第二章 第1部 第3話 ~仲間の予感!?狐耳の少女ティア~
夜の森は、静かすぎるほど静かだった。
剣を抜く理由は、正義だけではない。
守りたいものがあるから、立ち向かう。
信じたい仲間がいるから、背中を預ける。
だが、敵は目に見える者だけとは限らない。
闇の奥から、
“何か”が三人を試すように見つめている。
これは、
力を誇る物語ではない。
三人が「どう戦うか」を問われる夜の物語だ。
「……待って」
ニーナの声に、ユキネとティアが同時に振り返る。
「この暗さじゃ、思うように動けないわ」
ニーナはそう言って、胸元で小さく両手を重ねる。
「光魔法を使うね――ルミナ・ライト」
淡い光がニーナの掌から溢れ出し、次の瞬間、三人の周囲を包み込んだ。
夜の森はそのままだというのに、闇だけが柔らかく押し退けられ、木々の輪郭や地面の凹凸がはっきりと見える。
「……十分だな」
ユキネは低く呟き、刀に手を掛ける。
「行こう」
三人が再び前を向いた、その時だった。
――ざっ、ざっ、ざっ。
前方の闇の奥から、複数の人影がゆっくりと現れる。
「……あれは」
ニーナが息を呑む。
村を襲った盗賊たち――間違いなかった。だが。
「おかしい……」
ティアが眉をひそめる。
「昨日と、様子が違う」
「確かに……生気がない」
ユキネは一歩前に出ると、刀を鞘に収めたまま、静かに構えた。
次の瞬間。
――ズンッ。
空気が震えた。
ユキネの放った“威圧”だった。
並の魔物なら失神するほどの気迫。人間の盗賊であれば、立っていられるはずがない。
だが。
盗賊たちは一瞬だけ足を止め――すぐに、ぎこちない動きで再び襲いかかってきた。
「……効いてない?」
「っ、来るわ!」
三人は同時に武器を構える。
刃が走り、魔法が弾け、影が舞う。
何度も、確実に急所を突いている。
それでも――
「止まらない……!」
「普通じゃない……!」
ユキネが歯噛みする。
「まるで……」
「……死体みたい」
ティアが吐き捨てるように言った。
「このままじゃキリがない」
次の瞬間、ティアの姿が――消えた。
「え!!!」
ニーナが声を漏らした、その直後。
――ヒュッ。
一瞬の風切り音。
そして、三つの影が同時に崩れ落ちる。
盗賊たちの首は、地面を転がっていた。
完全に、動きが止まる。
「……すごい」
ユキネは思わず息を吐く。
「凄い……今の、見えなかった」
ニーナも目を見開いたままだ。
「へへ……」
ティアは少し照れたように頭をかく。
「この速さがあるからさ。一人で盗賊のアジトを潰せたってわけ」
その時――
「お見事! お三人方」
――ぱち、ぱち、ぱち。
拍手の音が、闇の奥から響いた。
「っ!」
ユキネは即座に振り向き、刀を抜き放つ。
闇の中から現れたのは、一人の男――いや、“魔界の者”だった。
「いやはや、やはり操った盗賊ごときでは歯がたちませんでしたね」
「……操った、ですって?」
ニーナの声が、低く震える。
「人を……人を、物みたいに扱うなんて……!」
握りしめた拳が、小さく震えていた。
「……確かに、彼らは盗賊でした。
ですが――それでも、命を持つ者たちです」
ニーナは胸の前でそっと拳を握り、真っ直ぐに見据える。
「過ちを犯した者であっても、
誰かに操られ、道具のように使い捨てられていい理由にはなりません」
声は穏やかで、しかし一切の迷いはなかった。
「命を踏みにじるその在り方――
騎士として、そして一人の人として、決して見過ごすことはできません」
続けてユキネが冷静に魔界の者に問う
「何者だ!?」
不気味なほど整った所作。
紳士的な微笑みを浮かべ、深く一礼する。
「これは失礼しました。自己紹介がまだでしたね」
男は胸に手を当て、静かに名乗る。
「私は、魔源死天王が一人、スカードーム様の配下」
一拍置き。
「ネブラ=ネスタスと申します」
「……スカー……ドーム……」
その名を耳にした瞬間。
――ざわっ。
ティアの全身の毛が、怒りに逆立った。
狐耳がぴんと立ち、黄金の瞳が鋭く細められる。
空気が、張り詰めた。
夜の森に、ただならぬ気配が満ちていく――。
ネブラ=ネスタスは、三人を前にしても一切動じる様子を見せなかった。
ユキネが一歩前に出る。
「ニーナ、下がって。こいつ……今までの連中とは違う」
「う、うん……でも、私も戦う」
ニーナは剣を構えた。
「感心ですね」
ネブラは微笑んだまま、軽く首を傾ける。
ネブラは、月明かりの下でゆっくりと外套を翻した。
「さて……遊びではありませんよ?」
「……望むところだ」
ユキネが一歩前に出る。刀を正眼に構え、空気が張り詰めた。
「ニーナ、後方支援。ティア、隙を見て!」
「了解!」
「……やってみる!」
次の瞬間、三人が同時に動いた。
――ガンッ!
