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ネッ友(自称行き遅れ)の「結婚してくださいよ~」にOKしてみた翌朝、玄関に綺麗なお姉さんがいた  作者: 古野ジョン


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第20話 空中バトル

 あまりの寒さに市バスに乗って帰宅すること考え始めた頃、ようやくリフトが動き出した。気づけば周囲にもたくさんのスキーヤーが集まっていて、用具を準備したり山の方を見上げたりしている。


「よしっ、ひゅーがさん行きますよっ!」

「はーい……早っ!?」


 綾音さんがスケーティング――平地で進む技術――であっという間に加速していくのを、俺は不格好にストックをついて追いかけるしかない。さすが国体選手というか、年季が違うというか……。


「まっ、待ってくださってばーっ!」

「こらーっ! それじゃ板とウエアが泣きますよーっ!」

「えっ?」

「私は出ただけですけど、兄は国体で優勝してるのでーっ!」

「嘘おおおっ!?」


 たしかにウエアもお兄さんのだって聞いてたけど、そんなにすごい代物だったとは思わなかった。こんなの「かっぱらって」きて大丈夫だったんだろうか? やっぱりすごい人だな。


 なんとか綾音さんに追いつく頃には、リフト乗り場に着いていた。土曜日ということもあってか、スキーヤーやボーダーが列をなしている。


「結構並んでますね」

「ちっ、最近の若者はスキー場なんか来ないって聞いてたのにっ」

「さっきと言ってること違いませんか!?」

「スキーブームは再来してほしいんですけど、私が来ている日はガラガラであってほしいんですよ~っ!」


 綾音さんはむーっと頬を膨らませて、列の先の方を見据えていた。もともとテンションが乱高下する人だけど、今日は特にエネルギッシュに見える。やっぱりスキーが好きなんだろうな。


「ああもうっ、お金出してもいいからリフトもう一基増やしたいっ!」

「流石に足りないと思いますよ!?」


 悔しそうに叫ぶ綾音さんを横目に、自分たちの順番を待ち続けたのだった……。


***


 順調に列は進んでいき、乗り場のすぐ近くまでやってきた。前のスキーヤーがリフトに乗り込むと、係員がこちらに振り向いた。


「じゃあ次の方、どうぞ~」


 促されるまま、俺と綾音さんは少しずつスキー板を進める。「乗車位置」と書かれた札のところで待っていると、すぐにリフトがやってきた。手で搬器を押さえつつ、ゆっくりと腰を下ろす。


「あっ、優しいですね」

「へっ?」


 隣に乗り込んだ綾音さんが、こちらにニコッと笑いかけてきた。何のことか分からないでいるうちに、徐々にリフトが高度を上げていく。


「乗るときにリフトを手で押さえてくれたじゃないですか」

「えっ? ああしないと『膝かっくん』されちゃうじゃないですか」

「そうなんですよ~! スキーを始めてから何回膝裏を強打したことか分かりませんっ!」

「あれ結構痛いですよね」

「そうそう! なあんだ、ひゅーがさん結構滑れるじゃないですか~!」

「どこで判断してるんですか!?」

「こんなニッチなあるあるネタで共感してくれて感激してるんですっ!」

「は、はあ……」


 スキーヤーは動いたままのリフトに乗り込む必要があるので、普通は乗車位置で「空気椅子」のような恰好で待ち受けることになる。


 しかし、何もしないとやってきた搬器が膝裏に激突してくるので、それを避けるために手で押さえる必要がある――というわけである。たしかに万人には通じないネタではあるか……。


「小説のトリックに使ったらどうですか?」

「リフトで膝裏を打って死ぬ人間がいるのかなあ……?」

「そこはその、綾音さんの腕の見せ所ということで」

「うーん、ボツですっ!」


 残念ながら採用されなかったので、印税収入のおこぼれは期待できないみたいだ。なんてしょうもないことを考えていると、有線放送から流れる音楽が耳に入った。どうしてスキー場では絶妙な懐メロばっかり流れるんだろうな。


「この曲、懐かしいな~」

「小学生の頃、テレビでよく流れていた気がします」

「私は幼稚園くらいだったかなっ?」

「あっ、無理しなくていいですよ」

「突き落としましょうか?」

「洒落になってないですけど!?」


 この期に及んで年下を装うのは無理というものである。しかし……リフトに乗っている時間というのは暇だ。前の搬器に乗っている人がスマホをいじくっているけど、落っことしたりしないか見ているこっちが不安になる。


「しりとりっ!」

「へっ?」

「『へ』じゃないです、『り』ですよ?」


 綾音さんはこちらを見て、首をかしげていた。たぶんこの人も暇だと思ったんだろうな。どうせやることもないしな。


「り……りす」

「酢漬け!」

「け? け……毛玉」

「舞茸!」

「ええ……?」


 る攻めとかり攻めってのは聞いたことあるけど、「け」攻めってなんだよ!? 何を考えているのかは分からないけど、ここは応戦するしかない。


「毛虫」

「湿気!」

「毛糸」

「年明け!」

「け、献血」

「つけ!」

「け……何がしたいんですか?」

「えっ? それはですねー……」


 リフトがガタガタと揺れる中、綾音さんは指を口元に当てた。そして茶目っ気たっぷりに、一言。


「『結婚してください』って言うまで追い込もうと思って!」

「リフト何周する気なんですか!!?!!?」


 結局、リフトが降り場に到着するまで……俺は「け」攻めを食らい続けたのだった。

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