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白薔薇姫と黒の魔法使い  作者: 七夕真昼
グレナディーヌ編
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白薔薇姫、魔塔へ行く:1

遠征から戻ったカルディスが自分を呼んでいると伝えられ、ロゼアリアは父の書斎へと向かっていた。元より伺うつもりだったからちょうどいい。



「お父様。ロゼアリアです。」


「入りなさい。」



討伐遠征を終えたばかりだからか。父の顔はいつもより疲れているように見えた。父がソファに座ったのを見て、ロゼアリアもその向かいに腰掛ける。



「ロゼ。ロゼッタと何度も話し合ったが、やはりロゼを騎士団に入れることは認められない。」


「……。」


「しかしこれではロゼは納得しないだろう。そこで、一つ条件をロゼに出す。」


「……条件、ですか?」



すっと目の前に差し出された手紙をロゼアリアが覗き込む。カルディス宛に書かれているようだが、どうしてこれが自分の条件になるのだろうか。


「……魔塔と交渉? お父様、魔塔へ行かれるのですか?」


「国王陛下からの要請でね。実はこれまでも何度か魔塔に出向いたことがあるんだよ。」


「初めて知りました……。」



なるほど。それで父は、「魔法使いを探す」と言えたのか。魔塔への行き方が分かるのならば納得だ。



「王命で魔塔に行っていたのはロゼッタと結婚する前だったからね。もう十数年前になる。」


「お父様に直接国王陛下が命じられたのですか?」


「その時父と兄は討伐遠征に長く出ていた時だったんだ。だから、私が受けることになったのだと思う。結果を言えば、私は陛下の期待にお応えすることはできなかった。」



魔塔と交渉するということは、王宮は魔塔との関係を築きたいということだ。カルディスが交渉を成立させていれば、現在に至るまで魔塔と交流の断絶が続いているはずがない。



「魔法使いの方々は、そんなに気難しい方なのですか?」


「どうだろうね。私は一度も会ってもらえなかったから、詳しいことは分からない。魔塔の中に入ったことも無いんだ。」


「三百年も交流を拒み続けてきたのですから、一筋縄ではいかないということでしょうか。」


「一筋縄どころか、難攻不落だったよ。おそらく国王陛下も諦めていらっしゃったと思う。私の前に魔塔へ伺っていた人も、結局魔塔に入ることはできなかったからね。」



そこまで魔法使いは人間が嫌いなのだろうか。父の話を聞いてそう考えたロゼアリアがふと首をかしげる。この話と父のいう条件に、どのような繋がりがあるのか。



「お父様。それで、入団を認めていただける条件とは。」


「ああ。ロゼ、この任務をロゼに任せようと思う。既に国王陛下へこの旨は伝えている。」


「私に?」



カルディスは自分の代わりに魔塔へ行けという。それ自体はとても魅力的な話だ。魔法使いがどのような人なのか、実際に会ってみたいと思っていたから。ただ、国王陛下からの王命というのが一気に重圧となって押しかかる。



「私には果たせなかった王命を果たせたのなら、後継者として認めよう。白薔薇騎士団の入団試験も……ロゼの実力なら問題ないだろう。」


「本当ですか?」


「約束しよう。その代わり、もし果たせなかった時はきっぱりと入団を諦めなさい。」


「……分かりました。魔塔との交渉は、いつまででしょうか。」



当然、言い渡された期間が長いほど有利だ。魔塔のことも、魔法使いのことも何も知らない。だからといって国王陛下を長々と待たせるのも無礼だ。



「明日、私は国王陛下に遠征の報告をする。その時に魔塔のこともお話しされるはずだ。急な用事になってしまい申し訳ないが、ロゼも一緒に来なさい。陛下の許可は貰っているから、何も心配はいらないよ。」


