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週刊三題  作者: 長岡壱月
Train-22.January 2014
109/500

(4) ピリオド

【お題】灰色、正義、記憶

 辺り一面の灰色の中に点々と、大小の丘が遠くに見える。

 いつからか世界は、大地はこの一色ばかりに染め上げられていた。

 そこに生命の息吹と呼ばれたものは見受けられない。ただ時折冷たく風が吹き、厚く積も

ったこの灰をさらさらと動かしては均す。

「オーイ、コッチニモ処理車ヲ頼ム!」

 そんな世界で、彼らは今日も働いていた。

 形容するなら──機械人形ロボットだ。大きい者、小さい者、それぞれ特化した性能を備えている

者。今日も彼らは灰色の大地に繰り出し、熱心にこの果てしない灰をざくざくと浚っては並走

してくる大きな車両が開く背後の口の中へと流し込む。

 この処理車が肝だった。

 人形ロボット達は大地をかじき、放り込む。処理車は放り込まれた灰を内部の装置で何度もろ過し、

やがてカチカチに乾燥した薄灰のブロックにして吐き出す。

「今日モ随分ト沢山ニナッタネ」

「当タリ前ダヨ。汚染灰ハマダマダ大量ニ残ッテイルンダ。……安置場ガマタ一ツ、満杯ニ

ナルカモシレナイナ」

 手先の器用さが売りの汎用型、その一人である404は、ごぅんごぅんと小刻みに震えな

がら次々に処理済の灰ブロックを吐き出す処理車を見上げて言った。そんな彼の、些か能天

気で前向きな様子に、分析と指揮能力に長ける計算型、その一人である311は自身の左目

の分析用レンズをぐるんと回転させながらごちる。

 少し離れた所、今日の前線で大型の人形どうほう達が作業をしていた。

 ずんくりとした巨体と柱のような両腕。頑丈で力持ちな、彼ら重労型はああして大量の灰

を地面の上からごっそりと掻き出し、綺麗に取り除く下ごしらえをしてくれるのだ。

 残る細々とした灰は404のような汎用型がせっせと集める。

 後日、ここにも洗浄車が派遣されて、大地をかつての姿にまた一歩変えてくれるだろう。

そうなれば今後は本部フロントで栽培されている植物たちの苗を植える。安置所に積み上げておく

灰ブロックと同様、成果──充分な生育なり汚染レベルの低下はずっとずっと先になるが、それ

でもきっと大地は蘇る。

「……」

 その昔、深刻化した環境破壊止められず、汚染された灰で生命の息吹を絶たせてしまった

人間達。それでも彼らは大地を浄化することを諦めず、この技術を開発し続けた。

 今、その彼らは地下深く──本部フロントの一角で長い長いコールドスリープに入っている。

 この汚染されてしまった大地で、彼ら生身の存在は生きていけない。

 だからこそ待っているのだ。志を託した自分たち機械人形ロボットらが、再びこの星に緑豊かな

かつての姿を取り戻してくれるその日まで。

『ヌゥッ!?』

 僕ラが頑張ラナクッチャ……。そう404が使命感を新たにしていた、そんな最中のこと

だった。前線で作業をしていた重労型の仲間達が、突然大きく足元から「落ちて」しまった

のである。

「何ダ……? 何ガ起コッタ?」

「行コウ! アッチニハ521モイタ筈ダヨ!」

 311、そしてちょうど場にいた他の人形なかま達と一緒に、404は前線の方へと駆け出して

いった。

 するとどうだろう。大きく地面が陥没していた。

 ばっくりと大きく割れた──いや壊れた地面もとい天井らしき部分。

 そこに友人である521ほか、作業してた重労型の面々が灰の零れ落ちていく床に転がっ

ていたのである。

「オーイ、521、皆、大丈夫ー?」

「……ンゥ? ソノ声ハ404カ。アア、大丈夫ダ。オレ達ハ頑丈ダカラ」

 陥没した穴の傍から呼び掛けると、その521当人がガシュンと歩いて来てそう無事を知

らせてくれる。

 404達は互いの顔を見合わせて安堵した。ランプ眼が点滅──穏やかに瞬きをする。

「ダガ、チョット此処ハ妙ダ」

