第19話 舌とスキーはよく回る
半ば強引に後部座席に詰め込まれ、車に揺られること一時間弱。綾音さんが持ってきてくれていたおにぎりを食べたり、車内に用意されていたスキーウエアに着替えたり……気づいたときには、スキー板を履いてゲレンデの麓に立っていた!
「いえーいっ!! やってきましたよスキー場っ!!」
「えーっと……」
「なんですかっ!!?」
「まだリフト動いていませんけど……」
「えっ?」
着替えたり板を用意したりで時間を潰したけど、それでもまだ八時半。リフトは動いてないし、そもそもこんな時間にゲレンデに出ているお客なんて俺と綾音さんくらいしかいない!
「ひゅーがさんは全くの初心者だと思ってたので、準備に時間がかかるかなって早めに来たんですけど。板とかすぐに履いていたのでびっくりしました」
「一応、何回かは来たことあるので……いや、全然初心者ですけど」
「滑れるんですか!?」
「ぼ、ボーゲンだけですっ! ハの字で滑れるだけですって!」
「ほの字? 私にほの字ってことですか!?」
「スキーで国体出てるのにその間違いすることあります!?」
ほぼ誰もいないロッジ前にて、綾音さんとやいのやいのと言い合う。それにしても、なんだか今日はテンションが高いなあ。国体に出るくらいだし、スキーするのが楽しみってことかな。
「そういえば、この板って綾音さんのなんですか?」
「ああ、それはですね……」
俺はストックで自分の履いている板を指した。綾音さんの板より長めで、色合いも黒系統。どちらかというと男の人が履くような物に見える。
「兄の板ですっ! 実家の物置からかっぱらってきましたっ!」
「お兄さんの?」
「はいっ! 最近使ってなかったみたいなので、私がちゃ~んと手入れしておきましたっ!」
「へえ……」
お兄さんがいたとは知らなかったな。今まで話題に出てきたこともなかった気がする。まあでも、スキー板の貸し借りが出来るくらいだし……仲が悪いってことはなさそうだな。
「綾音さんが履いてるのって、現役時代に使ってた板ですか?」
「そうですっ! 学生時代にスラロームで使ってたんですよ~」
「す、すらろーむ?」
「『回転』って言った方が分かりやすいですかね?」
「ああ、聞いたことあります」
「そうなんですっ! だからひゅーがさんにはGSで使ってた板を貸そうと思ってたんですけど、あんまり状態が良くなくてですね~」
「?」
GSって何? ガソリンスタンド?
「あっGSっていうのはジャイアント・スラロームっていうのが正式名称なんですけど、これがいわゆる『大回転』って競技でして!」
「は、はあ」
「私っ、スキーの種目にどうして『回転』という訳語を当てたのかってすっごく気になってて、いろいろと調べたんですけどなかなか分からなくてですねっ、それから……」
「あ、綾音さん?」
「やっぱり最近はスノーボードに押され気味なんですけどね、私としては古き良きスキーブームが再来して欲しいと思ってるんですっ! だからひゅーがさんには、大学のご友人にスキーの良さを……」
「そっ、そんなに一気に話されても分かんないですけど!?」
リフトが動き出すまでの数十分間、寒い中でひたすらスキーに関するうんちくを聞く羽目になってしまった俺であった……。
ちょっといつもより短くなってしまいました
自分の部屋にも綺麗なお姉さんが来てほしいものです……




