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ネッ友(自称行き遅れ)の「結婚してくださいよ~」にOKしてみた翌朝、玄関に綺麗なお姉さんがいた  作者: 古野ジョン


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第35話 夢と現実

 私、小学生の頃からいじめられてたの。どうしてか……って? お金持ちの家だったし、体も弱かったし……何より、男の子にモテたから。今思えば、気に食わない理由しかないって感じかもね。


 先生は何もしてくれなかったの。面倒だったのかもしれないけど、私が袖崎の娘だったからっていうのも大きいかな。これだけ大きい家だもの、味方が多ければ敵も多いのよね。お父さんがわざわざ職員室に乗り込んだこともあったんだけど、何も変わらなかった。


 えっ、意外? ううん、別に両親と仲が悪いわけじゃないの。特にね、お父さんはずーっと私のことを心配してくれてた。だからスキーも習わせてくれたの。


 だからね、駆け落ちしませんかって言われた時は悩んじゃった。ひゅーがさんの学業が心配だっていうのも本当だけど。でも……やっぱり、私は両親と縁を切る勇気がなかったの。別にひゅーがさんより両親の方が大事とか、そういうことを言いたいんじゃなくて。……どっちも大事なんだ、私にとっては。


 えーっと、どこまで話したんだっけ。あっ、まだ子どもの頃か。やっぱりね、中学校に入ってもいじめられてた。同じ小学校から来てる子も多かったしね。中学生って変に知恵がついちゃって、大人じゃ考えられないくらい陰湿なこともしてくるの。


 ひどかったのはなんだろうなー。いつの間にかね、鞄に避妊具が入ってたことがあったの。それもね、濁った石灰水が入れてあってね、ご丁寧に口が縛ってあるの。……ごめん、そんな顔をさせるつもりはなかったんだけど。私、不良高校生と援助交際してることになってたもん。笑っちゃうよね。


 私だって普通の青春を送りたかったよ。夢だった。みんなと仲良く遊んで、帰り道にアイス食べてーとか、そんな生活したかったもん。でも現実は違った。家から高級外車で学校まで送られて、それでまたあることないこと言われて……ね。


 別にこの家に生まれたことは恨んでないよっ。そこは誤解しないでほしいかな。普通の人じゃ考えられないくらい、いろいろな経験もさせてもらったし。学費だって全部出してもらったしね。


 そうそう、高校くらいからいじめはなくなったかな。ちょっと遠い学校を受けたから、あんまり知ってる人がいなくなったの。でも、目立つとまたいじめに遭うと思ったから……クラスでは静かに過ごしてた。だから結局、高校でも青春はなかったな。


 その頃かな。私、学校の先生になりたいって思うようになったの。小学校の頃、先生が助けてくれなかったからさ。文字通り、反面教師というか……ね。ぜーったいに良い先生になってやるんだーって思ったの。そうそう、これも夢になったってこと。


 ……うん、そう。叶わなかったの、教師になる夢。ううん、別に両親に反対されたわけじゃない。お兄ちゃんが家を継ぐことになっていたから、進路のことはあんまり口出しされなかったよ。


 うーんとね、地元の国立大学に進学したの。人文学系の学部でね、国語の先生になろうって思ってたんだ。大変だったけど、教員免許の講義もちゃーんと受けてたよ。そうそう、大学のスキー部にも入ってた。国体に出たのもこの頃。今のひゅーがさんみたいに、大学生としては結構頑張ってたかな。


 でもね、頑張り過ぎちゃったの。もともと体が弱いのを治すためにスキーしてたのにね、練習しすぎて体を壊しちゃったんだ。馬鹿だよね。一応ね、大学は卒業出来たんだけど……教採を受けるどころの話じゃなかったの。


 その後……一年くらいかなあ、ずうっとこの部屋で寝てた。自分の人生って何なんだろうって、ずーっと考えてた。あまりに時間があったから、本もたくさん読んでた。自分じゃない人生を知るって感じがして、結構楽しかったんだよね。


 うん、そういうこと。だから小説を書き始めたの。現実が嫌だったから、もしこうだったらいいなーって、理想の世界を原稿にぶつけるっていうか。別に作家になりたかったわけじゃない。でも、仕事もせずに居候し続けるのも申し訳なくて。だから新人賞に応募したの。


 そしたらね、すぐに受賞して……よく分からないままデビューしてた。ありがたかったなあ。取材に行くこともあるけど、基本的には家にいるお仕事だから。体調もちょっとずつ良くなってはいたんだけど、外で働くのは不安だったし。


 ちょっとずつ小説家のお仕事を貰えるようになってね、一応……専業作家になったの。今は兼業作家さんも多いから、同業のお仲間には羨ましがられるんだけど。別に私が作家として優秀なんじゃなくて、単にこういう家に生まれたから専業でも問題ないってだけだからさ。


 ごめんね、さっきから暗い話ばかりで。なっ、何もひゅーがさんが泣くことないでしょ。いいのいいの、私のために泣かなくて。優しいね、本当に……。うん、うん。ありがとう。私も大好きだよ、ひゅーがさん。


