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第6話「“やってみればカンタン”だけど――ひとりじゃ始めなかったかもね」

勉強は文化祭、試験はお祭り前夜


机を囲むのは、教科書でもノートでもなく、コピー用紙をホチキス留めしただけのプリント。

赤ペンを片手に、どこか肩の力が抜けた空気。


「はい、次いってみよう」

彩鼓の声に、皆が手元を見る。けれどピリピリした空気はない。

問題に詰まっても、ふざけて茶化して、笑って乗り越える。

それはまるで、文化祭の出し物準備のような、

本気だけど深刻じゃない、けれど妙に心が弾む時間だった。


居場所と空気


「お茶、もうちょっといる?」

澄佳が魔法瓶をそっと湯呑に注ぎ、真宵が焼いてきた不格好な型抜きクッキーを差し出す。


華はそれを一口かじって、心の中がじわりと温まるのを感じた。

ただの放課後の教室。でも、どこか違う。


静かな楽しさ。

一人では辿り着けなかった勉強机の向こう。

「できるかも」と思える空気。



始まりの話


「ねえ、みんなって、なんで無線始めたの?」


ふとした拍子に、華が聞いた。

この空間が好きになってきたからこそ、気になった。


「うち? うちは、家が無線機屋だからさ。物心ついたときには送信してた」

彩鼓はどこか照れたように笑う。

「親父が言ってた。“人の声を空に飛ばせるって、ロマンだろ”ってさ」

「中二病くさいけど、かっこいいよねそれ」

華が笑うと、彩鼓も笑った。


「私はね、小さいころ病気がちで、あんまり外に出られなかったの」

と、真宵が静かに語り出した。

「でも、家の中からでも誰かと話せるって、すごくうれしくて」

「最初につながった人が、青森のおばあちゃんだったのよ」

「え、それってドラマの始まり方では?」

「うん。だから、今も私にとって“電波”って、誰かとつながる魔法なんだ」


そして、澄佳がふっと目を細める。

「私は…お父様が昔、自衛隊の通信将校だったの」

「無線って、命をつなぐ道具でもあるのよ。そう教えられて育ったわ」

「でも今は、命じゃなくて、仲間と気持ちをつなぐ道具として使いたいの」

「そのために資格を取ったの。――わがままかもしれないけど」


華は、ただ黙ってうなずいた。

3人とも、ちゃんとした“始まり”がある。

でもそのどれもが、今日この部室で一緒に笑ってくれてる彼女たちを形作っているんだ、と思った。



---

みんなで、ひとつの周波数に


無線部の勉強は、ただの暗記じゃなかった。

3人の話が、電波法の一行一行を、物語のように塗り替えていく。


「“やってみれば簡単”だよ」

その言葉の裏には、いろんな気持ちと、長い時間があったんだ。


一人じゃ触れなかった世界。

でも今なら、ちょっとだけ手を伸ばせそう。



---


夜の帰り道──空の向こうに


放課後の部室を思い出して、胸の奥がふわりと温かくなる。

――この気持ち、きっと忘れない。


誰かの話が、自分の中に残っている。

自分も、誰かにそうなれたら。


電波って、きっとそういうことなんだ。



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