第7話「試験当日、午前10時の受信レベル」
会場は新潟テルサ、試験開始10時ちょうど
華が試験を受けるのは、新潟市中央区鐘木にある新潟テルサ。
冷えた朝の空気とともに、きりっとした緊張感が会場に漂う。
「なんでこんなにおじさんばっかりなの……」
制服姿の華は、ひときわ目立っていた。周囲は作業服姿のおじさんたち、学生らしき姿は見当たらない。
胸のポケットでスマホが震える。
彩鼓から:「胸張ってこい」
真宵から:「おみくじより当たるように祈っとく」
澄佳から:「周波数のように、落ち着いて波を刻んで」
深呼吸一つ。華は試験室に足を踏み入れた。
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まずは問題用紙に○をつける
開始の合図とともに問題用紙が配られる。
3人の指導通り、華はマークシートに記入する前に、問題用紙に直接○をつけていく。
「まずいきなり電波法……ええと、これ、電波を勝手に出しちゃダメってやつ」
「次は…周波数の区分。これ、澄佳が“アマチュア無線の基本中の基本”って言ってた」
「えっと……空中線電力の制限……たしか“20W以下”が出やすいって彩鼓が……」
問題は4択、見覚えのある文言が並ぶ。
引っかけ問題もあるけれど、3人から散々言い聞かされてきた内容だ。
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月潟家執務バス、待機中
試験会場のすぐ近く、新潟テルサから少し離れた場所に、月潟家の執務バスが静かに停車していた。
内装はちょっとした応接間。ゆったりとしたソファと、ホットサンドメーカーから立ちのぼる香ばしい匂い。
澄佳はポットから紅茶を淹れ、彩鼓は問題集を横に置いて眠気と格闘しながらスマホをいじる。
真宵はミニPCを開いて非公式の正答速報スクリプトを事前にスタンバイ。
「終わったら問題冊子で自己採点できるからな」
「プリン冷やしておいたわよ。頑張った子には甘味と決まってるもの」
「……けどまあ、本人が納得するのが一番だよな」
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試験終了、そして答え合わせ
11時ちょうど。試験が終わり、ややぐったりしながら華が出てくる。
でも、目元はすっきりとしていた。
「……たぶん、8割は超えたと思う」
そう言って、手にした問題冊子を差し出す。
「はい採点、回答番号読み上げて!」と真宵。
「お茶、淹れておいたわ」と澄佳。
「とりあえずお疲れ」と彩鼓。
「Q1がA、Q2がC、Q3がB……」と読み上げていく華。
それに合わせて真宵がスクリプトに打ち込む。
──ピピッ、と音がしてスコアが表示された。
「92%。落ちる方が難しいぞこれ」
「やった……!」
華の口から、ほっとした吐息とともに、力の抜けた笑顔が浮かぶ。
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試験後の空気と、はじまりの電波
「これで、ちゃんと堂々と“電波出していい人”になれたんだよね?」
「合格通知が来て、なおかつ従事者免許証が来てからだけどな。すでに受かった前提で、次の機材選定しとく?」
「本人がその気なら、移動運用もいいわね。山に登って、空に向けて電波を飛ばすの」
華は窓の外を見た。梅雨の隙間の晴れ間に、ほんの少し、夏の気配が混じっている。
「……早くコールサイン、欲しいなぁ」
その声が、なんだか少しだけ電波になって、空に届いていったような気がした。