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ネッ友(自称行き遅れ)の「結婚してくださいよ~」にOKしてみた翌朝、玄関に綺麗なお姉さんがいた  作者: 古野ジョン


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第22話 とんだ勘違い

 あの後、俺たちは再びゲレンデで滑り始めた。お昼休憩を挟みつつ、ひたすらリフトに乗ってスキーを楽しんだのだ。しかも綾音さんがいろいろと教えてくれたので、俺のスキー技術も少しずつ向上してきた。


「じゃあっ、ここまで滑ってきてくださーいっ!」

「はーい!」


 大きく手を振って、下のロッジ前で声を張り上げる綾音さんに合図する。谷側のスキー板にかけていた体重を緩めて、ストックをついてゆっくりと滑り出す。


「よっと……」


 左側の板に体重をかけて、小さく右にターンする。ハの字で滑るしかなかった午前中に比べると、我ながら随分と成長したと思う。


「こっちですよー!」


 綾音さんはこちらに向かってストックを掲げた。視野を広くして、遠くの方を見るんだったな。今はしっかりと綾音さんの姿が見えているし、コース取りも完璧だ。あとはしっかり目的地で止まるだけっ!


「はいっ!」

「ナイスです~っ!」


 雪を切りつけるように、思い切って板に体重を載せる。白い煙を巻き上げながら、綾音さんのちょうど目の前で停止した。


「上出来ですっ! 文句なしっ!」

「本当ですか?」

「はいっ! ちゃんと様になってましたよっ!」


 綾音さんは笑顔でサムズアップを見せてくれた。このスマイルを見ると、こちらの頬まで自然に緩んでしまう。これはもう、天賦の才なのかもしれないな。


「次はどうしましょうかねえ……」


 そう言って、綾音さんはポケットからゲレンデマップを取り出した。どこのコースを滑ろうかと考えているらしい。


「ねえお父さん、あれ食べたいー!」

「はいはい、分かった分かった」


 ふと、近くを通りかかった父子の会話が耳に入った。二人の行く先を見てみると、そこには「玉こん」とのぼりの立っている屋台。なるほど、あれが目当てか。


 よく考えたら、昼飯を食べてからずっと滑りっぱなしだったもんな。ちょっとおやつでも食べて休憩してもいいかもしれない。


「綾音さーん」

「はい?」


 屋台に並ぶ親子の方を見つめながら声を掛けると、綾音さんが顔を上げた。玉こんはもともと山形名物だもんな。こんな寒いだし、この人もきっと食べたいに違いない。


「ああいうの、良いと思いません?」


 何気なく呟いて、綾音さんの反応を待つ。……あれ、黙っちゃった。もしかして玉こんは嫌いなのかな――


「な、何の話をしてるんですか?」

「へっ?」


 綾音さんは下を向いて、言葉を詰まらせていた。よく見ると、顔がだんだん真っ赤になってきている。そんなに変なこと言ったっけ?


「だから、あっちの――」

「そっ、それは順序が違いませんか!?」

「えっ!?」


 何の話!? 玉こんの順序って何!? 山形にはこんにゃくを食べる順番にしきたりがあるってこと!?


「なっ、何がですか!?」

「そっ、それは結婚してから考えればいいじゃないですかっ! どうして今日はそんなに前向きなんですか!?」

「いやっ、だから……ちょっと食べたいなって」

「たっ、食べる!? こんなところで何の話をしてるんですか!?」

「何の話をしてるんですかはこっちの台詞なんですけど!?」


 玉こんって結婚しないと食べちゃいけないんだっけ!? そんなルール知らないんだけど!? 山形県知事がそう決めたの!?


「とっ、とにかく! 結婚はしたいですけどその後の話はまた別ですからっ!」

「だからその後って何なんですか!?」

「ひゅ、ひゅーがさんが言い出したことじゃないですかっ!」

「僕はただお腹が空いているだけなんですっ!」

「ダメですよ! こんなところでっ! えっち!」

「えっち!?」

「もーっ!!!」


 次の瞬間、綾音さんは自分の板を脱いで――雪上を歩み寄ってきた。何をするのかと思えば、俺に体重を預けるように……抱き着いてきたのだ。


「あっ、綾音さん!?」


 全身が柔らかな感触に包まれる。あまりに唐突な出来事で、どう反応すればいいのか分からず、俺はただ呆然と立ち尽くすのみ。


「これくらいで、我慢してください……」

「へっ?」


 綾音さんは俺に抱き着いたまま、ゆっくりと顔を上げた。頬を赤く染めて、照れ臭そうにしながら――静かに呟く。


「……子どもの前に、まずは私のことをちゃんと見てくださいっ」

「綾音さん……」


 見つめ返すと、綾音さんはパッと目をそらした。この人の言葉は、いつも俺の心を捕らえて離してくれない。それがどんなに嬉しいことか。でも――今は違うっ!


「僕、玉こんの話をしてたんですけど……」

「……へっ?」


 その時、さっきの親子が近くを通りかかった。二人とも玉こんの串を咥えたまま、俺たちの様子を不思議そうに見ている。


「ねえお父さん、あの人たち何してんのー?」

「おしくらまんじゅうだよ、きっと」


 お父さん、ナイスフォローである。


「……あの、綾音さん」

「ひゅーがさん、私のことを放さないでくださいね」

「えっ?」


 綾音さんは再び俺の胸板に顔を埋めた。恥ずかしそうにプルプルと小刻みに震えながら――一言。


「ひゅーがさん、このまま一緒に雪に埋もれませんか……」

「道連れにしないでくれますか!?」


 テンションが高いあまりに、空回りし続ける綾音さんであった……。

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