「妙……?」

「アア。指令官達ヲ呼ンデ来テクレ」

「此処……自然ノモノジャナイ。何カ、人工的ナ集落ミタイナンダ」


 外の皆もぞろぞろと降下していき、521達と合流する。

 確かに言われたように、その中は明らかに人の手が入った、金属質の方々が角ばった構造

をしていた。

 何処かの部屋……のようにみえる。暫く404達は辺りを探索していた。

 どうやら此処は地下シェルターらしい。データベースには残っている。まだ人間達が一斉

本部フロントでコールドスリープに入る前、彼は各地でこうした避難集落を作り、そこで暮らして

いたということを。

「……過去ノ名残、カ」

「我々ニスレバ遺跡トデモ言ウベキモノダナ。データトシテ把握シテイタガ、コウシテ実物

ヲ見ルノハ初メテダ」

「俺モダ。ソモソモ人間達ノ頃ノ代物自体、滅多ニ見ツカラナイダロウ?」

 ガシュンガシュン。トゥントゥン。重い足音と軽い足音が入り混じりながら一行は狭い部

屋からより広い部屋へと、その足を進めていく。

「……」

 404は、自分が不思議な感情バロメータを記録していることに気付いていた。

 何だろう? 此処は本部フロントのスリープエリアとは様子が違う。

 じっと長く長く澱んできたような薄暗さ。まるでそんな闇がこちらを見ている、ような。

『──!?』

 そして一行は見つけた。そこは急にだだっ広くなった、奥まったホールのような場所であ

るようだった。

 ずらり。見覚えのある、上部を頑丈なカプセルで覆われた寝台型の装置が、左右に奥へ奥

へと並べられている。

 皆は理解した。部屋の中こそ薄暗く、よほど長年放置されていたのか劣化・損傷が酷かっ

たが、ここはあそこと同じだ。──スリープルーム。人間達が、その復活を果たした大地を

未来を信じて眠りについている場所。

「……コレハ酷イ」

 だからショックだった。たとえ自分達は機械人形ロボットでも、AIはそのマスターである人間達

を基に──揺るがぬ心と体を以って世界の浄化しめいに当たれるよう、設計されている。

 皆死んでいた。いつからなのか、コールドスリープを維持するカプセルはこの時既に機能

しておらず、中では目を瞑ったままミイラ化したり、或いは白骨化してしまった遺体が眠り

続けているのが見える。

 一同は互いの顔を見合わせた。ランプ眼の点滅──少なからずざわつく回路を表す。

「ドウヤラ電源ガ不十分ダッタヨウダナ。見ロ、モウ配線ソノモノガ痛ンデシマッテイル」

「当時ハ、末端マデキチント管理ガ行キ届イテイナカッタトイウノカ……? 勘弁願イタイ

ゼ。コレジャアミスミス死ヌ為ニ寝タヨウナモノジャナイカ」

 互いの言葉は少なくなった。黙々と、一台一台犠牲者を確かめていく。

 たまに同胞達から出るのは、そんな嘯いてみたようなぼやきだった。

 もっと早く見つけていれば或いは……。もう不可能でも、そういった予測演算を弾いてい

たのかもしれない。

「ッ!? 皆、来テクレ。生体反応ガアル……!」

 そんな時だった。はたと311がその分析用レンズの目を大きくズームさせながら皆に呼

び掛けてきた。

 404や521、他の皆が集まってくる。

 そこには──まだミイラにも白骨にもなっていない人間の男性が眠っていた。

「生キ残リ、ナノカ?」

「ソウラシイ。コチラノ配線ガマダ生キテイル。偶然ガ重ナッタカ」

「ド、ドウスルノ? コンナ事、僕ラ初メテダケド……」

 戸惑う404の問いに、他の仲間達も同じような意図で眼差しを向けていた。

「……。スクナクトモ保護スベキダロウ。私達機械人形ロボットハ人間ヲ最大限守ラナケレバナラナイ

義務ガアル」

 レンズ目をズームアウト、ぐるん。

 311は数秒この男性とカプセルを、皆をざっと見渡し、向こうの頭上──陥没の穴から

尚も零れ落ちている灰を見ると、

「ソレニ、コノママデハ間違イナク、彼ハ死ヌ」

 彼は言った。



 ──果たしてそれは彼らにとっての“幸福”だったのだろうか?

