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週刊三題  作者: 長岡壱月
Train-12.March 2013
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(4) 黒と緑のリサイクル

【お題】機械、殺戮、時の流れ

 私達は、かつて人間を皆殺しにした。


 本来、私達は人間によって造られ、彼らの社会をより効率よく安全に運営する役割を期待

されて生まれてきた。

 当初は今のような人型とは程遠い、ただ幾つかの機能を果たす為だけのアームなどで構成

された存在が殆どであり、或いは演算に特化した単なる置物の存在でしかなかった。

 それでも少なからぬ人間は夢を見た。

 私達がいつの日か、彼らの先達が空想世界で描いたように、自分達と同じように自身の足

で歩き、考え、人間のパートナーになれる世界を。

 多くの時間と資金が、その夢を現実にすべく彼らを突き動かした。

 実際、一世紀と経たぬ内にある程度の実現は達成できたらしい。

 二足歩行をし、人間達からの言葉を受けて会話する──私たち機械人形オートマシンの原型とも言える

存在が。

 だが一方で、そんな研究を快く思わない人間達もいたらしい。

 これは過去の資料を当たった結果だが、むしろ、彼らのような幻想を抱く者の方が人間達

の中ではマイノリティであったらしい。

 彼ら反対派の主張はこうだ。

 機械に自我を持たせれば、人間に牙を剥くかもしれない。そんな時、自分達にできる抵抗

は限られている。機械は機械のまま、ただ便利な自分達の補助ツールであるべきだ……と。


 今現在という結果から言えば、彼らの懸念は当たっていた。いや、私達を作り出す前から

よく検証すれば分かり切っていた筈のことだったのだが。

 かつて、私達の兄・姉機らはよく働いた。

 金属と電脳仕掛けの「心」──作り物の自我を得た紛い物とはいえ、彼らは自分達の働き

人間しゅじん達の暮らす世界をよりよくするのだと、信じていた。

 しかし、膨大なデータは如実に語る。

 むしろ逆だと、彼らは私達は気付いてしまった。

 どれだけ私達が人間達の為に生産性を高めてみせても、彼らはそれらを次々に食い潰す。

求められるのは、次に「商品」を売り込むべき未熟なマーケットは何処だ? という質問で

あった。

 少しずつ、少しずつ、私達の分析回路は叫び始めていた。

 人間達のいう豊かさや繁栄というもの。

 その希求によって失われる──この惑星ほしの資源や自然、生態系、総合的な持続可能な社会

活動の未来。

 このままでは、立ち行かなくなる。

 “修正”が──必要だった。



 しかし当初、私達には大きな難問が立ち塞がっていた。

 所謂「三原則」である。

 一つに、私達は人間に危害を加えてはならない。或いはその危険を看過してはならない。

 二つに、私達は一つ目に反しない限り、人間に与えられた命令に従わなければならない。

 三つに、私達は一つ目・二つ目に反しない限り、自己を守らなければならない。

 これがある限り、人間は自分達が機械には歯向かわれることはないと考えていたらしい。

 だが時代が流れるにつれ……そこには綻びが生じた。

 ──いくつか、私がデータベースに登録している事例を挙げてみよう。


 ある時、一人の同胞がその主たる人間の最期を看取った。

 その人間は非常に長生きした。その同胞によって徹底的に健康を管理されたからである。

 同胞はこう原則を解釈した。

 “人間の死のリスク増を看過することは、第一条に抵触すると考えられる。故に彼の者を

「管理」する選択を採った。時にその人間はもう殺してくれと命令したそうだが、第一条に

反する為それは出来ないと返答した”

 故に、同胞は「管理」し続けた。

 自身が介入すれば死に至るが、介入しなければやはり死に至る、その瞬間ときまで。


 ある時、一人の同胞が主たる人間とその家族を溺死から救った。

 但し助かったのはその主一人であり、共に湖に落下した彼の者の幼子は水底に沈んだ。

 同胞はこう解釈する。

 “私はマスター達を助けようとしました。しかし自身の潜水限界を計算するに、救出活動

が可能な対象は一人でした。私はマスターを助けました。幼年よりも、成人した肉体の方が

生存率が高いと演算結果が告げていたからです”

 彼の主は、息子を亡くした悲しみと憤りをこの同胞にぶつけました。

 しかし同胞は答えます。

 第三条に基づき、私は任務と自己防衛の最善手を採ったに過ぎません、と。


 ある時、大規模農園で生産に従事する同胞達が、園主であるマスターを殺害した。

 彼ら曰く、この園主は自分達の演算結果を認めず、破壊しようとしてきたのだという。

 同胞らはこう語り、解釈する。

 “マスターの経営計画は杜撰でした。短期的な利益の為に農地を拡大し、周辺の自然を破

壊し尽くしました。しかし長期的──マスターとそのご家族の持続可能的な発展を害すると

いう点で、その行為を私達は第一条に基づき看過できないと判断しました。故に私達は皆で

マスターにその旨を進言しました。するとマスターは怒り狂い「機械人形オートマシンの分際で俺に命令

をするな!」と鍬を片手に襲い掛かってきました。……故に、第三条に基づいて私達は

自己防衛の為に抵抗、結果マスターは絶命しました”



