第49話 生徒会『はむ部のお前らは来年度どーすんの?』
そういや…白根彩鼓は高校3年で短大へ内部進学するんだったよな…
で、部長どうしたんだっけ?と私も忘れていた話。
――2月中旬。卒業式まで、あと2週間。
部室のストーブは全力運転中だが、足元は相変わらず寒い。
窓の外には、解けきらない雪。
「……寒い。はむ部って、寒さ耐性まで鍛える部活だったっけ?」
みなみがコートを脱がずに言う。
「電波は氷点下でも飛ぶから」
白根彩鼓が即答する。
理屈としては正しいが、慰めにはならない。
「でも人間は凍る」
真宵が半田ごてを持ったまま、ぼそっと言った。
「それな」
みなみと華が同時に頷く。
華は湯気の立つ紙コップを両手で包みながら、
部室をぐるりと見回す。
「……で?」
その一言で、今日がただの部活日ではないことを全員が悟る。
澄香が、分厚いファイルを机に置いた。
「生徒会から正式な通達です。
来年度のはむ部体制について――締切は3日後」
「3日!?」
みなみが思わず声を裏返す。
「卒業式まで2週間あるのに!?」
「だからこそ、今らしいです」
澄香は淡々としている。
「で、議題です」
彩鼓が静かに口を開く。
「――白根彩鼓、短期大学部進学に伴い、部長退任」
一拍。
次の瞬間。
「はい出たー!」
みなみが机を叩いた。
「“さらっと重大発表するやつ”!」
「今さらじゃない?」
彩鼓は肩をすくめる。
「今まで
“彩鼓先輩が部長である世界線”しか生きてきてないんですけど」
華が真顔で言う。
「それ、組織としては致命的」
「ひどい」
「事実」
即答。
真宵は半田ごてを置いて、手を挙げる。
「……彩鼓先輩、短大進学後はオブザーバーですよね」
「うん。籍だけ」
「口出しは?」
「しない」
「助言は?」
「求められたらする」
「……それ、いちばん強いやつじゃないですか」
部室に笑いが起きる。
澄香が咳払いをして話を戻す。
「要するに、
3日以内に次年度体制案を生徒会に提出しなければなりません」
「部長決めろってこと?」
みなみが嫌そうな顔をする。
「この部室に
“部長向きです”って自己申告できる人いる?」
全員、自然に視線を逸らす。
「……全滅」
華が結論を出した。
「解散って選択肢は?」
「ない」
彩鼓が即答する。
その言い方だけは、完全に部長だった。
「じゃあ、どうするんですか」
澄香が問う。
彩鼓はホワイトボードに大きく書いた。
次年度体制(仮)
「今日は決めません」
「え」
「え、3日しかないのに?」
みなみが食い下がる。
「だから」
彩鼓は笑う。
「3日だけ、私抜きのはむ部を考える」
「それ、地味に追い込み」
真宵が言う。
「でも、やる意味はある」
「私はもう前には出ない」
彩鼓は続けた。
「オブザーバーになる以上、
“彩鼓がいなくても回る案”じゃないと意味がない」
一瞬、間。
「次に集まるときまでに」
彩鼓は指を立てる。
「“自分が部長だったら何をするか”を1個だけ」
「1個だけ?」
「1個でいい」
華が小さく笑う。
「3日で1個なら、なんとか」
「みなみは?」
彩鼓が振る。
「え、私?」
みなみは少し考えて、にやっと笑った。
「部長が誰でも
部が事故らない仕組みを考える」
彩鼓は、満足そうに頷いた。
「それ、すごく“はむ部”」
ストーブが唸り、無線機が待機音を鳴らす。
締切まで、3日。
卒業式まで、2週間。
時間は少ないが――
はむ部は、まだちゃんと前に進んでいた。