 311の分析を受け、ともかく一同はこの男性をカプセルごと持ち帰ることにした。

 本部フロント。かつて人間達が造り出した、巨大な避難の地下都市。

 今そこに人間達はいない。都市中枢にある巨大なスリープルームで今も眠っている。

 代わりに都市内を行き来するのは機械人形ロボット達だ。

 404のような種々の作業系、同胞らを修理メンテナンスする為の保全系、或いは都市そのものを守る

武装した警備系。人間達が眠りについてから幾星霜、彼らは今日も汚染灰に覆われた大地を

取り戻す為に昼夜を問わず働き続けている……。

「──んっ……」

「アッ」「ム?」「オオゥ?」

 その一角、人間達の医務室だった場所で、男が目を覚まそうとしていた。

 成り行きからそれまでじっと交替で見守っていた404、311、521は彼の意識回復

に気付き、それぞれにずいっと顔を近づけている。

「……」

 男は、種族人間というデータから参照するに三十代半ばといった所だった。

 コールドスリープで生命活動を大きく停められていたとはいえ、その髪は相応に長くぼさ

ぼさ、黒が色褪せて薄い紺のようになっている。服装も同じくデータから当時の庶民のもの

であると判っていた。ただどちらかというと、彼のそれは「作業着」に分類されるタイプに

近い。

「……機械人形ロボット?」

「ハイ。ソウデスヨ」

「身体大丈夫カ? オレ521。コッチノ小サイノガ404。デ」

「311ダ。私達ガ貴方ヲ保護シマシタ」

「保、護……? 一体何がどうなって──」

 男はやはり混乱しているようだった。心配そうな404と521とは対照的に、311は

分析型が故か、尚も冷静で淡々としている。

 三人はそれから、彼に今のこの世界についてを含めて話を聞かせた。

 現在、地上は環境破壊の末に汚染の灰が広がり、生命が棲めない状態になっていること。

その除去・浄化の為に自分達は日夜働いており、この本部フロント──かつて人間達が造った地下都市

に拠点を構えていること。

 そして何より彼ら人間はとうの昔に皆が皆一斉にコールドスリープに就いて眠っており、

今回貴方がイレギュラーに地下集落から発見され、生存していたということ。

 男はやはり驚き、戸惑っているようだった。

 瞳をぐらぐらさせ、俯き気味に押し黙ってしまう彼。そんな彼を404と521、そして

311は暫しそっと見守ってやる──ことしかできない。

「……。今、暦は何年だ?」

 だがその後だったのだ。

 彼は礼も何も言わず、ただ黙してからの開口一番そう問い、404らを怪訝にさせる。

「3274デスガ……」

「──ッ!?」

 小首を傾げ、404が答える。

 すると男はさもこの世の終わりを見たかのように明らかに絶望していた。

 先程よりもずっとずっと目を丸く、瞳を揺るがせて。

 三百年以上……。そう聞き取れたかと思うと、彼はこっちの事などお構いなしに何やら俯

いてぶつぶつと一人呟き始め、そのまま暫し自分の世界に入り込んでしまう。

「ア、アノ?」

「ソットシテオケ。オレ達ノ話ヲ聞イテ動揺シテルノサ」

「……ダロウナ。ダガコノママ此処ニ居テ貰ウ訳ニハイカナイ。中枢頭脳マザーニ報告シヨウ。彼ノ

分ノスリープ装置ガ残ッテイルカガ問題ダガ──」

「馬鹿を言うんじゃない!」

 だが男はそんな311の、至極真面目な呟きと提案に猛反発していた。

 驚く三人。そんなこの機械人形ロボット達に、彼は鬼のような形相で叫ぶ。

「お前達は騙されてる! もう人間達は──B階級クラスより上の連中は、もうとっくの昔にこの星

を捨てたんだよ!」


 男の名はカオルと言った。かつてまだ人間達が地下都市群で暮らしていた頃、技師の一人

として様々な装置のメンテナンスに携わっていたのだという。

『灰で死ぬと言ったな? そりゃそうだ。だがそれは環境破壊じゃない。経済と軍事と──

散々危ないって言われてきたのに、誰も止められなかった、俺達人間の果てのない競争が行

き着いた先さ。核だよ。ど阿呆にも大国同士が核戦争をやっちまったんだ』

 そしてその彼が、時代の生き証人が語る事実は、彼ら機械人形ロボット達の価値観を抱いていた使

命感を、根底からひっくり返すもので。

『結果、地上は死の大地になった。お前らの言う灰ってのは放射能の降灰だろう。そうなっ

てしまうと当然、人は地上には住めなくなる。急速に国土が縮んでいった人間は、地下に逃

