第一話 霹靂の夢堕ち
プロローグ 党利忠誠、不義粛清
雑踏が大通りの静寂を踏み鳴らしながら消してゆく。陸海空軍がそれぞれの儀礼服を身にまとい、行進を続ける。やがて指定位置に辿り着いたか、行進をやめ大通りの両脇に整列し、向かい合った。
新和国最大の都市、洛都市の心臓部とも呼べる大通り・蘇芳筋すおうすじは健軍150周年を記念した軍事パレードの舞台として使われていた。
音楽隊の演奏と共に戦車、航空機が通り抜け、そのたびに歓声が上がる。
すると北側から総帥、と呼ばれる男がオープンカーで立ちながら近づいてきた。
すかさず総帥へ顔を向け、敬礼をする兵士たち。一糸乱れぬ動きとはまさにこのこと。総帥もそれに呼応し敬礼を返す。
「監理党かんりとう万歳!」
総帥が声を張り上げた。
「万歳!」
兵士たちの怒鳴り声のような回答が耳を貫く。
阿吽の呼吸を繰り返しながら、蘇芳筋を進む総帥。やがて車は私の目の前まできた。
「監理党万歳!」
「万歳!」
負けじと声を張り上げたつもりだった。
すると総帥はこちらを一瞥し、私の目線とあったかと思うと、あ、という声だけ残して車を進めた。後ろを見たが何もいなかった。なぜ私を見て何かに気づいたのか。それともただの思い込みか。やがて総帥の車が見えなくなると、私たちはその場から撤収した。
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窓の上半分が黒雲で塗りつぶされた悪天候のなか、雷舞らいむは目を覚ました。いや覚まさせられた。
「ドーンっ‼」
「っひっ…!?」
あまりに唐突な叫び声に、雷舞らいむは勢いよくカーペットに尻を打ち付けた。
叫び声の主、久縁くえんは文字通り嘲笑ってこちらを見つめる。
「嘘や、高2にもなってまだ雷怖いんけ姉ちゃん」
「うっさいねん!久縁!中学生なら人の嫌がることすんな!」
「はいはい、ごめんごめん」
「はいもごめんも一回でええわ!」
「わかったわかった。てか時間大丈夫なん?」
壁にかかった時計は、既に8時を指していた。これから電車に乗り、なんばまで出て友達と遊ぶ予定をしていた雷舞は、急いでカーペットから身を起こし、机の上のロールパンを一口で飲み干して家を後にした。
雷舞の住む家、もとい街は大阪と京都の間、どちらへも凡そ20km離れたベッドタウン都市である。どちらへもアクセス万能な反面、どちらへも時間のかかる街であった。
マンションのエントランスを飛び出し、駅まで走って向かう駅構内に辿り着くと、ホームのある3階までまた加速し、丁度よく到着した準急列車に乗りこんだ。これに乗れさえすれば、後は電車に身を任せるのみである。
幸い座席は空いており、緑色のフカフカモケットに体重をかけ、気が付けば寝入ってしまった。
どれくらい乗ったんやろ。もう日本橋にっぽんばしあたりかな、いやそこまで寝てもないよな。
居眠りから覚めた雷舞は、現在乗車中の電車が何処を走っているのか、電光パネルを見つめた。
ん?
なんやこの地名、寝ぼけてるんか?それかまだ夢なんか?
雷舞の目線に飛び込んできたのは、「次は東花神~」などと続く案内板の文字であった。知る由もない地名である。
戸惑う雷舞の耳にアナウンスが巡る。
「次は、東花神ひがしかがみ、東花神です。メトロ5号線はお乗り換えです」
などと続くアナウンスに強烈な違和感を覚えた。強烈な鉄オタである多日知のおかげで雷舞は人より鉄道には詳しい自負があった。その脳内データベースに5号線などというアナウンスをする鉄道は、大阪にはない。第一、東花神などという駅は聞いたこともなかった。
なんやこれ。うち寝ぼけてるんかな。
そう思い右頬をビンタするとはっきりと衝撃が伝わった。
痛った!《いった》
あまりにも唐突な出来事に乗客の視線が集まる。社会的にも物理的にも痛い子の完成である。なんでもないですよ、と会釈してから、到着した東花神と呼ばれる駅に逃げるように降車した。
降りた駅は何度も見たことがある駅のホームのそれである。
やけに意識がはっきりとしている。思考もまとまっている。なにより頬がまだ痛い。
しかし駅名標だけは、いや路線図に書かれた地名も周りの広告も明らかに知らないものばかりであった。
なんやここ、と思い路線図を眺めると洛都メトロの文字が。古今東西聞いたことのない地名である。夢でないなら可能性は一つ。信じがたいが異世界か平行世界あたりに飛ばされたのだろう。タダで読めるからと、図書館からラノベを借りすぎたか。
どうせ転生するならもう少し異世界っぽくてもええのになどと考えてみたが叶うことは無いだろう。
仕方ないと諦め、雷舞は順応することにした。夢ならいずれ覚めるだろうし、異世界なら帰る方法があるはずだと思い、とりあえず地上に出てみることにした。
どう出よかなといつも定期券を入れている右ポケットに手を突っ込むと、DeyoCaという交通ICカードらしきものが入っていた。雷舞は反対側にあった駅員にこれで出れるか確認し出場した。改札を出てしばらく歩いてみて気が付いた。名前こそ違えど、地下の構内は大阪のそれとよく似ていた。何より使われる文字や言語は完全に日本語である。強いて言えば、喧噪から聞こえる会話は「~じゃん」「だよな」などと関東風の喋り方ばかりであった。
地下街を1kmほど進んだか。いつもならここを上がれば、繁華街の中心に躍り出る。そう思い記憶と相違ない位置にあった階段を目指した。
階段を上がり雷舞の目の前に現れたのは、よく遊びに来る駅前広場そのものであった。いや、普段見る駅周辺の町並みより高層ビルが多いような気がした。しかしここも目の前に映る広告は見慣れないものばかり、知らない店の看板ばかりであった。なによりゴシック調の巨大駅舎の駅名は大きく花神駅≪かがみ≫などと書かれている。
訳の分からない情報量に眩暈がした雷舞は、広場のベンチで休むことにした。人はいるが混雑はしていない。朝電車に乗ったつもりなのに、地上に出てみれば空は夜を表していた。頭の混乱を抑えようと持っていたペットボトルのアイスティーを飲んでいると突然周囲の喧騒が止んだ。周囲の視線の先にある、商業ビルに掲げられた巨大スクリーンは一斉に白くなり、騒いで、あるいは帰宅路を急いでいた周りの人々の足を止めた。




