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白薔薇姫と黒の魔法使い  作者: 七夕真昼
グレナディーヌ編
6/44

白薔薇姫、騎士を目指す:6

「白薔薇姫様……ヘレナ様がまるで男のようだと仰っていたけれど、本当ね。」


「ですが、今日の装いはとても素敵でいらっしゃるわ。まるでアレクシス様のよう。」


「お顔の傷も、今日はそこまで気になりませんわね……前お見かけした時はもっと目立っていらっしゃったと思うのだけれど。」


「けれど、あれでは本当に貴公子ではなくて? 淑女としてはいかがなものかと。」



騎士服の評判はまずまずといったところだろうか。好評の声が聞こえてきただけで十分な収穫だ。姫騎士としての印象を付ければ、父に圧力をかけられるかもしれない。後でフィオラや準備に(たずさ)わってくれた侍女に礼を言わなければ。


顔の傷を隠すことも考えたが、やめた。隠してしまえばそれは、自分で醜いと思っているも同然。人助け故の傷を恥じる必要がどこにある。胸を張れることをしたのなら、この傷も堂々と晒すべきだ。それがロゼアリアの矜恃だ。


来賓が見守る中、アーレリウスにエスコートされて現れたヘレナ。かつてロゼアリアに向けられていた優しい眼差しは、ヘレナへと注がれている。



(アーレリウス……貴方の中に私はもういないのね。)



改めて彼の気持ちを目の当たりにして、ズキンと心が微かに痛んだ。けれど、それだけだった。アーレリウスの中に自分への想いがもう微塵も残っていないこと。それを実感した今、やっと諦めがついたような。彼に希望を抱く必要が無いと納得できた。そんな心情だ。



「お嬢、もし気分が優れないなら俺の後ろにいてくださいね。」


「ありがとうオロルック。でも大丈夫。せっかく来たんだから、最後まで見届けるわ。だって私は由緒ある騎士の娘だもの。」


「さすがです。」



心からの祝福、なんてものを贈るつもりは無いが見届けることはできる。


婚約誓約書が読み上げられている最中。偶然かは分からないが、アーレリウスの視線がロゼアリアを捉えた。すぐに気まずそうに逸らされたあたり、向こうも一方的な婚約破棄に罪悪感か何か抱いていたのだろう。


アーレリウスと目が合ったのはその一瞬だけで、それ以降彼はこちらを見ようともしなかった。式は何事もなく順調に進行し、誓約書に署名をした二人が婚約指輪を交換する。


太陽の光を浴びてキラキラと輝く大粒のダイヤモンド。まさしくヘレナが好みそうなデザインのそれに、多くの令嬢が憧れの眼差しを注ぐ。


これでもう二度と、アーレリウスの名をロゼアリアが口にすることはない。今後関わることがあっても彼は自分より上の身分。以前のように親しい仲で言葉を交わせはしないのだ。


婚約式の後はそのままパーティーに移る。ある程度過ごした後は、ロゼアリアは帰るつもりでいた。


きちんと見届けたのだ。今日の使命は十二分に終えた。



「任務完了ですねお嬢! ご立派でした!」


「気持ちがだいぶ楽になったわ。お菓子とお茶をいただいたら帰りましょう。」



フィグミュラー侯爵家が用意したものだ。どの料理も絶品であることは確実。これを味わうことなく帰るのはナンセンス。



「あら、ロゼアリア嬢! 来てくださって嬉しい限りですわ!」



オロルックと談笑していたロゼアリアの表情が少し険しくなる。やはりすぐ帰るべきだったか。目ざとく声をかけてきたのは他でもない、ヘレナだった。



「ヘレナ様。ご婚約おめでとうございます。」



すぐさま完璧な笑顔を取り繕う。追加の任務だ。



「私、今幸せでいっぱいですの。こんなに大勢の方に祝福していただけるなんて、夢のようですわ。」



口元に手を当て、これみよがしに薬指の指輪をロゼアリアに晒す。純金に嵌め込まれた大粒のダイヤモンドと、指輪にぐるりとあしらわれた二列の小粒のダイヤモンド。その額に一体いくつゼロが必要なことか。



「とても素敵な婚約式でございました。」


「そうでしょう? 半年後に結婚式を挙げるつもりですから、そちらもぜひいらしてくださいね。」


「楽しみにしております。」



半年も先の約束など、果たして覚えていられるだろうか。



「ロゼアリア嬢、そちらの方は……もしかして婚約者の方かしら。」


「彼は我が伯爵家の騎士です。」


「あらそうでしたの。ごめんなさいね。」



申し訳なさそうな顔をしているが、「まだ婚約者が見つからないなんて可哀想に」とでも言いたいのだろう。



「ロゼアリア嬢も早くお相手が見つかると良いですわね。ああでも、その傷では……難しいと思いますけれど。今日だってそのような格好をされてますもの。ドレスを召されるよういとお願いしたのだけれど……着れるものが無かったのなら、仕方ないですわね。」


