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第2章 第2部 第2話 〜最強賢者、まさかの豆腐メンタル!?

森は、いつも優しかった。


風は静かに木々を揺らし、

光は葉の隙間から穏やかに降り注ぐ――

それが、モーラの大森林の日常だった。


臆病で、控えめで、

いつも一歩引いた場所に立つエルフの少女・プリモネ。


だがその微笑みの奥に、

誰もが気づいていなかった“真実”が眠っている。


森がざわめき始めたとき、

彼女はもう、隠してはいられなかった。


これは、

優しさの裏に秘められた、真なる力が明かされる物語。

プリモネに案内され、三人は森の小径(こみち)を抜け、村の一角へと向かった。


 巨木の根元に寄り添うように建てられた一軒の家。

 木と蔦、そして淡い魔法陣が組み合わさった、いかにもエルフらしい住まいだった。


「……ここが、私の家です」


 プリモネは少し緊張した様子で扉を開く。


「ど、どうぞ……散らかってますけど……」


「いや、めちゃくちゃ落ち着くんだけど」


 ティアが遠慮なく中に入る。


「森の匂いするし、いい家じゃん」


「ありがとうございます……」


 家の中は質素だが、きちんと整えられていた。

 壁には弓や薬草、簡素な魔法道具が並び、

 奥には小さなテーブルと椅子が置かれている。


「どうぞ……お座り下さい」


 プリモネが三人を促す。


 小さなテーブルを囲み、四人は向かい合って座った。


「……改めて、自己紹介をさせてください」


 プリモネは背筋を伸ばし、少し緊張した様子で頭を下げる。


「私は、プリモネ・セレノーク。

 モーラのエルフの村で、結界と森の管理を任されている者です……」


 そこまで言ってから、控えめに付け加える。


「……一応……大賢者、と呼ばれています……」


「“一応”じゃないでしょ、それ」


 ティアがすかさず突っ込む。


「じゃ、次は私たちだね」


 ニーナは小さく息を吸い、穏やかな声で口を開いた。


「私はニーナ・アルヴィン」


 その名を告げた瞬間、プリモネの瞳がわずかに揺れた。


「……元は、人間の王国で育ちました。

 今は……色々あって、旅をしています」


 一瞬、言葉を選ぶように間を置く。


「私は、光の力を使います。

 誰かを傷つけるためじゃなく……

 守るために、照らすために」


 ニーナは、静かに微笑んだ。


「まだ未熟だけど……

 それでも前に進みたい。

 そう思って、この旅を続けてる」


「……」


 プリモネは、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。


「次は、私だ」


 ユキネが短く名乗る。


「ユキネ・カグラ。

 輝道剣術流の正統継承者だ」


「……剣術流派の……?」


 プリモネが思わず聞き返す。


「ああ。

 鍛えることと、剣を振るうことしか知らない」


 ぶっきらぼうな口調だが、声音(こわね)は落ち着いている。


「……守ると決めた相手は、必ず守る。

 それだけだ」


 その言葉に、ニーナが一瞬だけ視線を向けた。


 プリモネは、その二人の間にある揺るぎない信頼を感じ取る。


「さいご、私ね!」


 空気を切り替えるように、ティアが手を挙げた。


「ティア・ルナ・フェンリス。

 月狐族の生き残りで、盗賊……って言うと聞こえ悪いけど、悪い奴からしか盗まない主義だから安心して?」


「じゅ、獣人……?」


「そうそう。

 見た目はちょっと幼いけど、こう見えて経験豊富だよ?」


 にしし、と笑う。


「情報集め、潜入、奇襲。

 裏の仕事はだいたい任せて」


 そして、ふっと真面目な顔になる。


「……この旅は、私にとっても大事なものだから」


 その一言に、プリモネははっとする。


 三人は、それぞれ違う。

 立場も、力も、過去も。


 けれど


「……ありがとうございます」


 プリモネは、深く頭を下げた。


「……こんなふうに……

 自分のことを話してくれたの……久しぶりで……」


「え?」


「……森の中だと……

 “大賢者”としてしか……

 見られないので……」


 ニーナは、優しく微笑んだ。


「じゃあ、ここではそれでいいよ」


「……え……?」


「プリモネは、プリモネでいい」


 その言葉に、

 プリモネの胸の奥で、何かがほどけた。


 その時――


ガチャッ!


