第8話「まだかまだかの法則と、郵便受けの魔法」
試験から数日後──
「合格発表って、半月後なんだよね?」
「ああ、**試験勉強した人の“祈り待ち期間”**だな」と彩鼓。
「国試センターの人たち、きっとその間、電波のことなんか全然考えてないと思う」と真宵。
「……あら、合格発表が遅いのは高周波じゃなくて低周波だから?」
「違うよそれは!」と華。
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華、郵便受けを一日に五回確認するようになる
「まだ来てない……」
「午前の配達で来るかと思ったけど、午後かな」
「新聞の折り込みに紛れてるとか……ないよね?」
母:「あんた、何回ポスト見に行くの? もう郵便受けの蓋、壊れるわよ」
学校の帰り道、すれ違った犬の散歩中のおじいちゃんにも「郵便局員さんまだかねぇ」って話しかけられた。
「うん、私もそれ待ってるの」
妙な連帯感が生まれてしまった。
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無線部、気の早い装備選定会議
部室ではすでに「華に何を持たせるか」で議論が白熱していた。
「移動運用するなら、やっぱりハンディ機(VUHF)よね」
「八木アンテナ担いで駅前歩くのはさすがに通報されるからやめとけ」
「いや、あえて3.5MHzのアンテナを自転車に積んでみるっていうのはどう?」
「アンテナより本人の体力の方が心配なんだけど……」
澄佳:「受かる前提で話しているけれど、もし落ちていたら?」
彩鼓:「そんときゃ、またバス出して再試験だろ」
真宵:「いいんだよ。これは儀式なんだよ」
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合格通知、ついに来る!
試験から15日後、ついにその日はやってきた。
ポストを覗いた華の目に、薄いけど存在感のある下に目隠ししてあるハガキが飛び込んでくる。
そこには、「公益財団法人 日本無線協会」の文字。
「……きた……!」
思わずその場で開けようとして、手が震えた。
部室に駆け込むと、3人はすでに机にプリンと紅茶を並べてスタンバっていた。
「どうだった?」
「この空気……合格してるな」
華は目隠しをゆっくりとめくった。白地に太字で「合格」と印字されたハガキを高らかにかざした。
「うわぁぁぁぁ……! 本当に、受かったんだ……!」
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そして次の手続き──従事者免許証申請
「よし、じゃあ従免の申請やるぞ」
「えーっと、写真要るんだよね。縦3cm、横2.4cmのやつ。無帽、無背景、3ヶ月以内……って運転免許じゃんこれ」
「収入印紙代もいるから、郵便局にも行かないと」
澄佳:「総務省の電子申請システムもあるけれど、初心者なら紙申請が安心ね」
真宵:「あとは住所書いて、印鑑押して、申請用紙と一緒に郵送だな」
彩鼓:「ここまでくれば、もう“あと一歩”だ」
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空に、名前を刻む準備が整ってきた
夕方、申請書類を無事に郵送してきた帰り道。
道ばたに咲くタンポポの横で、華が空を見上げる。
「私も、空に名前を載せるんだよね……“コールサイン”って、そういうものだって思う」
あのとき、勝手に電波を出そうとして止められた自分が、
いまはきちんと手順を踏んで、“電波を出す資格”を手に入れようとしている。
自分の声が、波になって、空に飛んでいく。
そんな日が近づいていることを、確かに感じていた。