第三話 炸裂!フィアンマ(蒼炎烈火)!
驚いた。唐突な落雷により転倒した火凛から出てきた感想は、小学生のそれよりも簡潔で単純であった。無論、あの雷にである。豪雨はまだ続いていた。
それ以上に、気圧された何かにである。周囲の人間は動けず、火凛自身地面に押し倒された。
「しかし、積乱雲さえあの直前まで周囲には無かったはずだ。それに都合よく私の真横に落雷したとなると…解は一つだな」
そう言って火凛は雷舞の逃げたであろう方向に目をやった。
「追うしかない。あの子だけは」
ゆっくりと腰を浮かし砂ぼこりを薙ぎ払った火凛は、再び路地を南に向かって走り始めた。
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どれくらい走ったんやろ。
オタク街を抜け、大通りに出ると再び全速力を尽くす。
距離を進めるごとに心臓の鼓動は速くなり、足は重たくなる。
「とりあえず、あの子からは逃げきらな…」
右目には地下へ続く階段と電車のバリアフリーサインが書いてあり、それが地下鉄駅であると一目見るだけで明快であった。だがここで地下鉄に乗れば逃走ルートは狭まる。何よりこの街の地理感覚を、未だにつかめていない。
雷舞はそれを無視し、休憩がてら信号待ちをしてからまた加速域に入った。
雀荘や町中華の並ぶ商店街を抜け、およそ百メートルは越すであろう街のシンボルタワーを通過する。先ほどと違い、街の人は走る雷舞に目もくれずいつも通り過ごす。電柱に書かれた地名までは読めなかった。
刹那、巨大な地鳴りのようなものが聞こえた。見るや先ほどより一層顔を強張らせた火凛が追い付いてきた。
「やっば!?もう来てるやん!」
「貴女!いい加減止まりなさい!」
「いやや!止まったら何されるかわからんやん!」
「これ以上警告を無視するなら、実力行使する!」
火凛の言葉に耳を傾けず、走り続けた。
「かくなる上は…使いたくなかったけど…。」
すると火凛は気をため始めた。何をする気かと見ていると、少しずつ蒼い炎がめらめらと湧いてくるのが見えた。
「止まるまで、打つよ…。蒼炎烈火!」
巨大な蒼炎がこちらへ襲来する。いくつも、だ。
「は、え、ちょ、待ってや!うわっっ!」
幸い命中こそしなかったものの炎の温度が体を伝う。熱すぎる。
「死ぬって!」
「じゃあ止まれ!」
「それも死ぬ!多分社会的に!」
「大丈夫!死刑にはならない!」
「死刑には!?他はなるんかい!?」
「止まらないのか。ならもう一発!蒼炎烈火!」
さらに大量の炎が雷舞を襲う。
「さっきから何やの!?それ!」
逃げながら火凛に尋ねる。
「これか?ああこれは私のマジアだ。」
「マジアってなに!?」
火凛は炎を連発しながら答える。
「なんだ、マジアも知らないのか。まぁ、特殊能力だ。一人ひとり違う個性みたいなもんだ。私は炎しか打てない」
「へぇ、ってなるか!おかしいって!そんな漫画みたいな!」
「おかしい…?なら燃え尽きて確かめなさい…!最高火力でいくぞ!…はああああぁっ!蒼炎烈火!」
まるで太陽に見える炎の塊がこちらめがけて放たれる。ああ、終わった、かと思った刹那、横から人影が現れ私を押し倒してから声を上げた。
「…厳冬襲来!」
赤い、身の丈2mは優に超すであろう氷壁が炎を打ち砕く。
氷壁を見るや否や、火凛は壁が生成された方に目を向ける。そこには1人の男が居た。
「その氷壁、貴様氷室冷司か!わが校に登校もせず何をしているのかと思えば…」
氷壁を出現させた、冷司と呼ばれた男は180センチはあるであろう高身長で、暗くてよく見えないが同世代くらいの顔つきに見えた。目線を火凛に向け冷司は続けた。
「これはこれは火凛さんじゃぁないですか。わざわざフルネームで呼んでからに。ふっ、相変わらず党活動に勤しみやがって」
「党活動を侮辱するのか」
「そんなわけないだろう。それともなんだ、お前の活動とやらはいちゃもんつけるくらいしかやってないのか?」
「そんな訳ないだろう」
論理だけみれば非常に冷司に加勢したい。しかし棘のある言い方だ。少しひっかかる。
「ま、なんでもいいが。嬢ちゃん傷つけてんじゃねぇよ」
「職質中に逃げるからよ。貴方に関係ないけど、なにか?」
「いや、さっきの逃げ惑う彼女の動画を撮影しててね。これをネットに上げたら学院もお前も終わりだな。ひいては党の支持率も」
「アップロード者なんてすぐ割れて、秘密警察行きよ」
「俺らがそんなへまするわけないだろ、盗ってきたPCで上げるさ。」
「貴様らまだスリなんてやってるのか?」
「スリなんて言うなよ、金持ちから貧しい連中に物資を流してるだけだ。いわばノブレス・オブリージュだ。少々荒いがな」
訂正、この冷司ってのだいぶ黒い。関わっちゃいけないタイプだ。
「物はいいようだな。盗賊が貴族精神を語るとは」
「貴族の精神なんぞ、党のエリート様ほど熟知してませんよ。搾取する精神性はよ!」
「投降すれば許したものを…喰らえ、蒼炎烈火!」
「喰らうか!厳冬襲来!」
氷壁は再び火炎を食い止める。あまりの展開に置いてけぼりを喰らう。
「これだけじゃねぇ、どりゃあ!」
冷司は突如自ら生成した壁へタックルを仕掛けた。氷壁は勢いよく火凛に倒れこむ。
「ぐっっっぅうっっ…!」
「これで勝負あったな、火凛さんよぉ」
「ぐっ…おい…そこで見てる…名前は…」
「ら、雷舞です…」
「雷舞、早く逃げるんだ…」
「え…でも私の事捕まえるって」
「そんなもの後でできる!こいつにやられたらそれこそ終わりだ!」
「でも、それやと貴方が…」
「大丈夫、少し痛めつけられるだけさ」
「でも…」
「でもじゃない!それともなんだ!今から助けるとでも言うのか!?」
そうや、さっきまで追っかけ回されてたのに助けるなんておかしな話や。しかも助ける方法なんて思いつかん。せやけど、助けたるのが人情ってもんやろ…さっきの…雷が…もう1回落ちてくれたら…。
「…ん…あ、あの黒雲は…」
火凛が空を見上げると、先ほどと同じ黒雲があっという間に広がっていた。轟音を轟かせながら。
「な、なんだよアレは…!?」
刹那、雷鳴と同時に冷司のもとを雷が掠めた。
「うっぐっ…熱い…」
氷壁は煙を上げながら融解しており、冷司は悶絶し動けなくなっていた。
「今のうち!逃げるよ!」
「え…ええ。この近くなら私の家がある。そこまで行こう」
「分かった!案内よろしく!」
雷舞は火凛を連れ、一目散に逃げ出した。




