は守勢に回らされることになった。
斧持ちの骸骨将は力の、二刀流の骸骨将は技の。ケインとユリアも同じくそれぞれのベク
トルでの戦いを得意としていたが、如何せん体格差──というよりも、もしかしたら正者と
死者の違いで向こうに利がある。
部下達がそわそわ、今度は心配で青ざめた表情でこの戦いを見ている。一方で更に後ろで
棒立ちになっている骸骨兵は淡白で、どうにも個別の感情というものが見えない。
『フン。口ホドニモナイヨウダナ。所詮ハ甘イ覚悟ノ若造ニ過ギンカ……』
「……そうかも、しれないな。確かに死しても尚、主を守ろうとするお前達に比べればっ」
何度目かの強烈な断撃。
何度目かの防御からのいなし。
ケインは防ぐことから避けることに方針を変えつつ、いなしたその直後の度に剣を振るっ
ていた。しかし相手は巨躯である。鋭くも致命傷にはならぬ一閃はことごとく斧の柄に阻ま
れ、骸骨将の身体には傷一つ付けることができない。
だがこの斧持ちは、何処か目を細めているような気がした。
それは迷いか。それとも……。
そして何度目かの大振りと、大きく飛び退いて交わすケイン。
この骸骨将は、そこで初めて苛立ちの感情を露にする。
『……チョコマカト。信用ナドデキンノダ。誰モ彼モ、アノ方ヲ傷ツケル……』
全身を震わせて、まるで深呼吸するような動きだった。
その呟きの意味は? だがケインはそんな彼らの疑問よりも、すぐにその動作が何を意味
するのかを半分直感・半分経験で以って察知する。
「皆、避けろ!」
肩越しに振り向いて叫び、自身も大きく身を低くして飛んだ、次の瞬間だった。
何と斧持ちは、その口から濃い紫色のガスを吹き出したのである。
「……!? ッ!?」
「あ、あぶっ……」
溶けていた。そのガスが駆け抜けていった壁や柱、大よその障害物がじゅうじゅうと不吉
な音を立てながら溶け、焼き切れたような断面になっていたのだった。
「団長、皆!」
それがいけなかった。そんなケインらの危機一髪に、ユリアはつい余所見をしてしまって
いたのだ。
『隙アリッ!』
彼女槍を受けていた二刀のバツの字を自ら解き、次の瞬間、二刀流の骸骨将は飛び上がっ
ていた。
そして繰り出されるは、突如分身したその身による一斉攻撃。
ユリアが気付き、迎え撃つには数拍遅かった。
「がっ──!?」
合計六人分。即ち十二本分。
次々と放たれた一閃によって、彼女は遂に斬り伏せられてしまう。
「ユリア!」
『ヌンッ……!』
部下達からの悲鳴。次いで、同じく彼女を見遣ってしまったケインに振り下ろされた、斧
持ちからの強烈な一発。
何度目かの部下達の悲鳴が重なった。強くなった。
頼りの盾はその一撃で大きく凹み、吹き飛び、ケイン自身も衝撃を殺せぬままごろごろと
石畳の上を転がっていく。
『フン。所詮ハコノ程度カ』
『死ヌガヨイ。何人モコノ王宮ヲ荒ラサセハセン』
「ぐっ……」
ユリアはざっくりと切り裂かれた鎧とそこから流れる自身の血を見、それでも尚、遠くに
吹き飛んで仰向けに倒れたケインの下へと手を伸ばそうとした。
自分も意地を張ったからだけど。私だって皆には無事でいて欲しい……。
「──嗚呼、やっぱりそうなのか」
だが、当のケインはズタボロになっても尚落ち着き払っていた。
ビクンと、這いつくばるユリアや遠巻きの部下達が目を丸くする。
何が? 何がやっぱりなのか?