ユキネの刀と、ネブラの黒い刃が激突する。
「ほう……この剣筋。人間離れしていますね」
「口を開く余裕があるなら……!」
ユキネは踏み込み、連撃を繰り出す。
「はあっ! せいっ!」
だがネブラも互角。刃を弾き、間合いを殺す。
「浅い!」
ネブラの蹴りがユキネの脇腹を掠める。
「ぐっ……!」
「ユキネ!」
ニーナが即座に詠唱する。
「光よ、彼女を守って――ルミナ・ガード!」
淡い光の障壁が張られ、次の一撃を防ぐ。
「助かった……!」
「油断しないで!」
その背後――
「今だよ!」
ティアが地を蹴り、影のようにネブラの背後へ。
「――っ!?」
首元を狙った高速の一閃。
――ギィン!
「……速い」
ネブラは辛うじて防ぐが、明らかに体勢が崩れた。
「今のは……効いたでしょ?」
ティアが不敵に笑う。
「なるほど……月狐族、やはり厄介ですね」
ネブラは距離を取る。
だが、三人はもう止まらない。
「ユキネ、行ける!?」
「ああ……今度はこっちの番だ!」
ユキネが深く息を吸い、気迫を解き放つ。
――ゴォッ。
威圧が森を震わせる。
「……これは」
ネブラの動きが、一瞬だけ鈍る。
「今!」
ニーナが叫ぶ。
「光よ、道を示せ――ルミナ・ブレード!」
ニーナの剣が強く輝き、聖なる光を放つ。
「はあああっ!!」
ユキネが正面から斬り込み、ティアが横から回り込む。
二方向同時攻撃。
「くっ……!」
ネブラは受け切れず、肩口を深く斬られる。
「やった……!」
だが、まだ終わらない。
ネブラは歯を食いしばり、魔力を爆発させた。
「――まだです!」
衝撃波。
「きゃっ!」
「うっ!」
三人が吹き飛ばされる。
膝をつき、息を荒くする三人。
「……強いね。正直」
ティアが笑う。だが、その目は本気だった。
「でも……ここで引けない」
ニーナが立ち上がる。
「私たちは……守るって決めたの!」
「……その覚悟」
ネブラはゆっくりと立ち上がり、血を拭う。
「認めましょう。あなた方は――」
その瞬間。
「――これで終わり!」
ティアが最後の力で駆ける。
囮。
「ユキネ!」
「えぇ!」
ユキネが全力で踏み込み、ニーナが最後の光を注ぐ。
「お願い……!」
――銀月の光が、三人を繋ぐ。
「はあああああっ!!」
三人の攻撃が重なり、一直線の光となってネブラを貫いた。
「……見事」
ネブラは膝をつき、静かに笑う。
「この戦い……あなた方の勝ちです」
その身体が、闇に溶けるように消えていく。
森に、静寂が戻った。
「……勝った?」
ニーナが震える声で言う。
「……ギリギリ、ね」
ティアが肩で息をしながら笑った。
「でも……三人だったからだ」
ユキネは刀を納め、二人を見た。
三人は、言葉もなく頷き合う。
三人の胸に、確かな“覚悟”が刻まれた夜だった
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
正直に言うと――
この章は「三人で戦う」という一点に、かなり力を込めました。
勝つか負けるかではなく、
どう噛み合うのか、
どこで信じ合えるのか。
それぞれ立場も過去も違う三人が、
同じ夜、同じ敵に向き合ったとき、
どんな空気が生まれるのかを描きたかったのです。
そして、
読み終えたあとに少しだけ残る“違和感”。
「あれ?」と胸に引っかかる何か。
それこそが、この章の本当の目的でした。
物語は、ここから静かに深く潜っていきます。
よければ、この先も一緒に歩いてください。
感想などもいただけたら、とても励みになります。




