第36話 はむぶの1月2日 まさか八甲田山じゃないよね? (後編)
■ 1月2日 夜
――吹雪の中の、通常運転
夜になっても、雪は弱まらなかった。
ホテル「Tuki」のロビー奥。
大きな窓の向こうでは、西堀通が白く潰れている。
「……完全に戻ってきたね」
真宵が、外を見ながら呟いた。
「うん、これは無理」
彩鼓が即答する。
「基幹バス、復活する気配ゼロだね」
みなみが、スマホで運行情報を確認する。
JR各線、終日運休継続。
路線バス、全線運休。
「……帰れませんね」
華が、状況を整理するように言った。
「帰れないね」
全員が、静かに頷いた。
■ 部屋割り
フロントから、案内が入った。
「本日は、こちらでご用意できるお部屋を使用していただきます」
鍵が、人数分並べられる。
「……普通に泊まれるんだ」
真宵が小声で言う。
「研修中なので、動線確認も兼ねています」
澄香が、補足する。
「研修、万能すぎない?」
「非常時は、だいたいそうなります」
澄香は、きっぱり言った。
部屋は清潔で、 暖房がしっかり効いていた。
「……あったかい……」
華が、ベッドに座り込む。
「外が地獄な分、天国だね」
■ 夕食
夕食は、簡易的なものだった。
――と、言っても。
「……これ、簡易?」
みなみが、テーブルを見る。
温かいスープ。 ご飯。 煮物。 焼き魚。
「研修用の非常食です」
澄香が言う。
「非常時の基準、高すぎません?」
「月潟基準ですので」
「基準を持ち込まないで!」
真宵のツッコミが、ロビーに響いた。
華は、黙々と食べている。
「……美味しい」
「でしょ」
澄香が、少しだけ嬉しそうに微笑んだ。
■ 吹雪、最高潮
食後。
風の音が、はっきり聞こえるようになった。
ホテルの外壁に、雪が叩きつけられている。
「……これ、外出たらアウトだね」
「八甲田山案件」
「だから言うなって!」
彩鼓は、ロビーの一角で、 いつの間にか機材を広げていた。
「何してるの?」
「臨時通信チェック」
「ホテルで?」
「非常時だし」
澄香が、一瞬だけ視線を向ける。
「……職員へ迷惑にならない範囲でお願いします」
「了解」
即答だった。
■ 夜の会話
それぞれ、落ち着いた頃。
真宵が、ぽつりと聞いた。
「……今日さ」
「うん?」
「初詣、行ってよかった?」
少し間。
彩鼓が、にっと笑う。
「うん」
「即答だ」
「こういう年になる気がするから」
「どんな?」
「……普通じゃない」
真宵は、苦笑した。
「もう始まってるよ」
みなみが、窓の外を見ながら言う。
「ニュースでも、 “古町周辺で一時的孤立”って出てた」
「私たち、だいたい中心にいるよね」
「それ、あんまり嬉しくないやつ」
華が、毛布に包まりながら呟く。
「……でも、なんか臨時の合宿みたいで楽しいです」
全員が、一瞬黙る。
「……そうだね」
澄香が、静かに言った。
■ 消灯前
各自、部屋に戻る前。
ロビーで、最後に顔を合わせた。
「明日も、動けなそうだね」
「たぶんね」
「じゃあ」
彩鼓が言う。
「明日は、ホテル籠城かな」
「籠城って言うな!」
だが、 誰も否定しなかった。
外は、猛吹雪。
交通網は、完全停止。
それでも。
暖かいホテルの中で、 はむぶは、 いつも通りの会話をしていた。
1月2日 夜。
新潟は、まだ雪の中。
そして、 はむぶの年明けは―― まだ、続く。




