第46話 はむぶの長い1日 後日談…その5
湯船の中で、 月潟澄香が満足そうに息を吐いた。
「……正解だったね、ここ」 「Tuki Godo spa」
「ほんと」 彩鼓が肩まで沈みながら言う。 「新築だし、温泉あるし」 「権堂のど真ん中だし」
「澄香の提案、全会一致だった」 真宵が頷く。
「18時の高速バスに乗ったら」 「家に着くの、21時とか22時でしょ」 「それなら泊まったほうが、体も頭も楽」
「しかも」 寺尾華がにやりとする。 「そして、明日、みなみは仕事」
「はい」 みなみは素直に頷いた。 「長野市内で、放送局のイベント出演です」
「完全にプロ」
「いやいや……」 「まだまだです」
湯気の向こうで、 彩鼓がふと思い出したように言った。
「そういえばさ」 「今日、風呂の前に行った店」
「あ」 みなみの顔が一気に明るくなる。 「キムラや!」
「そう、それ」 真宵が笑う。 「権堂アーケードから、ちょっと外れたとこ」
「……あんかけ焼きそば」 寺尾が遠い目をする。
みなみは、 思い出すだけで幸せそうだった。
「島見先輩が」 「“ここ来たなら定番だから”って」 「奢ってくれて……」
「優しい」 「というか、完全に土地勘のある人」
「役所の人って」 彩鼓が言う。 「ああいう“地味に強い店”を知ってるよね」
「しかも」 真宵が続ける。 「入浴直前に、あの量」
「でも」 みなみは笑った。 「おいしかったです」 「疲れ、吹き飛びました」
「それはなにより」
月潟が頷く。
「だからこそ」 「今日は、ここに泊まって」 「ちゃんと休む」
「明日に備える、と」
「そう」 月潟は言い切った。 「イベント出る人間が」 「前日に消耗してどうする」
湯船の中で、 みなみは静かに息を吐いた。
「……ありがとうございます」 「ここに泊まるって決めてくれて」
「礼を言うなら」 寺尾が肩をすくめる。 「明日のステージで」
「はい」
湯気がゆっくりと天井へ昇る。
権堂の夜。 秋葉神社の気配。 豚三スーパーセンターの明かり。 そして、あんかけ焼きそばの余韻。
全部が混ざった、この一日。
みなみは、 温泉の中で小さく思った。
(……今日は、ちゃんと“いい一日”だった)
明日も、 きっと忙しい。
でも今夜は、 それでいい。
Tuki Godo spa…現在はまだ更地だが、共立メンテナンスが温泉付ビジネスホテルを作る計画があるので、それをモデルに開業直後という設定に。
キムラや…権堂アーケード街の中央から少し外れた雑居ビルにある『いむらや』がモデル。
ここ安いんだよね…
豚三スーパーセンター…綿半スーパーセンター権堂店がモデル。元々イトーヨーカドー長野店だった場所で、咲で鶴賀高校の回想シーンで出てくる聖地ですね、