 そうそう、まだ続きがあるから。とにかくね、何年か小説家のお仕事をしていたんだけど……分かるでしょ? 基本的にはここが仕事場なんだ。出会いなんてあるわけないもん。彼氏が欲しいなあって思うこともあったけど、かないっこなかったよね。


 でもね、それでいいと思ってた。一人でも幸せだもんって、強がってた。けど、ここ何年か……昔の同級生が結婚するようになったの。こっちは一人ぼっちで仕事してるのに、私をいじめてた子たちはみーんな結婚しちゃって。そりゃ……ね。


 このままでいいのかなって、悩むようになっちゃった。でね、やっぱりそういうのって仕事にも影響しちゃうみたいで。だんだんね、本の売れ行きが下がるようになったんだ。中途半端に暗いお話になったり、無理やりバッドエンドにしちゃったり。打ち切りになったシリーズもあったし、このままじゃまずいなって。


 だからね、今年の初めに決めてたの。結婚しようって。それで、もしも相手が見つからなければ……もう一生独身でいようって。じゃなきゃ、せっかく作家として頑張ってきたのが無駄になっちゃう。昔のいじめをこの歳になっても引きずるなんて……絶対に嫌だったから。


 ネットでひゅーがさんと出会ったのはこの頃……だよね。もうちょっと前かな? 最初はね、てっきり年上の人だと思ってたの。ひゅーがさん、落ち着いてるからさ。でも大学生だーって言うからビックリしちゃった。


 そうだね、いろいろ話したねえ。覚えてる? ひゅーがさんがね、自宅のトイレが詰まったって慌てて通話かけてきて……笑っちゃったもん。そうそう、コンビニからすっぽん借りてきたんでしょ? 楽しかったなあ、お話しするの。


 どう思ってたか? うーんとね、若くていい子だなって思ってた。年齢の割に考えもしっかりしてるし、妙に達観してたからさ。いや、違うか。ひゅーがさんは……そうするしかなかったんだもんね。


 結構、二人きりでボイチャすることが多かったじゃない? 話してて心地いいし、全然ストレスなかったから。こういう人と一緒になれたらなあって、ちょっとは思ってたの。そしたら、すぐ隣の宮城県に住んでるっていうから。びっくりしちゃった。


 そうね、だから……予感してたの。もしかしたら、この人となら結婚出来るかもしれないって。そうだよ? 私、ずーっと前からひゅーがさんに恋してたの。……照れてくれるの? やーっと年下らしいとこを見せてくれたねっ。


 もし明日までに家に来たら結婚してあげますって言われて……本気になっちゃった。そういうこと。別にね、誰でもよかったわけじゃないの。これでもね、ちゃんと考えてたんだよ? 信じてもらえないかもしれないけど。


 とにかくね、こーんな人生だったからさ。お嫁さんになって幸せに暮らしてみたかったんだ。そう、これも私の夢だったの。だからね、イブの夜に思ったんだ。良い夢を見させてもらったなって。そして……やっぱり、夢は夢のまま終わる人生だったんだなって。


 だから身を引いたの。でも、今思えばやっぱり逃げただけなんだよね。ごめんね、さっきから情けないことばっかり言って。でもまあ……私の生きてきた人生って、ざっとこんな感じかな。


 お話を聞いてくれてありがとう。私、あなたのことが大好き。出会えてよかったって心の底から思ってる。でも、ひゅーがさんはどうかな。今の話を聞いて……それでも、私のことを愛してくれる?


 ずっと他人から悪意を浴び続けて、馬鹿みたいに突っ走って、あなたに迷惑をかけて、今もこうして家に閉じこもってる。本当の私は大した人間じゃない。お嫁に貰ってもらうにはね、あまりに傷がついちゃったんだ。


 ……ごめん、そろそろみたい。聞こえるかな、足音がするでしょ? たぶんね、お父さんが来る。もー、そんな怖い顔しないで。大丈夫、鬼が来るわけじゃないから。首を取られるわけじゃないよ。


 ひゅーがさん、本当によく考えて。もしもやめたかったら、今すぐそこの窓から逃がしてあげる。こっそりばあやに連絡して、車も用意してもらうから。いいの、心配しないで。これでも年上なんだから、最後くらいは頼ってほしいな。


 えっ……本当に? 私、おばさんだよ? いや、年齢がどうとかじゃなくて……なんでそんなこと言ってくれるのかなあ。優しいね、ひゅーがさんは。うん、そうだね。ありがとう。


 ごめんね、先に謝っておくね。お父さん、あなたにひどいことを言うかもしれない。でも、私は絶対にひゅーがさんの味方だから。ううん、もちろん両親のことは好きよ。だけど、今だけは……何があっても必ずあなたを守るから。じゃあ、私からもお願い。


 ……もう一度、私に夢を見せてくれるかな。


 お父さん、すぐそこまで来たみたい。もう逃げられないかな。大丈夫、大丈夫だよ。きっと大丈夫。ひゅーがさん、大好き。愛してる。だから……ね。


 頑張ろうね、ひゅーがさん。

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