「団長……? 何がなのです?」
「動機さ。彼らが私達を襲う理由だ。……“ただ守っていただけ”なんだろう? 正直敬服
するよ。そんな姿になっても、主と国への忠義を通し続ける。甘い覚悟の若造には、中々真
似できそうにない……」
『……』
ユリア以下部下達が、二体の骸骨将が、そして気のせいか入り口付近の骸骨兵らがふいっ
とその言葉に押し黙っていた。
場の空気が変わったような気がした。具体的には、剣呑さが薄れたというか。
斧持ちと二刀流が押し黙り、武器をゆっくりと下げたのを視界の端で捉えながら、ケイン
は仰向けのまま続ける。
「いるのでしょう? この者達の主とやら。かつてこの国を治めていた、この城の主殿」
『……』
するとどうだろう。それまで何もなかった玉座に、ふと金色の灯火が集束し始めた。
その変化に、二体が他の骸骨兵までが、一斉に平身低頭の反応をみせる。
『気付いておられたのか。てっきり私はまた我々を“退治”しに兵が寄越されたとばかり思
っていたのだが……』
現れたのは、少女だった。
とはいえ彼女もまた骸骨であることには変わりない。ただその発する声と纏う衣が女性用
であるとみえる故、そう判断できるだけの事だ。
「少なくとも、我々は違いますよ。何故この城で行方不明者が続発しているのか、その原因
を調査せよというのが私達の仕える王からの命です」
寝たままでは失礼と思ったのだろうか、ケインは少々無理をしつつも身を起こして片膝を
つき答えていた。
ユリアが、二体の骸骨将が、驚きで目を瞬いている(ように見える)。
ふふっ。幼い骸骨の女王は笑った。
そこで和らぐ。それまでこの城全体を覆っていた剣呑さが、今度こそ完全に霧散していく
のが分かった。
『すまなかったな。なにぶん、これまでずっと私達は化け物扱いされてきたものでな』
『ヘ、陛下』
『宜シイノ、デスカ?』
『よいも何も、彼らに攻め滅ぼす意思がないのだろう? なら我々も“戦う”必要などない
ではないか』
『ハ、ハイ……』
『ソウデスガ……』
一方で、まだ将二人は戸惑っているらしい。実際先程まで部下達と共にケインらを殺そう
としたのを、いきなり百八十度方針転換するよう意識が追いつかないのだろう。
だが骸骨の女王は諭した。そしてケイン達に言った。
『許せ──とは言えんのだろうな。これまでも、お前の部下達も、私達は傷つけた。……城
内を見るに、まだ彼らも死んではいないようだが』
「ッ!? 本当ですか?」
『うむ。生ける屍となったが故の能力かの。気付けば城内のことは、手に取るように把握で
きるようになった』
驚いて言葉を失っているユリアに代わり、ケインが目配せで場の部下らに合図した。
途中の皆を拾ってきてくれ──そういう意図だとややあって悟った彼らは、すぐに敬礼の
ポーズを取った後、親切にもいつの間にか左右に分かれて道を作ってくれていた骸骨兵らの
間を駆けて道を戻っていく。
『改めてすまなかった。必要があれば治療を手伝おう。まぁこのような廃墟では、生者のそ
れを行うには悪環境かもしれんが……』
「いえ。こちらこそすみませんでした。貴女がたの心も知らず、ただ蹂躙することしか考え
てこなかった、これまでの我々こそ謝罪すべきです」
女王の謝罪とケインの謝罪。両者の意思がそこに、ようやく交わっていた。
何の事はなかったのだ。
確かに彼女達は不死者で化け物で、今を生きる者達からは忌み嫌われるかもしれないが、
それでも祖国というこの地で静かに過ごしたい──ただそう願っていただけだったのだ。
「……私達も行こうか。無事だとはいえ、きちんと見舞ってやらねば」
「え? あ、はい。……ですが、いいのですか? 陛下の命は……」
傷は決して浅くはない。だがケインはのそりと歩き出し、そっとユリアに肩を貸して起こ
してやる。
それでも尚、彼女は戸惑っていた。
まぁ無理もないだろう。むしろこういう反応の方が普通だ。斧持ちが言ったように、自分
はやはり甘いのかもしれない……。
「言っただろう? 私達の受けた任務はこの城の調査だ。彼女達を討伐することではない。
少なくともこうして意思疎通ができたんだ。任務は、達成されたんじゃないか?」
どうにも堅物で、だけどもそこが放っておけない副官を支えながら、ケインは笑う。
彼はカツンと踵を返した。
するとその刹那、ピンッと斧持ちの斧、その刃先がゆっくりと柄の途中から横にスライド
すると、大きな音を立てて床に落ちる。
「それに──あんな忠義の騎士達を、私は徒に失わせたくないよ」
(了)




