第2章 第2部 第3話 〜最強賢者、まさかの豆腐メンタル!?〜
森は、いつもと同じ顔をしていた。
けれどその静けさは、嵐の前のものだった。
魔物は、理由もなく現れない。
そして、魔界の貴族が動く時、偶然は存在しない。
怖くても、逃げない。
守りたい場所が、ここにあるから。
これは、
プリモネが一歩を踏み出すまでの物語。
外から響いた悲鳴に、四人は同時に身を跳ね起こした。
「今の声……!」
「外だ!」
ニーナの言葉を待つまでもなく、ユキネが扉を開け放つ。
ティアはすでに半歩前に出ていた。
外に飛び出した瞬間、四人の視界に飛び込んできたのは、大量の魔物、そしてそれに立ち向かうエルフの青年たちの姿だった。
「アレイン……!」
プリモネが声を震わせる。
先頭で剣を振るっていた青年アレインは、こちらに気づくと叫んだ。
「姉さん! 外は危険だ、早く避難を!!」
「アレイン……!」
プリモネは一歩踏み出しかけ、しかし足が止まる。
その身体は小刻みに震えていた。
「大丈夫、私たちも加勢するわ」
ユキネが即座に言う。
ニーナも強く頷いた、その瞬間
「遅い!」
ティアはもう、魔物の群れへと飛び込んでいた。
「行くよっ!!」
風を裂く音。
ティアの双剣が閃き、魔物の脚、腕、喉を的確に断つ。
「今よ!」
「了解!」
ニーナの光が魔物を貫き、
ユキネの刀がその隙を逃さず振り下ろされる。
三人の動きは、まるで長年組んできたかのようだった。
「な、なんだ……あの連携……」
「人間……なのか……?」
アレインたちエルフは、ただ呆然と見守るしかなかった。
数分後。
「……ふぅ」
ニーナが息を吐く。
地面には、動かなくなった魔物たちだけが残っていた。
「助かりました! 本当に……!」
「ありがとうございます!」
アレインたちが駆け寄り、次々に頭を下げる。
「無事でよかったわ」
「ケガはない?」
その、束の間だった。
……ぞわり。
森の奥から、肌を刺すような邪悪な気配が流れ出した。
「……この空気」
ユキネが即座に刀へ手を掛ける。
「来る」
ティアの耳がぴくりと動く。
闇の中から、拍手の音が響いた。
「はっはっは!」
「ザコを倒したくらいで、ずいぶんと騒がしいじゃない」
「…………」
姿を現したのは、三人。
見た目は人間と変わらない。だが、
「……違う」
ニーナは直感した。
「魔界の……者」
「何者!!」
ニーナが声を張る。
男の一人が、下卑た笑みを浮かべる。
「俺たちか? 俺たちは魔界の貴族だ」
「今はまだ下級だがなぁ?」
「成り上がるために、地上の命を狩ってるってわけだ!」
「貴族……!?」
「この前のネブラと同じ……いえ、それ以上……!」
「ネブラ?」
男が鼻で笑う。
「あぁ? あんな下っ端と一緒にするなよ」
別の一人が肩をすくめる。
「ふぅ……無駄話はいい」
「始めようか、ショーを」
その瞬間。
魔界の貴族の一人が指を鳴らす。
――ドドドドドッ!!
左右の森から、さきほどとは比べ物にならない数の魔物が雪崩れ込んできた。
「なっ……!?」
「数が多すぎる……!」
ニーナが思わず声を上げる。
その時
「ニーナさん!ユキネさん!ティアさん!!」
叫んだのはアレインだった。
「その三人は、あなた達が!!」
「この魔物の群れは、俺たちが引き受けます!!」
「アレイン!?」
「無茶よ!」
ニーナとユキネが同時に声を上げる。
だが、アレインの目は揺れていなかった。
「俺たちはエルフだ」
「この森で生き、戦ってきた」
「……それに」
アレインは弓を強く握りしめる。
「この村を守るのは、俺たちの役目です!」
「……分かったわ」
ユキネが一瞬目を閉じ、そして頷いた。
「無理はしないで」
「約束します!」
アレインは仲間たちへ視線を送る。
「行くぞ!!」
「おおおっ!!」
エルフの青年たちは一斉に散開し、魔物の群れへと突入した。
弓が唸り、剣が閃く。
連携の取れた動きで、魔物たちを次々と倒していく。
「……強い」
ニーナが思わず呟く。
「さすがエルフね」
「場数が違う」
ユキネも関心する。
プリモネは胸を張るように言った。
「アレインは昔から頼りになる子なんです」
「村一番の自慢なんですよ」
「へぇ?」
ティアがニヤリと笑う。
「じゃあ、あんたも少しは見習いな?」
「なっ……!?」
エルフ達の戦いを魔界の貴族たちは楽しそうに眺めていた。
「ほぉ……」
「雑魚相手とはいえ、なかなかやるじゃないか」
「だが」
三人が、同時に一歩前へ出る。
「ここからが、本番だ」
邪悪な気配が一気に膨れ上がる。
ニーナ、ユキネ、ティア
三人も前へと進み出た。
そして、その時。
「……待ってください!!」
背後から、震える声が響いた。
振り向くと、そこに立っていたのはプリモネだった。
膝は小刻みに震え、目には涙が滲んでいる。
だが、その瞳は決して逃げていなかった。
「わ、私も……い、一緒に……戦います!!」
「プリモネ……」
ニーナが一瞬驚き、そして優しく微笑む。
「えぇ。一緒に戦いましょう」
「私たちがいる」
「無理はしない。それでいい」
ユキネとティアも、迷いなく笑顔で頷いた。
その瞬間、プリモネの胸に、温かいものが広がった。
「……この村は……」
小さく、けれど確かな声。
「この村は……私の村は……!」
プリモネは杖を強く握りしめ、前を見据えた。
「わ、私が、守ります!!」
魔物の群れと死闘を繰り広げるアレインたち。
そして、魔界の貴族三人と対峙する四人。
森はいつの間にか夜になっていた。
そして今、二つの戦場に分かれていた。
こうして
モーラの大森林最大の戦いが、静かに、そして確実に始まった。
エルフの村を包む日常は、少しずつ形を変え始めました。
迫る魔物の影、そして魔界の“貴族”という存在。
プリモネは強いから立ったわけではありません。
守りたいものがあったから、覚悟を決めただけです。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
この先、物語はさらに大きく動いていきます。
次章も、どうぞお付き合いください。