げるしかなかったんだ』

 404が521が互いの顔を見合わせる。揺らぐ、人間あるじ達への信頼。

 一方311だけは、じっと分析レンズの目を動かしもせずに黙っている。

『……でもそれだけじゃ終わらなかった。手遅れだったんだよ。とてもじゃないが収まり切

らねぇ。地下にしたって何にしたって、もう人類に膨れ上がって行き場を失った“全員”を

助けるなんて方法、持っちゃいなかった。……この星で、という条件がある限りはな』

 言いながら、医務室の端末を引っ張り出して彼は猛烈にキーボードを叩き始めた。

 何をやっているのか三人には分からない。ただ彼だけが焦りと怒りと、眠り続けていたそ

の時間を取り戻すように感情を吐き出している。

『さっきも言ったように、捨てたんだよ。あの日統一政府は発表した。B階級クラス以上のいわゆる

上流階級の市民を、丸々近隣のコロニーに振り分けるってな。……分かるか? B階級クラス以上だ。

俺達C階級クラス以下、大多数である筈の並の市民は皆、この死に体の星に置き去りにされたんだよ』

 3274年──もうあれから三百年以上も経ってる。こっちで今見てる記録からも多分間

違いはない。

 カオルは続けた。三人が、機械の人形達が打ち震えるこの星の真実を。

『おそらく、お前らが延々この星の浄化を命じられてるのは……“保険”だ。もし移住計画

に不測の事態があった時、少しでもマシな環境に帰られるようにって魂胆だろう。まぁもう

これだけ年月が経ってることから考えて、その保険は使わずに済んだらしいが。それに……

おかしいとは思わなかったのか? お前らは機械だ。動力がいる。だが資源なんて当時から

殆ど枯渇してたし、そこに期待できると思わねぇ。……だからこそ俺達──置き去りにされ

た人間達がいるんだよ。この都市の中枢でまとめて眠ってるんだったな? さっきも言った

が、それはお前らが地上を綺麗にしてくれるのを待ってるんじゃねえ。お前らを動かす為の

“燃料”として延々生かされてるだけだ。生物学バイオロジーは専門外だが、人間は生きてるただそれ

だけで、熱やら何やらの大量のエネルギーを作ってるからな』

 だから──カオルは言った。

 ガシンッ! とキーボードに拳を突きつけて憤っている。

『お前らは……絶対に報われない。仮にずっと先、地上が元に戻っても、その人間達の頭目

連中はとっくにお前らを捨て駒にしたんだ。……分かるな? クソッタレと思ったら俺に協

力しろ。その中枢まで案内するんだ。全部──終わらせてやる』


 何やら準備を済ませた端末を片手に、彼は言った。

 あまりの事態に、404は521は只々頷くしかなかった。

 それは感情バロメータが経験したことのない異常値を示し、冷静沈着な判断もできな

くなっていたから──なのかもしれない。

「ダトシテモ……行カセル訳ニハイカナイ! 此処ガ秩序だ! 此処ガ私達ナンダ! 大体

ソノ話ニ従エバ、私達機械人形ロボットモ皆、エネルギー供給ハ絶タレル。近イ将来、皆ガ機能停止シテシンデ

シマウジャナイカ!」

 それでも、三人の中で311だけはこの事実を誘いを、頑なに拒んだ。

 端末を手にしたカオルを伴い、中枢に向かおうとする404と521。そんな友らを、彼

は必死に止めようとした。……話の何処かで通報していたのだろう、医務室のある棟を出た

所で、さも彼を迎えるように警備型の機械人形ロボット達が現れ、ぐるりと人間一人と叛逆の機械人形ロボット

二体を取り囲む。

「……404、彼ヲ連レテ先ニ行ケ」

「ゴ、521……?」

「捕マッタラアウトダ。オレハ解体サレルヨリモ、自分ノ意思デ壊レタイシニタイ

「マ、待ッテ! 5──」

 なのに521はその巨体を活かし、先んじてこの軍勢に飛び込んでいった。

 止めようとした404、一斉に発射される警備型たちの銃撃。だが頑丈に設計されている

彼の身体はそう簡単には傷付かず、全身でその弾丸を弾きながら猛然とこれらを叩き潰して

いく。

「止メロォ! コンナ、コンナ所デ……!」

「……いや、今がチャンスだ。行くぞ、あいつは俺達の為に囮になってくれたんだ」

 銃弾が効かないと判断されて、警備型たちはレーザーソードに武装を換える。

 哀しいほどに眩しい火花が散っていた。521は戦う力の無い311を頭から握り潰して

立っており、その身体が刻一刻と切り裂かれているのに微動だにしていない。

「──」

