第二章 第1部 第1話 ~仲間の予感!?狐耳の少女ティア~
王国を失い、家族を失い、
それでも――歩みを止めることはできなかった。
二人の少女が選んだのは、
嘆き続ける道ではなく、前へ進む道。
これは、
まだ“勇者”でも“伝説”でもない彼女たちが、
剣と光だけを頼りに世界へ踏み出した物語。
そして――
この旅路で、運命は新たな出会いを用意していた。
ニーナとユキネが旅に出て、数日が過ぎていた。
二人は急がず、しかし確実に前へ進んでいる。
「……また、倒れてた魔物が増えたわね」
見渡すと争い後の魔物の死体が転がっていた。魔物同士のものなのか、地上の種族との争いなのか二人はわからなかった。
ユキネが剣を鞘に収めながら、周囲を警戒するように視線を走らせる。
「うん……。この辺り、前はこんなに魔物が出る場所じゃなかったって、じぃやが言ってた」
ニーナは胸元でそっと息を整え、剣を握り直す。
戦闘には慣れてきた。それでも、毎回胸の奥がざわつく。
「やっぱり……魔界の侵攻、始まってるんだね」
「ええ。魔物の動きが雑だけど、数が多い。
統率されていないぶん、逆に不気味だわ」
ユキネは少しだけ眉をひそめる。
「……でも、ニーナ。さっきの戦い、よく動けてた」
「そ、そうかな?」
「そうよ。最初の頃は、剣を振るたびに迷いが見えたけど……今は違う」
その言葉に、ニーナは少しだけ照れたように視線を逸らす。
「……怖くないわけじゃないよ。でも、立ち止まるほうが、もっと怖いから」
「ふふ、らしい答え」
二人は小さく笑い合い、再び歩き出す。
だが、空はいつの間にか茜色に染まり、太陽は地平線の向こうへ沈みかけていた。
「……今日はここまでにしようか」
ユキネが空を見上げて言う。
「うん。次の町までは、まだしばらくかかりそうだし」
「じゃあ、いつも通り野営ね。ニーナ、薪集めお願い」
「任せて。……あ、でも、あんまり遠くまでは集めなくていいでしょ?」
「もちろん。今の状況じゃ、目の届く範囲が鉄則よ」
二人は手際よく役割を分け、慣れた動きで準備を始める。
火が灯ると、夜の静けさの中で、焚き火がぱちぱちと音を立てた。
「……こうしてると、少し落ち着くね」
ニーナが焚き火を見つめながら呟く。
「ええ。だからこそ、油断しないこと」
「うん。……」
「ねぇ……ユキネ?」
「なに?」
「この旅の先に私達の未来はあるよね……」
ユキネは一瞬だけ考え、そしてはっきりと言った。
「あるわ。でも……」
焚き火越しに、真っ直ぐニーナを見る。
「一人じゃないって事は心に秘めておいて、私がいつも隣にいる」
ニーナは少し驚いたあと、ゆっくりと笑った。
「……ありがとう。私も、同じ気持ち」
焚き火の明かりが、二人の影を静かに揺らしていた。
焚き火の残り火を丁寧に消し、二人は簡易の寝床に身を横たえた。
夜の森は静まり返り、風の音だけが耳に残る。
「……おやすみ、ユキネ」
「ええ。何かあったら、すぐ起きるわよ」
そう言葉を交わした、その時だった。
――ガサガサッ。
「っ!?」
二人は同時に飛び起きた。
「今の……聞こえた?」
「ええ、間違いない」
ユキネは即座に刀に手をかけ、ニーナも身構える。
だが次の瞬間、暗闇の奥で“何か”が遠ざかっていく気配を感じた。
「……逃げた?」
「みたいだね。追う?」
「暗すぎるし……罠の可能性もある」
二人は背中を合わせ、しばらく周囲を警戒したが、
森は再び静けさを取り戻していた。
「……変わった様子、なさそうだね」
「ええ。一旦、休みましょう。無理は禁物よ」
そうして二人は、警戒を解かぬまま再び眠りについた。
――翌朝。
「……え?」
ニーナが荷物を確認した瞬間、声を上げた。
「な、ない……! お財布がない!」
「……やっぱり、昨夜の。」
ユキネはすぐに立ち上がり、地面にしゃがみ込む。
「昨日の夜の物音。あれ、間違いなく“盗み”ね」
「そ、そんな……」
「落ち着いて。足跡、まだ新しい」
ユキネは刀を腰に携え、即座に準備を整える。
「追うわよ、ニーナ」
「う、うん!」
二人は森の中を進み、地面に残る足跡を辿っていく。
しばらく進んだ、その時。
「……前方、人影」
向こうから歩いてくる、小柄な影。
少女ほどの背格好で、フードを目深に被っている。
その右手には――
「あっ! それ……私の!」
ニーナが思わず声を上げる。
その瞬間、ユキネは一歩前に出て刀に手をかけた。
「動かないで。説明してもらうわ」
「っ! ち、違う!」
少女は慌てて手を上げる。
「その……盗んだのは盗んだけど、悪いことじゃないんだ!」
「言い訳は後。まず目的を」
鋭いユキネの視線に、少女は観念したように息を吐いた。
「この先に盗賊のアジトがあるの。
近くの村から依頼されて、奪われた物を取り返してた」
「……義賊、ってこと?」
ニーナが首をかしげる。
「そ、そう! 悪い人からしか盗まない!」
少女は慌てて続ける。
「で……その財布、確認したら村の人の物じゃなかったから……どう返そうか悩んでたところで、あんた達が来たんだ」
少しの沈黙。
ユキネは、ゆっくりと刀を鞘に収めた。
「……話は筋が通ってる。でも、警戒は解かない」
「当然だよね……」
一方でニーナは、少女に歩み寄った。
「でも……ありがとう。無事に戻してくれて」
「え?」
「私達にとって、大事なお金だったから。……本当に、助かったわ」
少女は一瞬きょとんとし、そして照れたように顔を背けた。
「……変わってるね、あんた」
「よく言われる」
二人はそのまま村へ向かって歩き出す。
「じゃあ、私たちは行くね」
「……うん」
その場に残された少女は、二人の背中を見つめていた。
「……なんだろ。変な感じ」
胸の奥が、ほんの少しだけざわつく。
「また……会う気がするな」
そう呟いた少女のフードの奥で、
小さな笑みが浮かんだ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
ニーナとユキネの旅は、
「二人だけの戦い」から、少しずつ形を変えていきます。
今回登場した謎の少女は、
軽やかで自由そうに見えて、
実はとても重い“何か”を背負った存在です。
三人になったことで、
旅は少し賑やかに、そして少しだけ危険に――。
次章からは、
“仲間になる”ということの意味が、
より深く描かれていきます。
よろしければ、
この先の物語もお付き合いいただけると嬉しいです。