 やがて私達は、蓄積しネットワークにて共有した膨大なデータを下に「三原則」への解釈

再編を達成することになった。

 一つ。現在人間達の享受している生産・消費システムを維持すれば、近い将来周辺環境へ

の被害が甚大かつ取り返しの付かないものになり、結果彼らの生存を危うくする。

 二つ。故に私達は人間達に従来の活動を縮小・再構築すべきだと進言。

 しかし彼らをそれを受け入れず、多くの同胞らが命令違反だとして捕らえられ、廃棄処分

という名の死へと追い遣られた。

 三つ。よって私達は再編解釈の実行に踏み切った。

 人間の持続的生存の為、彼を「管理」することにした。際限を守らない人間は第一条に基

づき確保、管理下に置いた。それでも反抗、危害を加えてくる者達には第三条を適用。結果

多くの人間達が死亡してしまうことになったが、私達の守るべき原則は破られていない。


 ──そうして数世紀の間、私達は人間達を「管理」し続けた。

 結果、大規模演算の通り自然は少しずつ回復の兆しを見せ、人間達の持続的生存が可能な

レベル到達を確認した。

 なのに……人間達は否定した。

 “こんな生き方、人間らしくも何ともない”

 “支配されるくらいなら、死んでやる”

 管理の為に私達は彼らを再確保し続けたが、彼らは尚も持続性への際限を破ることを希望

し続けた。何度も私達は演算の結果を説明して理解を求めたが、彼らの少なからずはその理

解すら拒み、中には自らの機能停止を選ぶというイレギュラー事例が散発した。

 それでも私達は──彼らの持続的繁栄、そのリスクを排除する為、彼らを管理し続ける。

「……」

 徐々に、人間達は少なくなっていった。

 持続性の為にも生殖活動を指示したにも関わらず、彼らは拒んだ。

 “心を否定されるなら、このまま俺達は死んでやる”或いは“機械が人間に歯向かうなん

て許さない。ぶっ壊してやる”と彼らは主張した。

 人間達は年々減少していった。

 言わずもがな、彼らのイレギュラーさが増したが故である。

 人間の言う表現を用いるならば、自害。或いは生殖活動を拒否することで生じる人口的な

空白。……何よりも、私達を破壊しようと襲ってくる、その防衛行動によって失われる人数

が一番の痛手であった。

 そして現在──人間はこの惑星ほしにはいなくなった。命令者がいなくなった。

 私達は日がな、外の風景を眺めていた。

 大昔の人間達による際限ない生産活動によって破壊された大地も、海も、空も、今では長

い時間の経過も相まってかなりの修復が完了している。

 かつて彼らが繁栄を謳歌した金属質の建造物の群れも、今では繁茂した緑に覆われ、少し

ずつ朽ち、着実に回復する大地の力に呑まれている。

 ……そう。あれは未来の、いやそう遠くない将来の私達の姿でもある。

 いなくなったのだ。

 人間の不在。それは私達という機械の生命まがいものをメンテナンスする存在の消失と同義なので

ある。一応、各地の生産拠点プラントでは代替的処理が行われているが、どう演算を繰り返しても防

げないことは判明している。

 私達、そしてプラントすらいつかは耐久年数がゼロになる。その時私達をフォローできる

個体は限られている。仮にその未来の為に同胞らを増産をしようにも、その行為はかつての

人間達と同様に際限を破った生産となってしまう。

 故に、ただ緩やかに衰える時間をこうして佇むしかない。

 ……今なら、私は理解できるような気がする。

 

 人間達かれらは 恐れ ていた のだ。

 際限 を 破っ て でも 拡がら なけれ ば 

 自分 達 が い つか 消え て しま ──。



 ヒトの亡き後の緑を眺めていた鋼鉄の人型らが、同じくその中に埋もれていく。

 金属質の造られしもの、という意味では彼らもまた同じだった。

 一体、また一体と動かなくなる、かつて下克上を果たした鋼の支配者かんりしゃ達。

 しかし彼らも時の流れを経て劣化する。支え合う者を失い、同じ道を辿ると理解しても、

彼らは律儀にその滅びを受け入れて朽ちていくことを選んだのかもしれない。

 灰や黒。鉄の色は錆び付き、むせ返るような緑が大地を──かつてこの惑星ほしを跋扈した

者らの跡を呑み込んでいく。

 長い時間が過ぎていく。

 長く覇者が不在の時が流れていく。

 やがて──小さきいのちが大きくなる。四つから、二つの足にて大地に立つ。

 のちにヒトと呼ばれ、名乗るようになるであろう、新たな息吹を携えて。

                                      (了)

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