「そうかなぁ。俺はすごく似合ってると思うけどね。」



のらりくらりとした眠たげな声。白銀の髪と、涼やかなブルートパーズ。



「ロ、ロドニシオ卿……」


「ご婚約おめでとうございます、ヘレナ嬢。クロレンス公子が探していましたよ。戻られては?」


「そ、そうしますわ。お伝えいただきありがとう存じます、ロドニシオ卿。失礼いたしますわ。」



ロドニシオの登場は予想していなかったのか、ヘレナはそそくさとその場を後にする。ロゼアリアは視線だけでその背中を見送った。



「……ありがとうございます、ロディお従兄様。助かりましたわ。」


「そうだと思ったんだあ。アレク兄さんからヘレナ嬢に注意しとけって言われたからさあ。ヘレナ嬢相手じゃ、オロルックも何も言えないだろうし。」


「ロドニシオ卿、ありがとうございます! お嬢、お力になれず申し訳ないです。」


「オロルック、気にしないで。」



自由気ままな性格のロドニシオは、社交界の場にほとんど姿を現さない。そんな彼が今日は参加しているものだから、必然的に視線はロドニシオに集まる。



「ロゼ、髪切ったんだね。とても似合うよ。制服と相まって、ロードナイトの姫騎士って感じがして素敵。」


「ありがとうございます。ロディお従兄様も素敵なお召し物でいらっしゃいますね。」


「分かる? 結構気合い入れてきたからねえ。俺が来ただけでも結構主役の注目度落とせたと思うんだよねえ。まあ、招待してきたのはあちらさんだし。もうちょっと引っ掻き回してくるよ。」



ふふふ、とどこか不穏な笑みを漏らしながら、ロドニシオは二人に手を振ってその場を去って行った。



「ロディお従兄様もお変わりないようで良かったわ。」


「伯爵様がベーチェル公爵家の産まれですげぇ良かったって思います……ベーチェル公子様とロドニシオ卿は敵に回したくないですね!」


「よく分かってるわねオロルック。お従兄様達を敵に回しては駄目よ。」



特にアレクシスだ。以前、ベーチェル公爵家を快く思わない他の貴族に婚約者のアマリリアが命を狙われた時があった。結果を言えばその貴族はアレクシスの手によって(つい)える事になった。温厚な印象で知れ渡っていたアレクシスの冷酷な一面に衝撃を受けた人も多かったはず。彼の実力は剣だけではない。



「そろそろ帰りましょうか。疲れたわね。」


「俺も疲れましたあ。帰って身体動かしたいところです!」


「なら、戻ったら手合わせでもする?」


「良いんですか!」

子爵家の次男で幼い頃より騎士として鍛錬してきたオロルックにとって、こういう場は堅苦しくてなかなか辛いはずだ。それでもロゼアリアのためにエスコートを快く引き受けてくれた友人には感謝しかない。



「今日は手加減してあげる。明日はお父様が戻られるから、帰ってきたお父様とお話するのにしっかり休まないといけないもの。」


「あはは。あんまり話し込むと本当に伯爵様が夜寝れなくなっちゃいますよお嬢。」


ロゼアリアとしてはその方が好都合だ。疲労が勝った父は、ロゼアリアに根負けして折れてくれるかもしれないから。


帰りの馬車の気楽なことと言ったら。行きと違い、他愛もないような会話であっという間に時間は過ぎる。



「着替えたら鍛錬場に集合しましょう。」


「了解です!」



オロルックと約束を交わし、邸宅に戻る。一歩踏み入れば、不安で表情をいっぱいにしたフィオラが迎えに来た。


「おかえりなさいませお嬢様。大丈夫でしたか?」


「ええ。アレクお従兄様とロディお従兄様にもお会いしたわ。」


「そうだったのですね! お嬢様の顔色が良くて安心いたしました! オロルックも、お疲れ様です。」


「ありがとフィオラ嬢。じゃ、着替えに行きますね!」



よほど身体を動かしたいのか、疲労感をまったく感じさせない足取りでオロルックは騎士の寮舎へ向かっていく。ロゼアリアもフィオラと共に邸宅の中へと入った。


「フィオラ、動きやすい服をお願いできる? この後オロルックと手合わせするの。」


「今からですか!? お疲れになられたと思いますし、休まれた方が……」


「身体を動かしたい気分なの。オロルックともう約束してしまったし。」


「かしこまりました……。あまり無理をされては駄目ですからね。」


「大丈夫、分かってるわ。」

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