「国王陛下に、謁見……」


「正式に任務を与えられてから、詳しく話を薦めよう。交渉の期間もその時に決める。それで良いかな。」


「かしこまりました。」



まさか明日、国王陛下に会うことになるとは。それでもようやく、ようやく騎士団に入るための道が見えた。魔塔との交渉。なんとしても成功させなくてはならない。





翌日。父と二人、馬車に揺られるロゼアリア。今から国王陛下の御前に向かうことを考えると緊張する。



「そこまで緊張せずとも大丈夫だよ。陛下は穏やかな方だからね。」


「私は、舞踏会でお見かけしたことしかないので……」



もう何度も謁見しているカルディスならば今さら緊張することもないだろう。しかしロゼアリアは初めてだ。緊張するなと言う方が難しい。


深呼吸をしているうちに馬車は王都へ。いつもこの道を通る時はどの店へ行こうか気持ちを弾ませているのに、今日は全く新しい道を通っているようだ。



「ロゼと王都に来るのは久しぶりだね。」


「はい。王都に来る時はいつも、フィオラと遊ぶ時か舞踏会の時だったので。」



そうだった。邸宅まで迎えに来てくれたアーレリウスと、クロレンス家の馬車で何度もここを通っていた。それすら忘れてしまうほど今は緊張している。


鮮烈な赤に金のウロボロス。グレナディーヌ王家の紋章だ。衛兵に通され、馬車は城へ続く橋を渡る。


とうとうここまで来てしまった。王国が現在の形になってから三百年続くグレナディーヌ王家。


馬車を降りてから国王陛下の待つ謁見の間まで、どのような道を通ってきたかよく覚えていない。ただひたすら、幼い子供のように父の後ろをついて歩いた。



「陛下。ロードナイト伯爵並びにロードナイト伯爵令嬢がお越しになりました。」



紋章が施された重圧な扉が左右に開き、広い空間が広がっていく。真っ直ぐに伸びた赤いカーペットの先、壇上の玉座に悠然と座る御方こそ、ダリオット・レムリアン・グレナディーヌ。第十三第グレナディーヌ国王、その人だ。


蘇芳の髪は半分以上白が混じっているが、金色(こんじき)の瞳に宿る威厳は未だ衰えていない。



「カルディス。娘を連れて来るとは珍しいこともあるものだ。」


「グレナディーヌ唯一の太陽、国王陛下にご挨拶申し上げます。」



カルディスが一礼する後ろで、ロゼアリアもカーテシーで敬意を示す。陛下に声をかけられるまでは何も話してはいけない。



「我が娘、ロゼアリアにございます。」


「ああ、クロレンスの息子との一件は聞いている。例の事件もな。」



国王陛下の耳にまで入っていたとは。



「カルディスの若き頃によく似ているな。姫騎士を目指していると聞いたが、これは期待できそうだ。」



豊かな髭の下でダリオットがくつくつと笑う。その表情が、ふと真面目なものに変わった。



「さて、本題に入るとしよう。まず此度の遠征ご苦労であった。状況は変わらずだったか?」


「はい。西方区域は以前と変わりありません。」


「そうか。」



ダリオットがどこかほっとした様子を見せる。二人のやり取りをロゼアリアは黙って見つめていた。詳しいことはよく分からないが、推測するに魔物による被害などのことだろう。父が遠征で訪れた所は状況が悪化しておらず、安心されているのだろう。



「次は魔塔だな。カルディスの代理としてロゼアリアが魔塔との交渉に向かうと聞いたが。」


「はい陛下。私ではこれまで何度訪れても良い結果を得ることができませんでした。そこで、今回は私ではなく娘に託してみようかと考えております。そして、交渉が成立した暁には……この子をロードナイトの正式な後継にするつもりです。」


「ほう? ロゼアリアを次期伯爵にか。養子は取らないというのだな。」


「はい。」


「分かった。無事魔塔の主を説得できたなら、王宮もロゼアリアが正式に後継者となることを認めよう。」



ダリオットの一言にロゼアリアが瞳を輝かせた。国王陛下にも認めると言ってもらえたのだ。これでもう、両親が反対することはない。今すぐに魔塔に向かいたい。



「ロゼアリア、よいな?」


「はいっ! ありがとうございます!」


「しかし魔塔は手強い相手。カルディスは一度も魔塔の主に会うことは叶わなかった。父がお前に与えた条件は決して優しくはない。しっかりと努めなさい。」


「はい。ありがたきお言葉、しかと受け止めます。」


「では……どのような結果であってもひと月後、またこの場で報告に来なさい。魔塔を説得できなかったとしても、王宮はお前を責めることはないから安心しなさい。」


「かしこまりました。ありがとうございます。」



少しだけ、肩の力が抜けた。王命を果たせなかった父が何もなく過ごしているのを見れば分かることだが、任務に失敗したらダリオットから罰則を与えられてしまうのではないかと不安があった。


与えられた時間は一ヶ月。少しも無駄にはできない。


謁見を終えたロゼアリアは馬車へと戻る父の背中に続いて歩く。ここからだ。自らの望みを叶えるために、必ず魔塔を説得して見せる。



「ロゼ、いいね。一ヶ月だ。」


「はいお父様。約束は(たが)えません。」


「王命を果たせた時は私も腹を括ろう。ロゼを後継者として責任持って全てを教える。果たせなかった時は、ロードナイトに残るというのならば婿を取りなさい。」


「お父様……?」

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