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週刊三題  作者: 長岡壱月
Train-18.September 2013
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(1) 王道会議

【お題】脇役、幼女、際どい

 そこには国中から人々が集まっていた。

 だだっ広い会議室、中央にぐるりと設置された円卓とその周囲に点々と置かれたラウンド

テーブル。後者は主に参加こそせど遠巻きであろう者達の席となっているらしい。

「──さて、では会議を始めましょう。といっても、堅苦しくせずとも構いません。皆さん

には存分に現状の不満を挙げてください。随時こちらで拾い上げます」

 円卓の上座で、薄眼鏡をかけた青年がそう言って始まりを告げていた。

 ただ、正装とはいえ、その隣の玉座のような豪奢な椅子に座る初老の男性には到底迫力が

及ばなかったが。

「そ……それでは、私から」

 おずおずと、最初に手を挙げたのはごくごく普通の、しかし何処となく気の弱そうな男性

だった。

 すると眼鏡の青年──官吏はすぐに「どうぞ」と促し、男性はごくりと息を呑む。

「ええとですね。これは他の皆さんもそうだと思うのですが、彼らが町に来ると正直いつも

ビクビクするんですよ……。いきなり上がり込んで来たかと思うと、片っ端からタンスや壷

を漁っていって……この前は置き薬の薬草を根こそぎ持っていかれました」

「ああ。それ、うちもだよ」

「こっちなんてゴールドだぜ? ヘソクリだったんだ。カミさんの目の前でやられたもんだから、

その後お説教でさぁ……」

 自身が付け加えたように、その被害に悩む市民らは他にも大勢いたようだった。

 俺も、私も。円卓席も外周席も関係なく彼らは手を挙げ一斉にそう不満を漏らしたが、当

の男性は妙なうしろめたさで畏まっている。ちらり……。議長とその隣の老人を横目に見て

以降はすっかり黙り込んでしまう。

「……早速、想定通りの案件が出てきましたね。ですが、彼らは勇者権とっけんが与えられています。

物資の提供は市民の義務、ということになっていまして──」

「分かってるよ。だけど、なぁ……?」

「ああ。せめてこっちに一声掛けてくればまだマシなんだが」

「ないない。だって連中の中には鍵を開けてまで上がり込んで来る奴もいるからさぁ……。

この前、お隣さんがそれをやられたみたいで」

『ああ……』

盗賊シーフが面子にいるとこういうささやかな抵抗も意味が無いんだよなぁ」

 手元の資料に目を落としながら、官吏が言った。

 だが参加した市民らは頷きながらも、されど納得していない様子がありありと窺える。

「陛下。これはやはり」

「うむ……。流石に野放図じゃの」

 それでも開口一番予想通りと漏らしたように、彼らもまた対策の用意はあったらしい。

 官吏が隣の老人──王様に目を遣って口を開くと、彼もまた頷いた。ゴーサインである。

 それを受けて官吏達が出席者達に資料を配った。

 ぱらぱらと捲ってみれば、どうやら条例の草案であるらしい。

「新しいお触れシステムの案となります。これまでのように器物オブジェクトを調べれば無条件に入手できるのを

止め、基本、町の中ではNPCに話し掛けることで入手するという仕様にしたいと思います。

提供の有無は皆さんの任意で行えます」

「無論、これを破れば勇者候補かれらとて牢屋行きじゃ。……よいだろうかの?」

 途端に市民達の顔がぱあっと明るくなった。

 互いに顔を見合わせ、頷き合う。文句なしだと言わんばかりに、彼らは官吏と王に最大級

の謝意を表明する。

「……それでは、次の案件に移りましょう」


 これこそが、会議の目的であった。

 当初、魔王さえ討伐できれば人々の暮らしも安泰かと思われた。

 だが違ったのである。その討伐の為に募った有志──勇者候補達の立ち振る舞いは、今や

世界のあちこちで問題視され出したのだ。

「毎回、同じ台詞を言わなきゃいけないってのが苦痛なんですが」

「分かる分かる。ここは○○の町です、みたいなアレな」

「こっちも仕事があるからなぁ。連中が来る度に人員を割かないといかんというのは確かに

負担だな」

「……ふむふむ。では、受け持ちの情報を町の入り口に掲示するという形を採りましょう」

 災いを払い除けるだけの数を求めたのがいけなかったのか、それとも武功目当ての人間に

質を問うのが間違っていたのか。或いは──両方ともか。

 勇者(仮)というある種の特権層を生み出してしまったことは、世界にとり魔王にも匹敵

しかねない──理不尽な武力などという“遠い”脅威よりも、より身近な頭痛の種と為って

しまっていたのである。

鍛錬レベリングの為に昼夜問わず魔物と戦われるのは結構迷惑なんですよねぇ……。昼はともかく、

夜がうるさくって眠れなくて……」

「外の安全を確保してくれていると考えれば、まだ我慢は──」

鍛錬そっちならまだいいよ。でも大抵あいつらって魔物が溜め込んでる金目当てじゃないか。

俺んとこは比較的力量レベルの高い魔物がうろついてるから、体のいい狩場にされてるんだぜ? 