 404は叫んだ。彼が人間であれば、ちゃんと涙が溢れていたのだろうか。

 それでもカオルは気丈だった。そんな彼の腕を取り、こちらを穏やかな眼で見遣る521

に頷き返すと、期せずして空いた道を辿って走り出す。

 それからは文字通り、命懸けの追いかけっこ。

 カオルと404は、都市の中枢、その奥へ奥へとひたすら進んだ。途中何度も警備型たち

を見つけて物陰に隠れたり遠回りせざるを得なかったが、それでもカオルが持ち込んだ端末

には既に都市内の地図がインストールされており、道を失うことはなかった。

『……ヨリニモヨッテ、末端ノ作業用個体ニ反逆サレヨウトハ』

 目的地──中枢頭脳マザーは都市の最深部に在ったいた

 すり鉢状にくぼんだだだっ広い空間、その中心に高く高くそびえる巨大な円筒型のそれ。

 二人が見上げたモニターに、そっと目を細めた単眼の映像が映った。あれがマザーと呼ば

れる者なのだろう。

 警備型が四方八方から追って来ていた。二人は辺りを見渡している。

 あれか。遥か眼下に灯る無数の光──コールドスリープとは名ばかりの、生かされる続け

る電源の群れ……。

「馬鹿どもの尻拭いはいつの時代も下っ端の仕事、か……。おいチビ助! 警備型つつの奴らを

おびき寄せろ。俺があいつの足元に行くまで時間を稼げ」

「エッ。デ、デモ、ソレハ……」

「……これも奴らの計算の内なのかね。人形にこうも人間臭いAI積みやがって。……心配

すんな。お前がぶっ潰れても無事に済んでも、どうせ“全部終わる”。今更生き残りたいな

んてグズるんじゃねぇよ。……ま、本来俺達人間が言えたクチじゃねぇんだろうけどな」

「……」

 そうだった。これは終止符ピリオドを打つ決意。騙され続けた使命感との決別。

 521(とも)も言っていたじゃないか。自分の意思で、壊れたい──。

「──ッ!」

 ランプ眼をくわっと見開いて、404は走り出した。

 つられて銃口を向ける警備型たち。無数の銃弾が飛んでくる。

 自分には、521とものような頑丈な身体は無い。311とものような高い分析能力だってもっと無い。

ただ使われるだけだった。この小さな身体で、ただ灰を──主だと言い聞かされてきた者達

の落ち度を拭い続ける、決して報われることの無い人形。

 どんどん蜂の巣になる。思考回路が、次々にフェードアウトしていく。


 最期に、

 彼が見たのは、

 緑に溢れる大地の幻影ゆめと、


「……っらぁ!」

 ガシャンと崩れ去る音がした。嗚呼、ちび助は死んだか。

 何とか滑り込むようにしてマザーの麓に辿り着いたが、カオルもまた深い傷を負ってしま

っていた。警備型から受けた銃弾、服に染み出し続ける鮮血。それでも彼は端末だけは壊さ

れないようにと掻き抱き、遂にそれをマザーの制御卓コンソール部分に接続する。

『ナ、何ヲスル気ダ……?』

「怯えるなよ。すぐに解るさ。……お前らを全部、壊して殺して……終わらせる」

 カツン、尚も撃たれる中で彼は一心不乱にキーボードを叩き、画面を流れていく黒地に緑

の文字列が全てスクロールされたのを確認するとエンターキーを押した。

 その次の瞬間だった。マザーの顔、上部モニター部分の単眼が、大量の血を流しながら悶

え苦しみ始めたのだ。

『ガッ──!? コレ、ハ……!』

「自壊プログラムさ。自殺アポトーシスのコンピューターウィルス、だな」

 デジタルの世界、肉体の世界。共に彼らは「死」を迎える。

 カオルは口元に血を垂らしながらにんまりを笑っていた。自分が初めての反逆者でよかっ

たなとつくづく思う。三百年以上も稼動し続けているというのは聞くだけでは「凄い」とし

か素人は思わないのだろうが、自分たち技術者からすればとんだ骨董品だ。

(おかげで、俺の知識でも充分、お前らを……殺せる……)

 男の瞳に力が失われていった。

 ぐったり。血塗れになった身体が真っ赤な跡をマザーの足元に遺して崩れ落ちていく。

『ヤ、止メ──』

 真っ赤な単眼になって膨れ上がったマザーもまた、その最期ときを迎える。


 捨てられても尚、復活の夢を求めた地下都市の末路。

 次の瞬間、文字通り“人造”の光に満ちていた世界から、一切の明かりが消えた。

                                      (了)

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