 勢いよく扉が開いた。


「姉さん!!」


 息を切らした青年が家に飛び込んでくる。

 引き締まった体躯に長い耳。背には弓、腰には矢筒。


「森の外れで爆発の痕を見つけて、姉さん怪我はない……の?」


 青年は三人を見て言葉を切った。


「……誰?」


「アレイン、落ち着いて」


 プリモネが立ち上がり、穏やかに告げる。


「この人たちは……私を助けてくれた旅の方たち」


「助けた……?」


 一瞬だけプリモネを見てから、青年は弓から手を離した。


「……そうなんだ」


 三人の前に立ち、深く一礼する。


「俺はアレイン・セレノーク。

 プリモネの弟です」


「見回り中だったの?」


 ニーナが尋ねる。


「えぇ。村の周囲を一周してきたところです。

 異常はなかったけど……魔物の気配が、少し濃くなってる」


「……やっぱり」


 ユキネが低く呟く。


「アレインは……村でも凄腕の弓の使い手なんです」


 プリモネは誇らしげに言う。


「見回りは……いつも弟が……」


「姉さん」


 アレインは苦笑した。


「それは言わなくていい」


「でも……大事なことです」


 プリモネは、姉として、きっぱり言った。


「あなたは、村を守る力を持ってる」


 アレインは照れたように視線を逸らす。


「……姉さんは、相変わらずだな」


 やがてアレインは礼を述べ、再び見回りへと戻っていった。


 家の中には、再び三人分の気配だけが残る。


 しばしの沈黙の後、ニーナが静かに口を開いた。


「……改めて聞いてもいい?」


「……はい……」


「プリモネは、“大賢者”なんだよね?」


「……はい……」


 一拍置いて、プリモネは小さく続けた。


「……この世界で……

 たった三人しかいない、と言われています……」


「三人!?」


 ティアが声を上げる。


「大賢者は……この世に存在する魔法の“理”を理解し……知識としては……すべての魔法を知っています……」


「……全部?」


「……理論上は、使えます……」


 プリモネは視線を逸らす。


「……でも……怖くて……」


 ニーナは、彼女が肌身離さず抱える魔導書に目を向けた。


「……その魔導書は?」


「……十歳の誕生日に……父からもらったものです……」


「誕生日に、魔導書?」


「……はい……」


 プリモネは懐かしそうに微笑んだ。


「この魔導書は……

 使用者の力量を測って……

 読めるページが変わる仕組みで……」


「へえ……」


「普通は……

 魔法に精通しているエルフでも……

 せいぜい……十ページほど……」


「……ほど?」


 ティアの顔が引きつる。


「……私は……」


 プリモネは、ぎゅっと魔導書を抱いた。


「もらった時から……

 最後の……禁忌のページ以外……

 全部……読めました……」


 沈黙。


「…………」


「…………え?」


「……それ、ヤバくない?」


 ティアが乾いた笑いを浮かべる。


「……その事が……村に広がって……」


 プリモネは俯いたまま続けた。


「……エルフの長から……

 “大賢者”に任命されて……」


「任命制なんだ……」


「……はい……

 そして……この杖を……」


 壁に立てかけられていた、

 古くも美しい杖に視線を向ける。


「大賢者の杖……」


「……譲り受けました……」


 プリモネの声は、微かに震えていた。


「……村の人たちは……

 私に期待してくれて……

 守ってくれる存在だと……」


「……」


「だから……

 応えなきゃって……」


 指先が、白くなる。


「……必死で……

 森を……村を……

 守ってきました……」


 そして、ぽつりと。


「……でも……」


 プリモネの声が、かすれる。


「……正直……

 重くて……」


 涙が、頬を伝った。


「……押し潰されそうで……

 怖くて……

 逃げたいって……思うことも……」


「プリモネ……」


 ニーナは、そっと彼女の前に立つ。


「一人で、抱えすぎだよ」


「……でも……

 私がやらなきゃ……」


「違うよ」


 ニーナは、優しく首を振る。


「“守る”って、一人でやることじゃない」


「……え……?」


「弱いって言っていい。

 怖いって言っていい」


 ニーナは、プリモネの手を包み込む。


「それでも……

 あなたは、ちゃんとやってきた」


「……っ……」


 その瞬間――


ふわり


 プリモネの魔導書が、淡く光を放った。


「……え?」


「……今、光った?」


「……そんな……」


 プリモネは慌てて魔導書を見下ろす。


「……こんなこと……

 今まで……一度も……」


 恐る恐る、ページを開く。


 次の瞬間、

 銀色の光が溢れ出し、

 部屋一面を包み込んだ。


「うわっ……!」


「眩し……!」


「……銀月……」


 ユキネが、確信を込めて呟く。


 月光のように優しく、

 しかし、圧倒的な存在感を放つ光。


「……ニーナ」


「うん……」


 ニーナは強く頷いた。


「間違いない……」


 ティアが息を呑む。


「……銀月の……」


「魔導書の……後継者……」


 プリモネは、呆然と立ち尽くす。


「……え……?

 こ、後継者……?」


 その時


「助けてくれ!!」


 家の外から、切迫した叫び声が響いた。


「魔物だ!!」


「魔界の魔物が……攻めてきた!!」


「……っ!」


 三人は同時に顔を上げる。


 穏やかな光は、まだ消えていない。

 だが、戦いの時は、確実に迫っていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


この章で描かれたのは、

「正体を隠していた強者」ではありません。


描きたかったのは、

力を持ちながら、誰よりもそれを恐れていた少女です。


プリモネは“大賢者”です。

けれど彼女自身は、

一度もその称号を誇りに思ったことがありません。


力があるからこそ、

失う怖さを知っている。

守れなかった未来を、想像してしまう。


だからこそ彼女は、

森の奥で、静かに、目立たぬように生きてきました。


しかし――

モーラの大森林に忍び寄る“異変”は、

そんな彼女をもう、放ってはおきません。


ここから先は、

逃げる物語ではなく、

立ち向かう物語になります。


プリモネが何を選び、

ニーナたちがその背中をどう受け止めるのか。


森が戦場へと変わる前の、

この静かな瞬間を、どうか覚えていてください。


次章も、お付き合いいただければ嬉しいです。

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