第4話「電波は空を飛ぶのです!アンテナ実習で大騒ぎ」
「よいしょ、よいしょ……それ、持ち上げて!そっち支えて!」
放課後の校舎屋上に、部員たちの慌ただしい声が響く。
「ちょ、ちょっと、これ、ほんとに“高校の部活動”でやっていいレベル!?」
寺尾華が叫ぶように言う。彼女の両手には、1.5mほどのアルミ製マストが。
「大丈夫大丈夫。これ、モービルホイップアンテナっていって、車載用をポールに括り付けただけだから!」
白根彩鼓が笑いながら同軸ケーブルを這わせていく。スカートの下にジャージを履いているのが部活モードの証だ。
「学校にはきちんと申請出してあるから問題ないわ。あとで写真も撮って報告するのよ」
月潟澄佳は、業務日誌を記録しながらチェックリストに丸をつける。
「よくOK出たね、こんな企画……」
「“電磁波の理解を深める理科系教育支援”って書いたら、なぜか教頭が“すばらしい!”って言ってくれて」
西蒲真宵が微笑む。令嬢は根回しも得意だ。
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「で、これでなにをするの?」
アンテナの設置が完了したあと、華がぽかんと問いかけた。
「今日は“受信実習”よ。まだ資格持ってないから、送信は禁止。でも、受信するだけなら問題なし」
彩鼓がトランシーバー型の無線機を持ち上げた。
「さーて、誰が一番に“生の交信”を拾えるかな〜?」
部員たちのテンションが上がる。スイッチを入れれば、ザーッというホワイトノイズ。周波数をゆっくりダイヤルで回す。
そして――
> 「……こちらは、長岡市内移動のJH0***、本日もいい天気ですね」
「おおおっ! 聞こえたー!」
華がイヤホンをつけながら、まるで未知の生物を目撃したかのような顔をした。
「これが……空を飛んできた声……!」
「そう。見えないけど確かに“そこにある”のが、電波なの」
澄佳の静かな声に、みんながうなずいた。
「で、いつになったら私も“しゃべれる”ようになるの?」
「……それは、君が! 資格を取ってからです!!」
ビシィッ!!
屋上に響いたのは、ドアの開く音とともに飛んできた一喝だった。
現れたのは――
黒髪ポニーテール、パーカーにジーンズ姿の女子大生風。なのに肩には総務省の腕章が。
「し、島見先輩……!!」
4人が一斉に敬礼(?)した。
島見杏果。1年前に卒業し、現在は長野の某所で電波監視官見習い中のOGである。
「華、あなた、まだ資格取ってないんでしょ? 電波出したら、アウトよ、マジで」
「う、うぅ……まだ出してないです、まだ、ほんとに……」
「今のうちに勉強しときなさい。1アマ目指せとは言わないけど、せめて3アマ、いや4アマでもいいからさ。電波を飛ばすって、免許持って“責任”を背負ってからが本番なんだから」
「は、はいぃ……!」
島見の背後から、夕日が差し込む。
「さっ、記念写真撮るよー。アンテナ立てた日は記念日なんだから!」
彩鼓が無理やり流れを変え、セルフタイマーをセットする。
屋上に立つ簡易アンテナ、そして笑顔の4人と、後ろに腕を組んで仁王立ちの杏果。
パシャ。
その日、部活の記録に「初めての空と電波」という一枚が加わった。