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週刊三題  作者: 長岡壱月
Train-7.October 2012
35/500

(5) 高次的勇者様

【お題】影、矛盾、暗黒

 その昔、ある所に剣と魔法の世界がありました。

 東西南北、そこには幾つかの大国があって、もっと幾つかの小国や諸侯領があって。人々

は権力を傘に贅を尽くす王侯貴族を見上げ、影でこそこそと愚痴やら不満を吐きながらも、

何だかんだと言いつつ平和にのんびりと暮らしていました。

 しかし、稀によくあるように、この世界にも暗雲が立ち込めます。

 ある日『魔王』を名乗る魔物の王が現れ、各地を征服し始めたのでした。

 国々は始めの内、共同で軍隊を出して彼の者に対抗していましたが、魔王とその取り巻き

の力には及びません。歳月を経るにつれ、増えるのは犠牲者の数と魔王軍が支配下においた

土地の広さばかりでした。

 徐々に、人々は諦め始めていました。

 もう昔のような穏やかな時代は来ないのではないかと。

 このまま世界は闇に閉ざされてしまうのではないかと。

 ですが、希望はあったのです。

 破壊と混沌を撒き散らす魔王軍に、敢然と立ち向かう強き者。その仲間達。

 その眩しいほどの活躍に、人々は彼らをこう呼ぶようになりました。

 『勇者』様、と──。


魔王「ククク……よく来たな勇者よ。我が城、この玉座まで辿り着いた者は久しぶりだ。褒

   めてつかわそう」

勇者「五月蝿ぇな。御託はいいからさっさと始めようぜ」

魔王(……な、何だか今回の勇者は随分と粗暴だな。まぁ人間も色々いるんだろう)

  「ク、クク……血気盛んな小僧だ。ところで、一つ質問していいか?」

勇者「何だよ?」

魔王「何故“勇者が十人もいる”のか教えて欲しいんだが」

勇者「勇者が何人もいちゃ悪いのか?」

魔王「え? だって普通、勇者って選ばれし者だろ? そうホイホイ出て来るものじゃない

   と思うんだけど……」

勇者「お前、意外と頭固いんだな。一人強い奴をぶつけるより、大人数で攻めて行った方が

   勝てるだろうが。兵力で押すのは戦術の基本だろ。それでも一軍のトップかよ」

魔王「いや、でも最初の内は何度か大軍がうちに来てたんだが──」

勇者「強い奴って言ったろ。誰がレベル10にもならない雑魚の群れをと言った。頭使えば

   分かるだろうが。それとも何か、お前“俺強えー”が好きなのか? 正直言ってそれ

   は格好悪いぞ。今はまだ流行りが熱を持ってるけど、冷めてる連中も多いし」

魔王「し……しかし簡単に儂が倒れたらいかんだろう。色々と」

勇者「何でだよ。お前がやられなきゃずっとこの茶番を繰り返すだけだろ? 周りの連中が

   グダグダやってるから、面倒だけど俺が来たってのにさ」

魔王「茶番……。儂の魔王ライフが、茶番……(震えた小声)」

勇B「何か落ち込んでるぞ。……いいのか?」

勇C「いいんじゃないか? むしろチャンスだろ。サクッと殺っちまおーぜ」

勇D「いや待つんだ。これは僕達の油断を誘う罠かもしれない」

勇E「そうかしら? だってコイツ、今まで僧侶かいふくやくから真っ先に潰したり、戦士に盲目を掛け

   まくったりしたチキンなんでしょう?」

勇F「マジで? おい皆、MP温存しとけよ。誰か狙われたらすぐに回復出来るように」

勇G「大丈夫だろ。何の為に王様脅して十億ゴールド貰って装備整えたんだよ。状態異常と

   か属性防御は万全にしてきたろ?」

魔王「えっ?」

勇者「えっ?」

魔王「脅したって……お前らそれ犯罪だろ」

勇A「犯罪も何も、世界の危機なんだろ? 金ケチってどうするんだよ。これまでやられた

   連中だけでも相当な損失だぜ。普通ここまでやられたら万全の体勢で来るだろ」

勇H「というか、魔王が犯罪を咎めるとか、それ何のギャグ? プスス……」

魔王「……。少なくともお前達が今までの勇者とは違うことはよーく分かった。つーか卑怯

   じゃね? 普通勇者パーティーって勇者・戦士・魔法使い・僧侶とかが基本だろ?」

勇I「またまた~。そう言っておいて職業別の弱点をねちねち攻める気なんでしょ?」

魔王「言い方が悪いわ! 戦略と言え! というかお前らこそ“俺強えー”じゃないか! 