喧しいの何の……」

「……ふむ。地域差のある問題ですね。考えうる策としては、夜間町の周囲何キロでの戦闘

を禁止・制限──といった規制を設けるのが妥当かと」

「持ち帰りの案件じゃな。詰めの協議が必要そうだわい」

 故に各国は問題解決の為の公聴会を開くようになった。定期的に国中の人々に呼び掛け、

勇者候補らに関わる不満・意見を広く聞き入れる為である。

「王様、もっと自由に品揃えをさせてください! 銅の剣や皮の盾ばかり売っていても利益

が中々上がらないんです!」

「……ふーむ、そう言われましてもねぇ。新米の候補生にそもそも資力は無いでしょう?」

「だ、だったら王宮からの支給品のグレートを上げるというのは? 装備が良ければ、多少

腕が悪くとも魔物から一回の戦いで巻き上げられる金品も増える筈です」

「そうじゃが……正直、厳しいのう。なにせ人数がいる分、平均を落とさねば財政が破綻し

てしまうんじゃよ」

「実際に、ここ数年は現物給付を廃止して500ゴールドのみにしてますからねぇ……」

 尤も、勇者──という特権制度をすぐさま廃止しようという話には至っていない。

 それは曲がりにも、彼らの存在が各地に潜む魔物を間引いてくれる兵力となっているから

に他ならない。

「はーいはーい。あのね? 何日か前から、ゆうしゃのおにいちゃんが何度も私に話しかけ

てくるの。君、かわいいねっていってくれるのー。パパとママはイヤするんだけどねー」

「……親御さん。後でそいつの詳しい人相を照会させて貰えませんか? ただちに牢屋にぶ

ち込んでおきますんで」

「は、はい」「お、お願いします……」

 軍隊──兵士を派遣すれば、当然それだけの人件費を出さねばならない。

 だが勇者(仮)の肩書きさえ与えておけば、彼らは一々命令せずとも戦い続けてくれる。

 好都合だった。だからこそ各国は志願者──諸々の欲望を、もしかしたら清らかな正義を

抱く者達を利用してきたと言っていい。

 替えの効く、それでいてほんまるにダメージが少ない、勇み足の矢たち。

 成果を上げればおだてて更に敵地へと、途中で力尽きれば残念だったとポーズだけは取っ

ておいて、その実は彼らを体よく使い捨てている──。

「……」

 だからこそ、彼らの傍若無人はそもそも自分達が撒いた種ではないのか……?

 決して顔には口には出さなかったが、そう王はフッと内心、仮の玉座で片肘をつきながら

思う。


「──」

 この日も、公聴会はそうして一見つつがなく進んでいるように見えた。

 実際、今回も多くの貴重な生の意見が聞けた。王は勇者──というおおよそ蛮勇を伴う使

い捨ての駒を手放すことはなく、一方で彼らをより無害で有益な駒にしようと動くだろう。

 それは……何もこの国だけではない。きっと他の国の王も、公聴会でも同じな筈だ。

「……?」

 その最中、円卓周りのラウンドテーブルの一角から一人、目深にフードを被った男性が音

も立てずに場を後していた。

 官吏はその動きを目の端で捉えてこそいたが、呼び止めることはできなかった。

 案件処理はまだ続いており、参加市民らの挙手がまだ止んでいなかったこともあったが、

何より入場はともかく退席にこれといった条件は設けていない。いち官吏としては特に注意

するものでもない──そんな思考が働いたからだった。

「よ、よろしいのですか?」

 そうしてフードの男が会議室を出て暫くしてからだった。

 同じくもう一人、彼の後を追うようにまた別の老人が駆け寄ってくる。

 無言のまま、男は警戒するように暫く周りを見ていた。

 だが既にこの廊下には彼ら以外に人影はなかった。此処はとある地方の官庁者であり、巡

回している兵士もいる筈なのだが、フードの下から覗く眼光はまるでそんな気配すらも遠ざ

けてような印象を与える。

「……興が醒めた。余が手を下さずとも、あれではいずれ互いを潰し合うだろう」

「な、何と!」

 彼のその言葉に、老人の方がやたら仰々しいリアクションを取って仰け反っていた。

 ふるふる、首を横に振って反抗のポーズ。

 すると彼は何と──その老人の顔を剥ぎ取ると、真っ青な肌と刺青を持つ悪魔族の姿へと

変わったのである。

「一体何の為にここまで来たというのです! 目障りな勇者どもを一掃する為に各国の王を

根本を絶ちに来たのではありませんか!」

「……声が大きいぞ。オズワルド」

 耳元でヒステリックに叫ぶ老人──悪魔・オズワルドに、フードの男はぴしゃっとそれだ

けを言って黙らせた。

 ハッと我に返って口元に手を当て、辺りを見渡すこの老齢の側近。

 だが元より抜かりはない。此処に来た時から既に、魔力で人払いを掛けているのだから。

「……」

 深くため息を一つ。男はややあってフードに手をかけた。

 はらりと首の後ろの下がる布切れ。その下からは闇のように黒々としたぼさぼさ髪と羊の

ような二本の太い巻き角、そして鮮血を思わせるような紅の瞳が覗く。

 彼こそが、魔王だった。

 実際のところ他愛もなかったのだ。こうして素性を隠せば、策を巡らせればいくらでも付

け入る隙が在るのだと分かった。

 だから、だからこそ魔王はまた一つ大きなため息をついた。

 供についてきた側近が「魔王様……?」と頭に疑問符を浮かべている。

「……馬鹿馬鹿しい。こんな世界を手に入れて、俺はどうしようというのだ……」

 魔族が踏み入れても尚、廊下の窓から注ぐ日差しは穏やかで温かい。

 暫し続いた静かな仰ぎ。

 やがて誰にともなく、しかし確かに聞き取れる声量で、彼はそう独りごちたのだった。

                                      (了)

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