   全員勇者ばんのうタイプとか酷いぞ!?」

勇A「そんな事はない。これでもパラメーターや習得技能を分担している」

魔王「えっ?」

勇A「先ず俺、勇者BとCは万能型だ。全体の指揮を執る」

勇B「ちなみにAが真ん中。俺とCが両端を担当するぞ」

勇C「本当は俺が真ん中に行きたかったんだけどな~……」

勇D「で、僕達DからFまでは戦士型だよ。攻撃・防御にステを振って肉壁をやるんだ」

勇E「Dが防御、私がスピード、Fがパワータイプね」

勇F「地味にMP一番低いんだよな。ま、その辺りはレベルを上げて物理で殴ればいい」

勇G「そして残りの俺達四人が魔法型だ。MPと魔力にステを振って後衛を担当する」

勇H「ちなみにGとあたし攻撃、Iが妨害、Jが回復メインの予定だよー」

勇I「ねちねち攻めちゃうよ~? フフフッ♪」

勇J「……(回復役が真っ先に潰されると聞いて全身を震わせている)」

魔王「そ、そうですか……。いや、でも能力ってそんなに調整できるものか?」

勇A「は? ドーピング使ったに決まってるじゃん。裏商人から買い占めたり、街の中に隠されてる

   分を皆で捜して分配したんだよ」

勇B「それを考えると、勇者って得だよなあ。他人ん家に入っても親切にしなきゃいけない

   って決まりがあるからアイテムがっぽがぽ」

勇C「むしろ街に行く目的ってそれだからな」

魔王「あの……。じゃああちこちで睨みを効かせていた儂の部下達は?」

勇D「勿論、倒しました。あ、レアアイテムどうもです」

魔王「あ、いえいえどうも……って違うわい! くっ、よくも……! つーか鬼だお前ら。

   勇者って肩書きを利用してそんな悪どい事を……」

勇E「何言ってるの? そもそもあんたがこういう面倒を起こしたからじゃない」

勇F「ま、そのお陰でこうして遠慮なく武器を振り回せる環境が出来たんだし、おめーには

   感謝しねぇといけねぇかもな!」

勇G「しかし……それも倒してしまったら終わるね。僕達の特権もきっと討伐が終わったら

   王様に取り上げられちゃうんだろうし」

勇H「えー。イケメン王子様との結婚はどうなるのよー?」

勇J「……王様には王女様むすめさんしかいなかった気がするけど」

勇H「くそっ! あの爺、騙しやがったなッ!」

勇I「落ち着けって~。あんな老○連中の揃った国を貰っても面倒臭いだけだぞ?」

魔王(……何か勝手に話が進んでいる気がする。いや、だがこの流れを利用すれば)

  「なら、一つ提案がある」

勇A「何だよ?」

魔王「そんなに嫌なら、儂と組まないか? 代わりに世界の半分をくれてやる」

勇者『嫌だ』

魔王「即答っ!?」

勇A「馬鹿か。人の話、ちゃんと聞いてたか? 俺はこのグダグダが鬱陶しいから終わらせ

   に来たって言ってるだろーがよ」

勇B「おうよ。俺、今回の稼ぎを持って帰ったら母ちゃん達に温泉旅行をプレゼントする気

   なんだよ。だから今の物騒な世の中じゃ困るんだ」

勇C「つーか、半分じゃなく全部寄越せよ」

勇D「それにこの手の話には“裏ボス”がいるものですからね。彼らも始末しない限り安心

   は出来ません」

勇E「確か輝きの玉だっけ? さっさと渡してよ」

勇F「物理で殴れないのは面倒なんだよなー。というか多過ぎじゃね? 裏ボス系の絶対無

   敵みたいな設定」

勇G「仕方ないですよ。合理的な説明を付けるにはそれぐらい分かり易くないと。遠回しな

   ホラーは実感が湧かないですし」

勇I「でも理屈で雁字搦めにしても冷めちゃうんだよねぇ……。人間って面倒臭いよねぇ」

勇H「あの爺……帰ったら八つ裂きにしたる……ブツブツ」

勇J「……チート乙」

勇A「ま、そんなのはどうでもいいんだよ。要はぶっ倒せばいいんだしさ」

勇者『……』

魔王「ひっ。ちょ、ちょっと待──」


 かくして、魔王の玉座に辿り着いた勇者様──もとい勇者達はずらりと彼の王を取り囲み

ました。

 抜き放たれた剣や斧、掲げられた魔法の杖。その全てが脂汗をびっしりかいた魔王に向け

られ唸りを上げ始めます。

 万全を期して集った──もとい傾向と対策を頭に叩き込んだ一行は一気に魔王を圧倒、遂

に長く人々を苦しめてきた魔物達の王は倒されたのでした。

 めでたしめでたし。

魔王「こんなのって……無いだろ……」

 尚、この後勇者達は魔王の盟友うらボス達を屠りながら世界中を闊歩したそうです。

                                      (了)

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